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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第六章 新鮮な二日間

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第百四十三話 ララ・ユウナ応援隊

 宿屋フロント前のロビーに場所を移動して地下三階の様子を見ている。

 従業員のみんなも見たいと言ったからだ。

 お客は全員ダンジョンの中だからまぁたまにはいいだろう。

 こんな白熱した戦いが見られるのもめったにないしな。

 リョウカとシンディは仕事をしながらフロントから見ているようだ。


「ララちゃん行けーっ!」


「ユウナちゃんももっと攻撃魔法出しなさいよ!」


「本当にベビードラゴンをあっさり倒しちゃうんだ……」


「よし、ティアリスさんたちが見えてきましたね!」


「店長ヤバすぎだぜ!」


「ん、切れ味は悪くなさそう」


 マリンに頼んで画面の倍率を上げてもらっておいて良かった。


「なぁ、これから朝と夜にはダンジョン酒場に前日やその日の戦闘の様子を映し出そうか?」


「それいいな! 酒が進むこと間違いなしだぜ!」


「面白そう! 戦いの参考にもなるかもしれないしね!」


 うん、我ながらいいアイデアだ。


「ということだからマリン、今日中にダンジョン酒場の後方ど真ん中にどでかい画面をつけよう」


「無理だよ」


 食い気味に拒否された……。


「無理なのか?」


「当たり前でしょ。それに今見てる画面をほかに映すなんて簡単にできてたらわざわざ水晶玉を持ってくる必要ないもん」


 確かにそうだな……。

 カトレアもそれをしなかったということはできなかったんだろう。


「すまん、じゃあまた次に来たときに頼む」


「お兄ちゃん……まぁお姉ちゃんと考えてみるけどさ」


「本当か? できそうならまた連絡くれよ。いつでも迎えに行かせるからな」


 酒場なんだから盛り上がってなんぼだろう。

 自分たちの映像を流してもらいたい冒険者もいるだろうからな。


「それよりいよいよ魔物急襲エリアに入るみたい!」


「相変わらずヤベー色だな……」


「外からでも魔物がいっぱいいるのがわかるよ……」


「あ、でもみなさんいっさいためらわずに入っていくんですね」


「もう慣れてるからな。ここからが本当の戦いだぞ」


 ララたちは四番目だからまだ可能性はあるな。


「なぁ、複数の冒険者を同時に映せないか?」


「だからできてたらやってるって! それになんで帰る前日に言うの!」


 マリンが珍しく怒った……。

 怒ったっていうのも少し声が大きくなった程度だから可愛いけどな。


「じゃあそれも次までに頼む」


「お兄ちゃん……私もう来ないかも……」


 そんなこと言ってもマリンは優しいからきっとなんとかしてくれるんだろ。

 カトレアだって泣きながらもなんでも作ってくれてたし。


「こんなに魔物の数多かったっけ?」


「ん? 倍まではいかないけどそれなりに増やした」


「「「「え……」」」」


「それと距離も少し長くした」


「「「「……」」」」


 だって簡単に行かれちゃ面白くないからな。

 ここを抜ければ中級者なんだぞ。


 それに魔王になんて負けてられないし。

 ベビードラゴンだってこのダンジョンのほうがもっと多く配置できるんだということを見せつけなければならない。

 まぁ見られることはないんだけどな。


 でもただベビードラゴンを多く配置しただけじゃないぞ。

 ほかの魔物たちとのコンビネーションをぜひ見てほしい。


「これは無理でしょ……」


「地上もヤバいけど空もヤバい……」


「死人が出るんじゃないですか……」


「地下四階は今日はお預けみたいだね……」


 いや、これくらいなら5パーティくらいは突破できるはず。

 何度か休憩エリアに戻ることになるだろうけどな。


「でもドロップ品を狙うには持ってこいの場所だろ?」


「そんな余裕ないでしょ……」


「ん、絶対無理……」


「おそろしすぎるぜ……」


 ……そう言われると確かに少しやりすぎな気がしてきた。

 ま、まぁ初日だからな……。

 明日からしれっと数を少し減らそうか。


「でもララたちもティアリスさんたちも進んでるじゃないか。それに先頭いってるパーティはもっと先に行ってるはずだ。前は魔物で見えないけど……」


「ティアリスさんたちこんなに強かったっけ?」


「前衛二人は全身鋼装備にしたみたいだからな。それにジョアンさんは補助魔法を勉強してるって言ってた」


