第二百二話 駅設置場所検討
会議は無事に終了し、出席者のほとんどは大樹のダンジョンへ向かっていった。
きっとバイキングのことで頭がいっぱいで魔道ダンジョンのことなんか頭に入ってこないだろうな。
まぁ帰りも乗るんだし、そのときにゆっくり視察してもらえばいいか。
「やはりここしかないよな?」
「そうだね。町の中心にあったほうがお店や宿屋へのアクセスはいいからね」
「この町のシンボルとなる駅なんだから一番いい場所にないとな」
道具屋の店長さん、鍛冶屋のおじさん、宿屋のおじさんの三人はまず駅を設置する場所を決め、そのあとは駅の中に設置する施設の大体の場所を順番に決めていく。
その会話の内容をセバスさんがメモに取り、疑問点があればその場で質問し、即座に解決していく。
その様子を俺とカトレアとメロさんは持参してきたベンチに座って眺めている。
「なぁオーナー、俺って一応この駅の責任者になるんだよな?」
「うん」
「なのにあの三人が勝手に全部決めてしまうぜ……」
「それは仕方ないんじゃないかな。長く住んでる分、町に対する思いはあの人たちのほうが強いと思うし」
「そうだけどよぉ……。それなら責任者は俺じゃなくてもいいって気になってくるじゃねぇか……」
「メロ君、それは違いますよ。きっとみなさんはメロ君の負担を少しでも減らしてくれようとしてるんです。それにダンジョン内になら私が作ってあげられますからなにか希望があれば言ってください」
メロさんはカトレアに慰められている。
俺としては勝手に決めてくれたほうが楽でいいと思うんだけどな。
入り口だけ作ってあとはダンジョン内に色々施設を作る案もあったんだが、町としては駅という形をしっかり残したいらしい。
だからある程度広い場所が選ばれることになったようだ。
建築も当然町の予算でやってくれるようだし。
というより町の利益を上げるためにはそうするしかないんだろうけどな。
それより駅を本当にここに作るのか?
「この建物って冒険者ギルドだよな?」
「はい。元々古い建物ですし、この際一度取り壊すのもありかと」
「ギルドはどうなるんだ?」
「しばらくは役場内の場所を提供すると言ってました。駅ができてからのことはまさに今話し合ってるんだと思います」
「……ギルドはそのこと知ってるのか?」
「いえ。でも利用者はほぼいませんし、駅構内もしくは隣接した場所に新しい建物を建ててもらえるんですから文句は出ないだろうとセバスさんが言ってました」
急に立ち退きを命じられるわけか。
まぁ自分の建物ではないし、なんとも思わないのかもしれない。
結局俺は今の冒険者ギルドに一度も足を踏み入れることはなかったな。
「冒険者ギルドまで絡んでくるのか……。さすがに面倒事が増えそうだぜ……」
珍しく自信がなさげだな。
「メロさんにはマルセール駅の責任者というよりも、駅を含めた魔道列車全体の責任者という立場になってもらいたいからさ。町側や村側の駅に関しては相談役みたいな感じでいいんじゃない?」
「え? そうなのか? 俺が全体の責任者……できるかな……」
一人で全てをやるわけじゃないんだから気楽に考えてくれていいのに。
「魔道列車って名前いいですよね。なんだかカッコいいです」
「だろ? 昨日ララと考えたんだ」
もちろんララの案だけどな。
俺はララが出した多くの候補の中から選んだだけだ。
「なぁ、じゃあ俺はマルセールでの勤務になるのか?」
