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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第九章 魔道計画
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第二百十六話 宿屋協会からの依頼

 シャルルとジェマがソファに腰を下ろしたせいで、この場の空気的になにか話をすることになった。

 トレーニングエリアの話が上手くまとまったところで朝のプチ会議はもう終了する予定だったのに。


 なんとなくまずはみんなでアイスを食べる。

 もちろん大好評で、すぐにでも商品化するべきとの声ばかりだ。

 マリンたちは朝食も食べないでいきなりアイスを食べてるんだぞ。

 スピカさんもミルクソフトがお気に入りになったようだ。


「商品化はもちろんするけどさ、ここではバイキングでも出すつもりだったんだけど」


「それはダメじゃない? ボクチク村では名物として売り出すんでしょ? 違う味のアイスは協議だけど、このミルクアイスは自動販売魔道具での販売のみにしたほうがいいと思う」


「ララちゃんの意見に賛成。ソボク村のわらび餅と焼き団子、ビール村の酒饅頭もここで出すつもりなら尚更だと思うよ。ここの宿屋に泊まれば無料で食べ放題となると村名物としての格が落ちる気がするもん」


「マリンちゃんの意見に賛成。せめて割引って形にしたほうがいいと思う。生産はここでするんだからそれなら村の人たちも納得してくれるよ」


 ララとマリンに責め立てられる。

 確かにその通りかもしれない。


「わかった。じゃあ村名物の物に関しては、各村の名物と銘打ったうえで販売することにしよう。価格については村と相談してからにしようか」


「「異議なし」」


 ララとマリンだけが返事をしてくれる。

 ほかのみんなはさすがにまだそこまでは入ってこれないようだ。


「じゃあ次の議題はどうする?」


「う~ん、ペットの話する?」


「「「「ペット!?」」」」


 あれ?

 まだララしか知らないのか?

 それだけみんな忙しくしてるということでもあるが。


 でもマリン、モニカちゃん、シャルル、ジェマのこの食いつきよう、やはりペットという言葉の力は凄いようだ。

 スピカさんだけは無反応だが。


「あ、期待させちゃって悪いけど、冒険者のために宿屋の部屋で魔物をペットとして飼えないか考えてるの。ウチに住んでるとダンジョンの魔物は飼えないからさ……ごめんね……お兄の魔物で我慢してね」


 四人は明らかにがっかりしてる。

 俺の魔物と毎日いっしょに寝てるせいか、自分だけのペットという存在が余計に欲しくなっていたのかもしれない。


「ララ、ペットの話は飛ばそうか」


「そうだね……ごめんね」


 一気に空気が悪くなった。


 スピカさんだけは何事もなかったかのようにお茶をすすっている。

 動物があまり好きじゃないのかもな。


「あ、そういやマルセールの宿屋協会の話聞いたか?」


「宿屋協会? なにかあったの?」


 ララが知らないということはほかのみんなもまだ知らないのか。

 昨日は帰ってくるのが遅かったから、町で変な人に絡まれたって話しかしてないしな。


「ジェマ、言っちゃダメなやつか?」


「いえ、ここにいるみなさんになら大丈夫です」


「ちょっとなんの話? 宿屋協会の話なんて私聞いてないわよ?」


「昨日午前中に発生した案件の話です」


「昨日の午前中? ……ま、まぁまだ私のところまで話が上がってきてなかっただけね。続きを話しなさい」


 シャルルのこの焦りよう。

 午前中になにかあったのか?

 まさか仕事中に寝てるんじゃないだろうな?


 ……俺のためにも指摘はしないでおこう。


「カトレアが駅にいたらさ、リョウカのお父さんがやってきたんだってさ。ほら、あの人副会長になっただろ? だから宿屋協会の代表としてカトレアに依頼を頼みにきたんだよ」


「依頼? カトレア姉に? どんな?」


 そして宿屋の集中管理システムのことを話した。

 内容を聞き、シャルルとジェマ以外は真剣に考え始める。

 この二人にはまだ錬金術に関することは理解できないだろうからな。


「トロッコの発着点で使ってるあの呼び出し魔道具の原理でいけばできそうだよね?」


「でもそれは魔力プレートあってのものだからね」


「なら魔道プレートとして町全体に埋めたらいいんじゃない?」


 ララとマリンとモニカちゃんは熱い議論を交わしている。

 俺でも考えられるようなことはこの三人なら難なく思いつくだろう。

 こうしてるとなぜかモニカちゃんまでこの二人と同年代に思えてしまうのはいつものことだ。


 でも誰もリョウカのお父さんがなぜ急にこんなことを言ってきたかについては疑問に思わないんだな。

 技術のことにしか興味がないのかもしれない。


「あなたたち、その前にもっと考えないといけないことあるでしょ」


 スピカさんが釘をさすと、みんなはすぐに口を閉じた。

 次になにを言うのかは大体想像がつく。


「シャルロット、あなた昨日仕事中に寝てたわね?」


「……は?」


 思わず声が漏れてしまった……。


 いやいや、違うでしょ。

 それに今その話をするのか?


