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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第六章 新鮮な二日間
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第百四十一話 新年度

 いつもより早く目が覚めた。

 まだ六時半前だ。


 二度寝しようとも思ったがパッチリ目が覚めてしまった。

 ……とりあえず準備をしよう。


 顔を洗い、着替えて家の外に出る。

 家の前にはシルバたちがいた。


「わふ? (早いね。寝れなかったの?)」


「おはよう。いや、頭は冴えてるからよく寝れたんだとは思う」


「チュリ(今朝が楽しみだったからじゃないですか)」


「そうかもな。今から散歩か?」


「わふ(うん。リスたちにも探索の仕方を教えてるんだ)」


「そうか。気をつけて行ってくるんだぞ」


「「「「ピィ! (行ってきまーす!)」」」」


 シルバ、メタリン、ウェルダン、リスたちの計九匹は森の中を町の方向へ走っていった。

 ……さすがにあの速さに俺は付いていけないな。


「チュリ(あの子たち、あんなに小さいですけどやはり魔物なんですよ。それにもう地下二階レベルの敵じゃ相手になりません)」


「え……どんな戦い方をするんだ? リスだから素早さ重視の物理攻撃か?」


「チュリ(いえ、100%魔法です)」


「は? ……ま、まぁ魔力はたっぷり取り入れてるからな。でもリスだ、地下二階でいっぱいいっぱいだろ」


「チュリ(どうでしょうか。六匹それぞれ得意な魔法が違いますからね。今後どう成長するかはまだしばらく様子見です)」


「お、おう?」


 シルバたち、この前まで普通のリスだったやつらにどんな鍛え方してるんだよ……。


「そういやピピは行かなくて良かったのか?」


「チュリ(明日は王都に向けて出発しますからね。今日はここでゆっくりしてたいんです)」


「そうか。いつも飛び回ってるんだからたまにはゆっくりしたほうがいいぞ。ならいっしょに宿屋に行ってみよう」


 ピピは俺の肩にピョンと乗ってきた。


 ゲンさんは魔物部屋にいないようだから森の見回りに行ってるんだろうな。


 小屋に入り、そのまま宿屋への入り口の転移魔法陣を通った。


「……あっ? 早いな」


「ロイス君! おはよう」


「おはようございます!」


 フロントにはリョウカとシンディがいた。


「宿屋ってこんなに早くからフロントにいるもんなのか?」


「今日は特別だからね。明日からは七時前に一人いるだけにするから」


「そうか。夜も遅かったのに悪いな」


「いえ、宿屋はこれくらい当然なんです! だから気にしないでください!」


 これが楽だと思ってくれてるんならそれでいいんだけどな。


「大浴場は誰か使ってるか?」


「うん。男女それぞれ十人くらいかな」


 やはりこの時間から入る人もいるのか。

 目を覚ますのにはいいのかもしれない。


「じゃあランチが終わるまでは大変だと思うが任せたからな」


「うん!」


 宿屋の仕事は午前中が忙しいらしい。

 シーツ交換や部屋掃除、それに大浴場の掃除。

 といってもウチの場合、実作業はほぼウサギだけどな。

 チェックアウトする人もほとんどいないし。


 その代わりにウサギたちへの指示やシステムに不具合がないかどうかの確認をしなければならない。

 魔力の使用状況などを見て改善案を出すのも彼女たちの仕事だ。

 お客からの要望や不満を聞いてもらったりもする。


 フロントをあとにして、バイキング会場へ入った。

 もちろんまだ関係者以外は入れない時間だ。


「あっ!」


「え? あら、ロイス君おはよう。ピピちゃんもおはよう」


 既にミーノがいた。

 料理転送魔道具の確認をしてくれているようだ。


「おはよう。魔道具の準備は大丈夫そうか?」


「もちろん。昨日の夜にも確認したけど一応ね。はい、ウインナー」


 料理転送魔道具が置かれているこのレーンは朝、昼、夜とでレーンごと丸々入れ替わるからな。

 いちいち魔道具を置き換えるのは面倒だし。


「うん、美味い。でもやっぱり夜に比べると料理がシンプルだな」


「そうね。でもしばらくはこれでやってみて要望があったら聞きましょうよ」


「そうだな。おにぎりやサンドイッチの種類が増えただけでも嬉しいだろうし。明日からは味噌汁の種類も増えるしな」


「でもやっぱり厨房に誰もいないのは寂しいかもね」


「今は仕方ないって。バイキングが決まったのはまだ数日前だし、みんなも忙しかったから人を探す余裕なんてなかったし」


