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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第一章 管理人のお仕事
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第十四話 反省会

「ララ、お疲れ様!」


「うん! お兄もお疲れ様!」


「「乾杯!」」


 お酒は十六歳からなのでもちろんジュースで乾杯だ。

 今日の夕飯は小屋の前で焼肉をすることになった。

 火おこしはララの魔法を使えば一瞬だ。

 火魔法で炭に火をつけ、それを風魔法で全体に行き渡らせる。

 なんて簡単なお仕事なんだ。


 俺は魔法がいっさい使えないけど……。

 才能がないんだろうな~、魔力も少ないし、まぁ魔法を使うために勉強しようと思ったこともないんだけどな!

 強がりじゃないんだからね!


 あっ、この肉焦げそうだヤバい!


 それにララには魔法だけじゃなく剣の腕も負けてそうだからな~。

 なんせ俺の妹はなんでもできるからな!

 ……いつか本当に見捨てられそうだ。


 と、焼肉を食べながらいつものように一人で物思いにふけっていると


「……お兄! ねぇお兄! 聞いてるの!?」


「え? う、うん美味しいよ?」


「なにを言ってるの!」


「え? あっ、そうだな! ちゃんと焦げないようにひっくり返すから!」


「……」


 やっぱり焼肉は牛肉に限るな。

 豚肉も悪くないけど、豚肉はトンカツとかしゃぶしゃぶがベストだな。

 そういやダンジョンに牛や豚の魔物はいたりするのかな。


「お兄!」


「うわっ! なんだよさっきから大きな声出して」


「はぁ~。まぁいいわ。食べながら今日の反省会しよう」


「ん、そうだな」


 ララから冒険者たちのダンジョン内部での様子の報告があった。


 休憩エリアが好評で、特にトイレの評判が良かったこと。

 湧き水は少し冷たくしすぎたかもしれないこと。

 ダークラビットの毛皮素材が人気だったこと。

 薬草エリアの景観が好評だったこと。

 休憩エリアと薬草エリアができたおかげかそれ以外のエリアにおいても滞在時間が延びたこと。


 全体的に好評で、特にトラブルもなく、見回り巡回してるアンゴララビットの出番もなかったそうだ。


「好評なのはいいことなんだけど、少し気になる点も出てきてね」


「気になる点? 好評なんだったらあまり気にしなくてもいいんじゃないか?」


「どうも危機意識が足りないように思えるの」


「危機意識? 安全が売りなんだからそれは多少薄れても仕方なくないか?」


「そうなんだけど、なんか半分遊び気分のような感じを受けてね」


「うーん、休憩エリアとか作ったのがいけなかったのか?」


「それはあっていいと思うの。体力に自信のない冒険者もいっぱいいるから安心して休憩する場所がないともうダンジョンには来なくなると思うし」


「それはそうだな。世の中には初級者~中級者くらいのレベルが一番多いだろうし、冒険者以外の人も来たりするくらいだからな」

「えっ!? 冒険者以外の人も来てるの!?」


「そりゃそうだろ。例えば行商人だって旅するわけだからそれなりの腕っぷしはなければいけないだろ? それに町の衛兵になろうと思うなら魔物との戦闘経験はあったほうがいいに決まってるしな。このダンジョンの目的が育成と言われるのはそういうことだと思うよ。だからこそ安全に戦闘経験を積めるようにしとかないといけないんだ」


「……そうね」


 ララが少し落ち込んだような表情をする。


 冒険者という言葉は曖昧な表現でしかない。


 魔物を退治してその素材や魔石を売って稼いだり、誰かから依頼を受けそれを成功させ報酬をもらい生計を立てているような者のことを一般的に冒険者という。

 さらに、一つの土地で決まった職に就いておらず旅を続けるような生活をしている者は冒険者と呼ばれることが多い。

 しかし、例えば武器屋を経営しているが休日には魔物退治しているような者だと武器屋兼冒険者と呼ばれるように、冒険者という言葉は非常に幅広く使われている。


 ララの言う冒険者とは先述の二つのことを指している。

 ここに来るようなら冒険者といっても間違いではないのだが、全員が冒険者をメインの職業にしていると思っているのなら間違っている。


 ……なんの話をしてたんだっけ?

 また違う方向に逸れた気がする。


 えぇと、確か危機意識が薄いとかそういう感じだったよな?

