第二百四十七話 港を作ろう
放送にて、冒険者たち全員に現在の帝国の状況を説明した。
そして、Fランク冒険者たちへの説明も無事に終わった。
帝国に向かってくれる冒険者たちは今もダンジョン酒場で打ち合わせをしていることだろう。
帝国出身者がいるパーティにはその人の出身の町近くに行ってもらうことにもした。
ユウナみたいなもんか。
もちろん派遣基準を満たしてない帝国出身者の人たちもいた。
その人たちにも出身町近くに行くどこかのパーティに臨時で参加してもらうことになった。
帰りたいって言うんだから仕方ないし、家族を守ろうとすることは当然のことだからな。
実際に現地に行ったらもっとイレギュラーなことが色々あるだろう。
無事に戻って来られる保証なんかどこにもないのにそれでも帝国へ行こうとするウチの冒険者たちは凄いと思う。
まぁウチ以外の冒険者たちも帝国に助けに行こうとしてるかもしれないけどな。
冒険者たちのことはララに任せて、俺は今朝セバスさんたちと約束した港の候補地を見に行くことにした。
「お兄ちゃん、本当にここに作るの?」
「あぁ。マルセールから一番近いからな」
「でもこれ、崖って言ってもいいんじゃない? かなり高いよ……」
「トレーニングエリアの岩壁に比べたら全然低いから大丈夫だろ」
「そうだけどさ……削るんならわかるけど削らずにどうやって海まで行くの……」
マリンが心配するのもわかる。
確かに普通はこの岩とか土を削って下に行くしかないんだろう。
だがウチには魔法の使い手がいっぱいいるからな。
「ゲンさん、水深はどのくらいある?」
「ゴ(この真下で3メートルってところかな。大したことない)」
「3メートルか。じゃあここからだと20メートルくらいだな」
ゲンさんは崖から身を乗り出し、長い棒で深さを測っている。
「ゲンさん危なくない? 少しでも崩れたら落ちるよ……」
マリンはかなりこわがってるようで、俺の傍から離れようとしない。
というか俺もこわいから顔を出すだけでいっぱいいっぱいだ……。
「セバスさんたちはまだ来ないのか……時間がもったいないな。じゃあ足場の確保から行こうか。マド、まず下に降りれるように壁に足場を設置してくれ」
「ピィ! (は~い!)」
マドはレア袋から土を取り出し、土魔法によって土を固め壁際に階段を作っていく。
今のマドの実力では本物の土を使わずに魔法で出しただけの土ならすぐに消えてしまうからな。
「シルバ、下に行ってここら一帯の海を凍らせてきてくれ」
「わふぅ(3メートルもいけるかなぁ~)」
シルバはこわがることなく素早く階段を降りて行き、氷魔法で周囲の海を凍らした。
もう立派に魔法を使いこなせてるようだ。
「……大丈夫そうだな。じゃあマドとメルで氷を砕いて海の底に土を撒いてきてくれ」
二匹も階段を降り、魔道プレートのときと同じように穴を掘る作業をする。
すぐに底が見えてきた。
魚たちが犠牲になってしまっただろうが今は目を瞑ろう……。
……3メートルって結構深いな。
今氷魔法がとけたら一瞬にして海にのみこまれるんじゃないか……。
「シルバ! 念のためもっと凍らせておけ! マドとタルもそこらでレア袋から土を撒いてくれ! 壁際から順にな!」
そしてどんどん土が積み上げられていく。
魔道プレート作業のときに回収した大量の土がこんなところで役に立つとはな。
さっき作った階段の下にも土が埋まったようだ。
「ゲンさん、マドの魔法だけで大丈夫かな?」
「ゴ(一応俺が圧縮したほうがいいかもな)」
「わかった。マリン、ハンマーの準備を」
「うん!」
マリンがレア袋の口をゲンさんのほうに向けると、ゲンさんはそこからミスリルのハンマーを取り出した。
ゲンさんはそのハンマーで地面を叩いて土を固めていく。
若干沈んだ部分には土を足してさらに叩き、仕上げはマドの魔法で固める。
あとはこの作業の繰り返しだ。
それから一時間ほど魔物たちによる作業が続き、無事に小さな港が完成した。
船に乗り降りするためだったらこれくらいで十分だろう。
ゲンさんでも利用可能な階段だけじゃなく、馬車が通れる緩やかな坂道も作ったし。
「こんなもんでいいよな?」
「うん! 完璧だと思う!」
パルドの港を見たことがあるというマリンがそう言うんなら大丈夫だと思う。
「下まで行ってみよう」
邪魔になっちゃいけないので俺とマリンは上からずっと眺めてた。
決してこわいからではない。
「……崖崩れがこわいからなにかで補強したほうがいいよな」
「そうだね。崖の上に家が建ったりするんならこの港付近だけじゃなくて全部対策したほうがいいかも」
人が多く利用するとなると色々考えなきゃいけないことがあるな。
