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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第七章 家族だから

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第百六十三話 ソボクな美容院

 従業員が八人も一度に増えると色々大変なことが多い。

 しかも住み込みとなれば余計にだ。


 ……と思ってたのに、みんな凄く馴染んでるんだ。

 まるでずっとここに住んでいたかのようにな。


 先週の日曜日からあっという間に一週間が過ぎた。


 錬金術師の三人は相変わらず毎日大忙しだったな。

 お酒造りのための魔道具もいくつか作っていた。

 それに畑もかなり拡張していた。

 ビールには大麦やホップという作物が必要になるそうだ。


 スピカさんはお酒が好きらしく、率先して作業してくれたんだ。

 葉っぱにしか興味がないと思ってたら意外に魔道具作成も得意だったりするんだよ。

 そのあたりはさすがカトレアとマリンの師匠といったところか。


 厨房に入ることになったオーウェンさんは少し戸惑ってたな。

 ソボク村でも実家の定食屋で働いていたらしいが、さすがにこれほどのお客は来ないらしいし。

 今までのんびりしすぎていた自分に改めて嫌気がさしたんだってさ。

 ここでは自分より年下の従業員たちがとんでもない速さで料理を作っていくんだからな。


 しかもミーノとメロさん以外はまだ十五歳にもなっていない五人だ。

 マックもまだ入ったばかりとはいえ、ヤックの弟らしく手際がいい。


 でもオーウェンさんならすぐにみんなに追いつけると思う。

 昼間の休憩時間も返上してみんなと仕込みや次の日の朝食の準備をしてたし。

 やはり向上心が大事だな。


 アグネスたちは相変わらず完璧な仕事をしてくれている。

 魔物といっぱい遊べるからか寂しい様子を見せることもない。

 ボクチク村の家族にとってこの二人を手放すことはかなり損失だったんじゃないかとさえ思う。

 これだけの働きをしてくれるならどれだけ食べてもらっても構わない。

 魔物と遊んでる感覚だから休みとかいらないみたいだし。


「はい、終わりました!」


「ん? 早いな」


「緊張しましたぁ! ロイス君が私の初めてのお客さんです!」


「そうなのか? でもそれにしてはハサミのスピードが尋常じゃなかったな……」


「だってこの一週間お母さんと練習しまくりましたもん!」


「それは知ってるけど……カミラさん、どうなんでしょう?」


「ふふっ、この子は私よりよっぽど才能があるみたいです。お客さん相手でも問題なさそうですね。もっと早くからやらせておくべきでした」


 ふむ、確かにいつもララに切ってもらったときよりも上手くまとまってる気がするな。


 床に落ちた髪の毛はウサギがきれいに掃除してくれる。

 ウサギのおかげでカミラさんとクラリッサさんは髪を切ることだけに集中できるわけだ。


「で、ララはどうなんだ? 俺よりもカミラさんのほうが上手いか?」


「当たり前でしょ! 全然違うよ! 見てこの毛先!? 見た目からしてオシャレじゃん!」


「……そうだな」


 そこまで否定されると結構ショックだ……。


「メイナードのシャンプーも問題ないんですよね?」


「えぇ。まだまだ手つきはあれだけどここのお客さんはみんな優しそうですしね。それに女の子たちは年下の男の子にやってもらうと喜ぶ子が多いんですよ? ふふふっ。ウサギちゃんたちもいるから安心してください」


「大丈夫です! 任せてください!」


 やる気があるのはわかる。

 だがシャンプーはお客を気持ちよくさせてなんぼらしいぞ?

 せいぜいウサギにお客をとられないようにな。


「ではこのあと九時からオープンしますので」


「「「はい!」」」


 カミラさんもすっかり元気になって良かったな。

 それどころかクラリッサさんに言わせると病気する以前よりも活力に溢れているように見えるそうだ。

 ここの水が合っているんだろう。


 放送魔道具がある宿屋フロントに移動するため美容院を出た。


「うぉっ!」


「あっ! ロイス君!」


「ティアリスさん……」


 ビックリした……。


 まさかもう並んでるのか?

 まだなにも告知してないし、今は入り口からも中が見えないようにしてるんだぞ?

 従業員用のドアとか思ったりしないのか?


「ねぇ、ここなんのお店ができるの!? いつオープン!?」


「……よくお店だってわかりましたね」


「え、だって昨日までここの壁際にいっぱいあった自動販売魔道具の場所が奥に二列に変わってるし、ここにもソファが追加されてるし……」


「……ほかには誰もいらっしゃってないようですが」


「日曜日の朝からポーション買わないし、みんなお腹いっぱいだからまだこっちには用事ないしね。ストアが開く九時には気付くと思うよ! ……あっ!? 髪切った!?」


 これを怪しく思ったティアリスさんを褒めるべきか。

 ジョアンさんよりもレンジャー向きなんじゃないのか?

