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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第九章 魔道計画

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第二百二十八話 もう一つの魔道計画

 俺とユウナとジェマの三人は外で待っているのだが、シャルルは入り口がある洞窟から一向に出てこようとしない。


 そして待つこと約十分、ようやくシャルルが姿を現した。

 装備しているローブはボロボロになっている。

 それを見たジェマの顔が歪んだ。

 だが声をかけたり、駆け寄ったりはしないようだ。

 というよりかける言葉が見つからないのか。


「シャルル、お疲れ。よくやってたと思うぞ」


「……」


「それで早速だが合否について発表する。ってわざわざ言う必要もないか。不合格だ」


「「えっ!?」」


「……」


 ユウナとジェマは驚いたようだ。

 俺のことだから結局は合格にするとでも思っていたのだろう。


「約束だからな。今日中に宿屋に移ってもらう」


「なんでなのです!? 合格でいいのです!」


「それこそシャルルの努力を踏みにじることにならないか? それに自分の実力を過信したからこその結果だろ? ベンジーさんが言ってたこと忘れたのか? もし指輪がなかったらもう何回も死んでるんだぞ」


「それは……」


 ユウナは下を向いてしまった。

 おそらくアラナさんのことでも思い出してるのだろう。


「ユウナ、ありがと。ロイスの言う通りよ」


 ようやくシャルルが口を開いた。

 ありがとうなんて初めて聞いたな。


「今日で家を出るわ。でも一つだけお願い。ジェマはこれからも家に住ませてあげてほしいの。この子は従業員としてちゃんと仕事もしてるんだからいいでしょ?」


「シャルル様……」


「……仕方ない。ジェマが住むことは認めよう」


「ありがとう。……私もまたチャンスもらえる?」


「やる気があるのならな。ただし、当然同じ条件とはいかない」


「……」


 さて、今度はどんな条件にしようか。

 別に条件なんか必要ないんだが、これも町長と同じでウチに住む名目が欲しいんだろうからな。


 ……単純なものでいいか。

 あとはユウナに丸投げしてみよう。


「その前にユウナ、明日から封印魔法の仕事は午前中で終わりな。午後からはエマにやってもらうことにするから」


「え…………ん?」


「では今後シャルルがウチに住むための条件を発表する。条件は二つ、一つはEランクになること」


「「「Eランク!?」」」


「そして二つ目、正式なパーティメンバーを探すこと。今日みたいに一人じゃいくらなんでも効率が悪すぎる。武器は新しいパーティメンバーにでも買ってもらえ。きっとシャルルに合う武器も見つけてくれるはずだ。まぁいくら魔法が使えるとはいえ、午後からしかダンジョンに入れない冒険者を仲間にしてくれるパーティなんてそう簡単に見つからないだろうけどな。もう一度言うが、正式なパーティじゃないとダメだ」


「え……」


「「……」」


「この条件に期限は設定しない。もしEランクになることができたらその日からウチに住めばいい。宿屋が気に入ったならそのまま宿屋でもいい。ただし、宿代はしっかり払ってもらう。今日は初日だから無料で、明日はGランクへのランクアップ特典として無料だ。もっと魔力を効率良く使えるようにならないとエーテル貧乏に陥ってすぐ宿からも追い出されるぞ」


「「「……」」」


「ジェマ、今から部屋の荷物整理を手伝うのはいいがそれ以外はなにもするな。シャルルは宿の手配はもちろん、これからは洗濯も自分でやること。なにか困ったときはジェマじゃなくまずパーティメンバーを頼れ。ほとんどの冒険者はそうやってここで生活をしてるんだ」


「「「……」」」


「でも王女ってことは絶対誰にもバレるなよ。どこの出身かは言わずに午前中はマルセールで仕事をしてるとでも言っておけ。しつこく聞いてくる相手には俺から口止めされてるからとでも言えば魔道計画関連のことなんだと理解してくれるはずだ。では俺からは以上、ジェマ、なにかあるか?」


「いえ……ありがとうございます」


「ユウナは?」


「……大丈夫なのです。私がフォローするのです」


「そうか。シャルルは?」


「…………あり……がと」


「これからは図書館よりもトレーニングエリアにいる時間を増やしたほうがいいぞ。冒険者としてやっていきたいんなら基礎体力の向上は不可欠だ。それとその今着てるそのローブ、さすがにローブのほうが可哀想だからそれだけは俺が後日新しいものを用意してやる。あと指輪の設定は特に変えたりしないから従業員しか入れないところへ出入りするときはこっそりとな。じゃあ解散」


 三人はまだ動かないようなので俺は先に管理人室に入ることにする。


 泣いてる暇があるんならさっさとトレーニングエリアに行って修行してこい。

 とはさすがに言えないからな。


 そして管理人室からリビングに入ると、そこにはララだけがソファに座っていた。

 結局ララはシャルルの様子を一度も見ずに、ずっとトレーニングエリアにいたからな。


「お兄、お疲れ」


「ほかのみんなは?」


「今日はもう仕事しないし、自分の部屋で休んでるんじゃない?」


 シャルルたちに気を遣ったのか。


「結果は知ってるのか?」


「うん。今の話ずっと聞いてたし」


「そうか。で、どう思ったんだ?」


「どうってなにが? シャルルちゃんが地下三階第一休憩エリアまで行けないのはわかってたことだしね。まぁそれでも今のシャルルちゃんを見ればお兄ならここに住んでていいって言うと思ってたんだけどさ。そこだけは少し意外だったかも」


