第百七十四話 また知り合いか
「ロイスさん、おはようございます! カトレアさんいますか!?」
「おはようございます。少々お待ちくださいね」
この子は確かエマちゃんだっけ?
後ろの子はベルちゃんだったかな。
「カトレア、エマちゃんが呼んでるぞ」
「え? すぐ行きますね!」
カトレアは玄関から表に出ていき、そのままダンジョンにいっしょに入っていった。
そしてすぐに帰ってきた。
「あの子はまだ魔法が使えないのか?」
「そうみたいですね。魔力はいいものを持ってるんですけど」
「杖をあげるんならほかの冒険者には絶対バレるなよ」
「え……はい。すみません」
不定期で50Pで売りだしてるのに頻繁にタダであげてると知られたら面倒だからな。
一応毎回同じ火属性の物だけを渡してるみたいだが。
「そもそも回復魔法を勉強してるんだろ? なのに攻撃魔法ばかり使ってるっておかしくないか?」
「そうなんですけど……。なにも魔法が使えないうちは攻撃魔道士かと思ってもらえますし。それにユウナちゃんのように成功品の杖を持ってる可能性だってありますし……」
はぁ~。
いくらパルドでの知り合いだからってあまり優遇しすぎるのも困るな。
「で、カトレアは今なにを勉強してるんだ?」
「今話してた魔法付与についてですよ。最近サボってましたからね」
よくそんな分厚い本を読む気になるよな。
「そういやアイリスに新しい錬金釜作ってもらうって言ってなかったか?」
「はい。でも忙しかったので結局頼めていません。作ってもらったのにしばらくなにもしないとなると失礼ですからね」
「アイリスはそんなこと気にしないと思うけどな」
「私が気にするんです。アイリスちゃんも忙しいですからね。今だってシルバ君用の爪を作ってましたし」
頼みに行ったけど忙しそうだったからやめたのか……。
そんなんじゃいつまでたっても作ってもらえないぞ。
……ん?
誰か来たようだ。
「いらっしゃいませ。おはようございます」
「あぁ、おはよう。ここが大樹のダンジョンでよかったかな?」
「はい。マルセールから遠かったでしょう? お疲れ様です」
「ははっ、ちょうど一時間ってところか? そんくらいだよなぁ?」
「えぇ。でも周りが森だと空気が美味しく感じるわね。いいお散歩になったわ」
え~っと、この二人は冒険者なのかな?
魔道士なのは間違いなさそうだけど……。
年齢もそうだが明らかにベテランの感じがする。
もしかして中級者でここの噂を聞いてやってきたのか?
それだとありがたいな。
何気に中級者の冒険者は全く来てくれてないからな。
「あの……当ダンジョンをご利用なんでしょうか?」
「え? あ、違うよ。いや、確かに一度ダンジョンを見たいが、今は用事があって来てるんだ」
「と言いますとどんなご用事でしょうか?」
「あら? もしかしてあなたがロイス君?」
「はい、そうですけど?」
「おぉ~君がロイス君なのか! これは一筋縄じゃいかなそうだ! はははっ」
……少し前にも似たようなことがあったな。
どこで俺の噂を聞いてくるんだろう?
でもこの人たちはそんなに悪い印象を受けないな。
なんとなく夫婦っぽい。
「私たちはパルドの錬金術師ギルドから来たの。ウチの錬金術師ギルドに来た依頼がどうやらウチでは手におえなさそうでさ。ここにいるスピカさんに頼みに来たってわけなの」
「なるほど、お二人は錬金術師の方でしたか。勝手に魔道士かと思ってました、すみません」
「えっ!? 魔道士ってわかるの?」
「……すっかり錬金術師になったつもりだったがその目は誤魔化せないか」
いや、ここにそんなローブ姿の人が来て錬金術師って普通は思いませんからね?
誰がどう見たって魔道士でしょ。
でも錬金術師なんだよな?
ということは魔道士を卒業して錬金術師になったってことか?
……ん?
そういやスピカさんも浄化の件を錬金術師ギルドの魔道士に頼むって言ってたよな?
もしかしてもう来てくれたのか?
昨日ピピが手紙を届けにいったばかりでまだほぼ一日しか経ってないぞ?