「ん? いや、メロさんは今まで通り大樹のダンジョンで色々やっててくれればそれでいいけど? パーティ酒場の仕事もしてほしいし」
「え? なら魔道列車の責任者ってなにするんだ?」
「列車が無事に運行してるかとか、ダンジョン内でお客のトラブルがないかとか、商品管理とかじゃないかな? もちろん運賃の管理や町や村との交渉や相談も仕事になる。でもダンジョン外の駅でのことには口は出しにくいか」
「…………尚更俺はマルセールを拠点にしたほうがいいんじゃないか?」
「え? 大樹のダンジョンで監視してたほうが楽だと思うんだけど? 駅や列車の様子はどこにいても見れるんだし。なにかあったらウサギが俺に教えてくれるだろうしさ。出向くのはそれからでも遅くないんじゃないかな? 駅にも列車にもウサギがいるんだし」
「……それもそうだな。ならダンジョン内とダンジョン外でハッキリと役割を分けたほうが良くないか? 俺はダンジョン内の管理と、外との調整役に徹するからさ」
「う~ん。やっぱりそのほうがいいかなぁ? 町のお金も絡んでくると面倒なのは事実なんだけど、マルセール駅の責任者はぜひウチから出してくれってセバスさんが言うからさ」
魔道列車の運営はもちろんウチが行う。
発着点となる駅になにを作ろうがウチの自由だ。
ただし、それは全部ダンジョン内のことに限られる。
それにも関わらず町の管理となる駅にもウチから責任者を出すというのは少し矛盾してる気もする。
セバスさん的にはダンジョンの中も外もウチが管理してるという安心感が大事なんだそうだが。
町側が駅内になにも店を作ったりしなければなにも問題ないんだけどな。
「ロイス君、メロ君の言うように外のことはそれぞれの住民の方にお任せしましょう。大樹のダンジョンばかり利益を得ていると誤解されかねません」
「ん、カトレアが言うんならそうしよう。駅の従業員までウチが雇うことになっても大変だしな」
「はい。あくまでウチの本業はダンジョン経営ですからね」
果たして魔道列車をダンジョン経営と言ってもいいものなんだろうか……。
まぁダンジョンには違いないからギリセーフか。
「セバスさん、少しお話が」
それからセバスさんに今の話をした。
「さようでございますか……。全ての駅をみなさんが一括管理してくれると助かるんですが……さすがに甘えすぎたのかもしれませんね」
「いえ、それだとせっかく駅ができたのに町や村のみなさんも他人事になりそうですしね。それにウチが管理するとそれぞれの駅の特色が出にくいですし。駅を経営するための人出がいなかったり手間だと思ったりするのであれば別になにもしなくてもいいわけですから。最低限の設備はダンジョン内に用意しますし。ウチは基本ウサギたちだけに任せるつもりですから、駅内で販売する物も自動販売魔道具のみでの販売になると思います」
「わかりました。確かにロイス様のおっしゃる通りです。魔道列車自体は入り口さえあれば機能いたしますからね」
セバスさんはがっかりしたようだがなんとか納得してくれた。
ほかの村の人たちもがっかりするんだろうか。
むしろ自由に駅が作れて嬉しいと思うんだけどな。
今だっておじさん三人は楽しそうに色々話し合ってるじゃないか。
「やぁ、ロイス君にカトレアちゃん。なにやら駅ってものを作るんだって?」
「よぉ、兄ちゃん! メロなんかを大役に抜擢して大丈夫なのか!?」
肉屋のおじさんと八百屋のおじさんまで来た。
なんでメロさんが責任者になったことまでもう知ってるんだよ?
