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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第一章 管理人のお仕事
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第二十話 新フィールド

「もう一度言いますが、必ず指輪は装備してください! 指輪を装備してなくて死んじゃっても責任はとれないですからね! あと、地下二階に行かれるなら解毒ポーションを持って行ってくださいね! 舐めてると死にますよ!」


「わふふっ! (指輪はしとけよ!)」


 先週と同じく、ララとシルバが入場前の冒険者たちに大声で注意事項を何度も叫んでいた。


「では九時になりましたので開けます! お気をつけて!」


「わふぅー! (死ぬなよ!)」


 なだれ込むようにダンジョンへ入っていく冒険者たち。

 俺は相変わらず受付業務だ。


「……以上になりますがご質問はございますか?」


「いえ! それにしても以前来たときと活気が全然違うね! 前はこんなに人もいなかったし、その小屋もなかったし、なによりこのセーフティリングシステム? よくこんなの思いついたもんだね。採集袋もどういった仕組みかはわからないけど凄いね。中が楽しみだ!」 


「ありがとうございます。お気をつけていってらっしゃいませ」


 定型文もそれなりにまとまりつつあったので、最初の組以外はすんなりと受付が進んでいた。

 しかし、それでもまだ列は途切れない。

 それは一組ずつ説明を行っているからでもあるが、明らかにいつもより人が多いからでもあった。


 まずセーフティリングシステムについて理解してもらうため、今日からしばらくの間は時間をかけてでもしっかり説明をする必要があると考えていた。

 でも明日からも並ぶようだと、説明済みの人とそれ以外の人で分けたほうがいいのかもしれないな。



 十時をちょっと過ぎたころ、ようやく人がいなくなり静かな時間が訪れた。

 

「ララ、中の様子はどうだ?」


「もうけっこう地下二階に行ってるよ! さすがにみんな最短ルートを把握してるみたいね」


「そうか。フィールドの反響はどんな感じだ?」


「ふふっ、みんな驚いてくれてたよ!」


 そう、地下二階はフィールドを変更したのだ。


 今までは地下一階と同じ洞窟フィールドだった。

 それが今日からは草原フィールドになっているのだ。


 足元はきれいに短めに刈り揃えられた芝生、ところどころに大小の木や草むらがあり、そこには薬草や毒消し草などが設置されている。

 空は青空であり、ダンジョンの中にいる感じはまるでしないだろう。

 実際には高さ二十メートルほどしかなく、魔力で天井を青空に見せかけているだけだ。

 そして風を吹かせることで、草木が揺れ、本物の草原にいるように感じるはずだ。


 この草原のど真ん中に休憩エリアを設置。

 そこには一本の大きな木がある。

 木の前と後ろにはベンチとテーブル、木の横にはトイレを設置。

 大樹の水は、トイレの場所とは逆側に木の上から木で作った道を流れてくるように設置。


 青空、木陰、芝生、心地よい風、この休憩エリアで休んでいるとウトウトしてくること間違いなしだ!


「魔物急襲エリアは?」


「さすがにまだかかるね。休憩エリアにすら誰も行ってないもの」


「薬草集めしてるのかな?」


「うん、まずは採集を終わらしてからなのかもね」


「ポイズンスライムは?」


「それもまだ誰も出会ってないよ。で、結局今のところ何人来てるの?」


「四十人だな」


「そんなに!?」


「あぁ、ほとんどが先週も来てたから説明が楽で助かった。新規も十人くらいは来てるな」


「ソロは?」


「十五人くらいかな」


 それにしてももうすぐ十時半だけど、まだ誰も休憩エリアに辿りついてないとは思わなかったな。

 昨日ララが入ったときには一時間もかからずに行けたと言ってたんだけどな。

 まぁ道を知ってるから当たり前か。


 それにしても喉乾いたなー、炭酸飲みたい。

 約二時間喋りっぱなしというのも疲れるものだ。

 こないだドラシーに魔力で作った飲み物を俺たちが飲んでも平気かどうかを聞いたらやめたほうがいいと言われた。


「そういやドラシーは?」


「さすがに昨日の作業が疲れたらしくまだ寝てるよ。もう監視は必要ないからね」


 ここ数日は指輪作成、地下二階改修、小屋の拡張など魔力を消費する作業が続いてたから仕方ないよな。

 こんな調子で地下三階を一週間後に追加しようとしてたのは無謀だったのかもしれない。

 地下三階の案についてはまだなんにも考えておらず全くの白紙状態だ。


 受付自体は午前中が忙しいだけなのだが、午後はダンジョンから帰ってきた冒険者たちが小屋で帰り支度をするため、管理人という立場上ここにいないわけにもいかず、ぼーっとはしてるが一応座り続けることにしている。

 そのぼーっとしてる間に考えろって?

