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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第七章 家族だから

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第百五十六話 一次選考

 頼むからあまり余計なことは言わないでくれよ……。


「大樹のダンジョンではまだ十一歳の子供が朝から晩まで働かされています。その子は古株というだけで料理に掃除、洗濯、ダンジョン内の見回りや従業員みんなのお世話などを一手に引き受けることになり、ストレス発散のために毎日剣を振らないと落ち着かない性格になってしまいました」


 ララのことを知らずにこれを聞いたら確実に誤解されるだろ……。

 でもなにも間違ったことは言ってないな。


「ほかにも冒険者兼従業員の現在十四歳の少女もいます。その少女は冒険者として一人でマルセールから何日も何日も通った挙句、ついに疲れ果ててもう通えないと思い、管理人の家に住み込みで働きながら冒険者を続けたい旨を申し出ました」


 次はユウナの話かよ……。


「紆余曲折や涙あってなんとか住ませてもらうことができましたが、今は毎日午前中は従業員、午後は冒険者として過酷な日々を送っています。しかしつい最近、この管理人は少女を家から追い出そうとしたんです。いくらダンジョンに宿屋ができたからといったって酷くないですか? その少女は家族のように馴染んでたんですよ? ショックを受けた少女は寝不足なのを我慢して狂ったように仕事に冒険にと励みました。そして先日、冒険者としてダンジョンに入っていたときのことでした。彼女は…………自ら海中へ沈むことを選んだんです……」


 ……なんて悲しい話なんだ。

 それになんて極悪非道な管理人なんだよ……。


 って思われたらどうするんだ……。


 ユウナのやつ、この間のことカトレアになんて言ったんだよ?

 出てけって言われたのです……とか言ってないだろうな?


 それより最後のは確実にもうこの世にいないと思われるだろ……。

 俺は上手い表現だなと少し思ってしまったが。


 ……おいおい?

 何人かは泣きそうになってるぞ?

 それに続々とこの場を去っていってる……。

 これじゃなんのためにここに来たのかわからないじゃないか……。


 それからもカトレアの話は続いた。

 結局この場に残ったのは三人だけだ。


「……みなさんは今の話を聞いてもまだ大樹のダンジョンで働きたいと思うんですか?」


「俺は冒険者になる実力も根性もない。だけど魔王が復活した今だからこそ冒険者をサポートする仕事がしたいんだ。それに楽な仕事なんてないしな。俺は大樹のダンジョンで働いて実際に魔王と戦ってくれる冒険者を間近で応援したい。金は親に仕送りできる程度貰えれば問題ないから」


 よし、採用。

 むしろ冒険者向きの性格だと思うんだけどな。

 それにいい目をしてる。


「……あなたはどうですか?」


「私は……いえ、私も今すぐにでも働かせてほしいです。というのもお金が必要なんです。母が病気で寝込んでしまっているので、私が稼ぎ頭になって母と弟を養わなければなりません。治療費もかかるでしょうし……」


「もしかして隣にいるのが弟さんですか?」


「はい。この子はまだ十三歳なのでこの村に残ります。母の面倒を見てもらわなければいけませんし……」


「でもあなたがいなくなるとご飯とかはどうするんですか? その様子ですとお父様はいらっしゃらないんでしょう? 病気のお母様とまだ幼い弟さんとで生活できると思ってるんですか?」


「それは……でも……」


「大丈夫です! 僕がお母さんを守るのでお姉ちゃんを働かせてやってください! 本当は僕がダンジョンに行ってお姉ちゃんに残ってもらいたいくらいなんですけど……」


 ……ヤバい、少しジーンときてしまった。

 カトレアなんかすぐ泣きそうなものなんだけど、よく我慢してるな。


 でもいくらお金が必要とはいえ、これは残された家族がツラいだろう。


「次期村長さん、この方がこの村で十分な収入を得ることは難しいんですか?」


「この子は母親の手伝いをしていたものですから、その母親が働けなくなってしまうとこの子だけではまだやっていけないんです。それにこの村は小さいですし、どこの店も家族経営でやってるところがほとんどなんです。それ以外の住民は畑仕事をして生計を立てていますが、それも自分たちの稼ぎだけで精一杯でして……」