 シャルルは図星だったのか、なにも言わずただただ怯えている。

 仕事もしっかりするって約束でウチに住んでるんだから追い出されると思ってるのかもしれない。


「冗談よ。寝てもいいけど職員にバレちゃダメよ?」


「……はい」


 シャルルはシュンとしてしまった。


 というか冗談なのかよ……。

 誰一人笑ってないけどな。

 それどころかみんな混乱してしまってるじゃないか。


「ロイス、この案件がダンジョンと全く関係ないことくらいわかってるわよね?」


 そう、それだよ。

 スピカさんならそっちのほうを気にするはずだ。


 ララたち三人はハッとした表情をしてる。

 最初にそれを言わなかった俺も意地が悪いんだろうけどな。


「さすがですね。だから迷ってるんですが、どうしたらいいと思います?」


「……私に聞かなくてもどうせ答えは決まってるんでしょ? もぉっ、あなたもカトレアも勝手にやりすぎなのよ」


「すみません。でも宿屋協会にもセバスさんにもまだ返答はしてませんよ。スピカさんの意見が聞きたいな~と思いまして。技術的な話じゃなくて」


「だから私に言って欲しい答えがあなたの中にあるんでしょ? それに合わせないといけないこっちの身にもなりなさいよ」


 スピカさんは少しイラっとした様子を見せる。


「お兄、試すようなことしてサイテー」


「そうだよ。師匠をいじめたらいくらお兄ちゃんでも怒るからね?」


「男ならハッキリ自分の意見を先に言うべきだよ」


 凄い責められよう……。

 こんなはずじゃなかったんだけど。


「……あれ? これってよく考えたらマルセールにとって結構重要なことじゃない?」


「シャルル様、あとで説明いたしますので今は静かにしてましょうか……」


 シャルルのことはジェマに任せよう。


「宿屋協会は俺や町役場ではなく、まずカトレアに話を持っていったんだぞ? それがどういう意味かわかるか? マリンとモニカちゃんもスピカさん任せにするんじゃなくてそこのところをよく考えるんだ」


「え……たまたま駅にお姉ちゃんがいたからじゃないの?」


「ロイス君よりカトレアのほうが話しやすいからじゃない? それに役場に行ってもどうせこっちに頼むことになるんだろうからそれなら直接言ったほうが早いし」


 ダメだ……。

 この二人はここの環境に慣れすぎたのかもしれない。

 さっきスピカさんがこの案件はダンジョンと関係ないって言ったにも関わらずこれだからな。

 まぁ俺も最初は二人と同じような感覚だったから強くは言わないけど。


「私の指導不足みたいね……。二人ともよく聞きなさい。この案件は大樹のダンジョンではなく錬金術師への依頼なのよ。宿屋協会はそれがわかってるからこそロイスじゃなくてカトレアに依頼を持ち込んだの」


「あ、そういうことか……」


「……そこの区別がついてるってことですか?」


「ん? ……そういえばそうね。えっと、リョウカのお父さんだっけ? その人は錬金術に詳しい人なの? というか錬金術の前にここのシステムを理解してるわよね……」


 ようやく疑問に思ってくれたようだ。


「どうやらリョウカの案みたいですね」


「「「「あぁ~、なるほど」」」」


 四人は即座に納得する。

 シャルルとジェマはリョウカのことをまだそこまで知らないんだろう。


「リョウカのことは置いておくとして、マリンとモニカちゃんはどうしたい? ダンジョンとしてではなく錬金術師としてどう対応する? 仕事だからもちろんお金はもらえるぞ」


「う~ん、やってみたい仕事ではあるけど色々大変そう……」


「私、ギルドでは魔道具作ってただけだからそういう交渉とかしたことないんだよね……」


 仕事として請け負う以上、ただ好き勝手に作って終わりというわけにはいかないからな。

 しかも今回は魔道具だけじゃなくシステムを一から構築しなければならない。


「ねぇお兄、今はやめたほうがいいんじゃない? やるにしても魔道列車の運行が始まってからのほうがいいよ」


「そうかもな。でもカトレアはやる気になってたからさ。だから徹夜で駅まで作っちゃったんだろうし」


「「「「えぇっ!?」」」」


 今度は全員が驚く。

 ララもさっきカトレアに会っただけでそこまでは聞いてなかったようだ。

 まさかもう駅までできてるなんて思わないよな。


 ……ん?

 着手し始めたってだけで、できたとまでは言ってなかったかもしれない。

 まぁいいか。


「……師匠、やってもいい?」


「魔道計画のほうは順調ですし、魔力プレートを活かせるいい機会かもしれません。それに私たちがやらなくてもカトレア一人で勝手にやっちゃいそうですし……」


「凄く大変になるわよ? 宿屋協会やそのシステムに参加する全部の宿屋とも連携を取らないといけないし。それよりも私が気にしてるのは一番重要になる情報管理の部分をどうやって実現するかってことよ。カトレアはどう考えてるのかしら……」


「大丈夫だって! お姉ちゃんならなんでもできるもん! それにほかの町ならともかくマルセールなんだからさ!」


「そうですよ! 例え報酬は少ないとしても面白そうですし!」


「……仕方ないわね。ロイスもこれでいいの?」


「はい。ダンジョンとは関係ないかもしれませんが、ここにあって使えるものはフル活用していきましょう」


 向上心が人を育てるからな。

 今後のためにもマリンとモニカちゃんにはレベルアップしてもらわねば。


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