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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第九章 魔道計画
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第二百三十一話 魔道列車運行開始

 いよいよ魔道計画も大詰め。

 10月1日、ついに魔道列車の運行開始の日がやってきた。


 とても清々しい朝だな。

 天気もいいし。


 今日は受付を八時半前までしてからマルセールに行く予定だ。

 九時に魔道列車第一便の発車だからな。

 俺以外は既に各駅にて最終確認をしてるところだろう。


 マルセールにはカトレア、ユウナ、マリン、モニカちゃん、スピカさん、エマ、メロさん、リョウカ、シンディ、ルッカ。

 ソボク村にはオーウェンさん、カミラさん、クラリッサ、メイナード。

 ビール村にはネッドさん、シエンナさん。

 ボクチク村にはアグネスとアグノラ。


 万全の体制で臨めるな。

 村出身のみんなは今朝早くに魔道列車でそれぞれの村へ向かっていった。


「お兄、昨日の夜カトレア姉が珍しく怒ってたよ。ロイス君は疲れてるんだから変にやる気を出さずにしばらくのんびりしてればいいんです! それに肌があんなにこんがり焼けてて可哀想だから周遊コースでプカプカ浮いとけばいいんです! ってさ」


「……それって怒ってるのか?」


「え? だって口調キツかったよ? カトレア姉もしばらくゆっくりしたいみたいだからお兄もここでのんびりしとけば?」


「あぁ、その予定だ。ところで今日厨房とか宿屋は大丈夫なんだよな? 夜のバーとパーティ酒場は休みで構わないが」


「大丈夫だって。今日は全員出勤だし、私が保存エリア担当するし、宿屋はミーノさんが見てくれるし。村に帰ったみんなには今日は一日駅にいてもらわないといけないけど明日はお休みでいいって言ってあるからね」


「さすがの配慮だ。じゃあここに戻って来るのは明日の夜か明後日の朝か。これだけ従業員が少ないとなんだか寂しいな」


「少ないほうが管理は楽でいいんだけどね。でもさ、マドカの発行を村でもできるようにするんだったらさすがに各村に従業員雇わなきゃダメだよね。今日はいいけど明日からは誰も人がいないってことも正直不安だし」


 そうは言ってもダンジョン内のことだからなにも知らない村の人に任せるのも嫌なんだよな~。

 一応オーウェンさんたち元村人には打診してみたけど、あっさり断られたし。

 村が活気付くのは嬉しいけど、それとこれとは話が全く違うんだってさ。

 俺からの話で断れないと思ったアグネスとアグノラなんか二人同時に泣き出すもんだから俺がまるで悪者になってしまったんだぞ……。


「マドカはまだ先のことだし、しばらくはウサギたちに任せてみよう。マルセールみたいに乗り換えが発生するわけじゃないしな」


「だといいんだけどね。あ、もうここは大丈夫だからマルセールに行ってきていいよ。私はここで楽しませてもらうから」


 俺もこの管理人室で画面を眺めてたい。

 駅の様子まで見れるんだからずっとここにいても飽きない気がする。

 やはり俺はこの管理人室にいるのが合ってるようだ。


 そしてシルバと二人用のトロッコに乗り込み、マルセールまで移動した。

 