「一年でこんなに強くなれるんだね。先頭のパーティは確か冒険者になって四年目とかでしょ?」


「そうだな。それでも早いほうだと思うからティアリスさんたちがこの一年どれだけ修行してきたかがわかるだろ」


 いつも一番乗りなのは意欲の表れだろう。

 お兄さんたち二人は三年目だけどな。


 ……でもほかのパーティもここに来たときは今より全然弱かったよな。

 ということはこのダンジョンで成長してくれたってことか。

 これくらいで満足してもらったら困るけど。


「あっ! お兄さんの色が変わった!」


「ティアリスさんがいるからすぐ回復するさ」


「もう一人のお兄さんも黄色になったよ!」


「大丈夫だって」


「ジョアンさん、オレンジだよ……」


「大丈夫……」


「あ……先にジョアンさんが……」


「……」


「あ、お兄さん二人も……」


 ……まぁ休憩エリアはすぐ手前だからまたすぐに来れるさ。


「これ、最後に残されることになったティアリスさんは地獄だよね……」


「戻ろうにも戻れないしね……」


「HPが赤になるのを待つしかないですもんね……」


 確かに……。

 でも仕方ない。


「ダメージを受けて自分のHPの限界を知るためには必要なことだ」


「酷い……」


「残酷すぎる……」


「ん、少し敵が多すぎるね」


 この前までティアリスさんたちはここを突破できてたからな。

 そのせいで油断した部分もあると思う。

 今半分まで行ってたから距離も伸びてることに気付いただろうし。

 次に期待しよう。


「でもララは順調だろ? ほら」


「かなり疲れてるように見えるけど……」


「でもベビードラゴン以外はほとんど一撃で倒してるね」


「ん、剣の持ち方がいつもと違って両手で持ってるからね」


 そういえばそうだな。

 いつもなら右手に剣、左手からは火魔法を放ってるはずだ。


「ベビードラゴンが火に強いからか。片手だと皮が硬くてダメージが少ないから両手で一気に一刀両断しようってことだろう」


「ん、でもそれなら両手用の大剣を作ってあげれば良かった……。売ってるやつはララには少し大きいし重いからもう少し小さくして軽くしてあげないと」


 そうなるとまさにミスリルがうってつけだな。

 中級者用にもう少し予備も作ってもらっておいたほうがいいかもしれない。


「あれ? でも今ララが使ってるの鋼の剣だよな?」


「ん、きっとここでミスリルを使うのはフェアじゃないと思ってるんだね」


 いまだにミスリルの剣は一本も売れてないからな。

 ララが使ってたらそれこそ贔屓だと思われる。


「お? ララもさらにスイッチを入れてきたな」


「凄い……あんな細い体のどこにあんな力が……」


「あの片手用の剣だってとっても重いんだよ……」


「きっと今は魔力を身体能力強化だけに使ってるんです」


「ん、それにユウナの補助魔法もかなり効いてるね。攻撃力や素早さがララ単独のときよりも桁違いに感じる」


 そういえばララはここ数か月一人で魔物急襲エリアに挑んでたんだっけ。

 理由はユウナの補助魔法があると楽勝だからって言ってたな。


 ユウナも補助魔法や回復魔法を色んな人の動きや特徴に合わせてかけられるようにするために助っ人を始めたんだもんな。

 攻撃魔法を覚えたいのを我慢して得意なその二つをまず極めることにしたんだ。


「でもよ~、どうやって身体能力強化に魔力を使うんだよ?」


「「「「……」」」」


 みんな方法までは知らないからな。

 もちろん俺は知っている。

 ララから聞いただけだけど。


「ララが言うには体全体に均等に魔力を纏わせるんだってさ。一部だけとかだと体のバランスが崩れて上手く歩けなかったり腕が思うように動いてくれないらしい。その纏う魔力を強くすればするほど当然魔力消費は激しいからすぐに疲れるみたいだな」


「ユウナちゃんの補助魔法はララちゃんの魔力層の上からさらに何重にも魔力を重ねてるようなイメージなの。攻撃力上昇は力を上げたり、素早さ上昇は体を軽くしたりするピンポイントな魔力の層だね。それに対してララちゃんの身体能力強化はユウナちゃんの補助魔法の効果ほどではないけど全部の能力を均等に上昇させる総合版みたいなものかな」


 マリンもなかなかわかってるじゃないか。

 錬金術師じゃなくて戦闘タイプの魔道士に憧れたりしたことがあるのかもな。


「……要するに店長もユウナも凄いってことだな」


 メロさんは考えるのをやめたようだ。


「それよりもうすぐ終わりそうだ」


 魔物急襲エリアの出口が見えてきた。


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