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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第八章 犠牲と勝利
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第百八十四話 人生色々

 昨日あれからトロッコ経営について一人でひたすら考えた。

 そして考えるのをやめた。

 課題が多すぎるからだ。


 今はそんなことよりも魔工ダンジョンのことを考えねば。

 でもその魔工ダンジョンまで行くのにトロッコで行けたら便利なんだよな~。


 ……ダメだダメだ。

 邪念が混じってる。

 便利になるのは間違いないんだが現実味がなさすぎるんだ。

 この件はしばらく封印しよう。


 ……封印か。

 封印魔法を使えば魔物が寄ってこれないんだっけ?

 それを利用すれば安全なトロッコ運営ができるかもな。

 レールの周りを結界で囲んでしまえばいいんだし。


 って違う違う。

 膨大な作業が必要になるから絶対無理だ。

 今度こそトロッコのことは忘れよう。


「お兄ちゃん、一回のお客さんは最大どれくらいを想定すればいいのかな?」


「……百人くらいじゃないか」


「やっぱりそれくらいは必要かなぁ~」


 ……マリンは販売権利の出願書とやらを作成してるようだ。


「ロイス君、地上に走らせるとなるとどうしても道の問題が出てくるんだけどさ~」


「……それは俺も考えてた。だから地面よりだいぶ高い場所に作るか、地下に作るかになると思う」


「なるほど! ……凄く大変そうだね。でもやるしかないか!」


 モニカちゃんもマリンも作る気満々なようだ……。

 だが考えれば考えるほど実現が難しいように思えてくる。

 でも考えずにはいられないこの不思議。

 だからせめて疑問に思ってることだけでも解決してもらおう。


「カトレア、少し調べてほしいというか試してほしいことがあるんだけどさ」


「……なんでしょう?」


 それからカトレアに俺の想像にしかすぎないであろう考えを説明した。

 マリンとモニカちゃん、それにスピカさんも手を休めて真剣に聞いてくれていたようだ。


「……わかりました。準備ができ次第行ってきます。エクちゃんマド君タルちゃんを連れて行きますからね。では師匠、こちらはドラシーさんと検証お願いします」


 そしてカトレアは出かけていった。


「……本当にそんなことができるのかな?」


「さぁな。できたらいいなってだけだ。それより二人は出願書か設計図か知らないが早く一通りまとめてくれよ。今はまず図書館を完成させてほしいんだからな」


「あ……今週末のオープンを目指してちゃんとやるね……」


「モニカちゃん、こっちは私がやっとくから図書館行ってきてもいいよ?」


「えっ!? それはズルいよ! 私だって本当はトロッコに集中したいもん!」


「でもお兄ちゃんは先に図書館って言ったじゃん! お兄ちゃんの言うことが絶対なの!」


「ロイス君は二人でって言ったの! だからマリンちゃんもいっしょに行くの!」


「え~ヤダ! もう図書館の作業飽きたもん!」


「それは私だってそうだよ! 仕事って楽しいことばかりじゃないんだからね!」


 ……会話だけ聞いてると年齢が七つも離れてるとはとても思えないな。

 ここにユウナが加わったら凄いことになりそうだ……。


「ちょっとちょっと、喧嘩しないの。図書館は私が行ってくるからあなたたちは錬金術エリアで作業しなさい」


「え~、資料作成だけならここのほうが捗るもん。お兄ちゃんの意見もすぐ聞けるし」


「でもあなたたちがいるとうるさくてロイスも考え事に集中できないでしょ? 今みたいに色々考えてそうなときはもっといい意見が出てきたりするかもってララが言ってたわよ?」


「うぅ~、なら作業場行く」


「……わかりました。私は図書館に行きます」


 そして三人はいなくなった。


 ……静かだな。


「チュリ(ララちゃんたち、大丈夫ですかね……)」


「もうすぐ丸一日か。ピピも行きたかったか?」


「チュリ(いえ、見回りは必要ですから。それに毒は苦手なんです)」


「そうなのか? なら行かせなくて良かったよ。あまり魔瘴にも近寄らないほうがいいぞ」


 ……でも魔物だから魔瘴はさすがに平気か。

 どちらかというとマナのほうが危ないよな……。

 魔王もマナ嫌いみたいだし。


 ん?

