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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第九章 魔道計画
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第二百五話 魔力がない人たち

 日曜日はいつもと違ってどこもかしこもゆるい雰囲気だからいい。

 ランチ前のそんな冒険者たちの様子をブラブラ歩きながら眺めていたら、ダンジョン酒場で声をかけられた。

 腕を引っ張られ席に着かされる、ようなことはなかったが、とりあえず近くの大きいテーブルに案内された。


「……ん? 珍しい組み合わせですね。地下四階攻略のための戦略でも考えてるんですか?」


 みんな中級者パーティのメンバーだ。

 戦士、戦士、戦士、戦士、武闘家、レンジャー、戦士、戦士、武闘家。

 戦士率が高いな。

 いつもと違ってラフな服装だが、誰かをちゃんと判別できて良かった。

 って九人で集まって一体なんの話をしてるんだろう……。


「あのさ、魔導図書館ができただろ? だから魔道士たちは修行のために図書館に行くことが増えたし、部屋でも本を読んだりしてるんだ。ヒューゴやジョアンといった魔力持ちのレンジャー組だって魔法を覚えるために今日はもちろん平日の夜にも通ってるくらいだしさ」


 ヒューゴさんパーティの戦士であるヴィックさんがみんなを代表するかのように話を始めた。


 魔法を使える人たちが羨ましいって話なのかな。

 それとも本に興味がない者は暇だから別の施設を作れってことか?


「そうするとなんだか俺たちは怠けてるような気になってきてさ。だって俺たちがのんびりしてる間も修行してるんだぜ。このままじゃ差がついてしまうかもしれない……」


 そういうことか。

 取り残されないためにもっと自分たちも修行したいんだな。

 でもこの人たちの修行ってどんなことがしたいんだろう?


「魔法の修行は激しく動いたりはしないじゃないですか? だから平日の夜や休日でもできるんだと思いますが。みなさんの場合はそういうわけにはいきませんよね?」


「でも俺たちが魔道士に勝てることって身体能力的なことくらいだろうからな。さすがに体力や力、速さで負けるわけにはいかない。HPだって俺たちのほうが多いだろ?」


「……疲労で普段の生活に影響が出たりしませんか? パーティに迷惑をかけるおそれもありますし、収入が減るかもしれないんですよ?」


「それはやってみないとわからないとしか言いようがないけどさ。でも悩んでいてもどうしようもないし、みんなで相談して管理人さんにお願いしてみようということになったんだ」


 みんなの顔を見渡してみる。

 ……意志は固いようだな。


「今日みたいに魔物が出ないダンジョンでなにかできたりはしないんですか? 山を走って登るのだっていい修行になると思いますし」


「それはそうなんだけどさ…………できれば新しい施設を作ってもらえないかなって。楽しく修行できそうなやつをさ」


「……」


 まぁそうなるよな。

 ただ山道を走るだけなんて面白くないもんな。

 結局新しいことが楽しみなんだよなぁ~。

 俺だってそうだもん。

 図書館だって今はいいけどそのうち飽きられるだろうし。


「魔道士ばかりズルい」


「本は好きだけど同時に修行できるなんて正直羨ましい」


「体を鍛える新しい施設が欲しい」


「脳筋をお助けください」 


 本音が出始めたな……。

 自分で脳筋って言うのはどうかとも思うが。


「ティアリスちゃんがいつも管理人さんを独占してるから魔道士向けの図書館ができたのかも」


「おい! ティアリスが仲良くしてるからって別に贔屓してもらってるわけじゃないんだからな!」


「そうだ! それに兄としては管理人さんだけは認めてるんだ! ジョアンなら許してない!」


 話が逸れてるぞ……。


「ララちゃんとユウナちゃんが考えたんじゃないか?」


「図書館は妥当だと思うけどな。俺たちみたいなのはどこでも修行できるけど魔道士は本があるのとないのとでは効率が全然違うし、訓練個室の環境は魔道士にとって最高だと思う。エーテル飲み放題だし」


 冷静な意見じゃないか。

 彼はサイモンさんパーティ……そうか、このパーティは彼以外の三人が魔道士だから理解があるのか。


「みなさんお静かに。じゃないと話が進みませんよ?」


「「「「……」」」」


「まず図書館ができた経緯を説明します。元々はウチの錬金術師たちが勉強のために大量の本を必要としてたので、それならついでに冒険者向けの本も仕入れようということになったんです」


