第二百四十話 続・魔道計画
セバスさんは用件だけを伝えるとすぐに帰っていった。
来週からのシャルルの扱いをどうするか検討するそうだ。
町長がしばらくいなくなるんだから色々大変なんだろう。
しかも期限は決まってないのがまた厄介だな。
「なにお兄? 厨房忙しいんだけど?」
「ポーション作りも忙しいんだからね?」
家のリビングにはララ、マリン、カトレアに集まってもらっている。
「さっきセバスさんが来てて少し話したんだけど、前に言ってた三つの村の魔道化を早急に進めることにした」
「ふ~ん、まぁこうなった以上仕方ないよね。いつこの大陸が魔瘴に覆われてもおかしくないもん」
「じゃあポーションが終わったら魔道プレート類の生成始めるね。とりあえず村の周りの分だけでいいんだよね?」
「あぁ、話が早くて助かるよ」
状況が状況だけに文句の一つも言わないようだ。
「明日か明後日から一日に一村、まずは環境だけ整えてくるからな。魔道カードや宿屋システムは急がなくてもいい」
「私もいっしょに行ってきますから留守番お願いしますね」
「ゲンさん、メタリン、メル、マドは俺たちといっしょに行動する。シルバ、ウェルダン、マカ、ビス、エクはユウナたちに同行させる予定だ。ピピとタルはしばらくセットで諜報部隊として飛び回ってもらう」
「うん、わかった。マルセール駅のお客様対応窓口はどうする?」
「しばらく中止するしかないな。管理室にはメロさんに常駐してもらうから」
「それがいいかもね。マルセールの人たちにはほぼ作ってもらえただろうし」
魔道カードは大好評。
そのうち子供からお年寄りまで一人一枚が当たり前になりそうだ。
「それと帝国からの移住者の件だが、もし国がなにも動かないようであればマルセールで受け入れたいとのことだ」
「えっ? セバスさん凄いじゃん!」
「でも数万人来るかもしれないんだよ?」
「どれだけ受け入れられるかはわからないが、できるだけのことはしたいんだってさ。簡易的な建物で一室だけ貸し出すタイプらしいけど、早速明日から建築を始めるって」
「凄い行動力!」
「執事有能すぎる!」
ホントにな。
だが家なんてそんなすぐにできるもんじゃない。
「……しばらくはウチのダンジョンで面倒見るって条件付きだけどな」
「「え……」」
「それこそ仕方ないだろ。現実的に考えるとそうするしかないんだし」
「でもさっき私がそれ言ったときお兄無理って言ってたばかりじゃん?」
「だって魔力が足りなくなるのは本当のことだし、なにより面倒だったし」
「「え……」」
今度のは家ができるまでの間ってことだしな。
それなら例え数万人が来たとしても贅沢さえしなければなんとかなりそうな気がする。
「だからその分の魔力を集めることにする。どういうことかわかるよな?」
「……水晶玉?」
「あぁ。ベネットから近場にある初級ダンジョンの物は全て頂こう。最低でも四つあるし、初級と言えども最初期のダンジョンに比べたら吸収できる魔力も多くなってるだろうしな。新しい階層や住居を作ってもなんとかなると思う。だよな?」
「はい。私も色々勝手がわかってきましたので魔力を少しでも節約して作りたいと思います」
「……カトレア姉が言うんなら大丈夫か」
「うん、お姉ちゃんができるって言うんなら心配いらないみたいだね」
カトレアに対する信頼が凄い。
でも俺もカトレアが言うんならなんでもできると思ってしまってるしな。
「で、初級魔工ダンジョン討伐についてはどう思う?」
「いいんじゃない? みんなもただ帝国に住む人を守るためだけに行くんじゃ面白くないし。やっぱり命をかけた実戦も必要だしね」
「水晶玉はいくつあっても困らないし。モニカちゃんも研究したいって言ってたからいっぱい持って帰ってくるように言っておいてね?」
平然と言ってるのが凄いな……。
帝国の人たちはきっと逃げることで精一杯になるはずなのに……。
俺もララたちもどこかまだ他人事のように考えてるのは事実だろうけどさ。
「初級だと2パーティでいいか?」
「そうだね。EランクとFランクを1パーティずつセットでもいいかも。そのほうがどちらも勉強になるだろうし」
「じゃあそれでいこう。パーティ編成はララに任せる」
「うん! じゃあもう厨房戻るね! まず料理優先だから!」
「あぁ。……ってちょっと待った。一応さ、ララとマリンも封印魔法を覚えてみてくれないか?」
「え? 封印魔法? う~ん、適性があるかどうかわかんないよ? それに地味だからあまり覚える気にならないけど……」
「ララちゃんは覚えられそうだけど私も? 魔法使ったことないんだよ?」
「適性がなさそうならすぐやめていいからさ。今後に備えて使い手は一人でも多いほうがいいだろ?」
「確かにそれはそうだね。じゃあ時間できたら試してみる」
「え、じゃあ私もやってみる。ララちゃん、勉強するときはいっしょにだからね?」
「うん!