「……今日シャルルを見てて思ったんだけど、ララ、お前シャルルを鍛えてやってたのか?」


「…………さすがお兄。ユウナちゃんもジェマさんも気付いてなかったのに」


 やはりそうか。

 特にあの氷を囮に使う戦法なんかまさにララがいつも火魔法でやってるやつだ。


「氷の刃もララのアイデアか?」


「うん、面白いでしょ? 試しに言ってみたら本当にできたからかなり驚いたけどさ。火だと剣みたいにはならないし、固体の氷だからこそできる技だよね。でもさらに刃のイメージを極めていけばもっと硬く鋭い氷ができると思うの」


「あの氷を同時に放つイメージなんかも伝えてできるようになるものなのか?」


「私はもっと苦労したんだけどね……。シャルルちゃんには素質があるよ。ユウナちゃんとパーティを組めるくらいの素質がさ」


「……これからもしっかり見守ってやれよ。二人もララが戦えないからこそ余計に強くなろうとするはずだ」


「……うん。これからはもっとほかのみんなのことも見るようにするね。だからまず明日からパーティ酒場には私が立つよ。あ、でも夜は遅いしお酒飲んだ人に絡まれるのも嫌だから朝だけね」


「わかった。ミーノとメロさんには俺から言っとく」


 ララとの話も終わりそうなところでちょうど玄関が開いた音が聞こえた。


 リビングに入ってきたシャルルはすぐにララがいることに気付き、その瞬間シャルルの目がまた潤んだ。

 そしてなにも言わずに二階へと転移で消えていった。

 あくまで秘密の特訓というわけか。

 結果を出せなくて合わせる顔がないというのもあるだろう。


 十五分後、服を着替え、荷物を持ってリビングに現れた。

 こうなることを覚悟して既に荷物はまとめてあったのかもしれない。

 元々荷物は少量だし、ちゃっかりノーマルレア袋は持ってるようだが……。


 そして軽く会釈するだけでなにも言わずに家を出て、そのまま小屋に入っていった。

 ジェマとユウナは心配していっしょに付いていったようだ。

 あの様子だと部屋でもずっと泣いてたんだろう。


「これで良かったんだよな?」


「いいに決まってるじゃん。それにウチの宿屋なんだからさ、ここに住んでるのとほとんど同じだって」


「そうだけどユウナたちからしたらそれがだいぶ違うんだろ? 俺たちにはわからないけどさ」


「シャルルちゃんのことだから明日にはケロっとしてるって」


 そうだといいんだが。

 ここまでしおらしいシャルルを見たのは初めてだからな。


「それよりセバスさんが文句言ってこないかを心配したほうがいいんじゃない? あの人シャルルちゃんのことも自分の娘のように思ってるから」


「そっちの心配もしないといけないのかよ……そっちはジェマに任せる」


「せいぜい魔道計画に支障が出ないようにしてよね。こっちの魔道計画は無事軌道に乗ったってことでもう終了するから」


「こっちの魔道計画? ……シャルルのことか?」


「それしかないでしょ。私が戦えなくなった以上、ユウナちゃんの仲間探しは必須だったんだもん。でもシャルルちゃんを魔道士って呼ぶのは少し違う気がするから、私と同じ魔法戦士になるのかな? でも私よりは魔道士寄りだから魔道戦士? 魔道計画との語呂もいいし、これで良くない?」


「魔道戦士か……シャルルが喜びそうだな」


 少しカッコいい気もする。

 略して魔戦というのはララと同じだな。


「エマちゃんが封印魔法を覚えてくれたことも大きいよね。次は浄化魔法も覚えてもらうつもり。これでユウナちゃんは自由にできるもん」


「そこまでユウナのことを考えてたのか。それなら早くあと二人ほどパーティメンバーを探してやれよ。別に今後ララが入って五人になってもいいんだしさ」


「それはダメ。最強パーティにはそんな簡単に出たり入ったりできないんだからね。もっと時間がかかってもいいから真剣に探すの。私のことはもういないものと思ってもらってもいいけど、ユウナちゃんには最強パーティの一員になってほしいの」


 なんだか完全に吹っ切れてるな。

 今朝Eランクの人たちに打ち明けたことも大きいんだろう。

 もしかすると今日シャルルとユウナが正式にパーティを組むとわかってての発言だったのかもしれない。

 まさに今、ユウナをパーティに加えようと相談してる人たちもたくさんいるだろうからな。


「前にも言ったけど、お兄が入ってくれるならそれが一番いいんだよ? お兄は鍛えれば絶対に強くなるから」


「だからそれは無理だって。俺は魔力もなければ運動神経も最悪なんだぞ。水泳だって満足にできやしない」


 そう、俺は泳げなかったんだ。

 泳いだことがなかったから当然かもしれないが、ララはすぐに泳いでたからな。

 少し練習はしたが体が上手く反応してくれないから泳ぐことは諦めた。

 いや、恥ずかしいから誰もいないときに少しずつ練習するつもりだけどさ。


「まぁお兄が強くならなくてもお兄の魔物が強ければそれでいいんだけどさ。というか地下五階作れるのかな? マグマドラゴンとかお兄に従ってくれなかったりして、ふふふっ」


「笑い事じゃないだろ……。でもあまり期待はしないでくれ」


 正直無理な気しかしない……。

 魔道計画の次は魔物強化計画をスタートさせないといけないな。


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