第百八十一話 最強の援軍
「ピンポンパンポン……ダンジョン管理人です。これは地下四階にのみ流れています。マルセール東に出現した魔工ダンジョンについての最新情報をお知らせします」
……少し待とうか。
みんな戦闘中だからな。
ベンジーさんから一通りの情報は聞くことができた。
第一階層は山フィールド。
標高はウチの地下三階よりも高いから登るのに時間がかかるそうだ。
だが敵はたいしたことないらしい。
ゆっくり登っても一日で次の階層に進めたそうだ。
今度は全員馬車に乗って一気に登ろうと思う。
第二階層は毒フィールド。
その名の通りフィールド全体が毒で覆われているらしい。
解毒魔法と解毒ポーションを使いっぱなしでなんとか突破したんだそうだ。
帰ってくるときはメタリンが超高速で突破したことで二人は大丈夫だったみたい……。
ミスリル馬車の中にいれば安全のようだな。
敵は初級レベル後半~中級レベルだったそうだ。
ポイズンキングスライムとかいうポイズンスライムがデカくなったやつがいたんだってさ。
ほかも毒々しい魔物のオンパレード。
毒のこわさはウチの地下二階でみんな知ってるからな。
先に進むこと優先であまり戦闘はしなかったらしい。
でも空気が毒で濁って前が見づらい上に道もわかりづらく、この階層も一日がかりだったそうだ。
第三階層は遺跡フィールド。
問題はここだ。
道は別に普通で、周りは風情ある遺跡って感じだそうだ。
だが出現する敵が強い。
全部の敵が中級レベルだ。
あ、カトレア情報によるとだけどな。
俺は聞いても全くわからなかった。
ウチのリストに載ってない魔物のことは知らないからな。
最奥にはグリーンドラゴンと呼ばれる主のような存在が次の階層への転移魔法陣を守るように冒険者を阻んでいるらしい。
俺も唯一その名前だけは知ってた。
ウチのリストに載ってるからな。
Dランクとして。
アラナさんが亡くなったのも、ベンジーさんが腕を失ったのもそのグリーンドラゴンの攻撃を受けてとのことだ。
そして今足止めを食らってるのもそこらしい。
つまりそのグリーンドラゴンを倒さなければ次の階層には行けない。
しかも次の階層にはもっと強い敵が存在する可能性が非常に高い。
「ロイス君、そろそろいいんじゃない?」
「ん? あぁ、忘れてた」
ミーノに声をかけられて思い出した。
地下四階のみんなは戦いをやめてそれぞれ少し安全な場所に移動したようだ。
「現在、魔工ダンジョン周辺は増々魔瘴が拡がってきています。そこで新たにEランクのみなさんにも一組ずつ十二時間交代で戦っていただきたいのです。依頼料はお一人様宿泊代一日無料+500Pになります。なお、大変申し訳ないのですがすぐに向かっていただきたいので一組目はこちらから指名させていただきます。今から三十秒後に強制転移してもらいますので驚かないでください。では失礼します……ピンポンパンポン」
ふぅ~。
……みんな身構えてるな。
そしてきっちり三十秒後、冒険者が転移してきた。
「「「「……」」」」
……なぜ驚かない?
いきなり転移させられたんだぞ?
しかも準備小屋になのに。
「……私の勘違いかしら?」
「一組って言わなかったですか?」
「俺もそう聞いたぜ? 三組分の順番を決めるってことか?」
ここに転移してきたのは3パーティ。
もちろん一組は魔工ダンジョン周辺の戦闘に加わってもらう。
「いえ、間違いじゃありません。とりあえず座ってもらえますか」
疑問には思っただろうが、俺の横にあるホワイトボードを見てただ事じゃないと察したようだ。
「先ほどは言わなかったことがあります。四日前に入ってもらった3パーティから三人が戻ってきました」
「「「「えっ!?」」」」
「理由は三人のうち二人が戦える状態じゃなくなってしまったからです」
「「「「……」」」」
ここでベンジーさんが部屋に入ってくる。
「「「「ベンジーさん!?」」」」
「「「「まさか!?」」」」
「みんな、すまない。腕が使い物にならなくなった……。でもついさっき管理人さんに治してもらったんだ。だから心配はしないでくれ。ただ二度と冒険者としては戦えない腕になってしまったけどな」
みんなは顔を歪めた。
まさかヒューゴさんパーティの中から脱落者が出るとは思っていなかったのだろう。
「そしていずれ知ることになりますからみなさんには先に言いますが、ゾーナさんパーティのアラナさんが亡くなりました」
「「「「え……」」」」
「「「「そんな……」」」」
「嘘でしょ……」
「アラナが……」
二人の女性が泣き出してしまった……。
「もう一人、ジェイクさんは二人をここまで送り届けるために帰ってきました。そして今からもう一度ダンジョンに向かいます」
「それって?」
「もしかして?」
さすがティアリスさんとジョアンさんは察しが早いな。
「まずチェイスさんパーティは先ほど言った魔工ダンジョン周辺の戦闘にすぐに加わってもらえますか?」
「……わかった」
このパーティに中に行ってもらおうかとも思ったんだけどな。
少し前衛が多くなりそうだから見送ることになったんだ。
「残るナイジェルさんパーティとティアリスさんパーティには魔工ダンジョン内に入ってほしいんです」
「任せて!」
「準備はできてます!」
「「俺たちが仇をとってくる!」」
ティアリスさんパーティはやる気十分だな。
一方ナイジェルさんパーティは自信なさげだ。
「ナイジェルさん、無理そうですか?」
「いや……先の3パーティでも無理なのに俺たちで大丈夫なのかなって思ってさ」
「今から説明しますが、先発組のパーティは現在第三階層で待機状態なんです。つまり援軍を待ってるんですよ」
