第二百三十九話 多忙
俺が従業員たちに説明をしてる間に、スピカさん、モニカちゃん、ジェマの三人は王都パルドに向けてウェルダン馬車で旅立っていったようだ。
マルセールでセバスさんに事情を話してから行くらしい。
というかせっかくウチにも駅ができたんだからマルセールもソボク村も魔道列車で行ったほうが早いのに。
スピカさんのことだから乗り換えが面倒とか言ったんだろうな。
「ピピちゃん、魔瘴は平気なんですか?」
「チュリ(危険そうならかなり上空からゾーナさんたちを探そうと思います)」
「ふむふむ。体調が悪くなったら無理せずすぐに帰ってきてくださいね?」
「チュリ~(はい。でも手紙だけは届けないと……)」
「危険なら手紙も別にいいですからね? 少し遅くはなりますがユウナちゃんたちに届けてもらいますので」
「チュリ(了解です)」
カトレアとピピは会話が噛み合いすぎなんだよな~。
表情でわかるとは言うが、そんなに表情が変わってる様子もないんだよな~。
「チュリ(なに見てるんです?)」
「いや、別に……それよりメタリンといっしょに行ったらどうだ? なにかあったら大変だし、メタリンと二匹で魔法を使ったほうが速く飛べるんだろ?」
「チュリ(私もそう言ったのですが……)」
「ん? ならどうして……メタリン? どうした?」
メタリンはカトレアの後ろに隠れてビクビクしながらこっちを見ている。
「チュリ(海がこわいみたいなんです……)」
「は? 海って空飛ぶんだから関係なくないか?」
「キュ(落ちて沈んだらと思うと震えがとまらないのです……)」
「でも地下四階の海底では普通にしてるじゃないか?」
「キュ(地下四階は絶対安心ですし、明るいから大丈夫なのです。でも本物の海は暗くて底も見えなくてこわいのです……)」
「ロイス君、こんなにこわがってるんですから無理させちゃダメですよ」
さすがにメタリンに泳げとは言えないもんな……。
「わかった。でもピピ一人じゃやはり魔瘴のことが心配だからタルを同行させるか。タル! ……タル!」
「ピィ! (お呼びですかご主人様!)」
「ピピといっしょに帝国まで行ってくれ。ピピは魔瘴が苦手だから浄化魔法でしっかり守るように」
「ピィ! (お任せを! 習得したばかりの浄化魔法がこんなに早く役に立つときが来るとは!)」
タルの口調ってこんな感じだっけ?
そういやほかのリスの口調もなんとなくしっかりしてきた気がする。
大人になってきたからなのかな?
まだ産まれて一年も経ってないけど。
「ピピもいいよな? メタリンと違って風魔法も使えないから時間もかかるとは思うが」
「チュリ! (大丈夫です! 確かにタルがいれば多少の魔瘴なんか気にすることもないですし、回復魔法が使えるのは大きいです! なんとか今日中に帰ってこれるといいんですが)」
「夜空には気をつけろよ。変な魔物が飛んでるかもしれないからな」
「チュリ(私たち二匹のほうが変な魔物だと思いますけど……)」
「それもそうか。じゃあカトレア、ピピの長時間飛行の妨げにならないようにさ、フランに頼んでピピ用の服にリスが乗れるような物をくっ付けてもらってきてくれ」
そして三十分後、ピピとタルは飛び立っていった。
確かにあんな魔物が飛んでたら変だ……。
ユウナに補助魔法をかけてもらったから行きはかなり早く着けるだろう。
陸路と違って目的地まで一直線で行けるってのも大きいな。
魔道列車の次は空か?
