第二百二十五話 レア商品販売
ティアリスさんはかなり悩んでいるようだ。
というかまだ価格を聞いてないのに本当に買うのか?
「これにする! 可愛い!」
「じゃあ取り置きという形で。別に購入されなくても構いませんからね」
「え……そんなに高いの?」
「はい」
「……」
ララも休憩から戻ってきたことだし、追加の説明を始めようか。
「ピンポンパンポン。こんにちは、再びダンジョン管理人です。みなさん、休日をいかがお過ごしでしょうか。トレーニングに励まれるのも結構ですが、体を休めることも大事ですよ」
想像してた以上に反響が凄いからな。
おかげでララの機嫌が凄くいい。
「さて、改めまして今日のアップデートにつきまして、まだお伝えしていないことを説明させていただきます。まずは指輪の新機能についてです」
……みんなの動きが完全にとまった。
近くにいた人は少しずつ近寄ってきてるようだ。
「変更点は二点です。まず一点目は、冒険者カードを持たなくてもこの指輪だけで買い物ができるようになりました」
「「「「おおっ!?」」」」
トレーニングエリアのあちこちで声があがった。
何気にこの機能は便利だと思う。
指輪は常に装備してるものだしな。
とくにこのエリアではカードを持ってるのが邪魔になる。
それに水着になるとさすがにカードは部屋に置いてくるだろうし。
「自動販売魔道具などに指輪マークが追加されてますのでそちらへ指輪をお近付けくださるだけで買い物完了です。鍛冶工房やダンジョンストア、バーなどでもお使いいただけます。ただし、指輪で買い物をされた場合、冒険者カードのP残額表示欄への反映は次に冒険者カードを使用したときになりますのでご注意を」
みんな頷いているということは理解してくれたと思っていいんだな?
Pが減らないから買い物し放題とか思ったりしないでくれよ?
気付いたらPがゼロになってても知らないからな?
この指輪で買い物ができる機能のために、既存の自動販売魔道具全てに対して改修作業が発生した。
錬金術師四人がかりでの作業となったが、一日程度で終わってるから本人たちはそんなに大変だったとは思ってないようだ。
「では二点目について説明いたします。これはトレーニングエリアでのみ使用可能な機能ですので、興味がない方は聞かれなくても結構です」
興味がない人なんているわけないんだろうけどな。
「ずばり、負荷機能です」
「「「「ふか?」」」」
「この機能を使用すると、体全体に負荷をかけることができます。負荷は自分の体重の5%、10%、15%、20%まで変更が可能です。体重60キロの人が10%の負荷を設定すれば、6キロの重さが体全体にのしかかってくると思ってください」
「「「「おおっ!?」」」」
「「「「凄い!」」」」
「「「「やってみたい!」」」」
マジか……。
みんなストイックすぎるだろ。
この反応を見たララも嬉しそうにしてる。
「ただし、これは怪我のおそれもある大変危険な機能でもあるため、使用条件はFランクからとさせていただきます」
「「「「えぇ~……」」」」
「「「「そんなぁ~……」」」」
こればかりは仕方ないと思う。
スピカさんやドラシーとも相談した結果だ。
「そしてFランクの方は負荷10%まで使用可、Eランクの方は20%まで使用可とさせていただきます。くれぐれも無理はしないようにしてください。設定は入り口付近に設置予定の魔道具で行いますが、一度トレーニングエリアを出ると設定内容はリセットされますのでご了承願います」
そうじゃないと負荷設定してたのを忘れて部屋からこのエリアに来たときに急に体が重くなって怪我しそうだからな。
そもそもララは当初このエリア全体に負荷をかけようとしてたが、それはさすがに危険なのと、魔力の無駄遣いになりそうだったので中止にしたんだ。
まだ体ができてない初心者も来るわけだしな。
きっとトレーニングどころじゃなくてただエリアにいることが修行になってしまいそうだし。
っておいおい……。
冒険者たちが続々と入り口付近に集まってきたぞ。
設定魔道具はまだ設置予定としか言ってないのに。
そんなに新しい機能を試してみたいのか。
まずは素の状態でそれぞれのトレーニングを極めてほしいものだが。
「再度申し上げますが大変危険ですので、設定する際は5%からお試しください。エリア内できつくなってどうしても入り口まで戻れそうにないときはお近くのアンゴララビットにお声がけください。その際には緊急用の指輪と交換しますが、むりやり指輪を外されますと宿屋の外に強制転移することになりますからね? システムの不具合に繋がりかねないので、できればそれはお避け願います」
これだけ言っとけば無理な設定はしないよな?