……近くにスパイがいたんだろうな。
「親父! わざわざ来なくていいんだよ!」
「いいじゃねぇか! ここが町の玄関口になるわけだろ!? そんな楽しそうな話に興味がないわけないだろ!」
「そうだよメロ君。あのトロッコが隣村まで開通すると聞いたらなんだかわくわくしてきてね」
その気持ちは凄くわかる。
ただ実際の作業のことを考えると憂鬱で仕方ないが。
おじさん二人はセバスさんに挨拶すると、三人に交じっていっしょに駅の構想を考え始めた。
そこにメロさんも加わったようだ。
「……みなさん楽しそうですね。私は町の発展に気を取られて町の人たちのことをなにも考えてなかったのかもしれません」
「そんなことないですよ。マルセールみたいに小さな町だからこその反応だと思いますし。これを王都でやろうとしたら意見がぶつかり合って大変なことになるんじゃないですか」
「そうですよ。セバスさんがいなければここまで早く話が進展することもなかったわけですし。自信を持ってください」
「町の発展は後から勝手に付いてきますよ。せっかく縁あってこの町に住むことになったんですからセバスさんももっと楽しんでください」
「ジェマちゃんは年が近いお友達が増えて楽しいって言ってましたよ。セバスさんもたまには息抜きしてくださいね」
なぜか俺とカトレアでセバスさんを励ます形になってしまった。
そもそも町運営なんて執事の仕事じゃないから仕方ないと思うけどな。
「ありがとうございます。でも私もメアリーも今のほうが充実してると感じてるんですから安心してください。シャルロット様とジェマはみなさまとごいっしょならなにも心配いりませんしね」
セバスさんは微笑んではいるものの少し寂しそうにも見える。
本当はジェマといっしょに暮らしたいのかもしれない。
もしかするとシャルルとも。
「それはそうと魔道列車への魔力供給の件なのですが、町や村からはおいくら支払えばよろしいでしょうか? 具体的な魔石の量などがわかればありがたいんですけれども……」
「それが悩みどころなんですよねぇ~。まずは列車の運行頻度を決めないと。運賃の取り分とかも決めないといけないですよね? 税金とかもあるんでしたっけ? 正直面倒なんですよね……」
「……ロイス様、町の利益を考えるあまりダンジョン側に不利益をもたらすような決断はおやめくださいね? 町の方が増々心配なされますので……」
なんでみんなすぐ心配するんだろうな。
いまだに入場料の50Gしか取ってないとでも思ってるのだろうか。
ダンジョンも料理も宿屋も原価なんてほぼゼロなのに。
俺はやっかみを受けるおそれのほうが心配だよ。
「ロイス君やララちゃんは最近この町でお買い物をしましたか?」
「ここで? う~ん、あまり来なくなったこともあるが、数か月はなにも買ってないな。というか受付で入場料をもらうときくらいしかお金を見てない気がする。ララも似たようなもんなはずだ」
「だからですよ。町のみなさんはロイス君たちが得たダンジョン収入の多くを冒険者たちに還元してると思ってるんです。それに素材屋に魔石を売らなくなってダンジョンで買い取ってることだって知ってるはずですから、ダンジョン運営のためによほどお金を使ってると思ってしまうんですよ。従業員の給料も相変わらずいいですしね。それこそロイス君やララちゃんがダンジョンのためだけに毎日を過ごしてると思ってしまうのかもしれません」
「……セバスさんもそのように思ってるんですか?」
「……おおよそはそのような感じですね。普通年頃の子は町で買い物や食事をしたがりますから。それに冒険者は装備品を買うためにお金を貯めるという目的がありますが、ロイス様からは欲というものが感じられませんもので……」
俺なんて欲の塊だよ?
ダンジョン経営だって生活のためだし。
受付にのんびり座ってるだけでお金が入ってくるんだぞ?
この仕事に慣れたらほかの仕事なんてできっこない。
それこそ魔物使いなんて人工ダンジョンでしか役に立たないだろうし。
いつダンジョンに人が来なくなるかもわからないからお金だって少しずつ貯めてるし。
魔道列車だって利益を見込んでるからこそわざわざ一般公開するんだし。
ダンジョンのためというかこれがウチの家業みたいなものだから俺もララも普通としか思ってないよな。
むしろ爺ちゃんやご先祖様に感謝しなきゃいけないと思うぞ。
「セバスさん、美味しい物を好きなだけ食べられて、寝たいときに自由に寝られたら最高だと思いませんか? ロイス君はそんな生活を目標に毎日過ごしてるんです」
「なるほど。ダンジョン管理人であればそれが可能ということでございますね。先ほどの発言は撤回いたしましょう。ロイス様は欲深いお人だ」
俺はなにも言ってないのに勝手に納得するのはやめてくれよ……。
でもカトレアの言葉が正確すぎてなにも反論できない……。