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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第九章 魔道計画
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第百九十九話 魔道計画始動

 午後、会議スペースに今日いる全従業員が集合した。

 人数がだいぶ増えたこともあり、この会議スペースや隣の休憩スペースも少しだけ広くしたんだ。


 ハナとシンディは休みでマルセールにいるからまた後日に説明しようか。

 ネッドさんとシエンナさんは休みだったが快く参加してくれた。

 休みの日はウチの馬車を使ってビール村へ帰省してもいいと言ってあるんだが、まだ一度も帰っていないようだ。

 メタリンやウェルダンが忙しそうにしてるから言いづらいのかもしれない。

 だけど今後はその心配もなくなるだろう。

 逆にビール村から二人に会いに来たりするかもな。


「早く始めなさいよ。ダンジョンに入れる時間が少なくなるでしょ」


 この空気の中よく口を開けたな……。

 この前会議があったのが魔工ダンジョン出現のときだからか、みんな緊張した様子に見える。


「シャルル、質問はあとで受け付けるから」


「わかったわよ。ジェマ、よく聞いてなさいよ」


「はい、シャルル様」


 シャルルとジェマは従業員側というよりマルセール側としての出席と言ったほうがいいのだろうか。


「じゃあ始める。今回は深刻な内容じゃないからリラックスして聞いてくれて大丈夫だから」


「な~んだ」


「ふぅ~、緊張して損したな」


 やはり良くない話だと思っていたようだ。

 緊急じゃなくて午前中のうちに午後から会議というのを予告しておいたんだから察してほしいところではあるが、緊張感は大事だからな。


「実は昨日、マリンとモニカちゃんとスピカさんは王都パルドの錬金術師ギルドに行ってきたんだ。そして新たな技術の販売権利を取得することに成功した。販売権利とは、この大陸で使える魔道具の独占使用権利みたいなものと考えてもらっていい。今回権利を得たのは売るための魔道具とかじゃなくて、トロッコのレールとして使用してる魔力プレートの技術だ」


 みんな俺と同じでそういうことには疎いからな。

 まだ子供も多いからわかりやすく丁寧に説明しないと。


「つまり、今回取得した販売権利によってトロッコをマルセールから隣村へ公に走らせることも可能になったわけだ」


「「「「おおっ!?」」」」


「「「「凄い!」」」」


「ただそのためには町や村の許可や協力が必要になる。まずはマルセールに声をかけてみるが、別に許可がおりなかったとしても勝手にレールを延伸するから問題ない。そのときは俺たちダンジョン関係者だけでこっそり利用することになるけどな」


「「「「え……」」」」


「問題あるでしょ……」


「トロッコが走ってたらさすがにバレるって……」


「町の外だとしてもなにか言われそうだよ……」


 まぁ普通はそう思うよな。

 面倒なことが多そうだから俺だって最初は乗り気じゃなかったわけだし。


「この水晶玉を見てくれ。これはサウスモナ周辺に出現した魔工ダンジョンのダンジョンコアだ。ヤマさんを救出した一件のときにこの水晶玉の管理権限を俺が乗っ取ることに成功したのはみんなも知っての通りだ」


 ヤマさんは恥ずかしそうに顔を伏せる。

 まだあれから三週間も経ってないからつい最近のことなんだが、なぜかだいぶ前のことのようにも思える。

 それだけこの短期間に様々な出来事があったということなのかもな。


「そしてこの水晶玉を使ってカトレアたちが色々試行錯誤した結果、ドラシーが管理している大樹のダンジョンの地上エリアを拡張することに成功したんだ」


「「「「……」」」」


 少しわかりづらいか。

 拡張と言っても今のところ条件がかなり限定されてるけどな。

 それは今後のカトレアたちの課題にしてもらおう。


「この水晶玉は大樹のダンジョンのダンジョンコアであるドラシーの補助的存在と考えてくれ。拡張された地上エリアというのはずばりマルセールまで埋めた魔力プレート付近だ。つまり元々のドラシーの管理エリアである大樹付近と、魔力プレートで繋がってる場所までをドラシーの管理下に置くことができるというわけだ」


「「「「おおっ!?」」」」


「「「「……」」」」


 ミーノやメロさんたちはなんとなくわかってくれたようだ。

 先月から来た人たちにはまだ難しいかもしれない。

 というかまだドラシーに会ったことのない人も何人かいるな……。


「だが管理下と言ってもドラシーは見ることができるだけで、直接水晶玉の設定などを操作することはできない。だからドラシーの魔力で作った大樹のダンジョンとは別物と考えてほしい。そして今この中にはダンジョンが作ってある。ここからマルセールまでの道を再現したなんの変哲もない一本道で、一階層だけのダンジョンだ。ただこの水晶玉には少し制約があって、転移魔法陣は一つしか作ることができない」


「「「「え……」」」」


「「「「……」」」」


 これは凄く重要なことだ。

 魔王にとって外との転移魔法陣は入り口分だけで良かったんだろうな。

 でも俺たちからしたらせっかくダンジョンに入ってもまた同じ場所からしか出てこられないのは不便で困る。


「だけどもう一つ水晶玉を使うことで転移魔法陣の数を二つに増やせることが判明した。今ウチの前にはこのサウスモナの水晶玉で作った入り口となる転移魔法陣があり、マルセールの町の外にはもう一つの水晶玉で作った出口となる転移魔法陣がある。もちろんどちらも入り口であって出口だ」


「……転移魔法陣での瞬間移動は無理だけど、ダンジョン内を移動してマルセールまで行けるってことよね?」


「それって凄くねぇか? 魔力が届く範囲がどのくらいかわからないがこの前みたいにわざわざトロッコの大きさに合わせたレールプレートじゃなくてもいいってことだよな? それならオーナーが町の許可なんかいらないって言った意味が理解できるぜ……」


