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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第七章 家族だから
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第百五十話 久しぶりの光景

「おはようございます! いってきます!」


 小屋から出てきた冒険者たちはみんな元気よく挨拶をしてくれる。

 そして手を振りながらダンジョンへ入っていく。


 なぜ手を振る?

 もちろん俺に手を振っているわけではない。


「おはようございます。いってらっしゃい」


 そしてなぜ手を振り返す?

 流行ってるのか?


「ほら? ロイス君も手を振ってあげないとみんな元気出ないですよ?」


「いや、俺はいいや……」


 俺が手を振ったところで誰も喜ばないしな。


「なんだか受付をしないと寂しいですね」


「そうか? 楽でいいと思うけど」


「早く新規のお客様来ないですかね?」


「まだ八時だからな。昨日も三十人くらい来たから今日もきっと来ると思う」


「新人冒険者って響きいいですよね」


「そうだな」


 なんだこれ……。


 なんか調子が狂うな。

 会話のテンポが今までと違うのか?

 前はもっと間がなかったっけ?


「なぁ、なんか雰囲気変わったよな?」


「私ですか? ふふっ。髪を切ったからじゃないですか?」


 確かに昨日見たときはビックリした。

 いきなり現れたことにもだが髪が前よりかなり短くなってたからな。

 30センチ近く切ったんじゃないか?


「まぁいいや。で、話はなんとなくわかったが、本当にここに引っ越してきたのか? 前みたいにしばらく住むとかじゃなくて?」


「はい。これからはここが私たちの家になります。パルドの家は引き払ってきました。もちろんご迷惑なら隣に新しい家を建てますが」


「いや、迷惑ってわけじゃないけどさ……急すぎないかと思って……」


「人生はいつなにがあるかわからないんです。例えば私たちが生きてる時代に魔王が復活するなんて誰も想像しなかったでしょう? だから私たちもなにかに縛られずに柔軟に生きていこうと思ったんです」


「へぇ……」


 絶対これ違う人だよ……。

 いったいなにがあったんだ?

 実は双子の妹とかじゃないのか?


「それよりロイス君、今朝全ての施設を見せてもらいましたが、やはり凄いですね。ウサちゃんたちも仕事がいっぱいあって嬉しそうでしたよ。ロイス君もよく顔を出してくれるって喜んでましたし」


 あ、これカトレア本人だ。

 やけにウサギたちになつかれるんだよな。

 ユウナだと意思疎通が上手くいかないんだ。

 だから俺が頻繁に顔出すようにしてたんだけど、カトレアがいるなら楽できていいな。


「宿屋はどう思った? 全ランクの部屋を見たのか?」


「はい、どれも最高じゃないですか。料金設定も激安ですし。これで不満がある冒険者の方がいたらそれこそ出禁ですよ」


「出禁?」


「あ……」


「…………どこでそのことを?」


「え……昨日マルセールの町の人に挨拶してきたときにみなさんが言ってました……」


「俺と元町長の話は本人から直接聞いてるんだよな?」


「……はい。ロイス君も少し言いすぎかと思いましたけど……」


 町の人たちは出禁騒ぎを楽しんでやがるな……。

 といってもどうせゲルマンさんか道具屋の店長さんあたりだろうけどさ。


「というか魚屋の件はどういうことなんだ? もし俺が元町長には売らないって言ったらどう責任取る気だったんだよ?」


「……いくらいざこざがあった相手とはいえ、ロイス君はそんなことしないと思ってましたので」


「……まぁ結果的には良かったけどさ。でも当分はアジジとサババとアサーリ、それと採集物のコンブとアオサだけになるかもしれないんだからな」


「少し融通してあげるわけにはいかないですか?」


「ダメだ。それなら肉屋も八百屋もってなるだろ。ただでさえドロップ率を上げてるんだからな」


「……そうですよね」


「ちょっとロイス? 朝からあまりカトレアをイジメないでよね~」


「……おはようございます」


「師匠、おはようございます」


「うん、おはよ」


 ……俺この人苦手なんだよなぁ。

 本当にいっしょに住む気なのかな?

 元々はこの家に住んでたとはいえさ。


「なんであなたはまだそんな他人行儀なのよ? 別に私のことをお母さんって思ってもいいくらいなんだからね」


「いや……それはさすがに無理があると思いますけど……」


「どういうことよ? こんなお母さんじゃ嫌ってこと?」


「いえ……そういうわけじゃ……」


「師匠、ロイス君が困ってるじゃないですか。それより朝食バイキング行ってきたらどうですか? 今ならもう空いてますよ」


「あっ! そうだったわ! どんな料理があるか楽しみね! マリンは!?」


「まだ寝てます。昨日は荷物整理で遅くまで起きてましたから」


「なら起こしていっしょに行ってくるわね! ロイス! カトレアをイジメたらダメだからね!?」


「はいはい。イジメてないですからね」


 スピカさんは走って二階に上がっていった。

 そしてすぐにマリンを連れてきて、そのまま廊下からバイキング会場へ転移していった。


「マリン、なにがなんだかわからないまま連れていかれたぞ……」


「あれが師匠なんです……。久しぶりにマリンに会えて嬉しいんでしょうね」


「もうこの時間はほとんど冒険者がいないからいいもののさ。せめて着替えたり顔洗ったりするの待ってあげればいいのに……」


「ここは家ですからね。家じゃそんなこと気にしないでしょう?」


「でもお客がいるんだからさ……」


「師匠が朝からこんなにテンションが高いのも珍しいです。きっとバイキングが楽しみなんでしょうね」


 ずっとクロワッサンだけしか食べてこなかった人なんだよな……。


「あ、そうだ。明日からカトレアの作るクロワッサンも置いたらダメか? 今朝聞かれたんだよ。シンプルなパンはないですかってな。作るのが嫌なら無理にとは言わないが……」