ダンジョン化のためなら魔道プレートを埋めるだけでいいから楽なんだけど。
……下から見るとかなり高いな。
「う~ん、今はこれでもいいけど、漁港となるとやっぱりもっとこの下の土地も広くしたほうがいいかもしれないね。魚がいっぱい寝転がってたもん」
「魚が寝転がる? ……じゃあとりあえずもう少し広めにしよう。みんな、頼んだ」
そしてまたさっきと同じ作業が始まる。
土も少なくていいし平らでいいからか非常に早い。
「ピュー……」
「ん?」
「……ピュー」
「ん? なんの音だ?」
「え? なにが?」
「静かに…………ほら? ピューピュー聞こえないか?」
「…………ホントだ。みんなの作業の音がうるさいけど確かになにか聞こえるね。どこからだろ?」
あたりを見回してみるが、どこから聞こえてるのかがわからない。
「あっ! お兄ちゃん、あれ!」
マリンは海に向かって指をさしている。
「……あれは……鳥か?」
「小さくてよくわからないけど……なんか苦しそうじゃない?」
「羽を怪我してるのか? シルバ!」
「わふ(なに?)」
「あそこに小さな鳥がいるだろ? 助けてきてくれ」
「わふ(どうやって?)」
「海を凍らせれば行けるだろ?」
「わふ(あの子まで凍らしてしまいそうでこわいから無理だよ……)」
「弱めのをちょっとずつ使えばいいだろ」
「わふぅ(えぇ……わかったよ。じゃあやってみるけどさ)」
シルバは氷魔法を使った。
鳥がいた場所は凍った……。
「おい」
「わふぅ(だから言ったのに……)」
……見なかったことにしよう。
「マリン、お腹空いたから弁当にするか」
「そうだね。シート広げるね」
さすがマリン、この場の空気というものをよくわかってる。
さっき見たのは魔物だ。
危険な魔物を退治したんだからなにも心は痛まない。
「ピュー……ピュー……」
「ん? ……おい! 生きてるぞ!」
「えっ!? ……ホントだ! あそこなら大丈夫かも! 滑るから気をつけてね!」
さっきまでいた場所は完全に凍ってるのに、その場所より向こうにいるということは逃げたのか、それとも攻撃を受けて吹っ飛ばされたのか。
とにかく可哀想だから助けるしかない。
氷の上を慎重に歩いていく。
今この氷が融けたら俺死ぬかも……。
いや、俺は泳げるんだから大丈夫だ。
「……う~ん、全然届かないな。大丈夫か? もう少しこっちまで来れないか?」
「ピュー……」
「ほら、この棒に掴まれるか?」
「ピュー……」
その力すら残ってないのか。
……あ、血が出てる。
まさかさっきのシルバの攻撃で……。
それを見たシルバは落ち込んでしまったようだ。
「マド! ちょっと来てくれ!」
「ピィ(は~い)」
「あそこまで足場を作れるか?」
「ピィ(う~ん、海の上はちょっとね……)」
「無理か……って流されてるな。じゃあこの棒を渡っていって連れて来れるか?」
「ピィ(そっちのほうが簡単かも。行ってくるね)」
マドは俺が支えている棒を軽やかに走っていき、鳥の元に辿り着いた。
そして鳥の体に手を伸ばす。
「ピィ(重い……)」
リスたちは魔道士系のせいか全く力がないからな。
「そのまま掴んでろ! ゆっくり引くからな!?」
マドが落ちないように棒をゆ~っくり引っ張る。
…………あと少し……よし。
マドが氷の上に乗ったことを確認して、鳥を引き上げる。
「ん? 思ってたより体が大きいな。なんて鳥だろ?」
「わふ(これペンギンじゃないの?)」
「ペンギン!?」
「わふぅ(それより早く治療してあげてよ……)」
「あ、そうだな」
こけないように注意しながらも急いで陸へ向かう。
「マリン! ポーション持ってるか!?」
「うん! あっ、血が出てるじゃん! もしかして氷にやられたの!?」
「わふぅ(ごめんね……)」
血を拭いて、ポーションをゆっくりと飲ませる。
……少しは落ち着いたようだ。
「お腹がピンク色なんだね~」
「こんな色のペンギンもいるんだな」
「ペンギン!? ペンギンなの!?」
「らしいぞ。俺もこんな小さなペンギン見たの初めてだから気付かなかった」
ペンギンといえば地下四階の奥でずっと冒険者たちを待ち続けてるペンギンテイオーしか知らない。
魔物急襲エリアさえ抜けてくれれば出番が来るんだけどな。
「ゴ(さっきからなにしてるんだ? サボってると日が暮れるぞ?)」
「ペンギンが漂流してたんだよ。怪我が衰弱かはわからないけどかなり弱ってる」
「わふぅ(きっと衰弱だね……)」
「ゴ(ペンギンか。どれ……ん? こいつ、魔物だぞ?)」
「魔物!?」
「えっ!?」
「わふ!? (嘘でしょ!?)」
思わず手を離してしまう。
魔物だと!?
