第百四十七話 地下四階魔物紹介
ララたちが一向に戻ってこないので地下四階休憩エリアを水晶玉で覗いてみた。
するとベンチでお昼寝しているではないか……。
テーブルの上には空の弁当が転がっている。
もう休憩エリアまで行ってたのか。
中級レベルの魔物も何種類か出てきたはずなんだけどな……。
ここの休憩エリア内には水がないから本当に地上と変わらない。
エリアは半球状の魔力膜で囲まれており、周辺を魚が泳ぐ姿を眺めることだってできる。
魚じゃなくて魔物か。
きれいな景色だからのんびり休憩したくなるはずだ。
ほかの冒険者たちはどれくらい地下四階に来れたんだろうか。
……え?
六人だと?
つまりララとユウナを含めまだ二組しか来れてないということだ。
やはり魔物急襲エリアで手こずってるのか?
それともトロッコか?
少し覗いてみるか。
……トロッコ前には誰もいないようだ。
魔物急襲エリアは……結構いるな。
まぁ今日一日は様子を見てみることにしよう。
それより地下四階に二組しかいないとなると魚屋が心配だ。
今日のドロップ品をあてにしてるんだからな。
明日がオープン日だっていうのに魚がなけりゃ可哀想だろ。
……調達してもらうか。
「えー、地下四階にいらっしゃるみなさま、ダンジョン管理人です」
あ、ヒューゴさんたちビックリしてる。
そりゃいきなり声が聞こえてくるとそうなるよな。
ララたちは俺の声だからかピクリともせずに寝てるけど……。
「戦闘中やお昼寝中だとは思いますが、地下四階の魔物について少しご紹介させていただきます。みなさまはどうかお気になさらずに戦闘やお昼寝を続けてください」
俺が見てることはもうバレてもいいや。
どうせそのうちダンジョン酒場に映像を流すことになるしな。
「まず入り口付近に出現しますのはアジジ、サババ、アサーリの3種類の初級レベルの魔物です。初級レベルとは言いましても、みなさんの動きは水中では少し鈍くなっておられると思いますのでご注意ください」
いや、別にその場にとまって聞いてくれなくてもいいんだけど。
というかまだそこ入り口からほんの少ししか移動してないよな……。
「アジジとサババは問題ないとは思いますが、アサーリにはご注意ください。気を抜くと貝の中へ引きずり込まれますので」
アサーリは地味にやっかいな敵で、1メートルもある貝殻の中に小さなアサーリが百匹近くも生息してるんだ。
そしてその大きな貝殻ごと襲ってくる。
中のアサーリ自身は魔道士タイプで、大きな貝殻を操ったり、水系の魔法で攻撃してくる。
だが倒すには大きな貝殻を破壊すればいいだけだ。
住処を失った小さなアサーリたちは怯えて動けなくなる。
あとは煮るなり焼くなりするだけだ。
今日の夜からはアサーリの味噌汁も登場するからな。
出汁が出て最高に美味いし、アサーリ自体も美味い。
俺はどちらかというと朝に飲みたいかもしれない。
まぁアジジやサババが楽勝だとは言っても、冒険者のほとんどは海の魔物と初めて戦うはずだから最初は戸惑うだろうな。
1メートル級とはいえ魚が襲ってくるとかなりこわく感じるもんだ。
「続きまして、その先から休憩エリアまでに新たに登場する3種類の魔物をご紹介させていただきます」
まだまだ続くとわかって歩き出してくれたようだな。
ララたちは……うん、寝てる。
疲れてるんだろうな。
「まずはホッケーです。焼くと最高に美味しいです」
「「「「……へ?」」」」
それしか特徴がないんだよ。
攻撃自体はアジジとかと同じで突進だからな。
少し大きくなった分、中級レベルとされてるんだろう。
「次はヤリイッカです。実物を見たことがおありでしょうか? 体長は150センチほどですが、こちらは非常に危険です。足が10本あるように見えますが、そのうちの長い2本は……」
「「「「……2本は?」」」」
「……槍です」
「「「「えっ!?」」」」
槍といっても鉱石で作られてるわけないぞ?
