第百六十話 5均屋
新しくできた5均屋入り口から続々と中に人が入っていく。
実際の建物の場所はダンジョンストア内の防具屋横だ。
もちろん防具屋内からも行くことができる。
さて、俺も中に入ってみよう。
「いらっしゃいませ! 当店の商品は全て自動販売魔道具での販売となっております! ご購入されたい商品がございましたら冒険者カードを魔道具にタッチしてくださいね!」
ヤックの声が響き渡っている。
今日だけヤックに店番をしてもらうことにした。
自動販売魔道具での販売だから普段は人がいなくても大丈夫だ。
魔道具の横には見本の商品が置いてあって食材以外は自由に触れることもできるし。
ウサギも二匹いるからなにかあったら言ってもらえればすぐにホルンかフランが来るしな。
「あっ! タオルのサイズや色もいっぱいあるんだ!?」
「本当だな! 売ってる物も白だと部屋にあるやつとどう区別つけるのか疑問に思ってたんだ」
このタオルがまた最高の肌触りなんだよな。
既にウチの家のタオルは全てダンジョン綿の物だ。
「てゆうかさ……」
「うん……広いよな……」
そうなんだよ、ここも当然のように広いんだ。
だってウチで取り扱ってる食材の種類分だけ魔道具が置いてあるからな。
まぁ今後商品が増えることも想定して広くしてあるんだけど。
「スプーンやフォークは木製みたいね!」
「味があって素敵じゃない。部屋にワンセット置いておこっと」
そうだろ?
木製ならではの良さがあるよな。
きっとお箸からお皿までセットで揃えたくなるはず。
食材コーナーはどうだ?
……まぁここはあまり売れないだろうな。
「おい……肉はどれも50グラム5Pらしいぞ……」
「え? それ安いの? 高いの?」
「バカ……1キロ100Pって言えばわかるか?」
「え……それ安すぎない?」
「変なこと考えるなよ?」
「当たり前でしょ! 今ここにいられなくなったら失うものが多すぎるわ!」
肉屋以外になら売ろうと思えば売れるからな。
でもそんなことする人はここにはいないだろう。
「果物も多いな!」
「野菜もね!」
それが今の悩みの種なんだよなぁ~。
八百屋のおじさんからは一週間ごとに採集物を変更してくれないかと頼まれた。
そりゃ一年近くもリンゴとミカンだったからな。
消費者としても飽きがきて当然だ。
だから今後は毎週果物と野菜の中から一品ずつ選んでいこうと思う。
このあとメロさんとアンと相談だな。
……ん?
なんだこの行列は?
「饅頭だ! しかもこしあんだってよ!?」
「これは嬉しいな! 粒あんよりこしあん派なんだよ!」
饅頭の列なのか……。
「せんべいよ! 醤油とワサビとカレー味があるわ!」
「絶対全種類買う! サイダーも買おう!」
まさに最近の俺じゃないか。
管理人室で水晶玉を見ながらのせんべいとサイダーが最高なんだ。
せんべいは3種類ある分、適度に列が分散してるな。
「クッキーだって?」
「コーヒーや紅茶を飲みながらゆっくり食べたいわね!」
「フィナンシェってなんだ?」
「私これ大好き! フワフワしっとりなの!」
ここのところララはずっとお菓子作りにハマってるからな。
このお菓子類はバイキング会場で食べるよりも部屋で食べたいってなったからここで販売することにしたんだ。
……人が増えてきたな。
俺がいるとみんな気になるだろうから退散しよう。
防具屋と武器屋はどうだ?
……こっちも多いな。
みんな日曜にゆっくり見るつもりだっただろうからな。
まぁおばさんがいれば裾直しの注文が多くても大丈夫なはず。
ん?
この列はなんだ?
……鍛冶工房か。
武器屋のほうまで列が続いてるぞ。
エルルに早く来てもらって正解だったな。
今日は武器や鎧を作ってる余裕はなさそうだ。
でもダンジョンストアにこれだけの人がいるとなるとダンジョンに行った人は少なそうだな。
一度家に戻ろうか。
「あ、お兄。ストアどうだった?」
「どの店も人がいっぱいだな。もちろん5均屋が一番多かったが」
「そう」
……気にならないのか?
