第百五十九話 日曜日の朝食
今日は宿屋がオープンしてから初めての日曜日だ。
冒険者のみんながどんな休日を過ごすのか凄く興味がある。
きっと昼前まで寝るだろうから朝食バイキングにはほとんど来ないな。
今週はずっと六時半起きだったせいか今日もその時間に目が覚めた。
むりやり二度寝しても良かったんだが、従業員たちは働いてくれてるからな。
明日からは厨房組も毎日一人か二人ずつ順番に休みを取る予定で、月曜日はダンジョンストア組は全員休みだ。
「メタリン、今日は八時半にヤックとエルルとフランのお母さんだからな」
「キュ! (了解なのです!)」
「ウェルダン、ほかの四人の従業員はいつも通りに頼むぞ」
「モ~(は~い)」
「それと昼からだが、メタリンはマカ、ビス、メルを連れてカトレアとビール村な。ウェルダンはエク、マド、タルとミーノといっしょにソボク村だからな。ついでに周辺の見回りも頼んだぞ」
俺の話が終わるとすぐ魔物たちは散歩に向かったようだ。
新たな従業員たちはみんな今日からここに住むことになっている。
ビール村の二人なんて昨日の今日だからな。
みんなには隣村までそんなに遠いわけでもないから休みの日はいつでも帰っていいとは言ってあるけど。
家具とかも部屋に備え付けであるから持ってくるのは服とか身の回りの物くらいか。
その服もダンジョンストアで買えるしな。
さて、少し早いが朝食バイキングに行くとするか。
小屋の中には当然だが誰もいない。
宿屋に入るとリョウカがいた。
挨拶だけすませそのままバイキング会場に入る。
厨房にはミーノとメロさんがいた。
パーティ酒場の日曜営業時間について話し合った結果、午後の十三時~十七時だけ開けることにした。
だから今日の朝は二人して厨房に入ってくれたんだろう。
困ったことにこの二人は休みなんていらないって言い出したんだ。
冒険者たちが一日600Pも払ってる部屋にタダで住んでるからとか言ってさ。
俺とララはそれが従業員特権だから当たり前だって言ってなんとか休みを取ることを了承させた。
ウチは決してブラックじゃないからな。
少しばかり幼い子供が長時間働いてるってだけだ。
おっと、それよりご飯だ。
白米、アオサの味噌汁、卵焼きにしよう。
あ、ホッケー焼きもいいな。
入り口がぎりぎり見える席に座ったところでちょうど七時になった。
するとすぐに冒険者たちがぞろぞろと入ってきたではないか。
日曜なのにみんな早起きなんだな。
ゆっくり食べながら入り口を眺めていると目の前の席に誰かが座った。
「ロイス君、おはよう! ここいい?」
ティアリスさんだ。
日曜だからまぁいいか。
「えぇどうぞ。おはようございます」
って俺が返事する前にもう座ってるけどな……。
「日曜もいつもこんなに早いんですか?」
「うん! 日曜だからって寝すぎると体内のバランスがおかしくなっちゃいそうだからね」
「へぇ~」
それは一理あるな。
俺も二度寝したりするとお昼寝ができなくなったりするもんな。
「ねぇ? 色々質問していい? 日曜日だからいいよね?」
「ダンジョンのことだけにしてくださいよ? そういやジョアンさんたちはいっしょじゃないんですか?」
「ウチのパーティは朝食は自由行動にしたの。だからいつもはダンジョン酒場に七時五十分集合ね。そもそも日曜日はマルセールにいたときからフリーだったしね」
さすがに日曜までいっしょにはいないのか。
普段の朝食を別にしたのも悪いことではないよな?
