第百七十話 あっさり討伐完了
夕方、ボワールへ行っていた冒険者のみんなが帰ってきた。
もちろん魔工ダンジョン討伐の成果と共に。
昨日の朝に出ていったばかりだから移動時間を除けば実質一日で討伐を成し遂げたことになる。
すぐに話を聞きたいところではあったが、みんなはダンジョン帰りだったので風呂に入りたそうにしてた。
なのでいったん解散。
それから一時間後、準備小屋に再び集まってもらった。
「お疲れ様です。さっぱりされましたか?」
「うん! やっぱりここが一番落ち着くわね!」
それはいいことだ。
宿屋を含むこのダンジョンを家のように感じてもらってるということだからな。
「この一時間の間に水晶玉の中身を確認させてもらいました。というわけでまず報酬をお渡ししますね。みなさん冒険者カードをお出しください。じゃあカトレア、よろしく」
カトレアはみんなの冒険者カードを集めるとどこかに転移していった。
そして数分後戻ってきた。
「カードをご確認ください。2000P付与させてもらいました」
「「「「おぉ!?」」」」
「「「「やった!」」」」
二日で2000Pだから満足してくれるだろう。
しかも昨日と今日の宿代は無料だからな。
それに大量の食事と回復アイテムも手に入ったんだ。
レア袋は返してもらったけどな。
「ではみなさんお疲れでしょうから代表者の方以外はお帰りになってくださっても結構ですがどうしましょうか?」
八人で話し合った結果、ティアリスさんとサイモンさんの二人が残ることになったようだ。
「すぐ終わりますので少しだけお付き合いくださいね。あ、ティアリスさん、ウェルダンのお世話ありがとうございました」
それから二十分ほど話を聞いたが、さすがに二人にも疲れの色が見えたのでそこで報告会は終わりにした。
話を聞く限り、ダンジョン内部の様子はララから聞いたのとほとんど同じように感じた。
やはり丸々コピーしただけなんだろう。
昨日は第四階層最奥で休むことにしたらしい。
もちろん交代で見張りをしながらだ。
そして今朝から第五階層へ突入し、一気に第七階層最奥まで到達したとのこと。
事前に聞いていたからできることだな。
帰りは来た道を帰るだけだから敵はほとんど無視してきたんだってさ。
「モニカちゃん、ミスリル馬車はどうだ?」
「全く問題なさそう! さすがミスリル!」
「そっか。トイレ馬車も異常ない?」
「うん! みんなきれいに使ってくれたみたい! でも雨だったから従業員馬車は相当汚れてるね~。だから今からウサちゃんたちに全部の馬車の清掃をしてもらってくるね! もちろん消毒も! メタリンちゃん呼んでこよ~っと!」
モニカちゃんはスキップしながら準備小屋を出ていった。
馬車の手入れまでしてくれるとはありがたい。
錬金術師って本当になんでも屋だな。
「で、いじれそうか?」
カトレアは手に入れた水晶玉を食い入るように見ている。
「難しいですね……中を覗くだけで精一杯です」
「そうか。じゃあ吸収させるか」
「えっ!? それはダメです!」
「ん? なんで?」
「なんでってもったいないじゃないですか! 色々研究したいですし、ドラシーさんと相談しながら操作する方法も探ってみますから!」
「ん、わかった」
ドラシーも美味しい食事だと思ってるんじゃないかな。
「ほかの町周辺の魔工ダンジョンもこれと同じって考えていいよな?」
「その可能性はかなり高いと思います。……でも大陸中に出現してから一か月経ちますし、さすがにもういくつかは討伐されてると思いますよ」
二日で討伐できるんなら魔石を吸収するよりもよっぽど効率がいいからな。
さっき払った1万6千Pや物資の費用程度じゃお釣りが大量にくることになる。
面倒そうだから今までは手を出してこなかったが、魔力の貯金はたくさんしておきたいし、こっちから出向いて水晶玉をゲットしてくるのもありだな。
「南の町はなんていったっけ?」
「……サウスモナですけど」
「ボワールと同じくらいの距離なんだよな?」
「そうですけど……まさかロイス君?」