 それは無理だ。

 俺にそんな発想力はないし、なにより面倒だからな。

 ベースはララに任せることにしている。


 というかそもそも子供二人で経営ってちょっと大変じゃないか?

 俺はただのんびり暮らしたいだけなのに。

 だがのんびり暮らそうにもお金はかかる。

 そうなると稼がないといけない。

 結局忙しい生活を送ることになる。


 うん、今が一番幸せだ。

 そう思い込むしかないな。


「あの」


「わっ!!」


 ……心臓が飛び出るかと思った。

 部屋にいるララのほうを向いていたので、外にお客が来たことに気付かなかった。


「あっ、失礼しました! いらっしゃ……」


「……おはようございます」


 顔を見た瞬間、言葉が詰まってしまった。


「あ……いらっしゃいませ。あの……」


「……一人分お願いします」


「あ、はい……あっ、すみません今日から少しシステムが変わりまして」


「……はい、説明ですよね……お願いします」


「え、は、はい。では……」


 頭の中が真っ白になってなにも言葉が出てこない。

 変な汗も掻いてるようだ。


 そんな俺の様子を不審に思ったのかララが管理人室に入ってきた。


「(お兄? どうしたの? 大丈夫!?)」


 小声で声をかけてくる。

 そしてララも相手を確認したようだ。


「あっ! また来てくれたんですね! 良かった! もう来ないかと思ってました!」


「「!?」」


 俺と窓越しのお客……緑髪の少女は、昨日のことを思い出し顔をしかめる。

 しかしララは笑顔だ。

 そうか、ララは単純に今日からは袋が一つしか持てないからもう来てくれないと思ってたんだ。

 でもおそらくこの少女からしたら、俺が昨日のことをララに話して、その流れで「もう来ないかと思ってた」と言われたと思うよな。

 正直、弁明するのも面倒だ。

 あとはララに任せよう。


「ララ、悪いが説明任せてもいいか?」


「え? いいけど。どうかした? お兄?」


 俺は管理人室を出て部屋との間のドアを閉めた。

 そしてソファに深く腰掛け、水晶玉を見つめる。


 昨日のことだが、決して彼女が俺になにかしたわけではない。

 町で偶然出会って少し話をすることになり、サイダーを奢ってもらったんだ。

 だけど、彼女がこのダンジョンにある薬草や水のことを執拗に聞きたがった。

 そのときは薬師だなんて思ってなかったから変な人だとしか思っていなかったが、俺が帰ろうとすると自分もついていくという。

 断ったものの引き下がらず、今度は毒消し草がなんとかと言いだした。

 彼女の目的がなにかわからなかった俺は少し強い言葉を発してしまった。

 少しだよ?

 本当に少しだけ声のトーンを上げただけ。

 その後だ、彼女が目を潤ませたのは。


 それを見た瞬間、俺は自分の行動に対し後悔の念にかられ、どうすればよいのかわからなくなって、気付いたら家に帰ってきていた。

 そういえば腕が筋肉痛だったのを今思い出した。


 話した内容がどうとかではなく、あんな目を見てしまったらいくら仕事といえど彼女とどう接したらいいかわからない。

 はぁ、こんな気持ちになるのは初めてかもしれない。


 ようやく水晶玉に映っているダンジョン内部の様子が目に入ってきた。

 あっ、休憩エリアに人がいるな。

 

 管理人室のドアが開きララが部屋に入ってきた。


「お兄、私も中行ってくるね」


「そういえばそうだったな。休憩エリアまで飛ぶのか?」


「ドラシー起こすのも悪いし、入り口から行くよ」


「そうか。指輪はしていけよ」


「うん。ポーションと解毒ポーションも少し持ってくからね! 外ピピがいるからお兄はもう少しゆっくりしてていいよ!」


「了解。気をつけてな」


 ララは家を出ると走ってダンジョンへ向かっていったようだ。


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