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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第七章 家族だから
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第百五十八話 お酒と牧畜

 今日は午前中にビール村へ行ってきた。


 そこではまず村長に挨拶し、魔工ダンジョン討伐の件を相談。

 そして募集している人員の件も相談したところ、すぐに希望者が見つかった。

 ぜひ大樹のダンジョンで新しい人生を送ってみたいという夫婦だ。


 どうやら魔王が復活したということを聞いて、このまま村でお酒を造ってるだけの人生でいいのかと不安になっていたらしい。

 そんなときに大樹のダンジョンからお酒の発注依頼が届いたそうだ。

 お酒のことは完全にメロさんに任せていたからこれは俺も知らなかったことだけど。


 そのときから冒険者が多く集まっているという大樹のダンジョンのことが気になっていたんだってさ。

 魔工ダンジョンの件で色々と噂になった後だったしな。

 自分が作るお酒が冒険者たちに飲まれると知って嬉しくなったとも言っていた。

 村長さんもこの夫婦が適任だと思って最初に紹介してくれたんだ。


「ねぇ、お腹減った~」


「チーズ蒸しパン食べますか? ハンバーガーもありますよ?」


「ねぇ、喉乾いた~」


「バナナジュースとサイダーと麦茶がありますけどどれがいいですか?」


 ビール村を後にして、いったんマルセールで昼休憩をしたんだ。

 出禁騒動以来初めて町に入ったから少し緊張したな。


 いつものように取引先への挨拶回りをした。

 といってもつい最近宿屋のプレオープンで会ったばかりだけどな。


 だからメインは魚屋がどんな店かを見ることだった。

 これがまた結構繁盛してたんだ。

 買いに来るお客は飲食店や宿屋の人が多いらしい。

 まだ数種類しか出回ってないのにこの賑わいだからこの先も期待が持てるだろう。

 もっと量を増やしてほしいと言われたがそれは俺がどうこうできないからな。


「ハンバーガー美味しい~」


「このバナナジュースのミルク、ウチのより美味しい~」


 そして次に北のボクチク村へ向かったんだ。


 そこでもまず村長に挨拶し、魔工ダンジョン討伐の件を相談。

 ソボク村やビール村と同様で特に問題もなく了承してくれた。

 やはり冒険者ギルドがない小さな村からしたら魔工ダンジョンはこわいからな。


 そして従業員募集の件だが、もうボクチク村では募集する気はなかった。

 ソボク村の三人とビール村の二人で合わせて五人。

 予定してた人数が埋まったからな。

 牧場や畑の世話もビール村の二人がやってくれるみたいだし。

 ウチのダンジョンで飲むだけのお酒ならそんなに大量に作る必要もない。

 保存エリアでの料理仕分けの仕事をやっても十分に時間はあるらしい。

 なによりカトレアにビール用の魔道具を作ってもらうつもりだからな。


「はい、着きましたよ。お疲れ様でした」


「もう着いたの~?」


「早かったね~」


 ふぅ~、やっと帰ってきた。

 さすがに南のビール村に行って、北のボクチク村まで行くとなるとそれなりに時間がかかったな。


 土曜日だから今頃冒険者たちは一週間の追い込みをしているところだろう。


「おやつ食べた~い」


「すぐ中に入れるようにしますので少しお待ちくださいね」


「お昼寝した~い」


「お部屋の用意もしますからもう少し我慢してくださいね」


 リスたちいるかな。

 明日からは本格的に見回りに行かせてみようか。


 ピピは東のソボク村を越えてマッシュ村近くまで。

 メタリンとマカ、ビス、メルは南のビール村まで。

 ウェルダンとエク、マド、タルは北のボクチク村だな。

 シルバにはマルセール付近で待機してもらうか。


「はい、ではこの指輪をはめてくださいね。あとこの冒険者カードも常に持っておいてください」


「「は~い」」


 魔物たちはみんな留守のようだな。

 受付にも誰もいないようだ。

 さすがに土曜日の午後に来る冒険者はいないから別にいいけど。


「メタリン、疲れたろ? ご飯にするか?」


「キュ! (いえ、中途半端な時間なのでまだやめときますです!」


「そうか。なら自由にしててくれ。今日はありがとうな」


「キュ! (了解なのです! お疲れ様でしたなのです!)」


 メタリンは魔物部屋に入っていった。

 と思ったら水だけ飲んですぐに出てきた。


「キュ! (いっしょに行ってくるのです!)」


 そう言ってカトレアたちと小屋の中へ入っていった。


 ……俺は家でのんびりしようか。


 水晶玉を持ってソファに座る。

 とりあえず地下四階はどうなってるか確認しよう。


 ……お?

