第二百十四話 地下室の秘密
今日から6月。
日曜日ではあったが平日と同じように七時前に朝食をすませた。
冒険者たちに会いたくなかったからな。
一週間経ったのにたいしたアイデアが浮かんでないなんてとても言えない。
それに魔道列車のことについても色々聞かれそうだったからなんとなく面倒になったこともある。
リビングのソファで一人でカフェラテを飲んでいるとカトレアが起きてきた。
「おはよう。……ん? もしかして寝てないのか?」
よく考えたら今転移魔法陣部屋のほうから来たな。
「はい。駅に着手し始めたらなんだか楽しくなってきちゃいまして」
「もう駅まで構築してるのか……」
「さすがに実際に行く気にはなりませんでしたけどね。では寝ます。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
今度こそリビングにある転移魔法陣から二階に転移していった。
数分後、ララが起きてきた。
「おはよぉ~。カトレア姉、凄い顔してたね……」
「おはよう。そうか? 眠そうにはしてたけどさ」
「お兄、ぶん殴られるよ? かなり疲れてる顔だったじゃん。昨日一日外での作業だったうえに徹夜でダンジョン構築ってやりすぎだよ」
俺、ぶん殴られそうだったのか……。
カトレアに限って手をあげるようなことはないと思うけど。
「まぁ以前のお兄からの無茶ぶりの連続のときに比べたらマシかもしれないけどね。それより今日は朝食行かないの? 日曜だよ?」
「今日はやめとく。これ以上なにか要望されても無理だし」
「そっか。じゃあちょうど二人だし、少し最近の状況を整理しよ。ご飯取ってくるね~」
ララはバイキング会場に行ったようだ。
状況を整理か。
確かに色々ありすぎて俺の頭の中はごちゃごちゃになってる。
それをどうにかしてくれるのはやはりララしかいないよな。
そしてララはお盆いっぱいに料理を取って戻ってきた。
食欲はあるようだな。
「お兄、ティアリスさんが心配してたよ。体調でも悪いの? お見舞いに行っていい? ランチはいっしょに食べようって伝えてくれない? とかしつこいの。だからお兄は仕事で忙しくて今日は無理ですって言っといたから。私が料理取ってる間ずっと話しかけてくるんだよ?」
ララの機嫌が悪い……。
今から長くなりそうなのに先が思いやられる……。
「お兄もさ、ティアリスさんとばかりいっしょに食べなくてもいいんじゃない? どうせならほかの女の子たちとも食べなよ。だからみんなに勘違いされるんだよ」
「いや、別に俺はそんなつもりはなくて……」
「お兄がそんなつもりなくても付き合ってるって噂になってるんだからね? 管理人なんだからそういう脇が甘い行動は控えてよね」
「はい……ごめんなさい」
「わかればいいの。これから日曜の朝食のときには私もいっしょに行くから」
「え……」
「なに? 邪魔なの?」
「いや、二人もいるとみんなが気を遣うかなって……それならララ一人とかのほうがいいと思う」
「そのほうがみんな気を遣うでしょ。じゃあユウナちゃんでいいから」
「ユウナは日曜の朝はそんな早く起きてこな……」
そのとき転移魔法陣からユウナが現れた。
「おはようなのです! あっ! 今日は私もここで食べるのです!」
早足で転移魔法陣部屋に向かっていった。
ララと同じようにバイキング会場に朝食を取りに行ったのだろう。
「……じゃあ始めるか」
「そだね……」
「まずはなんだ?」
「今お兄が一番悩んでそうな新しい施設のことからにしよっか」
お?
