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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第一章 管理人のお仕事
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第十七話 町での出来事

 地下二階リニューアルオープン前日の日曜日、俺は町に来ていた。


「毒消し草の買取相場はどうなってますか?」


「五枚で30Gってとこかな」


「薬草は先週と変わらずですか?」


「あぁ、十枚で30Gだな」


「明日から毒消し草も扱うんですが、大丈夫ですかね?」


「おっ? そりゃこちらとしてもありがたい! どんどん持ち込んでくれても構わないぞ。多けりゃ行商人に流すからな」


「わかりました。よろしくお願いしますね」


「こちらこそ。薬草も頼むぞ。坊主んとこの薬草は評判が良くてな!」


「そうなんですか。それだったら安心して採集してもらえます」


 道具屋でポーション四十個、解毒ポーション二十個を購入し、現在の買取相場も確認。

 食料品も購入しており、背負ったリュックだけでは当然入りきらず、両手にいっぱい袋を持っている。

 シルバの背中にも荷物を紐で括り付けようと考えたが、可哀想だったのでやめた。


 ……重すぎる。

 これじゃとても一時間では帰れない。

 力の強い魔物とか仲間になってくれないかなー。

 そういやせっかく魔物使いってわかったのに新しい仲間ができる気配がないな。

 野生の魔物と遭遇する機会が減ったから当然ともいえるけど。


「あっ」


「ん?」


 とぼとぼと町の出口に向かっているところで見覚えのある女性に出会った。


「あ、どうも、こんにちは」


「……こんにちは」


 緑髪の少女だった。

 休日でも服装は変わらずフード付きのローブ姿だ。

 少女が休日であるかどうかはわからないのだが。

 ……気まずいな、さっさと帰ろう。


「今週は毎日来てくれてありがとうございました。ではこれで」


「……」


 無言か……彼女らしいな。


「……お持ちしましょうか?」


「え……」


 まさか言葉をかけられると思ってなかったので一瞬言葉に詰まる。

 お持ちしましょうか? だと……。


「今から帰るところなんです。お気遣いありがとうございます」


「……あっ」


 根は優しい子なんだろうな。

 俺が町の出口へ向かっているのは明らかなのに。

 普段無口なのと、初日の印象があって先入観から距離を置こうとしていたのは俺のほうかもしれないな。

 今日は爆弾……リュックは背負っていないようだな。

 軽く会釈だけして歩きはじめた。


「……あ、あの」


「はい?」


「……凄く重たそうですし……少しそこでお茶しませんか?」


「え?」


 お茶の誘いだと?

 これは断るべきか?

 もしかしたらまた明日からも来るつもりで、袋を二枚寄こせとか言ってくるのかもしれない。


「……あの、そんな警戒しなくても」


「え? あ、すみません」


 ヤバいヤバい、顔に出ていたようだ。 

 ララもトラブルは避けろって言ってたしな。

 急いでることにして早く帰るか。


「あの!!」


「ふぁ!?」


「わふゅ!?」


「大丈夫ですから! 少しダンジョンについて聞きたいだけです!」


 こんな声出せるんだ……。

 ビックリした。

 シルバも変な声になってたじゃないか。

 しかも心なしか怯えてないか?

 それよりダンジョンについて聞きたいって言ったか?


「……あなたはいつもなにか考えてばかりですね」


「はい?」


「……ジュース奢ってあげますからそこのカフェに入りましょう」


「え、ちょっ」


 少女は俺が右手に持っていた袋をむりやり奪い取り、足早に歩きはじめた。

 なんかキャラ違わない?

 それにジュース奢ってあげますって言ったよね?

 奢ってくれるんなら行こうかなぁ、って違う違う、まるで俺が子供みたいじゃないか。

 シルバどうする?

 ……ダメだビックリしてしまってて使いものにならない。


◇◇◇


「サイダーをご注文のお客様」


「はい!」


 目の前にサイダーが置かれた。

 俺は炭酸飲料が大好きなのだ。

 町へ来たときくらいしか飲む機会ないけどね。

 ララには内緒でたまに飲んでる。


「……今日は食料品を買いにきたんですか? ポーションも大量に買い込んでいるようですが」


「そうですね、日曜にまとめて食料品を買うようにしてるんです。今日はたまたまポーションも頼まれまして」


「……そうですか……先ほども言いましたが、少しダンジョンについてお尋ねしてもよろしいですか?」


「えぇ、答えられることであればですけど」


 少女の口調はすっかり元の静かなものに戻っていた。

 いや、どちらが本当の少女かはわからないのだが。


 少女から聞かれたことは、薬草の栽培方法についてと大樹の水についてが主だった。

 特に魔力やマナといった薬草を構成している成分についてのことを聞きたがった。

 内部的なことを話してよいものか悩んだが、少女は人工ダンジョンの仕組みを少し理解しているようだったので、これくらいは問題ないと判断した。


「……なるほど。人工ダンジョンならではの薬草と水ということですか」


「そうなりますね。一般的な薬草がどうなのかは知りませんけど」


 ここまで薬草と水について聞きたがるなんて、もしかすると少女はとんでもなくヤバい薬を作ろうとしてるんじゃないだろうか。

 やはり関わってはいけない人な気がする。


「聞きたいことは以上ですか? 実は今日地下二階のリニューアル作業をしていまして早く帰らないといけないんですよ。サイダーご馳走様でした。ではこれで」


 話を切り上げて立ち上がりその場を去ろうとした。


「……あの!」


「まだなにか?」


 少々棘のある言い方だったかもしれない。


「……私も行っていいですか?」


「はい?」


「……今からダンジョンに行ってもいいですか? 荷物片方お持ちしますよ」


「いやいや、話聞いてました? 今日はリニューアル作業で忙しいですし、ダンジョンには入れないんですよ」


「……それはわかってますけど……栽培エリアに毒消し草はあるんですよね?」


「それはもちろんありますけど……あなたはいったいなにがしたいんですか!?」


 あまりのしつこさについ感情を少し声に出してしまった。

 少女は悲しげな表情を見せ下を向いた。


「あっ、すみません怒ってるわけじゃないんです。ただ、あなたの考えてることが全くわからないものですから。すみません失礼します」


 慌てて釈明しつつ、荷物を持ってその場を立ち去った。


 店を出て少し歩いたが、少女が追ってくる様子はなかった。

 ホッとしたのと悪いことをしたという感情が混ざっていたたまれない気持ちになった。

 

「わふぅ? (放っておいていいの?)」


「あぁ」


 町を出てからシルバが尋ねてきた。

 俺には本当に少女の目的がわからなかった。

 薬草と水の次は毒消し草だと?

 ただの草マニアか?


 いや、違うな、薬師ってやつか。

 そうか、薬マニアだったんだな。

 薬のことはよくわからないな。

 ケガなんてしたことないし。

 あっ、でもたまに風邪はひくか。

 あのとき飲まされる薬も薬師が作ってるのか?


 まぁいいや、もう二度と会うことはないだろう。

 フラグなどではなく、お互いに合わせる顔はないだろう。



 帰り道、ずっと考え事をしていたせいか、荷物の重さは全く感じることなく家に辿り着いた。


「ただいま」


 返事はなかった。

 どうやらダンジョンの中にいるみたいだな。


 食料品をしまい、一息つこうとソファに横になる。

 なんだか疲れていたのか強い眠気に襲われた。


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