 ここに来てからカトレアがクロワッサンを作ったのなんてほんの数回だからな。

 それも俺とララが興味津々で食べてみたくなってむりやり作ってもらった物だ。


「いいですよ。私の得意錬金のクロワッサンとチーズ蒸しパンをみなさんにぜひ食べてもらいましょう」


「え? いいのか?」


「もちろんです。師匠もクロワッサンは常に作っておくようにって言ってましたから」


「そうなのか。なら明日から出してくれ。料理転送魔道具はマリンが今日作るって言ってたから」


「それはそうとロイス君、マリンに無茶させなかったでしょうね?」


 無茶?

 ……させてないよな?

 泣いたりしてなかったもんな?

 ちょっと怒ったくらいでカワイイもんだったよな?


「楽しんでやってくれてたと思うんだけどなぁ……マリンに聞いてみないとわからないけど……」


「ロイス君が思う楽しいとマリンが思う楽しいとは違うんです。マリンは泣いてませんでしたか? あの子よく泣くんです」


「マリンも泣くのか? ……いや、ここに来てから泣いてるところなんて見たことないけどな? でも昨夜の食事中はもう少しここにいようかなって泣きそうになってたけど」


「……それならいいんです。ロイス君、ありがとうございます」


「え……いや、お礼を言うのはこっちなんだけど……」


 マリンがいなきゃ実現不可能なことばかりだったからな。


「あ、そうだ。大きい画面みたいなのすぐに作れる? ダンジョン内の映像をダンジョン酒場後方の壁いっぱいに映し出したいんだ。その日の夜に日中の戦闘風景をさ」


「う~ん。簡単に言ってくれますけど、大きな画面となりますと材料もそれなりに必要になりますし、過去の映像となりますと一度どこかに保存しておく必要がありますからね……」


「よくわからないけど早めに頼むよ。マリンも帰ったらカトレアと相談するって言ってくれてたんだ。ちょうど良かった」


「私、少しやりたいことがあるんですけど……それに荷物整理もしないと……」


「どうせ散らかるんだから荷物はレア袋に入れたままでいいじゃないか」


「……それもそうですね……レア袋?」


「あぁ、カトレアが作った貴重な袋だからレア袋」


「レア袋……ふふっ。少し水晶玉見てみますね」


 カトレアは水晶玉を持ってリビングに移動し、ソファに座った。


「あ、サブの設定しないとな。マリンもこのままサブでいいよな?」


「はい。この調子だとマリンにもやってもらいたいことがたくさん出てきそうですので……」


 錬金術師が多いとなんでもできそうだな。


 ん?

 外から足音が聞こえてきた。


「あ~、ロイスさん! 寝坊しちゃいましたぁ~! いってきます!」


「おはようございます! いってきますね!」


 俺が外を振り向いたときには二人は既に管理人室を通りすぎており、そのまま走ってダンジョンへ入っていった。


 あの新人魔道士二人組は二日目から寝坊かよ……。

 まぁパルドからここまで旅してきて、昨日丸一ダンジョンに入ってたら疲れもあって当然か。

 ましてや新人冒険者なんだし。


「……あ、そういや今ダンジョンに入っていった新人の二人、カトレアの知り合いとか言ってたぞ?」


「え? 私のですか?」


「あぁ。名前は……聞いてなかったな。でもパルドの魔工ダンジョンにカトレアといっしょに入ったとか言ってた。魔法が出る杖も持ってたし」


「あっ! それベルちゃんとエマちゃんです! あのお二人もここに来てたんですね! そうですか~、ふふふっ」


 テンション高いな……。

 ここを出てからの四か月の間にいったいなにがあったんだよ……。


「魔法付与も順調そうじゃないか」


「……いえ、まだまだ時間がかかると思います」


「そうなのか。でも未完成とはいえ、魔法が出せたりはするんだろ?」


「そうですけど……」


「それだけで凄いじゃないか。火魔法以外もあるんだったらユウナに使わせてやってくれ」


「はい……でも欠陥品のうえに初級攻撃魔法しか出せないのにユウナちゃんは満足してくれるでしょうか」


「試作中の杖を使わせてもらえるんだからそれだけで嬉しいだろ。それにまだできてないってことはスピカさんでもできなかったってことだろ? そんな難しいものをたった四か月で半分成功させてるんだ。カトレアにできなかったら誰にもできるはずないだろ。だから長い目で考えればいいんだよ」


「ロイス君…………はい。ありがとうございます。まだ未熟ですがきっと完成させてみせますので」


「うん。もうここから出ていくことはないんだよな?」


「はい。ここが私の家ですから。今度は師匠もマリンもいますし。錬金術の修行の場としてもここ以上の環境はありません」


 そうか、増々俺がのんびりできる環境が整っていくな。


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