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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第九章 魔道計画

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第二百六話 車両品評会

「お兄ちゃん? 眠いの? 寝れなかった?」


「う~ん、寝る前に少し考え事をしてたら頭も目も冴えてきちゃってさ」


「昨日言ってた新しい施設のこと? そんなに急がなくてもいいんじゃない?」


「そうなんだけど、なぜか珍しくアイデアが浮かんできたからさ」


「ふ~ん。地下五階のことも考えとかないとダメだよ」


「それは……って今はそれより列車をどうするかだろ」


「お兄ちゃんがぼーっとしてるからでしょ。みんな真剣に見てくれてるのに」


 手が空いてそうな従業員たちが錬金術エリアに集められていた。

 というかみんな忙しいはずなのに噂を聞いて勝手に集まってきた。


 今行われているのは魔道列車として実際に運行される車両を決定するそこそこ大事な品評会。

 面倒だから外部の意見なんかはいっさい聞かない。

 試作品の車両が数台並べられており、従業員たちはキャッキャッ言いながら座席の座り心地などを確かめている。

 真剣というか楽しんでるだけのようにしか見えない。


「ほら、乗ってみてよ」


 マリンに促されるまま、目の前にある車両に乗り込む。


 ……大きいな。

 真ん中に通路があり、前方向きの座席が左右に二つずつ、それが十列。

 この車両だけで四十人が座れる計算だ。


 作りも今地上で使ってるトロッコよりもだいぶしっかりしている。

 地下三階のトロッコとは最早比べものにすらならない。

 というかトロッコの定義ってなんだっけ?

 列車という名前にして正解だったようだ。


「こんなのが本当に走るの!? 列車って凄いんだね!」


 メイナードが感動している。

 ヤックとマックもあとで見に来るだろうからいっしょに楽しんでくれ。


「なにあれ、子供みたい。ただはしゃぐんじゃなくてしっかり感想も言ってほしいもんだけどね」


 マリンはメイナードを冷めた目で見ている。

 年下のマリンからこんな風に思われるメイナードが可哀想になった……。

 年だって一つしか変わらないのに。

 決して普段は仲悪いわけじゃないよな?

