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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第八章 犠牲と勝利
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第百八十八話 手紙

 管理人さん、そして大樹のダンジョンのみなさんへ


 あれからアタイたちはアラナの実家があるリーヌの町にやってきた。

 サウスモナ経由で途中一時間休憩して六時間の旅だったよ。

 相変わらずメタリン馬車はとんでもないな。

 ピピはずっとアタイかブレンダの近くにいてくれたよ。

 なぜかジェイクのことはあまり好きじゃないようだった……。


 リーヌに着いてからすぐにアラナの実家に向かったよ。

 一度行ったことがあるだけだったけど案外覚えてるもんだな。


 家族の人たちもアタイらのことを覚えててくれたんだ。

 もちろんみんなはアラナが帰ってきたと思って喜んでたさ。

 それだけに凄くツラかったよ……。

 でもすぐになにかおかしいということに気付いたようだったんだ。

 アタイたちの表情の暗さとアラナがいないってことはそういうことだからな。


 そしてアタイの口からアラナが魔工ダンジョンで亡くなったことを告げたんだ。

 そのあとの家族の反応は察してほしい。


 落ち着いてくれるのを待って、レア袋から棺を出した。

 もちろん驚いてたさ。

 アタイたちの荷物を見て、遺体はないもんだと思ってたはずだからな。


 それからまた悲しい時間が続いたよ……。

 でも泣いてる両親とは違い、妹はアラナの最期の話を聞きたがったよ。

 だから丁寧に説明したさ。

 魔工ダンジョンに入ることになった経緯、そして最期になった戦闘のことまでな。

 どれだけ危険だったのかを説明するためにベンジーさんのことも話したよ。


 妹は納得してくれたようだったが、両親はアラナだけが亡くなったことが不満のようだった。

 冒険者という職業だからこうなることも覚悟していたとはいえ、まさか本当に自分の娘が死ぬとは思ってなかっただろうからさ。


 きっとアタイたちの力不足のせいでアラナを助けられなかったんだと思われたんだろう。

 でも実際その通りだからなにも言えなかったけどさ。

 アタイらもどんな酷い言葉を言われようが全て受けとめるつもりで訪ねてたし。


 でも妹は魔工ダンジョンについて色々知ってるみたいだったんだ。

 まだ十四歳だがアラナと同じように冒険者になりたいらしくてさ。


 そして妹が両親にリーヌ周辺に出現した魔工ダンジョンの説明を始めたんだ。

 驚いたことにまだ討伐されてなかったんだよ……。

 三月末に出現したって言ってたからおそらく王都やボワールと同じ時期のやつだろう。


 管理人さんの予想通り、魔瘴の拡がりは最近とまったそうだ。

 でもかなり酷いことになってると聞いた。

 さらになんと毎日二百人以上の冒険者が入っているらしい。

 初期の王都と同じだな。

 危機感が全くないパターンで、冒険者ギルドも全く機能してないんだろう。

 仮にもここはこの大陸で二番目に大きい町なのにな。


 ギルドや冒険者がそんなんだから両親も危機感がなくて当然だ。

 それだけいっぱいいる初級者が死んでないのに、なんで中級者のアラナが死んだのかって聞かれたよ。


 アタイらは必死に説明したさ。

 リーヌに出てる魔工ダンジョンは初級レベルで、マルセールに出現した魔工ダンジョンは中級レベルだとな。

 でもいくら魔工ダンジョンが中級レベルだったって言っても冒険者じゃない人にわかるわけないからな。


 それにアタイらが討伐を目指してダンジョンに入ったって言っても、討伐できずに死んだんじゃまだ生きてるここの初級者たちのほうがマシじゃないかって言われたよ。


 それを言われた瞬間、管理人さんの言葉を思い出した。

 死んだら終わりだもんな。

 あのとき、グリーンドラゴンに向かっていくアラナをとめてたらと何度も考えてしまうよ。

 相手の力量を見誤った結果がこれだからな。

 大樹のダンジョンの名を汚すことにもなってしまったし。

 きっとベンジーさんも同じように思ってたはずだ。


 ブレンダとジェイクもアタイと同じように思ったのか、二人は泣き出してしまったよ。

 これには両親も焦ってた様子だった。


 でもアタイはアラナが中途半端な覚悟で魔工ダンジョンに入ったと思ってほしくなかったんだ。

 だってそれじゃあアラナが浮かばれないだろ?