 さすがミーノとメロさんだ。

 二人の発言によってほかの従業員もなんとなく理解してくれたようだ。


「さっきも言ったようにダンジョン自体はただの一階層だけのものだから距離的にはなにも問題はない。当然ここもエリア内だから水晶玉がここにあっても大丈夫だ。転移魔法陣の使用についてはオンオフの設定ができる。もちろん魔力プレートだけは実際に設置する必要があるけどな。別に埋めなくてもいいんだが、埋めたほうがバレないだろうし」


 面倒だがそれは仕方ない。

 魔力プレートの改良があったらまた設置し直すことになりそうだけど。


「ではここでダンジョンの入り口をお披露目しよう」


 カトレアがレア袋から魔力プレートを出した。


「入り口と言っても単純に魔力プレートの上にドラシーが転移魔法陣を作っただけだ。ここで水晶玉と紐付け設定しておくことでドラシーの管理下においてはどこでもこの転移魔法陣が有効なことが実証されてる。ただこのプレートは踏まれることになるからたまにメンテナンスが必要になるかもな」


 もしかしてこのことも考えて最新のプレートは外側をミスリルだけにしたのか?

 錬金術師って配慮も凄いんだな。


「そして今ウチには魔工ダンジョン討伐によって得た水晶玉が五つある。マルセール南東に最初に出現した物に、ボワール、リーヌ、サウスモナの物、それとこの間のマルセール東のDランクの物だ。そのうち既に一つは映像編集用として使ってるから転移魔法陣には使えそうにはない」


 だから設置できる転移魔法陣はあと四つということだ。


「残りの四つの水晶玉で一つのダンジョンを形成する。連結させるイメージらしいから、どの水晶玉でも同じ操作が可能みたいだ」


「……でもドラシーさんは操作できないんでしょ? どうやってダンジョンを作ったの?」


 ミーノは疑問に思ったようだ。

 よくそこに気がついたな。


「カトレアが作った」


「「「「えぇっ!?」」」」


 みんな驚いてるぞ。

 まぁ当然か。


「魔力プレート付近の道はドラシーさんの力によって見ることができますから意外に簡単なんですよ。その道を見ながらいつもの錬金と同じようにイメージして具現化していくだけでした」


「「「「……」」」」


 みんなは錬金術師ではないが、それが簡単ではないことくらいわかるのだろう。


「あの……質問いいですか?」


 リョウカがそっと手をあげた。


「いいぞ」


「ダンジョン内にわざわざマルセールまでの道を再現する必要があるんですか? 例えばダンジョン内にある転移魔法陣同士はすぐ近くにあってもいいんじゃないですか?」


「非常にいい質問だ。結論から言うと、それはできない」


 今回のダンジョンはただの道としてのダンジョン。

 今までのダンジョンとは根本的に仕組みが違うんだ。

 魔力プレートの上に透明な道を作ったと言えばいいのだろうか。

 いや、地上に影響は全くないんだから地下にダンジョンができたイメージで考えたほうがいいかもしれない。


 リョウカの言うように、ダンジョン内では大樹付近の入り口とマルセール付近の入り口をすぐ隣に作って転移できれば非常に楽でいい。

 だが今回のダンジョンでは地上とダンジョン内の位置座標はリンクしているため、それの実現は今のところ不可能だな。


 とは言っても実は入り口とは別にダンジョン内だけで使用できる転移魔法陣を作ることは可能なんだ。

 魔王が作った魔工ダンジョンだって階層と階層間は転移魔法陣で移動してたわけだし。

 でもこれには少し問題があって、その転移魔法陣は別の階層とを繋ぐだけの設定しかできないらしい。

 だからそれも今回の場合においては距離を短縮するような使い方には利用できない。


「てな感じなんだけど、伝わったか? とにかく地上とダンジョン内の位置は一致してるってことが重要だな。それに複数の水晶玉、魔力プレート、そしてドラシーという三つの条件が揃ってこそできることなんだ。もちろんこれを具現化できるカトレアの存在も必須だけどさ」


「……まるで世界がもう一つできたみたいだね」


「おっ? その表現いいな。実際にそれに近いのかもな」


 魔力プレートの影響範囲が広がればダンジョン内もこの世界と同じ大きさにできるはずだ。

 水晶玉にそこまでの力があるかはわからないけどな。


「というわけで近々少しずつではあるが魔力プレートを埋めていくことになると思う。歩いての作業になるからどれだけ時間がかかるかはわからない。俺や魔物たちも家にいないことが多くなるかもしれないからそのつもりでいてくれ」


 さすがに疲れるだろうから毎日はやらない。

 ソボク村、ビール村、ボクチク村までとなると数か月かかるかもな。

 この前みたいにレールの幅ほど掘らなくていいのがせめてもの救いか。


「シャルル、マルセールとしての対応はどうする?」


「……」


「シャルル? どうした?」


「ロイス様、どうやらあまりに非現実的な内容に頭がパンクしてしまったようです……」


「そうか。まぁここに来たのは一昨日だから仕方ない。で、ジェマはどう考えてるんだ?」


「父と母に相談してからになりますが、町としては動かない理由はないかと。マルセールにとってかなりのビジネスチャンスですので」


「だよな。じゃあ明日でいいからセバスさんとメアリーさんと話し合ってみてくれ」


「わかりました」


 マルセールの町長がこちら側っていうのも楽でいいな。


「あ、みんな、今後はこの計画を魔道計画って呼ぶことにするから。超極秘事項だから絶対秘密だぞ? 変な業者とかが絡んできたら面倒だからな」


「お兄、こんな計画秘密にできるわけないでしょ……」


 魔道計画、いよいよスタートだ。


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