第一回お菓子人気No.1決定戦の途中経過が。
「なに読んでるんだ?」
「お菓子の本。カトレア姉が何冊か買ってきてくれたの」
ララも本が好きだよな。
ウチの地下にある本も結構読んだみたいだし。
錬金に関する本には全く手をつけてないらしいが。
「で、どうだった?」
「ん? ……お菓子の話か?」
「うん」
ここは正直に言おう。
「饅頭の列が一番長かった。でもせんべいが3種類ある分合わせると一番売れるだろうな。その次がフィナンシェ、クッキーといったところか。まぁまだ開店したばかりだからどうなるかわからないが」
「やっぱり……はぁ~」
珍しくララが落ち込んでしまった。
料理勝負で負けるのが一番ダメージ大きそうだな……。
でもやっぱりということは予想してたのか?
「お兄見てたら結果なんて聞かなくてもわかるもん」
「俺? 今そんなに表情に出てたか?」
「違うよ。今週のお兄。せんべい何袋食べた?」
「せんべい? 毎日一袋は食べてた気がするから月曜からだと六袋?」
「饅頭は?」
「う~ん、二日に一個くらいだと思うから三個?」
「フィナンシェは?」
「う~ん、確か二個食べた」
「クッキーは言わなくてもいいよ……」
……ゼロだな。
なるほど。
現時点では確かに俺が食べた数通りの結果だ。
「ハナちゃんのせんべい美味しいからね」
「そうなんだよ。つい何枚も食べちゃうんだ」
「アンちゃんも饅頭作り気合入ってたもんね」
「アンのやつ、デザート系に絞って勉強してるもんな。こしあんもそこまで甘くないようにしたんだろ?」
「うん。今はイチゴ大福を研究してるみたい」
それは美味そうだ。
「で、このまま負けでいいのか?」
「良くない。来週は巻き返すもん」
この戦いは今月いっぱい毎週開かれるからな。
といっても優勝賞品なんかないんだけど。
ただ勝負みたいにしたほうが気合が入るってことで三人が勝手にやってるだけだ。
「ポテトチップスか、一口チーズケーキどっちがいいと思う?」
「お菓子で考えるならポテトチップスじゃないか? もちろんチーズケーキも食べたいけどバイキングで出てるし」
「だよね! ならポテトチップスで勝負する! ハナちゃんのせんべいのお客も奪えるかもしれないし!」
ポテトチップスとせんべいか。
悩むな。
でもハナもまた新作出してくるんだよな?
今後の管理人室でのお菓子タイムが楽しみだ。
「それよりなぜこの三人はここで寝てるんだ?」
「なんか二度寝はここのソファのほうが捗るらしいよ」
「お昼寝だけじゃなく二度寝もそうなのか……」
ユウナとマリンとスピカさんはぐっすりと寝ているようだ。
5均屋がオープンだっていうのに気にならないのかな。
それに冒険者たちの休日の行動が気になるのが普通だろ?
なぜこんなにスヤスヤと寝ていられるんだ。
……ん?
「なんでユウナがここにいる?」
「え? なんでって二度寝するためにわざわざ来たんでしょ?」
「そうじゃなくて、なんで鍛冶工房に行ってないんだ?」
「あ……」
昨日あれほど言っておいたのに……。
日曜日に働かないでこいつはいつ働くんだよ。
今週はずっと地下四階に行ったり疲れがあるとかでゆっくりしたりしてたのに。
……つまり今週はなにも仕事してないわけだよな?
「……そういやカトレアは?」
「え? お兄といっしょじゃなかったの?」
「いや、今日はまだ会ってないぞ?」
「……もしかして鍛冶工房?」
「それしかないよな……」
魔道士のみんなもユウナがダンジョンに入りたいことをわかってる。
それもあって日曜にメンテナンスを依頼することにしてくれてたはずなのに。
……いや、どちらにしても日曜に頼んだほうが効率的か。
それにカトレアのほうが短時間だし質もいいしな。
でもカトレアに任せたらカトレアにやってもらうはずの仕事が遅れるしなぁ。
「ユウナになにか罰的なものを与えたほうがいいか?」
「可哀想だよ……でもどうせなにもしないでしょ?」
「だってこいつを怒ったらすぐネガティブモードに突入するのはわかりきってるだろ……とりあえず今日一日はお菓子を食べさせないようにしておこうか」
「お兄、甘すぎ……」
いや、ユウナには結構キツイ罰だと思うぞ?