「ダメかな?」
「……いえ、賛成です」
「だよな。研究対象はいっぱいあったほうがいいだろ」
「……同じ物なら研究する必要はありません」
カトレアもわかってるじゃないか。
魔力なんていくらあってもどうせ足りなくなるに決まってるんだ。
「じゃあ早速明日朝に依頼を出す。今度はまだ行ってない人の中からな」
「わかりました。準備しておきます。ミーノちゃんにも伝えてきますね」
モニカちゃんがメタリンを連れてきて、馬車が物資エリアに転移したのを見届けてから家に戻ってきた。
「あっ、どこ行ってたのよ?」
「準備小屋ですよ。さっきカトレアが図書館にモニカちゃんを呼びに行ったときに聞きませんでしたか?」
「え……なんか眠くなっちゃったから寝ちゃってたもの……」
昼過ぎにもここでお昼寝してなかったか……。
「昨日討伐依頼をした冒険者たちが帰ってきたんです」
「えっ!? もう!?」
「パルドと全く同じダンジョンだったみたいですからね」
「……たった2パーティで大丈夫だったって?」
「ウチの魔物急襲エリアに比べれば楽勝だったって言ってましたよ」
「そう……本当あの十日間は無駄だったみたいね」
パルドでの魔工ダンジョン対策本部のことを言ってるのだろう。
スピカさんとカトレアがここに引っ越してきたのもそれがきっかけだ。
モニカちゃんもか。
「でもそれがなければ引っ越そうなんて思わなかったでしょう? だから別に悪いことじゃなかったんですよ」
「……それもそうね。カトレアとマリンのためにもここに来て良かったんだわ」
スピカさんもここに来なければ研究が進んでなかったんだろ?
それ言うとまたムキになりそうだな……。
「そもそもなんでパルドに住んでたんですか?」
「そりゃ錬金術師が集まる場所だからよ。この国以外からも来てたりするわ」
「へぇ~。やっぱり錬金術師って凄いんですね」
「そうでもないわよ。ここに初めて来たときのカトレアを思い出してみなさい」
う~ん、もう一年も前のことだからな。
薬草が大好きってイメージか。
あとはパン、パン、パスタか。
最初はドラシーに色々教えてもらってたからか、今ほど頼りがいはなかった気がする。
泣いてばかりだったし。
「でもカトレアは錬金術専門学校に一年飛び級で入学して、しかも三年通うところを二年で卒業できたんですよね?」
「それは勉強が得意だからよ。それに錬金術も全くの素人から始める子たちと比べたらさすがにね。マリンを見てたらわかるでしょ? まぁマリンはカトレアと同じ年のときと比べてもだいぶ凄いんだけどね……」
つまりほかの錬金術師たちは学校に在学中はそこまでたいしたことないってことでいいのか?
錬金術師ギルドに就職してようやく本格的に錬金術の修行をするんだろうか。
修行というより仕事か。
「……もしかしてモニカちゃんって結構できるほうなんですか?」
「だから何度も言ってるじゃない。モニカは優秀なのよ。でもまだまだ未熟だから鍛えがいがあるわ。といっても私は基本見てるだけだけどね」
カトレアもいつもモニカちゃんは優秀ですって言ってるもんな。
モニカちゃんはカトレアに言われてもただのお世辞としか思ってないだろうが。
でも俺の中でどんどんモニカちゃんの株が上がっていくな。
また給料アップの検討会を開かないといけなくなるぞ。
「そういやスピカさんは魔法使えるんですか?」
「ちょこっとだけならね。カトレアと似たようなもんよ。私は昔から錬金術にしか興味なかったからね」
「そうですか……」
「なによ? 今度はなにを企んでるの?」
「封印の魔法が使えるんだったら魔工ダンジョン内での休憩時に利用できそうな魔道具が作れないかな~って思いまして」
「封印魔法って結界の類よね? それを魔道具で発動か……でもそれなら馬車に封印魔法を……でもそんなことできるんなら装備品への魔法付与くらいできるわよね……その前に封印魔法なんて私できないし……」
途中から独り言のように呟きだした……。
このまま放っておいたらそのうち魔道具が完成してたりするんだろうか。