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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第八章 犠牲と勝利
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第百七十五話 魔物文字

 スピカさんとモニカちゃん、それにマリンがリビングに来た。

 しばし再会を懐かしんだ後、すぐに依頼の話になったようだ。

 俺はそれを管理人室からぼーっと眺めている。


「つまり魔工ダンジョンは討伐したものの、ダンジョン内に人が残っていた可能性があるってこと?」


「あぁ。とはいっても可能性があるってだけなんだそうだ。ダンジョン周辺は魔瘴が濃くて冒険者たちも戦闘中だったから誰か入ったような気がしたって程度らしい」


「立ち入り禁止にしてたの?」


「そうみたいだな。その数十分後に冒険者たちがこの水晶玉を持ってダンジョンから出てきたらしい。気になってその冒険者たちに確認したところ、その冒険者たちはみんな数日間ダンジョンに入ってた者ばかりだったんだってさ。それに入ってから出てくるまで誰にも会ってないって言われたんだそうだ」


「立ち入り禁止を知ってたら普通入らないもんね。ならサウスモナの冒険者ギルドとは全く関係のない人物なのかもしれない」


「まぁあくまで可能性だからな。そんなわけで錬金術師ギルドに依頼が来たんだ。中に人がいないかどうか確認してほしいってな」


 なるほど、そういうことか。


 錬金術師なら誰でも中を覗けるわけじゃないんだな。

 そういやコツが必要なんだっけ。


 でもさ、もし中に人がいたんなら消滅したんじゃないのか?

 ……いや、覗けるということはダンジョン自体は消滅してないのか。

 仮に消滅していなかったとしてもダンジョン内に取り残されてもう数日経ってるんだろ?

 それなら生きてない可能性のほうが高そうだ……。

 魔物を倒してもすぐ吸収されるシステムらしいから食料の調達もできないしな。

 それに休憩エリアみたいなものもないから寝る余裕もないだろうし。


「じゃあモニカ、見てみる?」


「はい!」


 モニカちゃんは水晶玉に手を当てた。


 よく見る気になれるな……。

 無残な姿を発見してしまったらどうするんだよ。


「モニカちゃんも見れるのか……」


「コツがいるのよ。あなたたちもすぐ見れるようになるわよ? 」


「そうなのか? ならあとで教えてもらおうかな」


「……あっ! 第一階層に人がいます!」


「なにっ!?」


「本当なの!?」


「生きてるの!?」


「「……」」


 本当に人がいたのか。

 で、どんな状態だ?


「でも……」


「「「「え……」」」」


 それ以上は言わなくてもいいぞ。


「……あっ! 動いてるかも! 寝てるみたいです!」


「「「おぉ!?」」」


「死んでなかったんだ……」


「……ということはダンジョンの中にいる人からしたら普通に探索してるつもりなんでしょうか?」


 ……まぁ生きてて良かった。

 寝るなんてなかなか肝が据わってるじゃないか。


 でもどうするんだよ?


「「「「……」」」」


 みんなは黙り込んでいる。

 人がいたとわかったところで救出方法がわからないからな。

 むしろ一番困るパターンだと思う。


 どっちにしろなにかしなければ助からないんだ。

 体力や魔力が吸収され続けてる可能性もあるしな。

 外に出ない限り死ぬのは時間の問題だろう。


 こういうときは思いついたことを適当に言いまくるに限る。


「カトレア、この前ドラシーには相談したのか?」


「いえ……忙しかったもので……」


「俺が前にドラシーに聞いたときはドラシー自身がこの水晶玉に関与することは無理って言ってたぞ。ということはほかの誰かならできるかもしれない。例えばサブみたいな権限でこの水晶玉の操作権利を乗っ取れないのか? 今まで魔王が権限を持ってたんならまずその情報を探すとかさ。もしくはダンジョン外に出たことで入り口とのリンクが切り離されただけかもしれない。それなら疑似的な入り口、つまり転移魔法陣を作って第一階層の入り口の転移魔法陣とリンクさせれば修復できるかもな。……というかそれでいけるんじゃないか? いつもここでやってるように二つの転移魔法陣を相互設定するだけだ。とりあえず一番最初にゲットした水晶玉が情報量少なくて楽なはずだから色々試してみろよ。魔力暴走には気をつけてな」


「「「「……」」」」


 このくらい言っとけばなにかヒントになるようなことがあるんじゃないか?

 でもドラシーに言うのとは違って水晶玉越しにしか操作できないから勝手が違うかもな。

 どちらにせよ水晶玉が持つ情報を直接操作することが必要になる。


「……師匠、どう思います?」


「……物資エリアの誰もいないところでドラシーに結界張ってもらってやってきなさい。もし成功してもダンジョン内に入るのはウサギに任せるのよ」


「わかりました!」


 カトレアは最初に出現した水晶玉を持って物資エリアに向かったようだ。


 カトレアもスピカさんもこわくないのか?