 アタイらだってお金は大事だが、それ以上に大事にしたいものがあるってこともわかってほしかった。


 だから決めたんだ。

 すぐにリーヌ周辺の魔工ダンジョンに行こうと。

 もちろん討伐にだ。


 両親はとめてきたよ。

 討伐に行く危険さだけはなんとなくわかってくれたみたいだからな。

 妹もアタイらが三人だけで討伐できるとはまるで思ってないようだったし。


 でもハッキリ言って今更ベビードラゴンが何匹いようとやられる気なんか全くしなくなってたんだ。

 グリーンドラゴンやレッドドラゴン、マグマドラゴンを見たあとじゃ本当ただのベビーにしか思えないからな。


 外は暗くなってたが、ダンジョンに向かうために町の外へ出たよ。

 でもそこで思わぬ出会いがあったんだ。


 なんとピピとメタリンがまだ町の外にいたんだ。

 メタリンが疲れてたから休憩してたんだと思う。


 そしてアタイが魔工ダンジョンの話をしたら、ピピがレア袋から馬車を出してくれたんだ。

 いっしょに行ってくれるんだと思うと凄く心強かった。


 ダンジョンに入ると今度はミスリル馬車を出してくれたんだ。

 そこからはもう一瞬だな。

 第一階層から第五階層まで三十分ほどで行くことができた。

 第五階層からは馬車をしまい、歩いて第七階層まで到達したよ。


 思った通り、ベビードラゴンはもう相手にすらならなかった。

 そんなこと言ってると管理人さんに怒られそうだけどな。

 決して甘く見てるわけじゃないから安心してくれ。

 気持ちが高ぶってたからか色々と研ぎ澄まされてたんだ。


 結局二時間程度で外に出ることができたよ。

 夜で人も少なかったからたぶん誰も中には残ってないはずだ。

 ピピとメタリンにも確認してもらったから大丈夫だと思う。


 そしてすぐ町へ戻り、アラナの家へ行った。

 するとなぜか今度は凄く温かく迎え入れてくれたんだ。

 きっと妹が色々言ってくれたんだと思う。

 ご飯を作ってくれようとまでしたんだが、さすがに夜遅かったから遠慮した。

 代わりに大樹のダンジョンの食事を提供させてもらったよ。

 特にアラナの最近のお気に入りだったサババの味噌煮をお母さんが嬉しそうに、寂しそうに食べてたのが印象的だった。


 それからダンジョンを討伐してきたことを報告したんだ。

 凄く驚いてたよ。

 まさかこんな短時間で討伐してきたなんて思ってなかったみたいでさ。

 てっきり諦めて帰ってきたとばかり思われたんだとさ。


 結局その日は家に泊めてくれたよ。

 あ、ピピとメタリンもいっしょに泊まったんだ。

 妹は興味津々だったな。

 魔物にもだが魔物使いってものにもな。


 翌朝、アラナの家族といっしょに冒険者ギルドへ行ったんだ。

 そして討伐の証拠に水晶玉を見せた。

 既に討伐されたって情報は入ってたみたいだから疑われるようなことはなかったよ。

 冒険者たちの行動が不安だったのでこっそり報告したけどな。


 ギルド職員に色々聞かれて面倒だったから悪いとは思ったけど大樹のダンジョンの名前を出したんだ。

 すると余計に色々聞かれることになってしまってさ……。

 どうやら思ってるよりもかなり噂になってるみたいだよ。

 もちろんいい意味だから安心していいと思う。


 だから大樹のダンジョンで修行したアタイたちが討伐してもなんの不思議もないって思ってくれたんだ。

 というより少し前からリーヌも頼もうかどうか悩んでいたらしい。

 でも遠いことがネックになるだろうから頼めずにいたんだってさ。


 それにマルセールに出現した中級レベルと噂されている魔工ダンジョンのこともあったからな。

 当然まだ討伐されたことは伝わってなかった。

 そしてアタイたちが討伐パーティの一組だと知るとさらに驚かれたよ。


 その職員の驚きようにアラナの両親もビックリしてさ。

 ようやくアラナが本当に危険な場所に行ってたことをわかってくれたんだ。

 アラナが本当に中級者レベルの実力だったこともな。


 職員からはぜひこの町を拠点に活動してくれないかと頼まれたが、もちろん即行断った。

 この町にいてもやることないしな。


 そのあとギルドを出て家族と別れた。

 葬儀には出ないつもりだったからアラナの家族ともそこでお別れだ。

 またリーヌの町に来ることがあったら墓には案内してもらうけどな。


 今からアタイたちは一度故郷に戻ろうと思う。

 管理人さんは知らないだろうけど、アタイとブレンダはマーロイ帝国のベネットっていう町の出身なんだ。

 リーヌの町からはベネット行きの船が出てるし、すぐに着くからあまり別の国感はしないけどな。


 あ、ジェイクはリーヌの出身だよ。

 リーヌの冒険者ギルドでアタイたち四人はパーティを組んだんだ。


 ジェイクにも久しぶりの故郷だからもっとゆっくりすればいいって言ったんだけど、いっしょにベネットに行くって言うんだ。

 でもそれがパーティだよな。

 そのうちもう一人メンバーを加えることになると思う。

 次は回復魔道士を探してみようかな。