「よし、じゃあ話は終わり。やることいっぱいで大変だろうけど頼んだぞ」
「「うん!」」
二人はそれぞれの仕事場へ戻っていった。
……一気に静かになったな。
少し休憩するか。
この広いリビングで俺とカトレアは同じソファに座りお茶を飲んでいる。
「可愛い妹たちですね」
「だな」
二人とも自慢の妹だ。
どこに出しても恥ずかしくない、うん。
「ララはかなりの確率で封印魔法使えそうだよな?」
「だと思います。マリンはわかりませんが」
「でもなにかしらの魔法の適性はあるんだろ? なんで今までなにも試してないんだ?」
「ウチは魔法を教えない方針ですので。私も錬金術専門学校に行くまでは使おうとしたことすらありませんでした」
「ふ~ん。まぁスピカさんも娘が錬金術師のほうが嬉しいか」
「それもあるとは思いますが……」
「……魔法には危険が付き物だからな」
この話題は終わりにしよう……。
それから少し静かな時間が流れたあと、ユウナが現れた。
そしてカトレアの隣、俺とカトレアが座ってるこのソファの左端に座ったではないか……。
ほかにソファは五つもあるのになぜそこに座る……。
「準備はできたんですか?」
「できたのです。部屋にある物全部レア袋に詰め込んだのです」
「そうですか」
自分の荷物を全部ってことか。
……俺でもそうするだろうな。
「もうここに帰ってこれないと思ってるのか?」
「……その可能性もあるということなのです」
「ダンジョンに入るわけじゃないんだぞ? 道中に出る魔物くらい楽勝だろ?」
「ダンジョンのレベルが上がってるとしたら外でも危険なのです。みんなにもそれを伝えておいてほしいのです」
「そうか、わかった」
でもウチの冒険者でも危ないんだったら、そんな道を一般人がベネットまで逃げるってまず無理だよな。
馬車で逃げるにしても護衛が弱ければ意味がない。
「あとで言おうと思ってたんだが、やっぱりしばらくの間はウチのダンジョンで移住者を受け入れることにした。だから全員連れてきてなにも問題ないからな」
「……きっと村のみんなは村を出ようとはしないのです」
ユウシャ村の人だもんな。
プライドが高そうだ。
「それどころか村の近くに魔工ダンジョンが出現してたら絶対中に入ってるのです」
やはり村の人たちは戦闘タイプが多いのか……。
「討伐が難しいとわかっても助けなんか絶対呼ばないと思うのです……」
そりゃ勇者が助けを求めるようでは困るからな。
人々を救ってこその勇者だ。
「村の中が魔瘴で溢れて、魔物が出現するようになってもか?」
「たぶん……それにそんな状態になったらもうどこに逃げても遅いと思うのです……」
確かに……。
相手が初級レベルの魔物だとしても、大群で襲いかかられたらいくらユウナでも無理だろう。
「じゃあどうやって説得するつもりなんだよ?」
「わからないのです……でもだからといってなにもしなかったら後悔すると思うのです」
「……爺ちゃん婆ちゃんを見捨てる覚悟はあるか?」
「え……そんなことできないのです……」
「爺ちゃんたちが村を出るくらいなら死んだほうがマシだと言ったらいっしょになって村を守るのか? ユウナの封印魔法と浄化魔法があれば数日は持つかもしれないがそのうち回復アイテムや食料も尽きるんだぞ?」
「…………じゃあ私はどうしたらいいのです……」
「ロイス君、可哀想だからやめてください」
本人たちを目の前にしたら見捨てるなんて選択できるわけないからな。
カトレアはユウナを守るように優しく抱き寄せて俺を睨んでくる。
「一番強いやつが勇者なんだろ? それならユウナとシャルルの二人で村人全員を力ずくで気絶させてでも馬車に乗せてこい」
「ちょっとロイス君、ユウナちゃんがそんな強引なやり方できるわけないでしょう?」
「わかったのです」
「え? ユウナちゃん?」
「死んでしまってはなにも意味がないのです」
「そうだ。生きていれば村なんかいくらでも作れる。それに逃げるんじゃなくて魔王と戦うために場所を移すだけだ。ここのほうが魔王がいるであろう魔族領に近いからな」
「それなのです! そう言えばきっとみんな来てくれるのです! ナイスアイデアなのです!」
「「……」」
適当に言っただけなんだが……。
みんな魔王を倒す勇者になりたいのかな……。
勇者になりたい人が集まってくる村なのかもしれない。