 もし魔力暴走でも起きたらカトレアは確実に無事ではないっていうのに。


「モニカちゃん、その人は今どこにいるんだ?」


「え……第一階層の真ん中あたりかな? なんか網を周りに張ってるみたい。たぶん魔物が来ないようにだと思うけど……」


「なるほど。確かにそれなら安心して寝れるかもしれない。というか少しでも体力の消費を抑えるために動かないようにしてるだけかもな」


 よく網なんか持ってたな。

 サウスモナと全く関係のない冒険者だとすると旅の途中って可能性があるか。

 それならば食料も少しは持っていたのかもしれない。


 ……ん?

 よく考えたらサウスモナってまさに昨日依頼を出そうとしてた魔工ダンジョンのところだよな?

 それは危なかった。

 行ってたら完全な無駄足になってたじゃないか。


「……なぁ、なに考えてるんだろ?」


「さぁね……というかさっきの話なんなのかな? 操作権利とか転移魔法陣の設定とかさ……」


「気にしなくていいわよ。あ、こんな早く来たってことはご飯食べてないんじゃない? カトレアもまだまだ時間かかるだろうし、バイキングに行ってみる? マリン、指輪の用意よろしくね」


 もう朝食バイキングの時間は過ぎてるのに……。


 スピカさんとブルーノさん、キャロルさんの三人は小屋から宿屋へ入っていったようだ。


「マリンも食べてこなくていいのか?」


「お姉ちゃんのことが気になるからここで食べる」


 そうだよな。

 危険な実験中なんだから当然だと思う。


 ……危険?

 そういや前ドラシーにダンジョンをリセットすると中にいる人はどうなるかを聞いたことがあったな。

 確か強制的に転移させる設定にしてるから大丈夫って聞いた気がする。

 ということはこの水晶玉もそういう設定にしてリセットすれば中の人も出てこられるんじゃないか?

 もちろん設定項目があるかどうかなんてわからないが。


「なぁ、この水晶玉内のダンジョンをリセットする項目があるかどうかってわかるか?」


 モニカちゃんはサウスモナ、マリンはボワールの水晶玉を調べ始めた。


「う~ん、私はまだそこまでわからなさそう……」


「あのね、なんか書いてる文字がよくわからない文字なの。おそらくこういうことなんだろうな~とは思うんだけど、確証が持てないと言うかさ」


「ふ~ん。ならカトレアは今どうやって実験してるんだよ?」


「お姉ちゃんはここの設定情報が全部頭に入ってるからそれと比べながら似たような設定を探っていってるんだと思うよ。でも情報を見ることはできても操作ができないからまずそこからね。もしくは強制的に転移魔法陣を繋げてるかもしれないけど……」


 文字がわからないんじゃ仕方ないか。

 だからカトレアもあんなに苦戦してたんだな。

 そりゃ魔王が使う文字が俺たち人間と同じなんて限らないもんな。

 そもそも魔物が文字なんて使うかどうかも怪しい。

 ピピたちがなにか書いてるのなんて見たことないし。


 ………………ん?


 魔物?


 魔王も魔物なんだよな?


「なぁ、どうにかして俺も水晶玉覗けないかな?」


「え~? お兄ちゃんも何度も試してたじゃん」


 そりゃ俺にはコツなんてわからなかったさ。

 魔力だって全くないし。


 試しにマリンの手の上に俺の手を重ねてみた。


「きゃっ!?」


「う~ん、ダメっぽいな」


「……」


 こんなんで見れるなら苦労はしないか。


「文字をマネして書き出せるか?」


「え……うん。やってみる」


 それからマリンはひたすらなにか文字のようなものを書き出した。


「……もしかしたら俺なら読めるかと思ったが無理だな」


「えぇ~? 期待しちゃってたよ……」


 そんなこと言われてもさぁ。

 それにこれが読めたら俺は魔物使いじゃなくて魔物みたいじゃないか。

 ……でも言葉はわかるんだよな。


「チュリ! (ただいま帰りました!)」


「ん? あぁ、お疲れ。ほかにダンジョンは出てなかったか?」


「チュリ! (はい! ……みんな集まってなにしてるんですか?)」


「魔王が使う文字を解析してたんだ。もちろんなにもわからなかったけどな」


「……チュリ? (お読みしましょうか?)」


「え? …………もしかしてわかるのか?」


「「えっ!?」」


 やはり魔物の文字らしい。


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