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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第七章 家族だから

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第百五十二話 新しい家族

 ようやく昼食だ。

 今日の午前中は色々忙しかった。


 でも新規の人への説明を今日もまとめてやった分だいぶ楽だったな。

 今日の新規は十五人。

 ほとんどが冒険者に成りたての人たちばかりだった。

 その人たちにはまだあの魔法杖は必要ない。

 せめてGランクになるまでは自分でどうにかしてほしい。


「はい、どうぞ」


 カトレアがなにか俺に食べさせたいものがあると言うのでバイキング会場には行かずに家での食事にした。


「ん? これは……マグロン? もしかして寿司か?」


「え? 知ってたんですか……それにマグロンじゃなくてマグロです」


 カトレアはがっかりしたようだ。


「いや、知ってたというかこの前魚屋のおじさんに魚料理のレシピを色々聞いたからさ。その中に寿司があったんだ。だから実際に見るのは初めてだ」


「そうでしたか。ではぜひ食べてください」


 俺が食べたことがないと知って安心したようだな。


「うん。じゃあいただきます」


 そして寿司を一口で口に入れた。


 ……うん、これが酢飯ってやつか。

 確かにご飯と合うな。

 でも……。


「うん、美味しい。だがこのマグロが普通すぎるな」


「だってマグロンと比べられたら無理ですよ……」


 美味しいって言ってるんだから泣きそうにならないでくれよ……。

 それに別にカトレアが作ったわけじゃないんだからさ。


「マグロンで作ったらもっと美味しくなるってことだ。でも寿司って簡単には作れないっておじさんが言ってたぞ? なんでも何十年も修行が必要だとか」


「え、そうなんですか……知らなかったです……」


 だから泣きそうになるなって……。

 そりゃララならすぐに作れるようになると思うさ。

 でもそれにはもう少し寿司に関する知識を知っておきたいところだな。


「この酢飯の形を作るのが難しいらしい。でも酢飯は美味しかったから明日から海鮮丼のご飯は酢飯に変えよう」


「はい! 私もそのほうがいいと思ってました!」


 うん、元気になってくれたようで良かった。


「で、ランクアップ部屋の改装は問題なかったか?」


「はい。ウサちゃんに確認してもらいましたが大丈夫でした」


「そうか、ご苦労様」


 今日は想定してたより改装の数が少なかった。

 なんせ昨日地下四階に進めたのは四人だけだったからな。

 ほかにランクアップした人も含めても計二十人だったそうだし。


 だからララとユウナは朝から地下四階に行ってしまった。

 カトレアとスピカさんがいれば魔力的にはなにも問題がないしな。


「で、そこの二人はお昼寝中ってわけか」


「師匠とマリンはお昼寝が大好きなんです」


 ……俺も人のことは言えないか。

 ここにユウナが加わるとソファが全部埋まってしまうぞ。

 もう一つ管理人室側にも増やすか。


「それより二階の部屋はどうする? このままカトレアとマリンは二人部屋でいいのか?」


「う~ん、マリンも自分の部屋が欲しいお年頃でしょうからねぇ」


「なら俺が一階に移るしかないか」


「え、さすがにそれは……」


「でもそれで全部の部屋がちょうど埋まるしな。スピカさんはあの二階客室でいいって?」


「いえ、やっぱり階段が近い部屋がいいそうなので手前の部屋になりました。元々はララちゃんの部屋が師匠の部屋だったようです」


「へぇ~。じゃあマリンは今俺が使ってる部屋でいいか。カトレアは奥の客室な。とりあえずはこれでいこう」


 俺も一階のほうが落ち着きそうだ。

 だって二階には女性ばかり五人もいるんだぞ。

 ちょうど一階奥の魔物部屋隣の部屋が空いてたところだし、俺はそっちでいいや。

 魔物部屋からも入って来れるようにシルバサイズの入り口を作ろうか。

 ゲンさんには悪いけど。


「作業部屋はどうする? さすがに三人で作業するにはあの部屋は狭いだろ」


「あそこには既に物資エリアへの転移魔法陣がありますから別に構いませんが。それにパルドの部屋もそんなに広くなかったので。でもどうせなら物資エリアに錬金術エリアみたいなものを作りたいんですが……」


