第二百十三話 道路工事中
メルが風魔法で石畳の石を砕く。
幅は20センチ、深さは30センチ。
一度に長くて10メートル程度の距離を進む。
マドが土魔法でその石を掘り起こす。
マカ、ビス、エク、タルは掘り起こされた部分を小さな斧で整地。
また、掘り起こされた石を邪魔にならないように横にきれいに寄せる。
ウェルダンとシルバは周囲の安全確保に努めている。
町中とあってかなり目立っているようだ。
道路工事をしていると、近所の人たちが何事かと家から出てくる。
音と振動が響いてるのかもしれない。
「おばちゃん! 魔道列車のための道路工事中なんだよ! えっ!? 聞いてない!? 実はさ!」
なんの工事か知らない人にはメロさんが丁寧に説明している。
町役場にはもちろん、八百屋などの身内の店にも魔道列車についてのビラを置いてもらってるからそれなりに知られてきているとは思う。
買い物に来たお客には直接話してくれてるみたいだし。
「ロイス君、次お願いします」
俺は掘り返され整地された道に魔道プレートを設置していく。
魔道プレートは10センチ四方、長さ1メートルのミスリルとミニ大樹の合成素材。
初期型よりは圧倒的に小さい。
それに1メートルもある割には結構軽い。
魔道プレートと魔道プレートの接続には同素材の接続パーツを使う。
この前埋めたときは適当に重ねただけだった。
それに比べると厳重すぎる気もするが、お金を取って運用するんだからこれくらいして当然なんだろう。
曲がっている道のところはその都度カトレアが道に合わせて魔道プレートや接続パーツを錬金し直している。
だから時間がかかるのは仕方ない。
そして俺が10メートルほど魔道プレートを設置すると、カトレアは魔力が通るかどうかの確認をする。
確認を終えた部分はゲンさんが斧で石を魔道プレートの上に丁寧に戻していく。
そして最後は再びマドが土魔法でカッチカチに固めていく。
石畳の模様は変わってしまうがそれは諦めよう。
余った石は回収してソボク村で再利用の予定だ。
「マド君とメルちゃんはそろそろハイエーテル飲みましょうね。ほかのみなさんもお水飲んでください」
この二匹はずっと魔力使いっぱなしだからな。
疲れも見せずによくやってくれてる。
というか明日からもう六月だからか暑い。
これから真夏にこんな作業をしなきゃいけないと思うと地獄だ。
冬にすれば良かったか。
「では再開しましょうか。もうすぐ駅ですからね」
もうすっかり夕方になっている。
道路工事作業を始めたのは午後になってからだ。
午前中は宿屋のことを踏まえ、魔道プレートを町のどこに設置するか悩んでいた。
宿屋の集中管理システムを実現するには魔道プレートが必須だからな。
色々考えたが、どのみちすぐに決められるようなことでもなかったため、今日は当初の予定通り駅までの作業のみを実施することにした。
距離的にはそんなに長くないのにこれだけの時間がかかったのは最初だからだろうか。
いや、町中だからだな。
色々気遣うことが多すぎる。
それに町の外の道は土だから簡単に掘り返せるしな。
人さえいなければもっと長い距離を一気に作業したりもできる。
ん?
もしかしたらそこまで日数かからないんじゃないか?
……いや、外は外で木を植えないといけないんだった。
やはりこれから数か月はこの作業の繰り返しになるのか。
「はい、最後の確認も完了です。ゲンさん、マド君、お願いしますね」
ようやく終わった。
何気に筋肉痛になりそうだ。
「というかもう冒険者ギルドの建物壊されてたんだな……」
「会議の日から一週間経ちましたからね。ギルドの職員さんは次の日には町役場へお引越しされたそうですよ」
行動が早い……。
さすがセバスさんと言ったほうがいいのか。
「で、ここに転移魔法陣か。初期設定はオフになってるんだっけ?」
「はい。だからここに置いてあっても問題ありません。明日、マルセールの外からここまでの道を構築していきますね」
「そんなに急がなくてもいいだろ。俺も明日はゆっくりするつもりだし」
みんな働きすぎなんだよな。
特に錬金術師たち。
そのせいでみんなは自分が怠けているような気分になるんだ。
……魔力なしの人たちもそんな気持ちなんだろうな。
よし、明日こそ彼らのためになにかいい案を考えるぞ。
今ならなにか思いつきそうな気がする。
「ロイス様、みなさま、お疲れ様でございます」
「あぁ、セバスさん。お疲れ様です。なんとか大樹のダンジョンからここまで繋がりそうです」
「順調そうでなによりでございます。それより少しよろしいでしょうか……」
「えぇ、構いませんが。……そちらの方たちは?」
セバスさんの後方に怪しげな集団がいる……。
明らかに怪しい……。
俺の勘違いとかではなくて明らかにだ。
「こちらの方たちは……」
「ここからは私が直接お話しましょう。あなたが魔道列車の総責任者ですね?」
集団の中心にいるおそらくボスであろう金持ち風の年配男性が前に出てきた。
そして俺に向かって話しかけてきた。
「いや責任者はこっちの……」
「私の目は誤魔化せませんよ? あなたが噂の魔物使いってことはわかってるんですからね?」
「はぁ~、噂ですか……。で、俺にどういったご用でしょうか?」
「なに、たいしたことじゃありませんよ。魔道列車の権利を私に譲っていただけないかと思いまして」
だろうな。
俺はサッとセバスさんに目配せをする。
するとセバスさんは頷いた。
「すみません。そういう取引はしないと決めてますので」
「もちろんお金ならそれなりの額をご用意しますよ?」
「お金の問題とかじゃなくて、あなた方では構築も運営もできないでしょう」
「運営といいますか現場作業はあなたたちにお任せするに決まってるじゃないですか。私がしたいのは経営ですから」
「魔道列車の仕組みをご存じで?」
「仕組みなんか知らなくてもいいんですよ。私はより多く利益が出る方法を考えるだけです」
「そうですか。生憎俺たちがあなたに頼れそうなことはなにひとつありそうにないので、どうかお引き取り願えますか」
「……この話を断れるとでも思ってるのでしょうか?」
取り巻きの護衛というか用心棒っぽい人たちが五人で俺を取り囲む。
さすがになにも武器を持ってない俺に対して剣を抜いたりはしないようだ。
「どういうことでしょう?」
「おわかりになりませんか? あなたはうんと頷くしかないんです」
「はぁ~……で?」
「……続きは宿でゆっくりお話ししましょうか。連れてきなさい」
取り巻きの一人が俺の腕を掴む。
その瞬間、シルバとウェルダンとリスたちがいっせいに五人に襲いかかった。
あ~あ。
ご愁傷様です。
「な……え? うわぁああああ!」
ゲンさんはボスの男の襟を掴み、高く持ち上げている。
「ゴ(どうする? 埋めるか?)