 小屋の中からベンジーさんが出てきた。


「管理人さん、少しいいか?」


「えぇ。では中に行きましょうか」


 ピピもいっしょに来たいようだ。

 まだ受付に誰か来るかもしれないから小屋で話すことにした。


「腕はどうですか?」


「あぁ、全く問題ない。でもやっぱり力を入れるのがこわいな」


「無理しないでくださいよ。今のところここ以外では治療できなさそうですからね」


「わかってる。スピカさんにもしばらくは毎日ポーションを塗るように言われてるしな」


「でもスピカさんのポーションはあの完成品とは違いますから。それにそういう治療に使えることは内緒でお願いしますね。じゃないと無茶する人が増えそうですし」


「わかってるって。あんなポーションいくらになるかも想像がつかないしさ。このスピカさんのやつでも十分ヤバそうだし……本当にタダでもらっていいのかな……」


 精神的には落ち着いてそうだな。

 昨日は疲れもあったせいか昼過ぎに部屋に戻ってからはいっさい外に出てないみたいだし。

 まぁ一人だけ戻ってきてみんなの前に顔を出しづらいだろうけどな。


「でさ、話なんだけど、一度実家に帰ろうと思うんだ」


「それがいいと思います。でもみなさんを待たれなくてもよろしいんですか?」


「さすがにまだ出てこないと思うし、俺たちはサウスモナの出身だから近いしな」


「みなさんサウスモナご出身でしたか。それなら一日あれば帰れますね」


「あぁ。だから今からここを出て、ビール村で一泊して、明日の昼にサウスモナに到着予定だな。実家で二泊くらいしてからまたここに来るよ。だからたぶん三日後の夜になる」


「わかりました。……今後はどうなされるおつもりですか?」


「まぁとりあえずは実家に戻ることになるな。明日からの二日間でなにか職の目途はつけてくるつもりだ。なんの特技もない俺を雇ってくれるところだって探せばあるだろうし」


 前向きだな。

 昨日は自分の腕を失い、仲間が死に、仲間を残して戦線離脱。

 おそらく人生のどん底だっただろう。

 それなのにもう次のことを考えることができるなんて強い人だと思う。


 ……その気があるかはわからないが一応聞いてみるか。


「ウチで働きませんか?」


「えっ!? …………本気で言ってくれてるのか?」


「もちろんです。でも俺は残酷なことを言ってるのかもしれませんね」


 冒険者に囲まれて仕事をすることになるんだからな。

 それに自分の仲間たちがどんどん成長していくのを見るのもツラいかもしれない。

 新しい仲間も加えるだろうし。


 ベンジーさんは考え込んでいるようだ。


「候補の一つとして考えてください。サウスモナでいい職が見つかるかもしれませんからね」


「……あぁ。ありがとう。こんな俺に声かけてくれて嬉しいよ。でも俺料理できるのかな。今までやったことないし、料理となると腕も使うだろ?」


「いえ、ベンジーさんには料理ではなく別の仕事をお任せしたいと思います」


「別の仕事? ……どんなのか教えてもらっていいかな?」


「パーティ酒場です」


「パーティ酒場!? メロ君やミーノちゃんがやってるやつか!? それを俺が!?」


「はい。二人に比べて戦闘経験も豊富ですしね」


「……実はサウスモナではまず冒険者ギルドで職員募集していないかを調べにいくつもりだったんだよ。俺自身は引退するしかないが、それでもやっぱりなにかしら関わっていたいからな。武器屋や防具屋、道具屋なんかでもいいなって思ったりしてたんだ」


「……」


「でもここで働ける機会をもらえるなんて夢にも思ってなかった。従業員のみんなは地元のマルセール出身ばかりだろ? それにあの厨房を見てたらとても俺にはあんな料理は作れないと思ってたからな。メロ君やミーノちゃんだってパーティ酒場に顔出しながらも厨房で料理を作ってる姿をよく見かけるし。ダンジョンストアの子たちはそれぞれの道のプロだし、ウサギたちもよく働いてるからな」


 最近入った従業員たちのことはまだそんなに知らないか。

 というかつい一昨日にヤマさんを雇ったばかりだな。

 こんな無計画でどんどん雇っているとみんなに怒られそうだ……。


「でも本当に俺でいいのか? それにパーティ酒場だけなんて非効率じゃないのか?」


「もちろんほかにもやっていただきたいことはたくさんありますからご心配なく。みなさんが思ってるより裏での仕事は多いんですよ。あ、裏と言っても悪い意味じゃなくて見えないところでの仕事ってことですからね?」


「はははっ。……でも三日待ってもらってもいいか? 親に報告して、もしサウスモナに帰って来いって言うんなら少し考えたいんだ」


「全然構いませんよ。それにサウスモナでもお仕事探されたほうがいいと思います。ウチの環境はハッキリ言ってそんなにいいものじゃありませんからね」


 ……ん?

 なんだか小屋の外が賑やかだ。


「チュリ(メロ君が帰ってきましたね。少し早いですが従業員のみんなもいっしょに来たようです)」


「もうそんな時間か。あ、それよりマルセールまでお送りしますよ。まだご覧になられてないでしょう?」


「え? なにをだ? 送ってもらえるのは助かるが……」


 ベンジーさんと小屋の外へ移動する。


「あ、オーナー! そっちにいたのか!」


「よぉ坊主! このトロッコは最高だな! 早速昼食バイキング食べにきたぞ!」


 道具屋の店長さんだ。

 それに奥さんもいっしょのようだ。

 ヤックとマックは申し訳なさそうにしている。

 あ、妹もいっしょだったか。


 しばらく魔工ダンジョンまで送迎してもらうことになるんだからこれくらいは全然構わない。

 でもすぐ来れるようになったとはいえ、店を閉めてまで来るのはどうかと思うぞ……。


「……マルセールからあのトロッコで来たのか?」


「はい。メタリンとウェルダン二匹ともダンジョンに入ることになりましたからね。だから昨日急遽ウチの錬金術師たちといっしょに作ったんですよ。ウチの馬車よりも早く着きますのでここでお昼食べられてから出発されたらどうです? あ、寿司って知ってますか? 昨日の昼からその寿司を新メニューとして出してるんです。マグロンの握り最高ですよ」


 ベンジーさんは呆気にとられているようだ。

 たった一日で色んなことがありすぎたからな。


 そういえばこの前カトレアが引っ越してきたとき、人生はいつなにがあるかわからないんですって言ってたな。

 ベンジーさんにはこの先いったいどんな人生が待ち受けているのだろうか。


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