 運転するのは楽しいが、魔道ダンジョン内に比べると周囲を気にしないといけないからそれが少し煩わしく感じるな。

 早くウチにも入り口が欲しいからもう一つ水晶玉を手に入れたい。

 そういやあのマッシュ村村長の息子はどうなってるんだろう。


「ピィ! (ご主人様! 駅前は大混雑してるからこっち来て!)」


 町の入り口でマカが待っててくれたようだ。

 マカは人が少ない道を選んで先導してくれてるようだが、駅は町のど真ん中にあるし、四方向に入り口があるから結局は大混雑に巻き込まれるんだけどな。

 それにリスと狼がいっしょなんだから尚更注目を集めてしまう。


「ロイス君、ありがとうね!」


「お疲れ様! 顔色良くないけど大丈夫なのかい!?」


「いえ、これは日焼けしてるからそう見えるだけです。楽しんでくださいね」


 こんなやりとりも日常になってしまっている。

 お礼を言ってもらえるのは悪い気はしないが、正直勘弁してほしい。

 これが無償ならわかるけどきっちりお金をもらっての仕事なんだからな。


 駅の中は当然のことながら外よりも大混雑してるようだ。

 おそらく入場制限をかけてるせいで外の人たちは待たされてるんだろう。

 この時間なのに案内所にも多くの人がいる。

 地元の人たちも町の宿屋がどう紹介されているか気になって見に来てるのかもしれない。


 人を掻き分けながらなんとか転移魔法陣があるダンジョン駅入り口まで辿り着いた。

 転移魔法陣の入り口前には警備員が配置されており、どうやらここも入場制限がかかっているようだ。

 というかメルとエクまで警備に駆り出されてるじゃないか……。

 くれぐれも誤って風や雷で攻撃するなよ……。


 そしてようやくダンジョン駅内に入ることができた。

 しかし入った先はさらに地獄。

 まだ改札より先には入れないせいか乗車券売り場前は人でごった返している。

 マカとシルバは足元を抜けれるからいいけど俺はどうすればいいんだ……。


「みなさま、大樹のダンジョンの管理人であり、魔道ダンジョンおよび魔道列車の管理人でもありますロイス様がお着きになられましたので駅入り口より改札までの道を少しお開けください。ご協力お願いいたします」


「「「「おおっ!?」」」」


 ……恥ずかしいからやめてほしい。

 セバスさん、絶対に俺をからかってるだろ。

 あとで覚えとけよ。


 にっこり微笑んで軽く会釈しながらみんなの間を通り改札を抜ける。

 最後に少しセバスさんを睨んでおいたが、そんなことは意に介さない様子で笑みを絶やさない。

 執事ってやつは本当なに考えてるかわからないな。


「ではみなさま、そろそろ改札をオープンさせていただきます。案内板をよく見て乗られる列車をお間違えのないようにお願いいたします。九時ちょうどの発車となりますが、本日はセレモニーがございますので五分前には席に着いていただけますでしょうか。それではどうか急がずに改札をお通りください」


 そしてみんなが我先にと改札を通り、列車まで走っていく。

 非常に危ない。

 お年寄りや子供が怪我したらどうするんだ。


「駅構内で走ったりする行為は危険ですからおやめください。危険だと判断した場合には、当ダンジョンの駅員でありますウサギが力ずくで静止させていただきますのでご了承願います。なお、もしその対象になられた方はウサギに謝ってください。反省がお見受けになられましたらすぐに解放させていただきます。それ以外の場合は当ダンジョンを出禁とさせていただきましたうえで、マルセールの役場に報告させていただきますのでよろしくお願いいたします」


 モニカちゃんの声でアナウンスが流れた。

 しかしとんでもない内容のアナウンスだな……。

 こんなの聞いたら利用者がいなくなるんじゃないかとさえ思う。

 でも安心安全が売りのダンジョンとしてはこれくらい当然のことだ。

 ってみんなが言ってた。

 この固定アナウンスを何度も流すことでここはそういう場所なんだと認識させるそうだ。


「すみません! 早く列車に乗りたくて走っちゃいました! もう絶対走りません!」


 早速捕まってるようだ……。

 だがすぐに解放してもらえたようなので良かった。


 子供やお年寄りの方はウサギをこわがるどころか触ったりもしている……。

 一見魔物だとは思わないだろうからな。

 みんなお揃いの服を着ていて可愛いし。


「お兄ちゃん、早く来て!」


 管理室から顔を覗かせたマリンに呼ばれたので部屋に入る。


「遅いわよ!」


「そんなこと言ったって出発の時間は決まってるわけだしな」


 シャルルとジェマもここにいたのか。


 ……ん?

 なんか人が多いな。


 ん?

 誰だ?

 よく見たら知らない人たちがいっぱいいる……。


「ロイス! こちら、私のお父様とお母様よ!」


「なるほど、君がロイス君か。いつも娘やセバス達がお世話になってるね」


「どうも……」


 握手を求められたから握手をする。

 ……少し強くない?


 ん?

 お父様ってことは?


「お父様! 挨拶はそれくらいにして早く列車に乗らないと!」


「そうだったな。ではみなさん、今後とも娘をよろしく。気遣いなんかいっさいしなくていいからね。スピカさん、頼んだよ」


 そして大集団は順に部屋を出ていく。

 私服の人ばかりだけどおそらく騎士なんだよな?


「(思う存分鍛えてやってくれ。君に任せる)」


「!?」


「みなさま、どうかよろしくお願いいたします。こう見えてこの子は泣き虫なんですよ……」


「お母様! 余計なことは言わなくていいの! お兄様にもよろしくね! また今度暇ができたら帰るから!」


「やっぱり私もこの町に住もうかしら……」


「ダメ! ここは大樹のダンジョンが近いせいで野蛮な冒険者も多いから危ないの!」


 おい……。

 むしろ安全だと思うが。

 というかそんな不安にさせるようなこと言ったら余計心配するだろ……。


 シャルルはみんなを追い出すように部屋から出させ、自身もそのまま部屋から出ていった。


「……本物の王様なんですか?」


「そうよ。昨日の夜お忍びで来たみたいね。娘の晴れ舞台を自分の目で見たかったんでしょう」


「だからスピカさんもわざわざ朝早くにマルセールに来てたんですね」


「昨日夜遅くにセバスから連絡が来てね。話がしたいって言うから仕方なくよ」


「なにを話したんです?」


「普通のことよ。魔道列車や大樹のダンジョンのこと、魔道線についても興味があったみたいね」


「へぇ~。シャルルがウチに住んでることについては?」


「言えるわけないでしょ。すぐに連れ戻されるわよ」


「みなさん! 準備はよろしいでしょうか!?」


 セバスさんが呼びに来たので話はここで終わりになった。


 だが俺はさっきすれ違いざまに王様にかけられた言葉が気になって仕方ない。


 思う存分鍛えてやってくれだと?