「そういうことか。それなら問題なさそうだな」
「いえ、問題はたくさんあります」
「「「「え……」」」」
問題がないんなら待機する必要ないからな。
「ではチェイスさんたちは先に向かってもらっていいですか? ミーノ、モニカちゃん、頼んだ」
話を聞きたそうにしながらも準備に向かってくれたようだ。
「では第一階層から順番に説明します。レンジャーのお二人はしっかり聞いていてください」
両方のパーティにレンジャーがいることもこの二組を選んだ理由の一つだ。
毒フィールドではきっと大活躍してくれるはず。
それに対ドラゴンでも上手く立ち回ってくれるはずだ。
そして第三階層までの説明を一気に終えたところでカトレアがやってきた。
「できたか?」
「はい。これを」
カトレアから魔道具を受け取った。
「ではこれをそれぞれのパーティにお渡しします」
「えっとロイスさん、これは?」
「噴射魔道具と言います。ウチの畑で水を撒くときに使ってる物なんですが、それよりも水の噴射を強くしました。それに一度に撒ける範囲を広げました」
「なるほど。でもこれをどうしろと?」
「この魔道具からは解毒ポーションを撒くことができます」
「「「「えっ!?」」」」
「第二階層ではこれを前方に撒きながら進んでください。横並びの馬車二台から広範囲に撒けば視界もクリアになると思うんです。もしかしたら敵も寄ってこないかもしれませんし。あ、解毒ポーション数千本分の量がこの魔道具の中に入ってますので気にせずに撒き続けても大丈夫ですよ」
「数千本分じゃなくて数万本分です」
「あ、そうだったか、すまん」
「「「「……」」」」
いいアイデアだろ?
これなら毒にかかる心配も減りそうだし。
馬車にもかけたほうがより効果があるかもしれないな。
「で、第三階層のグリーンドラゴンなんですが、実は三匹いるそうなんです」
「「「「え……」」」」
「誰か囮になってその隙に行こうとしても難しそうなので、一匹ずつ倒しちゃってください。一応ウチのダンジョンではDランクになってますがみなさんが力を合わせれば大丈夫なはずです。ですがそれを倒して終わりではありませんからね。おそらく第四階層はもっと敵が強くなるでしょうし、第五階層もあったりするかもしれません」
「「「「……」」」」
不安にさせてしまったか。
「カトレア、例の物を」
「はい、こちらです」
カトレアはレア袋を渡してきた。
「まずナイジェルさん、これを」
「これは……ミスリルの爪じゃないか!」
「はい。お貸ししますのでぜひご活用ください。あげると問題になりそうなのであくまでお貸しするだけです。無事に帰ってこれたら返してくださいね」
「あ、あぁ。でもこれならやれる気がしてきた」
ナイジェルさんは武闘家で爪を得意武器としてるんだ。
ベンジーさんも装備したかっただろうな。
ナイジェルさんパーティは、武闘家、レンジャー、攻撃魔道士、回復魔道士と珍しく戦士がいないパーティだ。
しかも回復魔道士が男性っていうのも珍しい。
「ではお兄さんたちお二人にはこれを」
「ミスリルの剣!」
「ミスリルの大剣!」
「あとで返してくださいね」
このパーティには以前に鋼武器をあげてるからな。
ちゃんと言っとかないとまたもらえるもんだと思われそうだし。
ジョアンさんが期待した目で見てくるが今回は矢尻はなしだ。
「そして回復魔道士のお二人にも一応魔法杖を大量にお渡ししておきます。第二階層までは有効なはずです」
中級レベル相手では全く通用しないだろうけどな。
「それとティアリスさん、今ダンジョン内にいる四人の戦士の方にもこのミスリル武器をお渡しいただけますか?」
「わかった!」
「ではみなさんよろしいでしょうか? いったん解散にしますので準備を整えて五分後にまたお集まりください」
「お兄! どうかな!?」
解散と言ったところでララが入ってきた。
当然みんなもララに注目する。
「似合うじゃないか。カッコいいぞ」
「ホント!? サイズもピッタリ! しかも鎧なのに軽いの! さすがミスリル! いや、さすがフランさんとエルルちゃん!」
ララは新装備のミスリルの鎧を身に着けてきたようだ。
もちろんララ専用の特注品。
店で売ってるものとはデザインも全然違う。
それに重いのが嫌なララのためにミスリルの厚さはかなり薄い。
防御力は落ちるかもしれないが鎧として最低限の働きはしてくれるだろう。
「剣はどうだ?」
「これも使いやすそうだよ! アイリスさんが私のために作ってくれたんだからね!」
以前話してたミスリルの大剣のようだ。
これもララ専用の特注品で、さっきお兄さんに渡した大剣よりかは明らかに小さい。
でもここで振るのはやめような。
「ねぇロイス君、もしかして……」
「はい、ララも行きます。それにユウナとシルバも」
「……ふふっ、先に入ったパーティには悪いけどグリーンドラゴンより強い敵が来たとしても負ける気しないわ」
「そうだといいんですけどね。無理そうならむりやりにでもみんなを連れ帰ってきてください。チャンスはこれからもまだありますから」
「……うん。もし討伐して無事に帰ってこられたらさ……」
「お兄! 見て見て! これで顔も頭も大丈夫!」
「おい……なんだよその仮面……いや、兜? それもミスリルか?」
「いいでしょ!? 少し素材は違うけどユウナちゃん用もあるみたい! あとシルバ用やメタリン用も!」
……まぁ気に入ってるんならいいか。
ティアリスさんがなにか言いかけたのが気になるが、それは無事に帰ってきてから聞くことにしよう。
せめてこれ以上誰も死ぬことがなければいいんだが……。