さすがララ、俺のことをよくわかってるじゃないか。
まさにそれが一番重荷になってるんだよ。
「もしかしてなにか考えてくれたのか?」
「少しだけどね。実は私も悩んでたの。施設の話じゃなくて筋力や瞬発力、体力といった話だよ? 基礎能力が上がればもっと楽に戦えるんだろうな~って思うことは前からよくあったからね」
ララでもそう思うんだな。
まだ十一歳なんだからほっといてもこれからどんどん成長しそうだけど。
「私の場合、元々はお兄に早く追いつきたくて身体能力強化の補助魔法を勉強することにしたの。その魔法さえ覚えることができたら体が小さくてもお兄といっしょにダンジョンに入れそうだったからさ」
そんなきっかけだったのか。
それに火魔法じゃなくてそっちの魔法が先なのか。
火というか炎のイメージが強すぎて身体能力強化魔法はおまけで身についたくらいにしか思ってなかったぞ……。
「あ、少し話逸れるけど、ウチの地下室の本って凄いんだよ? きっと市場に出回ってなくてここにしかない本なんだと思う。だからみんなには公表できないけどさ」
市場に出回ってない本か。
確かカトレアもウチに来た当初そんなこと言ってずっと地下室に籠ってたよな。
でもそうだとすると身体能力強化魔法をララしか使ってないことにも納得できる。
補助魔法の一種なんだったらもっと使ってる人が多くても良さそうだもんな。
「でもなんで公表できないんだ? もしかしたらみんなもその魔法が使えるかもしれないだろ?」
「だって地下室にある本の多くは持ち出し厳禁なんだもん。このリビングにも持ち出しちゃいけないんだって。去年ドラシーに聞いたんだけど、錬金術で作られた特殊な本が多いからなんだってさ。モニカちゃんがギルドでやってたようなコピーって話じゃないよ?」
「錬金術による特殊な本か…………ん? こないだユウナに渡してなかったか? 封印魔法のやつ」
「持ち出し厳禁の本ってね、本自体に封印魔法がかかってるんだって。だからあの本はドラシーに特別にその封印を解除してもらったの。ユウナちゃんやエマちゃんが覚える予定の封印魔法もレアらしいけど、今後のために必要だからいいんだってさ。あ、もちろん持ち出せる本もあるよ? 簡単な錬金術の本とかはさ」
持ち出しちゃいけないっていうのは持ち出せないって意味なのか?
俺は持ち出してまで読もうと思ったことすらなかったけど。
「なら地下室で見る分には誰が見てもいいのか?」
「地下室自体にも封印魔法がかかってるんだって。だからドラシーが許可しないと入れないみたい」
「じゃあ俺やララはここに来たときに既にドラシーに許可されてたってことか。ドラシーのやつ、爺ちゃんが死んでから初めて俺たちに会ったようなふりしてたくせに何年も前からずっと見てたんじゃないか?」
「お兄……それはさすがに気付くの遅すぎだって……」
そんなこと言われてもさ、地下二階までしかない初級者向けダンジョンでドラシーがやることなんてなにもないだろ?
だからずっと寝てたって言われたら信じるって。
「……まぁいい。それよりユウナは地下室に入れないのか?」
「入れるよ。でも読める本が限定されてるみたい。それもドラシーが設定してるんだって。カトレア姉やマリンちゃんはほとんど読めるらしいけど、それは錬金術師だからっていうのもあるの。でもユウナちゃんは魔道士だから……」
「魔道士だから? ……禁断の魔法とか書いてあったりするのか? ララ、お前もしかして」
「遅くなったのです! ティアリスさんにつかまってたのです!」
「「……」」
「ロイスさんの体調についてしつこく聞かれたから適当に凄く疲れてるのですって言っといたのです! ん? なんの話してたのです!?」
「いや……ほら、ユウナもララも早くご飯食べちゃえよ」
続きが気になって仕方ないが、なんとなくユウナには聞かせないほうがいい気がする。
ドラシーが制限をかけてるのもなにか理由があってのことだろうし。
それよりも気になるのはララのことだ。
たぶんララは魔法関連であろうが錬金術関連であろうが全ての本を読むことができるんだろう。
もっとも錬金術の本に関してはあまり興味がなかったようだが。
やはり身体能力強化魔法もユウナが読むことができない禁書的なやつに書いてあったんだろうか?
あの炎もおかしいと思ってたんだよ。
明らかに燃え盛ってるもんな。
雷魔法とかはちゃんと初級レベルなのに。
でもなんでこんな話になったんだっけ?
魔力がない人たちのための施設について話そうとしてたところだよな。
……ララが俺に追いつくために地下室の本で魔法を覚えたって話になったからか。
魔力があるララだからの話であって、魔力がない人には全く参考にならない話だ。
俺だって魔力があれば地下室の本を読み漁って魔法を覚えまくってたんだろうな。
今頃は魔物たちといっしょに毎日ダンジョンで戦闘の日々を送っていたかもしれない。
これだけ魔物の仲間がいれば人間のパーティメンバーも必要ないだろうし。
一人で自由にやってたんだろうな~俺。
って妄想はそれくらいにしておこう。
問題はなぜララが今まで黙ってたことを急に話したかだ。
流れでその話になったからこの際言っちゃえって感じだったのかもしれないが。
……まさかもう冒険者を辞めるから最後に打ち明けたなんて言わないだろうな?