 シンディには以前からリョウカが声をかけてくれてたからな。

 元々は調理担当で入ってくる予定だったんだ。


 さすがにこれ以上はみんなの身内も頭打ちだろう。


「まだマルセールに働いてくれそうな人はいるのか?」


「それはもちろん。でも今後マルセールもお客が増えるだろうからね。もうウチの店にも注文量が増えてるしさ。ここに来たいとは思ってくれてても来れないかもしれない……」


 当初は地下四階を作ることでマルセールにもお客が増えると思っていた。

 だがウチが宿屋を始めたことによってウチに来るお客はマルセールには用がなくなるはずだ。

 でもそれより魔工ダンジョンの件が大きいということだろう。


 王都の一件でダンジョン周辺の魔瘴が濃くなることは認識された。

 だが実際にダンジョンに入る冒険者でそんなことを気にする人はほとんどいない。

 自分一人が入ったところで影響なんかないと思うのが普通だからな。


 だがそう思うのは冒険者だけであって一般の人は早く討伐してほしいに決まってる。

 その証拠にマルセールの町は評判が上がっているそうだ。

 魔工ダンジョンを五つも即座に討伐してるわけだからな。

 そのおかげか他の町に行く際もマルセールを経由するルートが今まで以上に好まれているらしい。


 つまりマルセールは今後も利用客が増える可能性が非常に高いんだ。


「となるとほかを探すしかないよな」


「ほか?」


「あぁ。隣村だ」


「……なるほど。隣村もお客が増えてるだろうけど、宿泊する人は逆に減ってるかも」


「そこまで来たらマルセールに来たがるだろうからな。しかも隣村は三つもあるんだ」


「えっ!? 東だけじゃなく北と南もってこと!?」


「そうじゃないと不公平だろう。それにウチが魔工ダンジョンの討伐対象として考えてる範囲は隣村の手前までだからな。一度挨拶もしておいたほうがいい」


「えっ!? もしかしてロイス君が行ってくるの!?」


「管理人として当然だろう。それに俺が一番暇なはずだからな」


「でも東はともかく北と南の隣村となるとさすがに遠くない? なにかあったら心配だしさ。ロイス君はお昼寝してたほうがいいよ。私が行ってくるからさ」


 お昼寝してほうがいいって……。

 まるで俺が毎日お昼寝してるっぽいじゃないか。

 いや、してるんだけども……。


「今ミーノに抜けられるのはまずい。それにメタリンやウェルダンならすぐに行けるだろうしな。まぁ明日はマリンを送ってもらわないといけないから明後日以降だ」


「……わかった。ならダンジョン産の果物を手土産用に準備しておくね」


「助かるよ。多めに頼む」


 とはいってもほかになにを準備したらいいんだろう?

 求人案内用の冊子を作るのがいいか。

 隣村から通いはさすがに厳しいから当然住みこみになるしな。

 服装ももう少しちゃんとしていったほうがいいかな?

 それはフランに任せよう。


「あれ? もう二人も来てたのか。ピピもか、おはよう」


 メロさんが来た。

 きっとミーノと同じく最終確認に来たんだろう。


「おはよう。早いわね」


「七時からパーティ酒場に顔出すつもりだからな!」


 あ、そういうことか。


「なら任せていい? 私は厨房に入りたいから」


「おう! 俺もそのほうがいいと思ってたんだ!」


 ふふっ、みんな考えることは同じってわけか。


「じゃあ二人には悪いけどしばらくはそれで頼むよ。できるだけ早く従業員候補を探してくるからさ」


「え!? オーナーが探してくるのか!?」


 ミーノはメロさんにさっきの経緯を説明する。


「おはよう~。みんな早いね~。あれ? ピピもいるの?」


 ララが入ってきた。

 理由は同じだろう。


「準備は万端だ」


「うん、ありがとう。じゃあ私は今からご飯食べてすぐに厨房に入るからね。三十分だけだけど」


「いいのか? ギリギリになるぞ?」


「準備運動みたいなものだから。それにお客さんもきっと七時半までに集中すると思うし。お兄も先に食べたら? 今日は新規の人もいっぱい来るだろうし。ビラに営業時間変更の件も書いてるからいつもより早く来るかもしれないよ?」


「そうだな。じゃあみんなで食べよう」


 それから四人でそれぞれ好きな物を取って席に着いた。


 ……なんだか新鮮だな。


 この二人とはもうすぐ一年の付き合いになるのに朝食をいっしょに食べる機会なんてなかったからな。

 あ、一年の付き合いって言うとミーノが怒るか。


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