それにEランクの人たちなら周囲の冒険者が危なそうだったらすぐに手を差し伸べてくれるだろうし。
「指輪の新機能については以上になります。買い物も楽になりましたのでぜひご活用ください」
「「「「パチパチパチパチ」」」」
「さて、次こそ興味がない方には全く関係ない話になります。それは……新商品のご紹介です」
「「「「おおっ!?」」」」
お決まりの歓声だな……。
でもすぐにがっかりすることになるだろう。
「ただ商品の価格が少々お高い物でして、みなさんにお気軽にお手に取ってもらえるという物ではございませんのでご了承願います。ですのであまり期待はしないでください。トレーニングをしながら話も一応聞いておくかという程度で結構だと思いますのでぜひトレーニングを再開してください」
どんどん人が集まってくる……。
高いと言われたらどんな物か余計に気になってしまうものなのか。
どうやら俺がこの休憩ゾーンから話してるということはさすがにもう気付かれてるようだ。
「ではまず商品の前に価格から発表しますね。新商品のお値段は……」
「「「「……」」」」
この緊張感がいいな。
あまり焦らしてトレーニングの妨げになってもいけないから早く言うか。
「5000Pです」
「「「「高いっ!」」」」
「「「「無理だ……」」」」
「「「「……」」」」
多くの冒険者たちが少し後退った。
だがティアリスさんだけはすぐにカトレアの前に並ぶ。
この表情からすると5000Pなら安いと感じたのか?
さすが節約の鬼である回復魔道士だ。
ティアリスさんが並んだのを見て何人かも同じように並んでいく。
……みんなEランクの人たちだな。
というかまだ商品がなにかもわからないのに並ぶなよ……。
「ではお待ちかねの商品発表です」
「「「「……」」」」
「その商品とは…………レア袋です」
「「「「レア袋!?」」」」
「「「「レア袋?」」」」
「「「「なにそれ?」」」」
並ぶ人が増えたな。
先月の魔工ダンジョン討伐に参加したFランク以上の冒険者なら聞き覚えがあることだろう。
物資を持ち運ぶのに使ってたからな。
「みなさんが普段お持ちの採集袋ございますよね? あれをこのダンジョン以外でも使用できるようにしたものとお考えください」
「「「「えぇっ!?」」」」
まぁ最初は誰でも驚くに決まってる。
でもすぐにあって普通の物になるんだよな。
「では機能面を紹介させていただきます。袋の容量はポーションが50本入る程度の小さな物となっております。ただし、中身は状態保存の魔法がかかっております」
「「「「おおっ!?」」」」
驚いたのはレア袋の存在を知っていた人たちだ。
この前貸し出してた物は状態保存なしのただ容量が大きいだけの物だったからな。
逆にレア袋の存在を知らなかった人たちは、状態保存がかかっていて普通だと思っているようだ。
そしてたったポーション50本分の容量しかないのかよって思ってることだろう。
「では実物を見ていただきましょうか」
カトレアが袋を二枚手に取って見せる。
「「「「小さい!」」」」
もっとよく見ようと冒険者たちがカトレアの近くに寄ってくる。
主に女性たちだが。
「カイッコの糸が使われてるわよ! きれい!」
「おそらくダンジョン綿も! きっと丈夫だわ!」
「大樹の刺繍だ! こっちは桜! カミラさんの仕事ね!」
目が肥えすぎだろ……。
話が進まないので注意しようと思ったが、すぐに列に戻ってくれた。
満足のいく品だったようだ。
「色や刺繍のデザインは物によって異なります。全て一点物ですので同じデザインは存在しないと考えてください。それと説明が遅れましたが、このレア袋という商品はウチの従業員であり錬金術師のカトレアが販売権利を所有しております。つまり錬金術師ギルドで認可済みの技術であり、カトレアだけが販売可能な商品というわけです。おわかりかとは思いますが大変貴重な商品となりますので、販売はお一人様お一つ限り、商品にはシリアル番号を付与させていただき、購入者情報をこちらでも管理させていただきます」
少し難しい言い回しをしてしまったが伝わるかな?