 本当は逆だけど別にいいだろう。

 ときには面倒事を避けるための嘘も必要になる。

 錬金術師って言葉が出てきたら誰もなにも言えないからな。


「もちろん今のみなさんのような状況が生まれることも懸念してました。だから俺とララは色々考えてはいたんです。例えばソロ専用のタワー型ダンジョンとかですね」


「「「「ソロ専用のタワー型ダンジョン!?」」」」


「「「「面白そう!」」」」


 俺だって最初はそう思ったさ。


「でもそれって今のダンジョンと構成が違うだけで結局やることは同じなんですよね。ララなんか一人で地下三階魔物急襲エリアに行ってるんですし」


「「「「……」」」」


 これを聞くと納得せざるを得ないよな。

 だから俺もこの件については考えることをやめたんだし。


「Pが付与されなくてもいいんでしたら日曜でも魔物急襲エリアを開放することは可能なんですが。もちろんドロップ品もありませんけど」


「う~ん」


「修行のためとはいえパーティじゃないとさすがにきついかも」


「平日夜や日曜に気軽にできる修行ってなんだろうなぁ」


「やっぱりなにか新鮮味が欲しいですよね」


「Pはいらないからさ、なにか身体を鍛えるような施設があるといいんだけど」


 具体的な案はないけどなにか新しい施設は欲しい。

 凄くわがままだよな……。

 でもこれを放置しておくと不満はどんどん溜まっていくんだろう。

 魔導図書館がなければなんとも思わなかったはずなのにな。


 みんなは俺を見てくる。

 さすがにそんなすぐにはなにも浮かばないって。

 せめてなにかヒントでもあればなぁ。


「……みなさんは身体能力面ではララより上ですか? もちろん素のララです」


「え……たぶん」


「持久力や足の速さでは負けてないはず」


「力も負けてるはずはない……と思う」


「ララちゃんどんどん成長してるからなぁ~」


「身体強化魔法使われると完敗だけど」


「ララちゃんは剣術が凄いんだよ」


「おまけにあの炎は反則だよな……」


 やはり魔力は正義!

 ってところに落ち着いてしまうな。


「じゃあ身体強化を使ったララにでも勝てそうなところはなにかあります? なんでもいいんで」


「「「「……」」」」


 誰もなにもないのかよ……。


 それほどまでに身体強化魔法は凄いのか。

 そこにユウナの補助魔法が乗っかるんだもんな。

 そりゃ二人でも強いわけだ。

 となるとやはり魔道士向けの施設を作って正解だったなってことになる。


「わふ(ねぇ、ちょっといい?)」


「ん? シルバか。どうした?」


「わふぅ(あの子、うるさいんだけど)」


「あの子? あぁ、シャ……あいつのことか」


 そういやシャルルをシルバの訓練部屋に案内したんだったな。


「わふふ(ずっと寒い寒いって言ってるんだよ。なら出ればって言ってもヤダとか言うしさ。寒いからって魔法の練習もしないで僕に抱きついてくるからゆっくり寝れないんだ)」


「そうか、悪かったな。さすがにそんな長い時間はいないと思うからしばらく我慢してくれ」


「わふぅ(わかったよ。リスたちもあそこで遊びたいらしいからもっと木とか増やしたほうがいいかも)」


「わかった。あとでカトレアを向かわせるから」


 苦情を言ってスッキリしたのか、シルバは満足気に颯爽と去っていった。

 最近あまりシルバにかまってやれてないからな。

 リスたちだけじゃなくシルバも楽しめるような木の配置を考えてみようか。


「大変そうだな……」


「魔物たちからも不満言われるんだ……」


「なんだか申し訳なくなってきた……」


「日曜日なのにすみません……」


 いや、みんなが申し訳なくなる必要は全くないんだけど……。


「普段はみなさんの邪魔したくないですし、日曜日くらいしか話をゆっくり聞く機会ないんですから気にしないでください。それよりみなさん、部屋では修行とかされてるんですか?」


「素振りとかはするかな」


「いや、部屋では回復に努めることにしてる」


「腕立て伏せや腹筋とかはするよ」


「俺は型をするくらいかな」


「筋トレとイメージトレーニングだな」


 普通だな。

 ララやユウナも部屋でなにかしてるんだろうか。


「わかりました。なにか考えてみますので期待せずに待っていてもらえますか」


 こんなこと言ったら余計期待させちゃうんだろうな……。

 リスたちの遊びのことも考えないといけないのに。

 ……いっそのこと魔物たちに考えさせてみようか。


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