「おう、いいぞ。新しく作るんなら木の裏側に作ってくれ。今ユウナが作業してるところを拡張してもいいけど」


 厨房エリアや畑エリアが広くなりすぎたせいで木の裏側しか空いてるスペースがないからな。

 だから宿屋とバイキング会場のために新しい階層を作ることになったんだ。

 そのためにわざわざパルドまで水晶玉を取りに行ってもらうことになった。


「それでは木の裏側にしますね。ポーション作りもそちらでやるようにします」


「わかった。あ、でも今ドラシー寝てるんだよ。一週間くらい待ってもらってもいいか?」


「もちろんです。ほかにもやりたいこといっぱいありますのでお構いなく」


「あ、ポーションといえばそろそろハイポーションやハイエーテルが必要だと思うんだが」


「確かにそうですね。では明後日くらいから販売できるように準備しておきます」


「あぁ、頼む。ハイポーションの通常価格は40P、宿泊者価格は20Pで設定してくれ」


「「「20P!?」」」


 ん?

 カトレアだけじゃなくマリンとスピカさんの声も聞こえたか?

 ……気のせいか。


「あぁ、ハイエーテルの通常価格は……80Pでいいか。宿泊者価格は40Pね」


「「「40P!?」」」


 あ、やっぱり起きてるじゃないか。


「ちょっとちょっと! いくらなんでも20Pと40Pは安すぎだってば!」


「でも元手は魔力だけですよ? スピカさんはいつもウチから買ってくれてたから薬草代がかかってたでしょうけど。それに道具屋と行商人の料金も上乗せされてるでしょうし」


「……それもそうね」


「師匠! お兄ちゃんに言い負かされたらダメだって! 世の中のポーションが価格破壊起こしちゃうよ!」


「そうだったわ! ここだけの問題じゃないんだからね! その道具屋に行商人、錬金術師まで破綻しちゃうじゃない!」


「でも実際このダンジョンだけの話ですし。みんな出禁にされると思ってるせいか今まで転売されたことはありませんしね。それにウチの薬草と水を使えばコスパがいいんですよね?」


「そ、そうだけど……」


「錬金術師の方には申し訳ないですがそもそもウチはポーションで稼ぐ気はありませんからね。これまでは一人50Gのダンジョン入場料だけで従業員の給料にトントンもしくは少し足りないかなって計算でしたし。それに加えポーション類や三食の食事、ダンジョンストアの売り上げが加算されてたわけですよ? はっきり言ってそれらの売り上げは入場料とは比になりません。これからは魔石を吸収する分出費が増えますが、それ以上に宿屋の収入は多いんです。入場料と食事代はゼロになりましたが宿代は確実に計算できる収入ですしね。おそらく魔石のレートを半分にせずにそのままでも利益はそれなりに出るはずなんです。でもさすがにそれは未確定の収入に頼ることになるのでしませんけど」


「「……」」


「利益が出る以上、その分冒険者に還元できることはしていかないとダメだと思うんですよ。だからこそ冒険者の必需品である道具を格安にすることが大事なんです。道具を惜しみなく使えるとなれば冒険者たちの戦闘回数も増えますからね。つまり魔力の循環が良くなるんです。結局ウチは魔力さえあれば資源を無限に生み出すことが可能なわけですから。あ、でもだからといってなんでもできる気になったりしないよう気をつけていますよ? それは普段からララにも言い聞かせてます。三人は親戚であって今や家族ですから全てをお話しましたけど……」


「「……」」


 マリンとスピカさんは黙ってしまった。


「ロイス君、それくらいにしてあげてください。料金設定に驚いたのは私も同じですから」


「ん? ダメなのか?」


「ダメじゃないです。みなさんビックリされると思いますが、それがこのダンジョンのいいところですしね」


「そうだろ? ついでだからこの際、解毒ポーションはポーションと同じ10P、エーテルは20Pにしよう」


「ふふっ、いいと思いますよ。全部の魔道具を設定し直しておきますね」


「悪いな。数が多いけど頼むよ」


 ……二人には少し強い口調になってしまったかな?

 でも経営は黒字だから安心してほしかったんだ。

 だから二人もお金のことは気にしないで好きな錬金に励めばいい。

 まぁ錬金術師がお金に困るなんてことはないだろうけどな……。


「なにこの子! 超有能ね!」


「そうでしょ!? お兄ちゃんは優しくて知的なんだから!」


 ……はい?

 俺に強く言われてへこんでたわけじゃなかったのか……。


「いえ、本当に凄いのはララですよ。俺が適当に提案したことを実現可能かどうかを計算してくれるのはいつもララなんですから」


「謙虚さまで持ち合わせてるとはやるじゃない!」


「そうでしょ!? お兄ちゃんは謙虚でカッコいいんだから!」


 ……調子が狂うな。

 これからいっしょに暮らしていけるか不安だ……。


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