槍のように鋭いって意味だ。
その槍での攻撃に加え、たまに墨も吐いてきたりするからな。
「そして最後はミズダッコです。こちら、なんと体長が……」
「「「「……」」」」
「10メートルもあります」
「「「「え……」」」」
それはもうただの恐怖だよ。
長い8本の吸盤付きの足で襲ってくるんだからな。
だが耐久力はそこまでのものじゃない。
噂では剣でスパスパ切れるらしいし。
中級者に成りたての彼らにはまだ難しいかもしれないが。
「タコ足に体の自由を奪われましたら根元から切ってあげてください。絞められて苦しくなるとHPも減りますから死ぬことはありませんけどね」
「「「「……」」」」
先に進むのをためらっているようだ。
今はこわくなるような話しかしてないからな。
「以上が第一休憩エリアまでの魔物になります。ちなみにですが、アサーリのドロップ品はアサーリ約百匹です」
「「「「百匹!?」」」」
あ、アサーリの生態を知らないのか。
まぁいいや。
「そのほかにご紹介しました魔物はミズダッコ以外は一匹丸ごとがドロップ品となっております。ミズダッコは足一本です」
「一匹丸ごとですか?」
「買取額はいくらなんだろう……」
「ヤリイッカとミズダッコってのがこわすぎるんだが……」
「とりあえず休憩エリアまで行ってみない? ヤバそうだったら逃げながらさ」
それがいいだろうな。
「特別に今日の買取額をお教えします。アジジ、サババ、アサーリについては100Pです」
「100Pですか……」
「それなら地下三階の魔物の肉のほうが高いよな」
「でも俺たちが地下三階に行くのは採集のためだけにしたほうがいいだろ」
「そうよ。雑魚相手と思われるかもしれないし、地下四階から逃げ出したかとも思われるかもしれないしね。それにもう私たちは中級者なんだから初級者に尊敬されないと」
そう考えてくれると思った。
本当なら乱獲を防ぐために地下三階以下に入るのを禁止にしようと思ってたんだ。
でもここの冒険者を信じてそれはやめておいた。
「そしてホッケーとミズダッコは200P、ヤリイッカに関しては250Pです」
「おぉ~、なかなか高いじゃないですか」
「しかも第一休憩エリアまでの魔物ってことだよな?」
「あぁ、その先にはもっと高いドロップ品もあるだろう」
「ドロップ品はついでって考えようよ。このコンブやアオサっていうのをまず集めないと」
そうだ、みんなの採集袋のリストにはコンブとアオサが追加されてるはずだからな。
「ちなみに採集物のコンブとアオサは合計100Pになりますのでお忘れなく」
「「「「高い!」」」」
そうだろ?
それだけでEランクになることによって上がった200Pのうちの半分だぞ?
