第百七十三話 会議は大事
3パーティを送り出した後、会議スペースで緊急会議を行うことにした。
クラリッサさんたちやネッドさんたち、アグネスたちは呼んでいない。
さすがにまだわけがわからないだろうからな。
オーウェンさんだけには唯一参加してもらうことにした。
「まだ誰もダンジョンに入ってないのに魔瘴が濃くなってきたんだ。ということはほかのダンジョンで得た魔力をここに集中してきてると考えてもいいと思う」
「そうですね。つまりここでは消費する一方なんですからほかのダンジョン周辺の魔瘴が濃くなることはしばらくなさそうですね」
「このことをギルドに伝えるのはやめておこう。なにも考えてない冒険者が各地のダンジョンに安心して大勢入られたらこっちが余計濃くなるだけだしな」
魔王は明らかにウチを狙ってきてるよな。
「……この際とことん魔力を消費させるか? そのうち魔王の魔力も尽きるだろ」
「「「「……」」」」
いい案だろ?
魔瘴が拡がる危険性はあるが、それも浄化すればいいわけだし。
でも残念なのはウチには浄化の魔法が使える魔道士がいないことか。
「スピカさん、浄化の魔道士の手配はどうすればいいんですかね?」
「私がパルドの知り合いに頼んでみるわ。もしかするとどこかに出払ってるかもしれないけど……」
ボワールの町も浄化作業はパルドに依頼するって言ってたらしいしな。
「魔道士ギルドみたいなものがあるんですか?」
「あるわよ。でもあそこの連中はぼったくるから私が頼むのは錬金術師ギルドにいる魔道士ね。ピピを借りるわ」
「あ、ちょっと待ってください。ウチにいる魔道士たちが魔法を覚えるのはどうなんでしょう? 本はたくさんあるんですし」
「う~ん。そんな簡単にはいかないと思うわよ? それに戦闘で役に立つことは少ないからみんなもあまり覚えようとしないんじゃないかしら」
「そうなんですか~。ならパルドのお知り合いに頼んでみてください」
一度ユウナに試してもらおうか。
浄化っていうくらいだから聖属性だろ?
それなら回復魔法と系統は近そうだし。
「で、ダンジョン周辺の魔物討伐のことなんだけど、こっちはFランク2パーティで行ってもらうことにした。七時~十九時と十九時~七時で交代にしようと思う。だから一日分の食料と回復アイテムを毎日四袋準備してくれ。食料はミートとオーウェンさん、アイテムはカトレアとマリンで頼む」
さっきFランクの希望者を募ったところ、意外に多くてビックリしたんだ。
報酬は宿泊代一日無料+300Pとそこまでのものじゃないのに。
きっと報酬よりもやりがいを求めたいんだろう。
依頼を受けた以上、魔物を一匹でも取り逃すことは許されないからな。
でも倒した魔石は自分たちの収入にできるからおいしいのか。
「メロさんは依頼を受ける冒険者の選考を頼む。夜のパーティ酒場の時間帯に翌日の四組を決めてほしい」
希望者が多いから大変だと思う。
でもメロさんならみんなの不満が出ないように上手くやりくりしてくれるだろう。
「次にウチの魔物たちの行動を共有しておこう。まずメタリンはダンジョン内に帯同中。ウェルダンはFランク冒険者の送迎と従業員の送迎。リスたちは三匹ずつ交代でFランク冒険者に帯同。ゲンさんはこの森の見回り警備。ピピは各地の見回り。そしてシルバにはしばらくソボク村と魔工ダンジョン間の道の警備にあたってもらう」
魔物たちもフル稼働だ。
ゲンさんだけはいつも通りだけどな。
「ここまででなにか質問ある人?」
ホルンが手をあげた。
「3パーティがダンジョン内から出てくるのをどのくらい待つのでしょうか?」
「一週間だ。五日目の時点で討伐が無理そうだと判断したら帰還を考えるように言ってある。食料が一週間分というのもあるが、体力や精神的な疲労もあるだろうからな」
続いてフランが手をあげる。
「私たちストア組にできることはないの?」
「今回の件をきっかけに装備品の買い替えが増えるかもしれないからいつも通りの仕事をしてくれるのが一番だ。あ、でも作ってもらいたい物があるからまたあとで言うよ」
