第二百四十二話 王都からのお客さん
休憩に入り、みんなが次々と席を立っていったあと、俺はカトレアに防具保管倉庫に連れて行かれることになった……。
やはりドラシーの声が聞こえていたんだろう。
そして二人を疑ったことについて怒られた……。
カトレアもみんなも疑ってたはずなのに……。
すぐに会議スペースに戻ったが、今度はセバスさんとメアリーさんが悲しい目で見てくるし……。
冗談だとわかっても相当ショックだったようだ。
ドラシーが言うように正義の塊というのも本当なのかもしれない。
でもそんな人だからこそなにか裏が……
「ロイス君? 倉庫行きますか?」
「え……いや……」
なんで俺の考えてることがわかるんだよ……。
というかたぶんドラシーは俺が二人を魔王や魔王の手先だと疑ったことについてもわかってたよな?
頭の中を読まれてるんだろうか。
「痛っ!」
カトレアに腕の肉をつねられて思わず声を出してしまった……。
俺の声にセバスさんとメアリーさんはビックリしたようだ……。
でもこんな二人も珍しいからこのまま放っておこう。
「あ、ソボク村から魔道列車に乗ったようです」
「ん? ウェルダンもさすがに疲れたのかもな。まぁ夜道だとあまりスピード出せないし、早く帰りたいってこともあるか」
カトレアは水晶玉を持ってきてずっと覗いてたようだ。
今ソボク村ということはあと二十五分くらいか。
あ、少人数用の列車だと速いから二十分くらいかもな。
「どうやら三人だけではないようですね」
「ん? リスたちも三匹護衛として付いていってるぞ? ウェルダン入れて四匹だ」
「人間の話をしてるんです。それくらいわかるでしょう」
カトレアがなんかこわい……。
こういうタイプは一度怒るとずっと根に持つからな。
「あ……この方は……」
「ん? 知ってる人か? まさか王様を連れてきたりしてないだろうな?」
「いえ……あとでご紹介しますね。お腹が空いてるようでしたら先にバイキングにご案内したらどうでしょう? セバスさんとメアリーさんも地上でお出迎えをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「「はい……」」
そのテンションが低いのはもうやめてくれよ……。
スピカさんの小言なんか聞きたくないんだからな……。
で、誰が来たんだ?
紹介するってことは俺が知らない人なのか。
そして家の前で待ってると、駅入り口の転移魔法陣からまずジェマが出てきた。
セバスさんとメアリーさんは嬉しそうに駆け寄っていった。
さっきのことは早く忘れてほしい……。
続けて魔物たちが出てきて、俺とカトレアの足に体を少しこすりつける挨拶をしてからすぐに魔物部屋に入っていった。
きれい好きだからご飯よりもまずシャワーが先なんだろうな。
次に出てきたのは……誰だ?
パッと見、五十歳くらいの女性一人、二十~三十歳の間と思われる男性が二人。
知らない人が三人出てきたあとにスピカさん、最後にモニカちゃんが出てくる。
「ただいま! あ! ロイス君! 紹介するね!」
スピカさんはぐったりしているが、モニカちゃんは旅の疲れを見せることもなく元気そうだ。
「まずこちら錬金術師ギルドのギルド長のミランダ先生! 私とカトレアが通ってた錬金術専門学校の学校長でもあるの!」
「……なるほど。初めまして。ウチの錬金術師たちがいつもお世話になっております」
「え……いえ、こちらこそお世話になっております。この間マルセールに来た際には挨拶もできず申し訳ありませんでした」
「いえ、その節はこちらこそ挨拶に出向けず失礼いたしました。今日はこんな状況ですがどうぞごゆっくりしていってください」
「え……ありがとうございます……」
そうか、この人がカトレアの言ってたギルド長か。
こんな若造の俺に対しても丁寧な言葉遣い、節々に感じる柔らかい物腰、今のところ悪い印象はないな。
「じゃあ次ね! こちら錬金術師ギルドの船……正式な部署の名称は忘れちゃったけど、船関係の魔道具を扱ってる部署で働いてる錬金術師のヴァルトさん!」
「大樹のダンジョン管理人のロイスです。この度は急なお願いにも関わらず、わざわざこんなところまでお越しいただきありがとうございます」
「え……いや……ヴァルトです。よろしくお願いします」
「そしてこちらがシモンさん! 船の設計士さん!」
「おお、設計士さんでしたか。ウチには船に詳しい者が全くいませんもので非常に助かります」
「……シモンです。お役に立てるかどうかわかりませんが……」
「なにを仰いますか。ところでみなさん、お腹が減ってたりしませんか? まずウチのダンジョン自慢のバイキングを楽しまれてはいかがでしょう? その間に部屋を用意させますので」
接待ってこんな感じでいいのかな?
