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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱
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第二百三十八話 頼りになる従業員

 正午を過ぎていたので昼食休憩を取ることにした。


 ベンジーさんは久しぶりのバイキング会場に興奮しているようだった。

 マイキーさんたち三人は小屋から宿屋ロビーに入った時点で驚いていた。

 そしてバイキング会場の広さ、人の多さ、メニューの豊富さ、しかも食べ放題という事実に唖然としていたのが印象的だ。


 昼食後は一時間ほど休憩を取ることにしたので、四人はダンジョン内の施設を見学に行ったようだ。

 あんなに食べてからすぐ会議なんて眠くなって仕方ないだろうからな。


 俺たちは家に戻ってきてお昼寝タイム……というわけにはいかず、会議スペースに場所を移し、引き続き会議を行うことにした。


「実際のところ、上手くいくと思うか?」


「厳しいと思います。帝国のみなさんは魔工ダンジョンのことをほとんど知らないようですし。それにすんなり家を捨てる決断なんて普通はできません」


「まぁそうだよな。結局ベネットに移動してくれるのは本当にヤバいって思ってからだろうから、そのときには魔瘴で移動が困難になっててもなにもおかしくない」


「ポジティブに考えますと、町同士の連携がほとんどないのはいいことかもしれませんね。ベネットに封印魔法をかけることもベネットの町長さえ説得できればいいってことでしょうから」


「なるほど、そういう考え方もできるか。皇帝の許可を取らないといけないとなると面倒だもんな。皇帝が理解ある人ならなにも問題ないんだけどさ。帝都にも封印魔法かけろとか言ってきたらそこで話は終わりにしよう」


 なぜか皇帝って名前からして傲慢な態度のイメージしかない。

 国王のほうが少し柔らかいイメージがあるな。


「とりあえずピピにゾーナさんへ手紙を届けてもらうからすぐに書いてくれ。返信を手紙ですると時間がかかりそうだからピピに口頭で話してくれって書いといて」


「わかりました。救援物資も入れておきますね」


 カトレアはすぐに手紙を書き始めた。

 ミーノは食料を、マリンは回復アイテムを取りに行ったようだ。


「で、ジェマとモニカちゃんはさ、会議が終わったらすぐに王都に向かってもらっていいか?」


「わかりました。国王様にお会いしてきます」


「え、私はなにをすればいいの?」


「ん? 船を買ってくるんだよ」


「「「「船!?」」」」


 なぜ驚く?

 船で人々を運ぶって言ってるんだから当たり前だろ?

 ウチの船は小型のやつしかないみたいだし。


 って驚いたのは午前の会議に参加してなかった組か。

 ストア組はもちろん、厨房組も昼の営業時間が終わってそそくさと片付けをして参加してるからほぼ全員がいるな。

 ご飯を食べながら聞いてるのはまぁ良しとしよう。


 さっきカトレアが新しい水晶玉で大樹のダンジョン駅の入り口を設定したから、エマには一人用列車で帰ってきてもらった。

 だからここにいないのはマルセールにいるメロさんだけだ。


「実際に今使われてる客船に近いやつで頼むよ。できれば設計図も欲しいな。あ、それも王様から一声かけてもらったほうがいいか。あと錬金術師ギルドへ行って船用魔道具の資料をもらってこれるか?」


「うん、わかった! 本当はコピーも持ち出しも厳禁なんだけどたぶん大丈夫だと思う!」


「そうか。じゃあノーマルレア袋の容量最大のやつを持っていくのを忘れないように」


 魔道柱が入ったんだから船もきっと入るだろう。


 できれば船を大きくするか、速くするかのどちらかの改良は加えたい。

 すぐに船の改良ができなかったとしても設計図などの資料は将来的に役に立つときが来るだろう。

 魔道列車のようにマリンやモニカちゃんがなにか新しいものを作ってくれるかもしれないし。


「私もいっしょに行ってくるわ。魔道士ギルドにも顔出してくるわね」


「わかりました、お願いします。スピカさんが行ってくれたほうがスムーズにいきそうですしね」


 あとで頼むつもりだったがちょうど良かった。

 魔道士ギルドなんてほかは誰も絡みがないだろうからな。

 かなり現金な組織ってイメージがあるけど人助けのためなら無償で動いてくれるかもしれないし。


 …………無償か。


 ウチの冒険者たちは無償で動いてくれるんだろうか?

 半年前の魔工ダンジョンのときは報酬を出してたからな。

 もし報酬を出してなくてもリスクを背負ってまで討伐に向かってくれたかな……。


 ……いや、ウチの冒険者たちを信じるしかない。


「ねぇお兄、帝国から移住してきた人たちはどこに住むの?」


「え? ……知らん」


「「「「え……」」」」


「いや、忘れてたわけじゃないからな? さすがにそこまでは面倒みれないだろ? だから考えないようにしてるだけだ」


「「「「……」」」」


 一人を助けたらみんなを助けないといけなくなるかもしれない。

 最大二十万人だぞ?