「そうですか、わかりました」


 まぁそんな感じの村だよな。

 午前中のこの時間はお客も全くいなさそうだし。

 だからみんなすぐ集まってこれたんだろうしな。


「ロイス君……」


「あぁ、わかってる」


 カトレアも俺と同じ考えのようだな。


「まずそちらの男性の方、あなたは今からダンジョンに来て実際に働いてもいいかを確認してください。こちらの採用試験としては合格ですので、次はあなたに選ぶ権利があります」


「え……いいのか? 俺はあんたたちを信用してるからその言葉だけでありがたいが……」


「次にそちらの女性の方……とそこの弟さん、二人も同じように今からウチに来てウチの労働環境や住まいの環境をその目で確かめてください」


「え……弟もですか? さすがに二人も村を出て働くわけには……」


「そうだと思います。ですからお二人が良ければお母さまもごいっしょにダンジョンで暮らすというのはいかがでしょうか?」


「「「「えっ!?」」」」


「そのほうがお二人も安心でしょう? ダンジョンからマルセールまでは十分あれば行けますから急に医者が必要になった場合もなんとかなると思います。もしお母さまが元気になられましたらまたこの村でいっしょに働かれるのもいいと思いますし」


 この姉弟だけじゃなくほかのみんなも動揺しているようだ。

 そりゃいきなり家族全員で引っ越しませんかって言われてるんだからな。


 でも俺もカトレアも本気だ。

 この女性の覚悟が半端じゃないことは伝わってくるし。

 弟も不安ながらもなんとかして母親と姉の力になりたいと思ってる。


「とりあえずウチを見られてからでどうでしょう? なんなら弟さんは別に働かなくても遊んでるだけでも構いませんし」


「本当に家族三人で押しかけてもよろしいのでしょうか?」


「ウチは宿屋を新設したばっかりでして部屋は多めに作ってあるんです。ある程度自由に部屋を調整できますから三人でも不自由なく暮らせると思いますよ。それに医者ではないですがずっと付きっきりで看病できる者もいますから仕事中も大丈夫です。心配でしたら弟さんがずっと付いてればいいわけですし」


「いえ、そうじゃなくて……みなさんのご迷惑にならないかと……」


「そういうことはウチの環境を見てから言ってください。それに迷惑をかけてると思うんでしたらあなたがその分しっかり働いてくれればいいんです。その代わりにこちらはあなたやご家族が安心できる場所を用意しますので」


「……はい……ありがとうございます」


 女性の目からは涙がこぼれた。


「僕も働かせてください! なんでもやります!」


 ん?

 そのうちそう言い出すかと思ってたがもうその気になったのか。

 まぁウチにいてもやることないだろうからな。


「とりあえずウチを見てからまたそういう気持ちになったんなら教えてくれ」


「はい!」


 うん、ヤックやマックみたいだな。


「では三人の従業員候補も決まりましたし早速ダンジョンに行きましょうか。みなさん、ご協力どうもありがとうございました。魔工ダンジョンの件などこれからもよろしくお願いします」


「「「「え……」」」」


「ん?」


 なんだ?

 まだなにかあったっけ?


「ロイス君……村長さんたちはどうするんです?」


「え? どうするってなにが?」


「え……いっしょにダンジョンへ行くって言ってたじゃないですか……」


「ん? だってウチで働きたいって言ってくれる人はもう見つかったんだから行く理由がなくないか? 往復一時間も大変だろうし」


 そもそもウチで働いてもらう人を探すためにまず村長さんたちに現場を確認してもらって、それを村の住民に伝えてもらうって話で進めてたんだし。

 それに悩んでる人ばかり数名ならまだしもこの三人は既にウチで働くことを決断してくれてるようだし。


「いえ……確かにその通りなんですが……できれば一度行ってみたいなと思っておりまして……」


「そうなんですか? それなら行きましょうか。九人なら馬車一台で大丈夫そうですし」


 そんなに行ってみたいものなのかな?

 どうせ三人を送ってこなきゃいけないし、ついでみたいなもんか。

 でもこんなにすんなり従業員が見つかるとは思ってもみなかったな。


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