人によってモーニングルーティンは違うだろうし。
「なるほど。ではティアリスさんは今日一日をどのように過ごされる予定ですか?」
「まずロイス君といっしょに朝食を凄くゆっくり食べるでしょ? それからロイス君といっしょにダンジョンストアでゆっくりショッピングするの!」
「俺は仕事があるので俺抜きの話でお願いしますね」
「ケチ……。おそらくダンジョンストアで午前中は潰れるかなぁ。あ、鍛冶工房で杖のメンテナンスもお願いしないと。午後はどうしよっかなぁ~」
「ここにあるといいなぁ~って思う施設あったりします?」
「う~ん、日常生活には困ることなさそうだしねぇ……あ、美容院! 髪切りたくなったらどうしようか考えてたの!」
そういやそうだな。
俺とララは昔からずっとお互いの髪を切りあってるしな。
ここに来てるお客の髪型を参考にしたりもしてるんだ。
ララはユウナやカトレアの髪も切ったりしてたし。
でもさすがに美容院となると美容師が必要になるよな。
仮に月一回日曜に利用するとしたら一日当たり約七十人。
一人雇ったところで到底無理だな……。
平日は利用少なそうだから日曜だけ複数人の美容師が来てくれたらベストなんだけど、そんなに都合よくいかないか。
とりあえず逃げておこう。
「わかりました。参考にさせていただきます」
「まぁそんなに頻繁に利用することもないからね! みんな気分転換にマルセール行くと思うから心配しなくていいからね!」
逆に心配させてしまってるじゃないか……。
せめて日曜には馬車を運行するようにしよう。
「ほかにはないですか? 例えば部屋で過ごすにあたってなにか欲しいものとか」
「部屋で? う~ん、普段は疲れてすぐ寝ちゃうし。今日だったら……本読んだりとかしたいかも?」
本か~。
となるとやはりスピカさんの言ってたことは正しかったのか。
でもそれはスピカさんたちに一任してるからもうしばらく待ってほしい。
「ねぇ……みんな、なんでわざわざこの近くに集まってきてるの?」
「ん?」
……本当だ。
気付いたら周りのテーブルの席が全て埋まってる。
パーティで座ってるわけでもなさそうだ。
でも誰もこのテーブルには座ってこない……。
「だってティアリスばっかズルい!」
「そうだよ! 俺だって本当は管理人さんともっとお喋りしたいんだ!」
「そうよ! ティアリスちゃん自分の部屋に人を呼べるようになったからって抜け駆けは許さないんだから!」
「いや、俺はなにか耳寄りな情報ないかなと思って盗み聞きしてただけだ……」
みんなが口々に話しだしたせいで非常に賑やかだ。
おかげでよりこのテーブルが注目されることになってしまった。
でも要するにみんな俺と話がしたいと思ってくれてるってことだよな?
うん、俺が考える理想の管理人像に近付いてるじゃないか。
この調子でもっと親しみやすいと思ってもらわねば。
「ではここにいるみなさんだけに先に知らせておきましょうか」
「「「「えっ!?」」」」
「といってもそんなにたいしたことではありませんし、後ほど全体アナウンス入れる予定ですからね」
当然のことながらみんなが期待する目で見てくる。
「本日九時より、新しいお店をオープンします」
「「「「えぇっ!?」」」」
「「「「お店!?」」」」
いつの間にかさらに集まってきてるじゃないか。
「はい。お店の名前は……」
「「「「……」」」」
いい静まり具合だ。
さすがだな。
「5P均一屋です」
「「「「……」」」」
いや、ここはもう少し驚いてくれてもいいところだぞ?
まだピンときてないか?
英数字と漢字を混ぜたからかもしれない。
「5P均一屋、略して5均屋です。店の商品を全て5Pで販売してるお店です」
これでどうだ?
「5P?」
「なにが売ってるんですか?」
あ、そうか……。
5Pをアピールしたかったばかりに肝心の商品のことがいっさいわからないもんな……。
「えっと、生活に必要な物とかですね。例えばタオルですね。ほかはお箸やスプーン、フォーク、お皿など。ほとんどの物がダンジョン外にも持ち出せるような素材でできてます。一番多く売ってる物は食材です。どれもダンジョン産のものをお一人様サイズで提供してます。それとお菓子系ですね」
「「「「……」」」」
まぁこんな反応になって当然か。
タオルは部屋に小さいのと大きいのが一枚ずつあってフロントで設定すればウサギが毎日交換もしてくれるしな。
箸類もバイキング会場で食事をすればまず必要にならない。
食材を買うくらいならバイキング会場で食べるし。
って考えの人が多いだろう。
「よく考えるとタオルは嬉しいな」
「確かに。今ダンジョンに持っていってるやつもそのうちボロボロになるだろうし、ダンジョン綿のほうがいいに決まってるし」
「せっかくキッチンがあるんだからたまには料理したいと思ってたの!」
「私も! 未来の旦那や子供のために料理は覚えておきたいし!」
「こないだ部屋で小腹が空いたときにお菓子食べたいと思ったんだよ!」
「俺、ダンジョンで歩いてるときにたまにお菓子食べたくなるんだ」
やはりさすがだ。
こちらの意図をこんなにも早く察してくれるとは。
それになにも買うものがなくてもきっと見るだけで楽しいぞ。
マルセールで買い物をする機会は全くなくなるかもしれないけどな……。