「ねぇ、マルセールの冒険者ギルドと連携取らなくていいの?」
スピカさんは手もあげずに話しだした……。
「こっちがなにかしなくても勝手にやるでしょう。それこそパルドに連絡したりするんじゃないですか? あ、でもそうしたら浄化の魔道士は冒険者ギルドで手配してくれるかもしれませんね。ソボク村の人はそれを望んでいないでしょうけど」
「もぉっ。そのうち敵が増えるわよ。まぁ私も賛成だけどね。やっぱり浄化もウチでできるようにしたほうがいいのかもね。その知り合いの魔道士に教えてもらえないかついでに頼んでみるわ」
別にギルドに喧嘩売ってるつもりはない。
魔工ダンジョンに入るのは自由なんだから入りたきゃ好きにすればいい。
ただなにも考えずに大勢を投入しようとしたら少し声をかけさせてもらうけどな。
「ほかにないか? ほとんどの冒険者はここでいつも通りの生活をするんだからみんなもいつも通りでいい。物資の準備だけは忘れずによろしく。じゃあ解散」
みんなはやることが多いからか一目散に去っていった。
残ったのはここで仕事をするストア組だけだ。
エルルもいたほうが良かったんだがまだ八時半前だからな。
受付はマリンに任せてあるから大丈夫だろう。
「アイリスとホルンも急ぎじゃないならいいか?」
休憩スペースに場所を移し、先ほどフランに言いかけた話をすることにした。
「魔物たち専用の武器や防具を作ってほしいんだ」
「「「魔物たち専用?」」」
「あぁ、ウェルダンに雨用の服を作ってあげてたろ? あんな感じでそれぞれのサイズでちゃんとした装備品を作ってやれないかと思ってさ」
いつも装備なしで戦ってるんだからな。
人間からしたらありえないことだ。
「素早さを失わせたくないから防具は軽くて丈夫な物がいい。シルバ以外は魔法を使うから魔力が上がる物でもいいかもしれない」
「なるほど。……でも難しそう。ピピちゃんとか嫌がるんじゃないかな? メタリンちゃんなんてどんな形にしたらいいんだろう……」
「作りやすいやつからでいいよ。シルバとメタリン以外には暇なときにここに来るように言っておく。サイズ測ったり可動域を調べたりしてくれていいからさ」
「わかった! やってみる!」
なにも着ないよりかはマシだろうからな。
「で、次は武器な。まずシルバなんだけどさ、爪を作ってやれないか?」
「ん、私も今それ考えてた。前足に合うようにミスリルの爪作ってみるね」
「あぁ、頼む」
これで攻撃力が大幅アップするに違いない。
「あ、ピピの足とかにもいけるか? ウェルダンの角にもミスリルがあるといいな」
「ん~、ウェルダンの角は大丈夫そうだけど、ピピの足は小さいからどうだろう……一度見てみる」
リスたちってどうやって攻撃するんだっけ?
確かピピが100%魔法とか言ってたな。
「リスたちには杖を装備させようか。リスサイズの小さい杖を作ってやってくれ」
「無理です」
ホルンが食い気味に言ってきた。
半分冗談なのに真面目に怒るなよ。
「カトレアが普通の杖いっぱい持ってるだろ? あれを錬金術でそのまま縮小できないかと思ってさ。拡大じゃなくて縮小だからいけそうじゃないか?」
「え……私にはわかりませんけど……とりあえずリスちゃんサイズを検討してからカトレアさんに相談してみますね……」
これで全員分の武器防具の発注は完了だな。
「ゲンさんは?」
「ん? ゲンさん?」
フランに言われるまですっかり忘れてた。
というかゲンさんが戦ってるところ見たことないからな。
この森から出ることもないだろうし、今みたいにマナが溢れてる状態では魔物も出ないし。
……なら適当でいいか。
「じゃあミスリルの鎧セットで。武器はミスリルの斧にしよう。もちろんゲンさんサイズでな」
「「「え……」」」
岩の上にミスリルなんて最強じゃないか?
ロックゴーレムじゃなくてミスリルゴーレムだな。
うん、強そう。
戦う機会はなさそうだけどな。