地下三階までの全部の採集物を集めると300Pにもなる。
これを知って宿代が高いなんて言う人は誰もいないだろう。
それくらい稼げない中級者なんて中級者とは呼べないからな。
「それと重要なことをお知らせしておきます。地下四階の通常ドロップ率はしばらくの間…………10%です」
「「「「おおっ!?」」」」
「高いですね!」
「それなら地下三階よりも効率がいいかもしれない!」
「倒せればだけどな!」
「アジジ、サババならいけるわよ!」
地下三階の魔物だってみんな最初は倒せなかったじゃないか。
だからすぐに倒せるようになるさ。
「もっと奥の魔物に設定されているレアドロップ率は3%、それよりもっと低確率の超レアドロップというものもございますのでぜひご自身でゲットしてみてください。では管理人からの放送は以上になります。戦闘中またはお昼寝中失礼しました」
「早くレアドロップを持った敵と戦えるようになりたいですね」
「そうだな。それよりまずここらへんの敵で10%を体感してみようぜ」
「じゃあアジジとサババとアサーリをそれぞれ三匹ドロップ目標にやらないか?」
「そうね。てゆうかさ、お昼寝中って絶対ララちゃんとユウナちゃんのことだよね……」
「もう休憩エリアまで行ってるということでしょう。さすがですね。私たちも負けてられませんよ」
それからヒューゴさんパーティは近場の魔物と戦い始めた。
これでどうにか初級の三種類については数匹は調達してくれるだろう。
でもまだまだ数が足りない。
やはりララたちに頼むしかないか。
「マリン、地下四階に行くけどいっしょに行くか?」
「行く! 私も休憩エリアでお昼寝したいもん!」
「お昼寝はしないけどな。散歩だ」
それからマリンといっしょにダンジョン入り口の地下四階第一休憩エリア用の転移魔法陣で転移した。
「わぁ~やっぱり何度見てもきれいだね!」
「癒されるよな。そりゃお昼寝もしたくなる」
こいつら、俺の放送の声に気付いてるはずなのに気付かないフリして寝続けてるに違いないからな。
今も俺とマリンが来たことに気付かないわけがないし。
「おい、起きろ」
「「……」」
「疲れてるのはわかるが、それなら家で寝ればいいだろ」
「……だって家に戻るとまた来るの面倒になりそうなんだもん」
「そうなのです。明日は来れない分、今日はもっと先に進むのです」
「そんなに焦る必要はない。ヒューゴさんたちだってまだ入り口付近だ。それにほかのパーティはまだ地下四階にすら来てない」
「えっ!? ティアリスさんたちも!?」
「もしかしてみんなトロッコがこわいのです!?」
「いや、魔物急襲エリアを突破できてないんだ。一度目で乗り切らないと二度目からは気力的に厳しいのかもしれない」
実際にさっきティアリスさんたちはエリアの半分にも行けてなかった。
何度目の挑戦かはわからないが。
「だから今日ここには来てもヒューゴさんたちだけだ。そのヒューゴさんたちも入り口付近で採集やアジジたちのドロップ品を狙うことにしたようだし」
「な~んだ。じゃあどっちにしてもここから先には進まなさそうね」
「それならもう今日は帰るのです。疲れたのです」
二人は弁当を片付け始めた。
「ここでのドロップ品は?」
「えーっと、アジジとサババが一匹ずつとアサーリがいっぱい? あんな大きな貝の中にいっぱいアサーリがいるなんて知らなかったからビックリしたよ……」
「でもアサーリとの戦闘は楽しかったのです! 水魔法が上手なのです!」
「ホッケーとヤリイッカとミズダッコは?」
「ホッケーは数匹倒したけどドロップしなかった。ヤリイッカは一匹だけしか倒してないし」
「ミズダッコは……気持ち悪かったから逃げたのです……」
「そうだよ……いつもは足しか見てなかったからさ……」
つまり中級レベルの魔物とは数匹しか戦ってないってことか?
よくそれだけでここまで来れたな……。
ずっと逃げて来たわけじゃないだろうし。
「マリン、設定がおかしいのかな?」
「この前お兄ちゃんがテストでメタリンちゃんたちに戦わせてたときにいじったままなんじゃない?」
「あ…………それだ」
メタリンがヤリイッカ三匹相手に戦いたいって言うからその周辺の魔物は出なくしたんだった。
それにシルバやウェルダンにも魔物の強さが妥当かどうかを調べてもらってたりして色々設定いじってたからな……。
ララとユウナがじーっと俺を見つめてくる……。
「……てわけで明日からは魔物の数がもっと増えるから簡単にはこの休憩エリアには来られない。それに地下三階を突破できないようなら尚更だ。そんなことより、ホッケーとヤリイッカとミズダッコを最低でも一匹ずつゲットしてきてくれ。できればヒューゴさんたちの近くでな。このままじゃ魚屋オープンに魚がないなんて事態になりかねない。ここから入り口までの道を少し外れれば普通にいっぱいいるはずだから頼んだぞ。じゃあマリン、俺たちは帰ろうか」
「お兄?」
「設定ミスなのです! どうりで簡単すぎると思ったのです!」
さて、俺もお昼寝しようか。