 三十人!?

 凄いじゃないか!


 ララとユウナを除けば7パーティ、ということは今日だけで新たに4パーティが地下四階に行ったわけだ。

 これなら別に地下三階はこのままでいいな。


「あっ! お兄ちゃん! 帰ってたんだ!」


「あぁ、ついさっきな。新しい作業場に行ってたのか?」


「うん! あそこなら広いし、色々と作業も捗りそう!」


「そうか」


 物資エリアに新たに錬金術エリアというものができた。

 その名の通り、錬金術師のための作業エリアだ。

 昨日ドラシーは寝起きでいきなりこのエリアを作らされたらしい。

 そしてその後は葉っぱマニアたちから質問攻めにあったようだ。

 災難だったに違いない。


「で、どうだったの? 新しい人見つかった?」


「あぁ。ビール村から十八歳の夫婦が来てくれることになった」


「へぇ~! そんな若いのに結婚してるんだ! でもよく来てくれたね!」


「この間のソボク村のオーウェンさんと同じような理由だよ。冒険者をサポートすることに興味を持ってくれたんだ」


「それならなにも心配いらないね! でもビール村で二人雇うことになったってことはボクチク村ではどうしたの? 予定通り一人募集したの?」


「いや、募集はしなかった……」


「そうなんだ~でも仕方ないよね。……ん? お兄ちゃん?」


 そう、募集はしていないんだ……。


「ボクチク村にはさ、牛や豚、鶏がいっぱいいたんだよ。マルセールの肉屋……ミーノやモモの家もそこから仕入れてるんだってさ」


 マルセールだけじゃなくこの大陸中に卸してるらしい。

 ビール村でも思ったが、ボクチク村もソボク村に比べたらずいぶんと裕福そうだった。

 名産品って大事なんだな。


「てことはさ、向こうからしたら俺たちは一応ライバルだろ? だからあくまで魔工ダンジョンの件だけお願いするつもりで行ったんだよ。ビール村に行くまでは従業員の募集もしようと思ってたけど、その必要がなくなったからな。それで少し気も楽になってたんだ」


「うん。でもなにかあったんだよね? ……トラブル?」


「いや……殺到したんだ」


「ん? 殺到? なにが? 牛や豚?」


「従業員希望者がだよ」


「え……」


 俺は一言も従業員募集中なんて言ってないからな?

 村長の家で普通に話して、近くの牧場を少しだけ見て帰ろうとしてただけだからな?