「いや、しばらくそのままで」
取り巻きたちは既に全員気絶してるようだ。
血が出てないのは偉いぞ。
「わふ(もっと早くに捕まえても良かったんだよ?)」
「まさか腕を掴まれるとは思わなかったからさ」
「モ~(挑発してたよね? 危険なことはやめましょうよ~)」
「ごめんごめん。セバスさんが悪い人たちって言うからさ」
「そんな……私は少々所業が良くないということをお伝えしたかっただけで……」
前にセバスさんからこういう輩についての忠告は受けてたからな。
ただもう来たのかって感じだけど。
まだ魔道列車が公になって一週間なのに。
これからもこんなのがいっぱい来るんだろうか……。
「離しなさい! え? うわぁ!」
ゲンさんは男に言われた通り、空中で手を離した。
当然男は地面にそのまま落ちることになった。
「ゆっくりお話ししますか?」
「……いえ、今日のところはもう結構です……」
「ロイス様、あとのことは私にお任せを」
「どうされるんですか?」
「この方は少し勘違いをされてるようなので、とりあえず一晩は頭を冷やしていただきます。あ、ゲン様、少しお力添えをいただけますでしょうか?」
六人は縄でグルグル巻きにされ、ゲンさんに担がれていった。
おそらく町役場の地下にあるという牢屋にぶち込まれるのであろう。
って俺の腕を掴んだくらいでそれはないか。
「彼はパルドでも有名な宝石商なんです」
どこからかメアリーさんが現れた。
「宝石商? なぜ宝石商が魔道列車に目を付けたんですか?」
「魔石も宝石の一種ですからね。彼の元には魔石も大量に集まってきます。でも宝石として使えない魔石はただの魔力として扱うしかありませんから。魔道列車の動力に魔力が使われると知っての行動でしょうね」
「なるほど。あながち的外れなことでもなかったんですね」
「はい。ですが彼は同時にもう一つの狙いがあったのでしょう」
「もう一つの狙い?」
「マルセールの実権支配です」
「実権支配? そんなことが可能だと?」
「無能な王女を操ることくらい簡単だと思ったんじゃないでしょうか。魔道列車とマルセール、一石二鳥とでも考えたのでしょう」
「お金と権力、どちらも欲しいってことですか。はぁ~、嫌になりますね」
でも俺も端からはそんな風に見られてるのかもしれないのか。
やっぱり魔道列車なんて目立つことやるべきじゃなかったんだよな。
ウチの関係者だけでこっそり利用するくらいがちょうど良かったんだ。
「でもよぉ、いくらなんでも動きが早すぎねぇか? 魔道列車のことはこの町の人ですらまだ知らない人も結構いるんだぜ? それなのに魔力が必要なことまで知ってるなんてさ」
「おそらく先週の会議出席者に彼と繋がりのある人物がいたのでしょう。大方の目星は付いてますが……」
まぁそう考えるのが自然か。
でもさっきの人も使わない魔石を安く譲ってくれるとか提案してくれたんならもっと詳しく話を聞いたのに。
お金があれば全部を手に入れたいと思ってしまうものなのかな。
「ロイス君、あのような方はもっと悪いこともいっぱいしてるはずです。魔石だって裏ルートで格安で手に入れてるに決まってるんです」
少し会っただけなのに偏見と決めつけが凄い……。
それに魔石入手の裏ルートなんて本当にあるのか?
ぜひ教えてほしい……。
というかカトレアもメロさんも俺が拉致されそうになったのに全く動じてないな……。
魔物がいるから万が一の心配もないだろうけどさ。
「二人もマルセールに来るときは少なくともリスの誰かといっしょに来るようにしてくれ。なにかあってからでは遅い」
「私はいつもそうしてますからご安心を」
「俺もか……でも仮にも魔道列車の責任者という立場なんだからオーナーにも町にも迷惑をかけるわけにはいかねぇよな。みんな、悪いがしばらく護衛を頼めるか?」
「ピィ! (いいよ! 今朝おじさんがメロンくれたし)」
「ピィ! (昼間に差し入れもくれたしね!)」
「ピィ! (いつでも来ていいって言ってくれたし!)」
餌付けが大成功してる……。
もしかしておじさんはこうなることを予想していたのかもしれない。