 やはりジェマの推察通り、王様はシャルルが魔力持ちだということを知っている。

 そして大樹のダンジョンで修行しているということも。


 なぜセバスさんやスピカさんはそれを俺たちにまで隠す必要がある?

 これもシャルルを守るためなのか?

 それとも王様自身を守るためなのか?

 それになぜ王様は俺に打ち明けた?


 というかシャルルが冒険者になったことを喜んでるようにも聞こえたぞ……。


「それでは魔道列車、出発です!」


 お決まりのようにセバスさんの声に合わせてテープカットをする。

 いったいこれになんの意味があるのかいまだにわからない。


 シャルルは可愛い子ぶって列車に小さく手を振ったりしている。

 ソボク村へ向かう列車には王様御一行も乗っているんだろう。

 よく乗車券が取れたな。

 って予め確保してたに決まってるか。


 そしてソボク村、ビール村、ボクチク村へ向けて列車が同時に走り出していった。


 ……なんだかあっけないな。

 もう少し感動するものかと思ったらそうでもない。

 列車に乗ってる人たちは喜んでくれてるんだとは思うが。

 俺は正直ホッとしたということのほうが大きい。


 だがカトレアたちは喜ぶどころか安心もまだできないようだ。

 列車が動くと同時に即座に管理室へと戻っていった。

 ほかの村からの列車が動いてるかどうかが心配なんだろうな。

 魔力による自動運転だからなにかあったらおそらく全列車が停止するであろうとの見解だが。


 それはさておき、二名ほど涙を流してる人物がいるがどうしたものか。


「メロさん、お疲れ」


「オーナー……やり遂げた感じだぜ……」


「うん。ここまで順調に進んだのもメロさんのおかげだ。でも二十分後にはまた列車が入ってくるし、ほかの村との連携も引き続き頼むよ」


「そうだよな……よし、俺に任せとけ!」


 メロさんは涙を拭いて管理室へ入っていった。

 嬉しくて流す涙って気持ちいいだろうな。

 俺もいつかそんなきれいな涙を流してみたい。


 さてもう一人、王女様のほうはどうしようか。


「おい、泣くなら部屋行って泣け」


「ぐすっ……そんな言い方しなくてもいいでしょ! 私だってプレッシャー感じてたんだからね……」


 本当かよ……。

 完全にセバスさんたちに任せっきりだっただろ……。


 というかこんなところで町長兼王女様が泣いてたら目立って仕方ない。

 ……と思ったら今はみんな町長よりも駅や魔道列車に夢中で全く気にされてないようだ。


「王様が来てるんならもっと早くに呼べよ」


「私だってついさっきまで知らなかったのよ……ねぇジェマ」


「はい。私も知りませんでした……」


「ジェマもなのか。昨日セバスさんやメアリーさんとなにを話したんだろう? それに今朝はスピカさんとも」


「もしかして私がダンジョンにいることバレたのかな?」


「「……」」


「え? 嘘でしょ? そんな……」


「大丈夫です。まだここにいることがバレてないという証拠でしょう」


「あ! そうね! さすがジェマ!」


 王様はとっくに全てを知ってると言ったらシャルルはどんな反応をするんだろうか。

 ……喜ぶに決まってるか。

 町長の仕事も投げ出しそうだな。


「ロイス君、さっき国王様になに言われたんですか?」


 さすがジェマ。

 よく見てるな。


「……」


「「……」」


 無言で少しジェマの目を見つめて頷いてみた。

 ジェマならきっと俺がなにを言いたいかを理解してくれたはずだ。


「なに言われたのよ?」


「……任せる、と」


「えっ!?」


 ん?

 任せるって頼むとかと同じ意味だよな?

 スピカさんにも頼んだよって言ってたもんな?

 別にダンジョンで鍛えてやってくれとかそういう意味じゃなくて、娘が迷惑かけるかもしれないが面倒見てやってくれみたいな社交辞令的な意味だよな?


「…………ロ、ロイス……お父様がそう言ったのであれば仕方ないわね。この私がけ、け、結婚してあげてもいいわよ」


「「……」」


 どこかで聞いた言葉だな。


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