「少々お待ちくださいね」
いくらなんでも早すぎるか。
それに依頼がどうたらって少し話が違う気もする。
別人か。
「なぁカトレア、スピカさんに会いにパルドの錬金術師ギルドからお客さんが来てるみたいなんだけどさ」
「え? 錬金術師ギルドですか? それなら私が……」
カトレアは本を置いて管理人室に来た。
「あっ! ブルーノさんにキャロルさん!」
「ん? あっ! カトレアちゃんじゃないか!」
「ホントだ! 久しぶりね! 元気だった!?」
なんだ、カトレアも知り合いなのか。
なんかパルドから来た人全員カトレアたちの知り合いなんだな。
じゃなきゃわざわざパルドから来ないか。
「上がってもらえよ」
「はい! どうぞ玄関にお回りください!」
まぁなんとなくこの人たちなら家に入れてもいいだろう。
危ない感じは全くしないしな。
「コーヒーでいいですか? ……はいどうぞ」
「今のなに? なんでコーヒーが急に現れたの?」
「転移魔法陣ってやつじゃないか? ほら、魔工ダンジョンの入り口と同じやつだよ」
すぐ気付くとはさすが錬金術師だな。
「師匠の手紙をもう読んでいただけたんですか?」
「え? 手紙?」
「はい。昨日お二人宛てに錬金術師ギルドに届いて……あれ? それにしてはお早いですね……」
「なんのこと? 昨日に手紙が届いたってことは私たちはまだ見てないわよ? パルドを出たのは一昨日だし、昨日はマルセールに泊まったからね」
「……そうでしたか。行き違いになってしまったようですね。ということはソボク村とマルセールの町の間の街道は通られましたか?」
「あぁ……夕方通ったが一部だけ魔瘴が凄かった。女の子たちが戦っていたから逃げるように声をかけたんだが無視されたよ。俺たちは乗合馬車だったから助けには入れなかったんだ。依頼もなるべく早くってことだしな」
そうか、当然あの道を通ってるよな。
馬車が通れるんなら大丈夫そうか。
「その魔瘴の中心部に魔工ダンジョンが出現してるんです」
「「えっ!?」」
「昨日の朝に出現したばかりですが」
「昨日出現したばかりなのにあんなに魔瘴が濃いの!?」
「てっきりそんな場所なのかと思ってたよ……」
まぁあの道を知らない人なら普通はそう思うか。
ダンジョンに気付かなかったのはいいことかもしれないな。
「ちなみにお二人が見た女の子というのがララちゃんとユウナちゃんです」
「「えぇ~っ!?」」
さっきより驚きが凄いな……。
ララとユウナはパルドでそんな有名になってるのか?
仮面をした意味が全くないじゃないか。
というかなんで名前までバレてるんだよ。
「あ、ロイス君、お二人のことを紹介してませんでしたね。こちらがブルーノさん、そちらがキャロルさんです。パルドで魔工ダンジョンが出現したときに対策本部ができたって言ったじゃないですか? そこは五人で担当してたんですけど、あとの二人がこのお二人なんです」
「へぇ~。ならモニカちゃんも知り合いなのか」
「あっ! そうでした! モニカちゃんもいるんですよ!」
「……え? あ、モニカちゃんね? うん、スピカさんが引き抜いたって話が拡散されてるから知ってるわよ」
「それよりそのララちゃんとユウナちゃんって子だよ。一度お礼を言いたいんだ」
可哀想なモニカちゃん……。
でもそうか。
対策本部でいっしょだったんなら、ララたちの名前くらい聞いてるよな。
ん?
さっきカトレアは手紙をこの二人宛てに送ったって言ったか?
ならやっぱりこの二人が浄化を頼むはずだった魔道士ってこと?
「ララちゃんたちは今ここのダンジョンの地下四階に行ってるんです。だからお昼までは戻らないんですよ。それよりどうしてウチに来られたんですか?」
「あ、そうだった。実はサウスモナの町の冒険者ギルドから錬金術師ギルド宛てに依頼を受けてな。でも誰も全くわからないからギルド長がスピカさんに頼むしかないって判断したんだよ」
「それで私たちが荷物運びに選ばれたってわけ。この間の行商人さんたちみたいに粗相があったりしちゃいけないからね」
キャロルさんとやらは俺を見ながら話してるようだ。
ちょっと怪しかったから魔物たちで取り囲んだだけじゃないか。
帰りはみんな大満足で帰っていったし。
「なるほど。では師匠も呼んできますね。ついでにモニカちゃんも呼んできます」
カトレアは部屋を出ていった。
スピカさんはまだ寝てるんじゃないのか?
モニカちゃんは図書館にいるだろうけど。
「ロイス君、その昨日出現した魔工ダンジョンはどうなってるんだい? 誰か中に入ってるの?」
「もちろんです。ウチの中級者たち3パーティが昨日の朝から討伐しに行ってます。でも正直どうなるかはわからないですね。第一階層のフィールドや敵からして今までの魔工ダンジョンとは全く別物ですから」
「……でもララちゃんたちは入ってないのよね? その三つのパーティはララちゃんたちより実力が上なの?」
「パーティとしてはララたちより上ですよ。ララとユウナは二人パーティですからね」
「「え……」」
「あ、パルドの魔工ダンジョンに二人で入ったわけじゃありませんよ? あのときは俺の仲間の魔物が数匹いましたから。まぁあの程度なら二人でも余裕だったでしょうけど。そういえば三日前ほどにボワールの冒険者ギルドから魔工ダンジョン討伐を頼まれましてね。ウチから中級者パーティを二組出しましたけど、一日で討伐して帰ってきましたよ。やっぱり中級者ならみんな余裕なんですよ」
「ははっ、余裕か……」
「凄いわね……。スピカさんたちがここに来た気持ちがわかる気がするわ……」
凄く思うのはパルドの冒険者がよほど頼りなかったからなんだろうな。
それより浄化魔法とやらを教えてもらえるように頼んでみよう。