「どうやらみんな、普通の牛や豚よりもブルブル牛やカウカウ牛、それにブラックオークに興味があるみたいなんだ。あとシャモ鳥にも」


「あ……なるほど……」


 もちろんウチで働きたがってくれることは嬉しいことだ。

 でも収集がつかなくなったんだ。

 そしてなぜか俺に一人選べって言ってきたんだぞ……。

 選ぶもなにも募集してないって言ってるのに……。


「まぁそれなら一人くらいならいいかと思って誰か良さそうな人選ぼうとしたんだよ。でもな、なぜかみんな家族の中で俺に年が近い女性ばかり選ばせようとしてきたんだ……」


「え……」


 あれ、絶対嫁にやろうとしてたに違いない。

 そして家族全員でダンジョンに来ようとしてたんだよ……。


「だから呆れ果てて帰ろうとしたんだ」


「当然だよ。よくお姉ちゃん怒らなかったね」


「向こうの圧が凄かったんだ。だから俺もカトレアも圧倒されてさ。より美味い肉を求めてるんだよきっと……」


「プロだね……」


「あぁ、プロだ」


 そのプロがそこまでして求める肉がここにはあるんだよな。


「で、結局誰も雇わなかったってことだよね?」


「いや、それがさ……」


「……雇ったの?」


「……あぁ、それも二人」


「え……なんでそこから二人も雇うことになるの?」


「帰ろうとして馬車に戻ったらさ、その二人がメタリンと遊んでたんだよ」


「えっ!?」


 ピピやシルバやウェルダンやリスたちじゃなくてメタリンだからな。

 普通スライムがいたら近付かないだろ……。


「それも楽しそうに。だから二人に聞いてみたんだ。こわくないのかって」


「うん……それで?」


「カワイイからこわくないってさ。それどころか、もっと魔物さんいないの? って聞いてきた」


「……お兄ちゃんが魔物使いだって知ってて言ったのかな?」


「それは知ってたみたいだ。だから安全だとわかってて魔物に会いに馬車まで来たんだと思う。でも村長さんが言うにはその二人はちょっと変わってるらしくてな」


 魔物と遊ぼうとしてる時点で変わってるんだけどな。


「どうやら大家族の末っ子の二人らしく、手伝いもあまりしなくていいらしいんだ。つまり普段は遊んでるだけ。というよりすぐ遊んじゃうみたいだから手伝いをさせてないっぽかったけどな」


「まだ二人とも子供なの?」


「十四歳の双子の女の子だ」


「双子!? 凄い!」


 凄いのか?

 毎日ティアリスさんのお兄さんたちを見てるだろ?


「顔も全く同じだぞ」


「えぇっ!? 見たい!」


 そんなに珍しいのか?

 確かにお兄さんたちは顔はあまり似てないけど。


「来てるから会ってこいよ」


「えぇっ!? 来てるの!? 見学に!?」


「いや、もう引っ越してきた」


「えぇっ!? 急すぎない!?」


 さっきから驚きすぎじゃないか?

 よくそんなにテンション高くいられるな。


「二人が今すぐダンジョンに行きたいって言ったんだよ。もちろん遊びにな」


「遊びに? 従業員としてじゃなくて?」


「あぁ、でもそこでカトレアが言ったんだ。遊びにきても魔物さんたちはお仕事で忙しいから遊べませんってな」


「さすがお姉ちゃん! ……でも来てるし雇うんだよね?」


「……二人は、それなら私たちも魔物さんといっしょにお仕事するから遊びに行ってもいい? って言ってきたんだよ。それに対してカトレアは、お仕事を楽しむのはいいですが遊び気分ではできません。だから雇うことはできません。ってはっきり言ったんだ」


 普通ならこれで終わりだろう。

 子供なら泣き出してもおかしくない。

 子供といっても俺の一つ下、ユウナと同じ年だけどな。


「そしたらさ、急に真面目な顔になって……魔王と戦ってるんだよね? 私たちもいっしょに戦ってもいい? ……だってさ」


「え……もしかして冒険者希望なの?」


「だと思うよな? でもそうではなくて、魔王討伐に関連することがしたいって意味だったんだ。サポートだからほかのみんなと同じ理由だな」


「へぇ~。ならなんで遊びに行きたいなんて言ったのかな?」


「そういうキャラだからだろうな」


「キャラ?」


「村長さんも二人の真面目な表情を見て驚いてたんだ。特に貧しいわけでもない大家族の末っ子姉妹だから遊んでても誰もなんとも思わないし、二人の家族ですらそうらしい。だから二人はそういう怠け者のフリをしてたのかもしれないってさ」


「……なんでわざわざ怠け者のフリなんてするの? 二人は楽かもしれないけど、周りへの印象は良くないよね?」


「大家族だからだろうな。両親や爺ちゃん婆ちゃんにはもっと兄や姉たちに構ってあげてほしかったんだと思う。自分たちのことは放っておいてな。あくまで俺とカトレアの推測だが」


「いい子じゃん! ならここに来たいって言ったのも家族を安心させるため?」


「もちろんそれもあるだろうし、魔王討伐関連の仕事をしたいと思ってくれてるのも本気っぽいんだ。だから俺とカトレアも雇うことにしたんだし」


 家族のことを思いやれるいい子たちなんだろう。

 両親がすんなり大樹のダンジョン行きを認めてくれたのも二人の性格を知ってるからと思いたい。


「じゃあ雇う人数が少し増えただけでなにも問題ないんじゃないの? なんでそんな言いにくそうに話したの?」


「う~ん、ちゃんと仕事をしてくれるか不安は少しあるだろ。それに……めちゃくちゃ食べるんだよ」


「え? ……ご飯をってこと?」


「あぁ。ここに来るまでの馬車の中ではずっとなにか食べてた」


 もしかして大食いが原因で住み込みをすんなり認めたわけじゃないだろうな……。


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