ってさすがに空は無理か。
それより次だ。
魔工ダンジョン関連はいつも急に忙しくなるんだよな。
「ベンジーさんたちはどこ行った?」
「ストアにいらっしゃいます。お呼びしましょうか?」
「いや、いい。あ、でもストアにいるんならあの三人にはなにかサービスしてあげたほうがいいか。ここまで来る交通費や宿泊費もバカになってないだろうしな」
「それなら水晶玉と情報を持ってきた報酬として現金をお渡ししたらどうでしょう?」
「そっちのほうがいいか。じゃあダンジョン酒場に連れてくから報酬の準備を頼む」
「はい」
ストアに行くと、目を輝かせてキャッキャ言ってる三人がいた。
ベンジーさんは三人の保護者かのように温かく見守っている。
まだストアにいたいようだったが、話があるから場所を変えると言ったらすぐに真剣な顔になって付いてきてくれた。
「長い時間フリーにさせてしまってすみませんでした」
「いや、楽しかったからこっちは全然構わないさ。ここにいたら時間を忘れてしまうからな」
「そうですよ! なんならもっといたいくらいです! って不謹慎ですよね……」
「いえ、俺も毎日ここにいると外部と遮断されてるように思ってしまいますからね。もし気に入っていただけたんなら帝国の件が落ち着いてから今度はお客としてまた来てください」
「「「はい!」」」
本当に来てくれそうな勢いだな。
そのためにはまずは生き残らないとな。
ちょうどカトレアも来たので報酬の話をしようか。
「ベンジーさんは仕事で来てるんですよね? 交通費や食費も出してもらえるんですか?」
「あぁ。なんなら出張手当も少しだがもらえるんだ。いい職場だろ?」
「はい、羨ましいです。ウチの従業員たちにはパルドへ日帰りで行ってきてもらってもなにも手当を出してませんからね。って今はそのことは置いときましょう。ではマイキーさん、マシューさん、マリッサさん、お渡しする物があります」
「「「お渡しする物?」」」
また三人の声が揃った。
あと一人兄弟がいれば連携抜群のパーティになれるのにな、惜しい。
カトレアは三人の前にそれぞれ普通の袋を置いた。
「中身をご確認ください」
「「「……はい」」」
報酬とも言ってないから中を確認するのがこわいだろうな。
ベンジーさんは予想がついてるようでニヤニヤしてる。
「「「……えっ!? 凄いお金!」」
驚き方まで揃うのか……。
この三人がどうやって戦うのか見たくなってきた。
「お一人5000Gあります。帝国で発生してる魔工ダンジョンの件の情報料、そして水晶玉を運搬してくれた報酬です。交通費、宿泊費、食費等も込みで考えさせてもらいましたのでご了承ください」
「「「……」」」
「遠慮なくお受け取りください。ゾーナさんたちには前報酬を渡してますし、さっき俺の魔物が救援物資なども届けに旅立ちましたからあの三人に配慮する必要はありません」
「「「……」」」
三人は大きく目を見開いたまま固まっているようだ。
冒険者の依頼報酬としてはかなり破格なはずだから無理もない。
「さっき見てた鋼の剣を買っていったらどうだ? 武闘家だったら爪もおすすめだぞ? ローブも魔力が上がるいいやつが買えるぞ? 帝国のほうが安いんならそっちで買ったほうがいいと思うが、ローブはここで買ったほうがいい。なにしろここのは素材が特殊だからな」
ベンジーさんがウチの商品の宣伝をしてくれてる。
「その……私たちもパルド王国に来て初めて知ったことなんですが、帝国は物価が高いんです……。食料や武器防具などなにからなにまでとにかく高いんですよ。収入はそれほどでもないのに……」
へぇ~。
なら低価格高品質を売りにしてるウチの商品なんかどれも優良商品にしか見えないんじゃないか?
「とにかくこれは受け取ってくださいね。じゃあすみませんが俺たちはここで失礼します。施設はどこもご自由に使っていただいて構いませんので明日の朝までごゆっくりどうぞ」
四人と別れ、家に戻ってくる。
すると間もなくセバスさんがやってきた。
「いやぁ~、一人用の列車だと速すぎて驚いてしまいました。これでいつでも自由に来ることができますのでバイキングを楽しめる機会も増えそうです」
「そうですか。でもメアリーさんはそんなに自由には来れないんじゃないですか」
「ダンジョン線は関係者しか乗れませんので大丈夫だと思います。今日また夜にお邪魔させていただきますね」
ならなんで今来たんだよ……。
メアリーさんは今日付けでマルセールの副町長に就任することになったそうだ。
というのも前副町長が先月中旬に更迭されたからだ。
例の宝石商との繋がりをようやく認めたんだってさ。
もうみんな忘れかけてたのに、セバスさんとメアリーさんはずっとプレッシャーをかけ続けてたらしい。
その後、前副町長がどうなったかまでは知らされてない。
空いた副町長には町役場職員による推薦もあり、セバスさんかメアリーさんのどちらかが就くことになっていた。
魔道列車の件で町民からの信頼もかなりのものになってるらしいし。
なによりウチとの強固な連携面が評価されてるんだってさ。
セバスさんではなくメアリーさんが副町長になったのは単にセバスさんが裏方でいたいからだそうだ。
根っからの執事なんだろうな。
「で、スピカさんたちから聞いたんですよね? 夜じゃなくて今来たのはどんな理由が?」
「もちろんお仕事の話でございます。続・魔道計画とでもしましょうか」
「……」
まぁセバスさんに言われなくても俺も同じようなことを考えてたけどさ。
でも魔道計画って言われると気が重くなるんだよな……。