 好奇心が強いのと一番が好きなだけかもしれないけど。


 まぁ提案してくれたのはティアリスさんだし、一番乗りをさせてあげなきゃな。


「じゃあここに並んでてください。九時にオープンしますから。今からアナウンスをしますのでその後に予約受付魔道具を店内から持ってきます」


「えっ!? 九時って今日オープンってこと!? それに予約ってなに!? なんのお店なの!?」


 ティアリスさんのすがるような視線を無視するかのようにフロントへ移動する。


 予約しなきゃ入れない店なんて恐怖でしかないだろうな。

 でも誰もお客がいなかったら予約してなくても入れるから安心してほしい。


「ピンポンパンポン……みなさま、おはようございます。そして朝から失礼します、ダンジョン管理人です。本日より新しくオープンする施設をご紹介させていただきます。その名も……ソボクな美容院です」


「美容院!?」


 ティアリスさんの声が放送に少し乗ってしまったかもしれない……。


「ご存じない方もいらっしゃると思いますので説明しますと、美容院とは髪を切るお店のことです。当ダンジョン専属の美容師二名がみなさまのヘアスタイルを整えさせてもらいます。ただし、オープンからしばらくはカラー変更のご利用はできませんのでご了承願います」


 あ、ウサギが店から出てきて予約受付魔道具を店前に置いた。

 ということは店内からも外の様子が見えるようになっただろう。

 転移魔法陣じゃなくて本物の入り口だからな。

 今頃クラリッサさんは緊張してるだろうな。

 ティアリスさんは早速予約をしているようだ。


「髪を切るとなると当然時間がかかりますので、全て予約での受付とさせていただきます。ただし、予約ラインは二本設けます。一本は日時時間指定のラインでして、こちらは一週間先までの予約ができます。もう一本は当日受付番号順のラインです。こちらは前の番号の方が終わると次の方の番となります」


 おそらく後者のほうがだいぶ数をこなせるだろうな。


「ソボクな美容院の営業時間は火曜から土曜までは十八時~二十一時、日曜は八時~十二時、十三時~十八時、月曜はお休みです。営業時間中であれば予約受付はいつでも可能です。日時時間指定での予約は三十分単位になります」


 ん?

 何人かが部屋から出てきたな。

 まだ場所を言ってないからキョロキョロしてる。

 そしてティアリスさんを見つけるとみんなそこへ走っていく……。

 女性ばかりだな。

 静かにするようにティアリスさんが言ってくれてるようだ。


「当日受付をご利用の方は、現在の受付番号が美容院入り口上に表示されています。また、みなさまのお部屋の掲示板魔道具にも表示されるようになっていますのでわざわざ美容院まで来なくてもお部屋で待ってもらうことも可能です。ただし、順番が来た際に店前にお見えにならないと次の方をご案内させていただくことがありますのでご了承ください」


 じゃないと永遠に進まないからな。

 部屋で待っていて寝てしまうこともあるだろうから臨機応変に対応していきたい。


「美容院の場所は宿屋ロビー、バイキング会場入り口の横になります」


 ……部屋の入り口から大勢の人が出てきた。

 今すぐ髪を切りたいってわけじゃないだろうが、みんな新しいものが好きだからな。


「美容院前に予約受付魔道具がございますのでそちらで予約をしてください。ソボクな美容院ですのでどなたでもお気軽にどうぞ。まずは美容院がどんなものか一度ご利用してみてください。最後になりますが利用料金を発表させていただきます」


 みんなの視線が俺に集中する。


「料金は……無料です」


「「「「無料!?」」」」


 ふふっ、驚きだろ?

 これにはララ以外の全員が驚いてたぞ?

 特にカミラさん家族だな。

 まさか無料で美容院をやることになるとは思わなかっただろう。


 でも身だしなみは大事だからこそ無料にしたんだ。

 無料ならみんなが利用してくれるはずだからな。


「ただし、少し条件があります。最短で三十日に一度のご利用に限り無料です。そして前回の美容院のご利用日から当ダンジョンの宿屋に三十日間宿泊していただきましたら無料の権利が復活します。もちろん無料の権利がない状態でもご利用は可能ですが、その場合は一度のご利用につき100P頂くことになりますのでご了承ください。美容院のご利用についての説明は以上になります」


「「「「……」」」」


 ……あれ?

 ここで質問が来るかと思ってたが誰も聞いてこないのか?

 放送中だから遠慮してるのか?

 それとも100P払ってでも今すぐ利用したいのか?

 なにかコソコソと話してはいるな。


「……それと、今日現在宿泊していただいておりますみなさまだけへの特典としまして、無料サービスの権利を付与させていただきました」


「「「「ほらっ!」」」」


「「「「やっぱり!」」」」


「「「「さすがね!」」」」


 そこまで読んでいたのか……。

 本当にさすがだよ。


「ソボクな美容院は本日の九時オープンになります。一度に対応できるのはお二人までですので、ぜひ平日の夜もご利用くださいませ。では失礼します……ピンポンパンポン」


 ふぅ~。

 これで顧客満足度が上がること間違いなしだな。

 ララも喜んでくれることだろう。


 それにカミラさん家族も村よりやりがいがあるって言ってくれてるしな。

 ただこれから平日の日中には美容院以外の仕事もしてもらわなきゃいけない。

 本当に大変なのはこれからだぞ。

 

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