……大丈夫そうだな。
みんなレア袋の貴重さを理解してくれているようだ。
「それでは今お並びのみなさま、先ほど言いましたように商品のデザインが全て異なってる都合上、購入の順番をクジで決めたいと思います。人数を確認いたしますので少々お待ちを。今からお並びになられる方、トレーニングエリア内の入り口右の休憩ゾーンまでお越しください」
それから五分ほど待った。
……30人か。
まぁ予想通りってところかな。
レア袋自体は40枚用意してるから最後の人も10種類ほどから選べてちょうどいいくらいだろう。
まずティアリスさんがクジを引く。
……17番だったようだ。
まぁティアリスさん用は別に置いてあるから順番は関係ないもんな。
そのあともみんなクジを引いていき、書かれている番号を見て一喜一憂している。
「では順番にお呼びいたしますので、それまでは近くでお待ちください。欲しいデザインがなければ購入をやめられても結構ですので。ほかのみなさまもお付き合いいただきありがとうございました。それでは本日のアップデート情報は以上になります」
「ちょっと待ってください! 営業時間だけお伝えしておきますね!」
あ、そうだった。
このままララに任せようか。
「トレーニングエリアは六時~二十三時までとなります! それに合わせて魔導図書館の時間も同じく六時~二十三時にします! では引き続きトレーニングに励んでくださいね~! ピンポンパンポン」
今度こそ終わりだよな?
……あ、レア袋関連で言ってないことあるな。
30人ならたいした手間でもないから一人ずつ伝えるか。
「おお、ジョアンさんが一番でしたか」
「はい! 選び放題なんて嬉しいです! でも悩んでしまいますねぇ~」
「どうぞお好きなだけお悩みください。それとさっき言ってませんでしたが、実はこの紐と紐の先をくっ付けると魔力でロックがかかるんですよ。ほら、引っ張っても離れないんです」
「おおっ!? 凄いですね!」
「で、外すにはくっ付いてる部分を三秒ほど手でおさえてやると……このように外れるんです」
「おおっ!? 落とす心配をしなくていいですね! 先をくっ付けるだけでも良さそうですが普通に結んだあとにくっ付けると効果倍増ってわけですね」
「はい。それに丈夫ですし、水に濡れても大丈夫です。あちらで販売してる水着の腰のところには紐を通せる穴もありますからね」
「小さいから全く邪魔にもなりませんしね! これで5000Pは安すぎですよ!」
「どうでしょうか。あまり出回ると問題が増えますので容量が小さめになったことは勘弁してくださいね」
「ポーション50本分の容量もあれば十分ですよ! 状態保存の効果が大きすぎます!」
「そう言っていただけるとありがたいです。あ、それと冒険者カードにも購入情報が記載されますので」
「それはいいですね! ……この緑のレア袋にします! 緑が好きなんです! それに緑を活かした大樹の刺繍が気に入りました!」
「ありがとうございます。ではカトレア、頼む」
カトレアはジョアンさんが選んだレア袋を錬金釜に丁寧に投入する。
そして魔力によってシリアル番号を付与しているようだ。
その隣ではモニカちゃんがデータベースに登録するための情報を紙に記入している。
「はい、完成です。大事にお使いくださいね」
「もちろんです! ありがとうございます! ……SS1というのは?」
「商品名です。正確にはレア袋SS1と言いますが。SSは状態保存という意味を表してます。1は第一作品目という意味です。その隣のNo.1というのがシリアル番号になってます。ジョアンさんは最初のご購入者なので1番ですね」
「……カッコいい。僕が一番だなんてなんだか申し訳ないですが……。でも一生大事に使わせてもらいます! あ、待ってるみんなに紐の使い方や商品名のこと伝えておきますね!」
さすがジョアンさん、俺の仕事が一気になくなって非常に助かる。
ジョアンさんならどこかに高値で売るなんてこともしないだろうしな。
それよりもシリアル番号1番を取られたことが悔しいのか、ティアリスさんがジョアンさんを恨めしそうに見てるのが気になるが……。
 