 いざというときに備えて少しだけ経験を積めればいいと考える人と、今後強い魔物が巣食う場所に行くために経験を積みたいと考える人では当然意識が違っても仕方がない。

 そもそもここは初級者向けのダンジョンなんだから前者優先でもいいと思うが、それではララは納得してくれないだろうな。

 ならむりやり危険にしてしまうか。


「じゃあ魔物急襲エリアってのを作るのはどうだ?」


「魔物きゅうしゅうエリア? なにきゅうしゅうって?」


「急に襲うって書いて急襲だ。そのエリアでは魔物の数を異常に増やし、魔物のバックアタックもありにしてしまい、敵の攻撃パターンも実際の魔物に近いように設定し、戦ってる最中の魔物の増援もありにする」


「なにそれ面白そう! それやろうよ!」


「面白そうってお前……。凄い危険なことしか言ってないのに……」


「でもそれが本物の魔物の行動でしょ? 魔物は人間を殺すんだよね?」


「あぁ、向こうからしたら俺たち人間はただの餌であり、自分を殺しに来る敵だからな……たぶん」


「そうだよね。だからこそ危険を知ることも大事だと思うの!」


「うーん、適当に言ってはみたがやっぱり安全も考慮しないといけないからなぁ」


「そこは早くなにか考えてよ! お兄!」


「おまっ……、はぁ~」


 無茶ばかり言うなぁ。

 ララのほうがいい案思いつくだろうに。

 あ~肉の味がわからなくなってきたー。

 ……これはホルモンだっけ?

 歯ごたえあって美味しいな。


 もう適当でいいや。


「タグと回収箱を使えばいいんじゃないか?」


「はい?」


「タグと回収箱の原理をちょっと応用すればいけそうじゃないかと思って」


「だから、その応用ってのを言いなさいよ!」


 えっ、なんで怒ってるの……。

 昨日から怒ってばかりじゃないか?


 そういえば最近働かせすぎたのかもしれないな。

 そうだよなララはまだ十歳だしな。

 もしかしたら俺、子供を強制労働させたとかで牢獄に入れられたりしないだろうか。

 ……でも俺も子供だよな。

 この場合どうなるんだ?


「……お兄!」


「あ、あぁ、つまりだな、タグ……タグってのもあれだから仮に指輪にしようか。その指輪をはめることで体を魔力で覆うようにするんだ。ただし、その魔力は痛みを軽減する魔力防壁とかではない。仮にヒットポイント(HP)とでも呼ぼうか、予め実際の体力より少し低い値になるように設定しておいて、もしそのHPが零に近くなると、瀕死の状態であると判断し、強制的に最寄りの休憩エリアに転移するように設定しておく。転移させるために、魔物急襲エリア全体を回収箱みたいに考えるんだ。回収箱はタグと袋をそれぞれ転移させてるだろ? このエリアではそれに条件付けをして、HPが瀕死の状態だと判断したら指輪の魔力の対象になっている冒険者ごと転移させるだけだ。HPが低くなるにつれて魔力に色を付けてその色も変化させていったほうが自分もわかりやすいかもな」


「……」


「え? ダメか? まぁいくらなんでもドラシーの魔力が持たないかもしれないしな」


 う~ん、確かにそんな体力を計測するようなことはできないか。

 現実的に考えると、現在全ての魔物に設定している、冒険者の体力が減っていると攻撃はしなくなるという体力の設定値をそのエリアでは少し下げるくらいか。

 結局魔物側からも襲ってくるようになっただけで今までとほとんど変わらないな。

 まぁでも敵が襲ってくるという危険意識を持つことは大事だよな。


 ……ん?

 ドラシーは普段から危険がないかを監視してるんだよな?

 なにを基準に危険だと判断してるんだ?

 ある体力値を境に魔物が攻撃をしないように設定できてるってことはもしかして冒険者の体力値がわかってるのか?


「……ドラシー、できるよね?」


 そうララが言った直後、ドラシーが目の前の空中に現れる。

 大丈夫か? 熱くないのか? 焼肉になるぞ?

 というか今日初めて見たぞ。


「そうね、できるわね」


「そう、魔力的には大丈夫?」


「えぇ、それも先行投資と思えば安いもんね」


 できるんだ!!

 ドラシーすげ~っ!

 ならついでだからもうちょっと意見を言ってみようか。


「ならさ、もう少し範囲を広くできないかな? 指輪とエリアの」


「範囲? その魔物急襲エリアってのを広めに作るってことかしら? どのくらいを想定しているの?」


「ダンジョン全体」


「「!?」」


 だって、そうだろ?

 このダンジョンに入る全ての人に指輪を装備してもらい、さらにダンジョン全てを転移対象にしておけば体力が尽きそうな人は全員安全な場所に強制転移されるってことだよね?

 それができたら俺が水晶玉で危険がないかを監視する必要がなくなるじゃん!

 つまり楽ができるってことだ!


 ……って、ドラシーの反応を見ればそれが無理なことくらいはさすがに俺でもわかるよ。

 一つのエリアとダンジョン全体とでは必要な魔力量が違いすぎるよね。


「ごめんごめん。少し無茶だったよな」


「そうよお兄。いくらなんでもそれは無理でしょ」


 だよな~。

 ついつい考えが楽したい方向にいってしまう。


「……それいい案ね」


「はい?」


「できるの!?」


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