これが?
……だからシルバの攻撃にも耐えれたのか?
そんなことより危険かもしれない。
「マリン、少し離れろ」
「うん……」
マリンは俺の後ろに隠れた。
が、やはり気になるようで横から覗き込んでいる。
「ピュー……」
「……もう少しポーション飲むか?」
明らかに赤ちゃんだよな?
産まれて間もないかもしれない。
魔物といえど可哀想なのでもう一度抱きかかえてゆっくりとポーションを飲ませてみる。
……ん?
嫌がってるな。
「ミルクとか持ってるか?」
「ミルクはないけどバナナジュースならあるよ」
マリンからバナナジュースを受け取り、飲ませてみる。
……お気に召したようだ。
危険はなさそうだな。
「なんて魔物?」
「ゴ(ペンギンテイオーだ。地下四階にいるやつと同じだな)」
「えっ!? これがペンギンテイオー!?」
「ゴ(あぁ、間違いない。おそらく魔族領から流れ着いてきたんだろう。でもこんなピンク色したやつは初めて見たな)」
地下四階のペンギンテイオーは体長が2メートルもあり、背中は黒っぽいグレーだったがお腹は真っ白なはず。
このペンギンのお腹は白とは言えないよな……。
というか魔族領から流れ着いてきたって言った?
つまりペンギンテイオーが生息してるのか……。
魔族領こわすぎ、絶対行ったらダメ。
「ゴ(もしかすると生まれつき体が弱いのかもな。だから親に捨てられたのかもしれない。もしくは体の色のせいかもしれないが)」
そんな……。
でも魔物や動物の世界では普通のことかもしれない。
弱肉強食って言うもんな。
……あ、バナナジュースを飲むのをやめたかと思ったらグッタリしてしまった。
体に合わなかったのかもしれない……。
「可愛そうだがここまでのようだな」
「えぇっ!? 死んじゃうの!?」
「もう手遅れだと思う。俺たちに出会えたのは運が良かったんだろう。魔石はしっかりと吸収させてもらおうな」
「……ダンジョンで生まれ変われるってことだよね?」
「あぁ。これ以上成長はしないかもしれないが、牧場に水場を設置してそこで暮らしてもらおうか。いいペットになるかもしれないし」
「……うん。この子もきっと喜ぶよ」
「ピュー!」
「ん? ……最期に力を振り絞ったのかな」
声を出したかと思ったらまたグッタリしてしまった。
「ゴ(勝手に殺すなよ……どうやら食べ物が欲しいらしいぞ)」
「食べ物? マリン、シルバ用の肉をくれ」
「お肉なんて食べられるの?」
「知らん。もし生きたいんならなんでも食べるだろうと思ってな。だから力がつく肉だ」
「じゃあブルブル牛のローストビーフね。はい」
ローストビーフをペンギンの口に持っていく。
少しではあるが口は動いてるようだ。
「様子を見るか。というか元気になっていきなり襲ってきたりしない?」
「ゴ(まだ赤ちゃんだから大丈夫だとは思うが、不安ならこの場で殺したほうがいいぞ)」
そんなことできるわけないだろ……。
ここで逃がしたところですぐに死んじゃうだろうしな。
「とりあえず今日一日は面倒見る。シルバ、お前が子守な」
「わふぅ~(えぇ~……心が痛いよ……)」
これに懲りたらもっとしっかり魔法の修行をすることだな。