 アタイたちはしばらくベネットを拠点にして冒険者ギルドで依頼を受けながら修行をしようと思う。

 大樹のダンジョン以上の環境はないとわかってるんだが、ベネットやほかの町に出現する魔工ダンジョンのことも気になるしな。


 というのは建前で、実は不安だから帰りたいって言うのもあるんだ。

 パルド王国にいたらマーロイ帝国の話はほとんど聞くことないからな。

 魔工ダンジョンが出現しているかどうかさえもわからない。

 もし出現していたとしたら……。


 その先は実際に自分の目で見て確かめることにするよ。


 それと例の物、最後に別れるときにしっかり渡したから。

 匿名とは言っておいたが、きっとわかってると思う。


 あ、アラナの冒険者カードは妹に渡したよ。

 お守りにするんだってさ。

 来年の四月にはそっちに行くかもしれないからもし来たら歓迎してやってくれ。


 アタイたちもまたいつか必ず大樹のダンジョンに行くからな。

 ララちゃんに負けないように一層修行に励むよ。

 どんどん引き離されそうだけどさ……。


 最後になったけど、管理人さん、色々ありがとう。

 そこに一年近くもいさせてもらったが、まるで世界が変わったよ。

 だからこれからも思う存分好きなことをやってくれ。

 そして冒険者たちを楽しませてやってくれ。


 それとミスリルの剣もありがとうな。

 アタイもブレンダも大事に使わせてもらうよ。


 ではまたいつか会える日を楽しみに、アタイたちはこの国を離れる。

 ピピとメタリンにもありがとうって伝えといて。



 ゾーナ、ブレンダ、ジェイクより。




「……以上です」


 ゾーナさんからの手紙をカトレアが読み上げてくれた。


 決して手紙の枚数が多かったから読むのが面倒になったとかじゃないぞ?

 大樹のダンジョンのみなさんへって書いてあったからとりあえず家にいたララとユウナとカトレアにも聞いてもらおうと思っただけだ。


「……長くない?」


「長かったのです……」


 ララとユウナが遠慮なく言った……。


「チュリ(手紙を書いてる間、一時間くらい待ちましたね……)」


「まぁ詳しく説明してくれて良かったじゃないか。でもまさかゾーナさんたちも魔工ダンジョンに向かうことになるとはな」


「どういうこと?」


「あれ? 言ってなかったか? いや、まだリーヌの町周辺に魔工ダンジョンがあるってのは聞いてたからさ。討伐に行こうかと考えてたところにゾーナさんたちがリーヌに行くって言うから、なら送りついでにピピとメタリンには魔工ダンジョンを討伐してきてくれるように頼んでおいたんだよ」


「……町の外で待ってたっていうのは?」


「それは本当に休憩してたんだよな?」


「チュリ(はい。まだ完全に暗くはなってなかったのでダンジョン内から人が出てくるのを待ってたというのもありますが。そしたら町からゾーナさんたちが出てきたので声かけたんです)」


「……だってさ」


「じゃあなんでミスリル馬車なんて持っていってたの?」


「そりゃもしダンジョン内に人がいた場合に運ぶ用にだよ。気絶させてな」


「「……」」


 でもゾーナさんたちにとっても最高の結果になったな。

 アラナさん家族と遺恨が残ることもないだろう。


「ミスリルの剣もあげたの?」


「あぁ、餞別にな。アラナさんたちがおそらくこの国を離れるつもりだってのはなんとなくわかってたし。あ、カトレアの予想な? カトレアはみんなの出身地とかも覚えてるからな」


「でもさすがにミスリルをあげるのはどうかと思うよ……」


「いいんだって。向こうの国で魔工ダンジョンが出てたら討伐してくれるかもしれないだろ?」


「……もしかしてそれが狙い?」


 だってそうなったらきっと水晶玉はウチにくれるだろうしな。

 ミスリルの剣は先行投資みたいなもんだ。


「例の物ってなんなのです?」


「現金だ。ご両親に渡してもらうように頼んでおいた」


「……いくらなのです?」


「10万G」


「「10万G!?」」


「高いと思うか?」


「……思わない。でももらったほうはビックリするかなって」


「だから匿名にしてもらったんだ。気付いても気付かれなくてもどっちでもいい。受け取りたくないなら捨ててもいいと伝えてもらってる」


「「……」」


 正直どうすればいいかわからなかった。

 こんなこと初めてだし、今後もたくさん起こることかもしれない。

 でも俺にできることは限られてるしな。


「リーヌの水晶玉も手に入ったんだし、悪いことばかりじゃないさ。じゃあカトレアは中に人がいないかを確認したら早速リセットしてくれ。中の確認はララと二重チェックで頼む」


「はい。これで作業も進みそうですね」


「……ねぇ? なにする気なの?」


「ん? それも言ってなかったっけ?」


 しばらくは忙しくなりそうだな。


これにて第八章は終了です。


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