 仮に千人しか来なかったとしても俺たちだけで全員の住居を確保してあげるなんて無理だ。

 百人くらいだったらしばらくウチのダンジョンに住んでてもいいとは言うけど。


「魔道ダンジョンの中とかは?」


「ダメだ。家となると魔力がいくらあっても足りない。ウチのダンジョンに入って魔物を倒してくれるわけでもないしな。それに宿屋みたいに高い宿代を取るわけにもいかないだろ?」


「あ、そうだよね……」


 人助けをしたいという気持ちはわかるんだが、できることとできないことがある。

 だからといって帝国からの脱出を手助けしないという選択肢はない。

 知ってしまった以上見て見ぬふりはできないからな。


「ユウナ、だからもしお前がユウシャ村の人たちを全員連れてきたとしても手助けはできない」


「それは仕方ないと思うのです。だから気を遣わなくても大丈夫なのです」


「そうか。お爺ちゃんお婆ちゃんのことはちゃんと面倒見てやれるか?」


「マルセールで空き家を探すのです。そこはみんなに頼りたいのです……」


「わかった。家は俺たちが探しておくから心配するな。でもお爺ちゃんたちが村の人たちといっしょに住みたいって言うんなら無理してマルセールまで連れてくるようなことはしないほうがいいぞ」


「わかってるのです。きっとお爺ちゃんたちも村のみんなといっしょがいいって思ってるのです」


「ならいいけどさ」


 ユウシャ村っていうくらいだから住民も凄そうだな……。

 全員冒険者だったりして。


「とにかくユウナとシャルルとエマは明日午前のリーヌ出向の船に間に合うように準備をしててくれ。ほかにEランク冒険者も何組か同行させるから」


「わかったのです」


「わかったわ! 私が帝国を救ってきてみせる!」


「わかりました……」


 ユウナは普段と違って感情を表に出さない。

 シャルルは英雄になる気でいっぱいだ。

 エマは不安に押し潰されそうって感じか。


「厨房のみんなは料理を大量に作ってくれ。外でも食べやすい物中心な。それとストア組は武器と防具を在庫にある分でいいからある程度持っていけるように準備してくれるか? あと下着類やトレーニングウェア類も。第一陣は明日の早朝に出発、第二陣の出発はピピが戻ってきてから決める。ってまだなんの話かよくわからない人のほうが多いよな。じゃあ午前中の会議に出席してた人は解散で。それ以外の人には今から状況を説明するから」


 そして改めて説明した。


 まだこれから起きようとしてる推測の話だからか、みんなあまり現実味がないような感じだ。

 それでも話を聞き終わると、自分たちにできることを精一杯やろうと意気込んでそれぞれの職場に戻っていってくれた。


 ただ、ヤマさんにだけは残ってもらった。


「どうします? 国に帰られるならラスまで送りますけど?」


「……」


 ヤマさんは悩んでいるようだ。


 ヤマさんの出身国ジャポングはパルドの北にあるラスの町からほど近い距離にある島国。

 温厚な人が多く、争いは好まない。

 冒険者という職業もない。

 たまに冒険者に憧れる人もいるが、そういう人は冒険者になるために海を渡って別の国に行くそうだ。


 そんな国に魔工ダンジョンが出現し、魔瘴が拡がったとしたら瞬く間に人々の命は失われるだろう。

 そして俺の推測ではジャポングのすぐ右にある大陸は既に大陸全体が魔瘴に侵されててもおかしくない。

 もしそうだとしたらその大陸から一番近い大陸であるジャポングには船で逃げてきた人もいるはずだ。

 もしくはジャポングも北東から徐々に魔瘴に侵され始めてるかもしれない……。


「……いや、やっぱり俺はここに残るよ。今は冒険者たちのサポートをしたい」


「故郷にもう戻れなくなるかもしれないんですよ?」


「元々もう戻るつもりはなかったさ。少し旅に出ると言って出てきたが、住んでたところもきれいに清算してから出てきたしな。あの国に俺の戻る場所なんてもうないんだよ」


「ご両親のことはいいんですか?」


「もう何年も会ってないし、それに姉貴もいるしな。俺が帰って早く逃げろと言ったところで魔瘴が拡がってなけりゃ誰も聞いちゃくれないだろうし、そもそも魔瘴が拡がってたらもうアウトだ」


「……わかりました。帰りたくなったらいつでも言ってください」


「……ありがとな。なにも聞かないでいてくれて」


「俺たちにとってはこの半年間のヤマさんが全てですから。勝手にいなくなるのだけはやめてください。みんな寂しがりますので」


「それだけは絶対にしないから安心してくれ。もし追い出されたらマルセールで寿司屋始めるよ。いい魚を扱ってる魚屋があるんだ。ははっ」


 ヤマさんは強いな。

 恋人がいなくなって生きる意味を見失ったから旅に出たとしか聞いてないが、今のヤマさんからその悲しさは感じられない。

 俺たちに助けられたことや、ただ魚が好きなだけでここにいるのではなく、従業員たちとの付き合いも楽しそうに見える。


「ロイス君! ヤマさんもういい!? 保存エリアの料理全部救援物資にしちゃったから今日の夜と明日の朝の料理がなにもないの! ユウナちゃんたちにいっぱい持たせようと思ったらさらにもっと作らないと!」


「あぁ、料理のことはミーノに任せるから頼んだぞ」


 ミーノが少し離れた場所でずっとこちらの様子を窺ってたのはヤマさんのことが心配だったからだろう。

 そしてそんな様子を見せることもなく忙しいからという理由でさっさと仕事に連れてくあたりはさすがだ。

 ここで働きだしたばかりのころとはすっかり別人のようだな。


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