悪く思われたらスピカさんやカトレアの名に傷がつくもんな。
しかし船と魔道具の資料や設計図をもらってこいとは言ったがまさか担当してるその本人を連れて来てくれるとは。
モニカちゃんとジェマもなかなかやるじゃないか。
「そういうわけだからまずはご飯にしましょう。モニカも来なさい。ジェマは先に報告しておいてね」
スピカさんに促されると、五人は小屋の中へ入っていった。
ジェマが可哀想な気もするが、あのメンバーといっしょじゃ落ち着かないだろうしそれも優しさかもしれない。
「ジェマ、お疲れ」
「お疲れ様です。本当に疲れました……」
ジェマが疲れたなんて言うの初めて聞いたな。
「馬車がか?」
「いえ、お城でのことがです」
「お城? ……会議スペースに移動するけど、大丈夫か? こっちはあとでモニカちゃんから聞いてもいいんだぞ」
「モニカちゃんも疲れてるのは同じですので。行きましょう」
あれ?
モニカちゃんのこともちゃん付けだったっけ?
今日の旅で仲良くなったのかもな。
セバスさんとメアリーさんも娘に友達が増えて嬉しいだろう。
と思って二人を見ると、ビクッとされた……。
疑ったりして本当にすみません……。
「明日お休みですよね? もう遅いですし、宿に泊まっていきます?」
「いえ、魔道列車もあることですし、帰ります……」
「お父様? ご気分でも悪いんですか?」
「いや、今日は忙しかったからか少し疲れが出てましてね……」
「そうですか……お母様? ……お母様もお疲れのようですね」
「少し……だけですよ。ジェマはちゃんと信頼してもらえるように普段からなんでも相談するんですよ……」
「え? どういうことでしょうか?」
「それはロイス様にお聞きになってください……」
完全に根に持ってるじゃないか……。
従業員のみんなは移住者の気持ちを考えさせるための話だと思ってくれたのに、この二人は全くそうは思ってないようだ。
でもここまで狼狽してるとなるとやはりなにか隠し事があるんじゃないか?
「ロイス君、少しお話が。ジェマちゃんたちは先に行っててください」
俺はなにも言ってないのに……。
そして夜空の下、カトレアにこってりと絞られることになった。
何度も怒られてばかり悔しいので、少しだけ反撃してみようかとも思った。
だって俺の次くらいにカトレアも疑ってたんだし。
そのせいでみんなも疑い始めたし、セバスさんたちも疑われてると思ったんじゃないか。
でもやめた。
俺はもう大人だからな。
それにここで俺がカトレアを責めるとたぶんカトレアは泣く。
今カトレアにへそを曲げられたら大変なことになる。
だから少しの言い訳すらしないでおこう。
「ほら、みんなが待ってるんですから早く行きますよ」
それならあとで怒ればいいのに……。
とも思ったが決して口にしてはいけない。
でも俺も少しイラっとしてるのは事実なので、あとでお酒を少々飲もうと思う。
そうすると気が紛れるってみんな言ってるもんな。
「イライラしてるからってお酒に逃げちゃダメですよ? そういう飲み方は良くないんです」
「……」
寝る前にお菓子爆食いに変更だ。