 今のマリンは職人モードのようだ。

 ヤックとマックには予めこのことを伝えておこう。


「フカフカだね~」


「うん、長時間でも座ってられるね~」


「座席も広いね~」


「うん、寝られそうだね~」


「そうなの! 最大八十分間乗ってくれる人もいるわけだからリラックスしてもらえるようにしたの!」


 アグネスとアグノラの感想はマリンの機嫌を損ねなかったようだ。


「雨の心配はいらないのに屋根や壁で覆う必要はあったのか?」


「速度が速いとやっぱり風がきつくなるからね。窓は開けられるよ」


「なるほど。列車内で移動することも考えると当然か」


「うん! トイレ車両や自動販売魔道具車両への移動もスムーズにできるはず!」


 トイレ車両の話が出たので次はトイレ車両に移動する。


 まず左右で男性用、女性用の入り口が分かれているようだ。

 その入り口を入ると中には手洗いスペースがあり、その先には個室が五部屋。

 おそらくトイレ馬車のトイレよりも立派なんだろうな。

 中に入らなくてもわかるから次行こう。


「ちょっとちょっと! 中も見てよ!」


 さすがにそうはさせてくれなかったか。

 おとなしく真ん中の個室のドアを開ける。


「あ、ロイス君! このトイレ、用を足しながら外の景色が見えるんだべ! 凄いだべ!」


「「……」」


 ネッドさんが入ってた……。

 ただ座ってるだけみたいなので良かった。


「広いな。あのガラスは外から中が見えないやつか?」


「うん……。女性用も似たような感じ……。次行こう」


 そして無言で自動販売魔道具車両にやってきた。


「外向きのカウンター席もあるのか」


「ここでも食事ができるようにしたかったの。座席の隣に知らない人が座ってたら遠慮しちゃうかなって思ってね」


「そういう配慮は大事だぞ。よく考えたな」


「うん!」


 いい笑顔だ。

 マリンは俺から褒められたことが相当嬉しいようだ。


「で、これが新作の自動販売魔道具か」


 ウチとは違って転移魔法陣は使えないからな。

 だからこの魔道具内に商品を補充しておく必要がある。


「デカいな。補充は裏からか?」


「うん。補充はマルセールでのみ行うようにするつもり。商品の数はウチにいても常に把握できるから補充もスムーズに行くと思う」


「そうか。販売商品はどうする?」


「それについてはメロさんやミーノさんたちがあそこで相談してるよ」


 外のテーブルにメロさん、ミーノ、オーウェンさん、シエンナさんがいる。

 列車内だけじゃなく駅で販売する商品のことも考えないといけないからな。

 当然ウチで作った料理やドリンクを販売するわけだから厨房組もさらに忙しくなる。


「転移魔法陣が使えないことがこんなに不便だとはな~」


「お姉ちゃんの前で言ったらダメだよ? ずっと悩んでるんだからね?」


「言うわけないだろ。それにもし転移魔法陣が自由に設定できるんならこの列車の意味自体なくなるんだぞ」


「……そうなったら世界中どこへでも一瞬で行けちゃうね」


 さすがにそんな世界は嫌だな。

 ダンジョン内でなんでも設定できるんならみんなそっちの世界に住んでしまいそうだ。

 ってウチではほぼそうなりつつあるけどさ……。


「やっぱり魔道ダンジョンでは転移魔法陣なんか使えないほうがいい。カトレアには入り口として設定できる転移魔法陣の研究だけしてもらおう」


「そうだね。そのくらいがちょうどいいよ」


「だな。じゃあ最後の車両へ行こうか」


 そして馬を乗せるための馬車両へ移動する。


「これが馬舎ってやつか?」


「うん! お馬さんにもリラックスしてほしいし!」


「馬車はレア袋の中に入れるんだな」


「だね!」


 行商人の人たちが利用してくれるかはわからない。

 移動にお金をかけたくない人も多いだろうからな。


 ただマルセール周辺の乗合馬車は廃止になるだろう。

 列車の運賃のほうが馬車よりも安いし、なにより早いんだからな。

 馬車が魔物に襲われる心配もない。


 でも乗合馬車の御者さんたちは職を失うことになるかもしれない。

 だからマルセールに家があり、マルセールを拠点にしてる人たちに限り、列車での移動を無料にするつもりだ。

 今後その人たちにはソボク村、ビール村、ボクチク村を発着拠点にしてもらうことになる。

 すんなり納得してもらえるかどうかはわからないが、そこはセバスさんに任せよう。


「車両は以上か?」


「メインの車両は以上だね! どうだった?」


「うん、手を加えるところが見つからないな」


「ホント!? やったぁ! モニカちゃんに言ってくる!」


 マリンは嬉しそうにモニカちゃんの元へと駆け出していった。


 メインの車両って言ったよな?

 まだほかにもあるのか?


 馬車両を降り、周りを見渡す。


 ……あれか?


 少し距離のあるところから見てもわかったが、近くに来ると今まで見てきた車両より明らかに小さい。

 小さいと言っても十二人分の座席はあるようだ。


「ロイス君、この車両は特急車両ですよ」


「……」


 いつの間にか横にカトレアがいた……。


「通常列車の運行時間が重量と魔力の関係で当初の予定より長くなりそうなので、急ぎの場合に限りこの車両を使います」


「急ぎ? 誰が使うんだ?」


「もちろんウチの関係者ですよ。路線も別にします」


「なるほど。3パーティ分の人数ってことか」


「はい。ほかに四人乗りと二人乗りの車両もあります」


「……作りすぎじゃないか?」


「そんなことありません。普段メロ君が頻繁に利用するかもしれませんし、緊急時には必要になるんです」


 これだけの車両を試作するのにいったいどれだけの魔力を使ったんだよ……。

 自分たちが作りたい物に関しては魔力を惜しまないところが錬金術師のおそろしいところだな。


 当初の予定ではマルセール⇔ソボク村間は二十分の予定だったのに、今は三十分かかりそうって言うじゃないか。

 それだけ魔力消費量が多いってことなんだろうけど、先行きが心配で仕方ない。

 トイレ車両をもう少し小型化したり、自動販売魔道具車両に至っては実装しないってのもありじゃないか?

 とにかく魔力の使い過ぎは危険だ。


「これから車両を増産するんだろ?」


「はい。運用までまだ数か月ありますから魔力は大丈夫ですよ」


「……数か月先ってことはそのときには地下五階も作らないといけないんだぞ?」


「…………なんとかなりますよ」


 うん、楽観主義。

 まぁ先のことなんて考えても仕方ないか。


「やることが多すぎるな。昨日話した冒険者用の施設の件も近々頼むからな」


「はい。魔道列車運行の前にこのダンジョン内でも魔力を効率よく利用できるように色々と見直す必要があるかもしれません」


「ドラシーもまた寝てるもんな。それだけダンジョンの魔力消費が激しいのか」


「それは私たちのせいかもしれませんが……。ロイス君もなにかいい案浮かんだらすぐに教えてくださいね」


 結局なにするにも魔力が重要なんだよな。

 昨日の魔力なしの冒険者たちの気持ちが痛いほどわかる。

 だから彼らのための施設を優先して考えてあげたい。

 でも今は眠いからランチ食べたらとりあえずお昼寝だな。


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