第百三十九話 みんな大好き食べ放題
バイキング会場への入り口は一つだが、会場内の出口は逆側にもある。
出る先は同じだけどな。
だからかわからないが適度に散らばって食べてくれてるな。
席数としては500席用意してあるからいっぱいになることはまずない。
通路も広く設計してあるからかなりの広さだ。
カウンター席も多く設置した。
パッと食べてパッと出たい人もいるだろうからな。
と思ったんだがあまり使われていないようだ。
一人で食べている人も四人掛けのテーブルを利用してる人が多い。
これは夜だからなのか?
時間を気にする必要がないからかもな。
朝や昼だとまた違ったことになるのかもしれない。
「どこのテーブルがいい?」
「みんながいっぱいいるところに行くのです!」
「そうだね! 楽しそう!」
従業員側としては人が少ない場所を選ぶべきなんだろうけど……。
二人がこう言うのでそれなりに人がいそうなエリアを選んだ。
「じゃあ料理を取ったらあのテーブルな」
「はいなのです!」
「うん!」
さて、なにを食べようか。
俺は全部のメニューを一通り試食してるからな。
試作品の段階でオッケーを出してない料理はここに並んでない。
つまり俺が美味しいと思った料理しかないからどれを食べてもいいんだが。
料理転送魔道具の上部分には状態保存をかけたものをサンプルとして置いてある。
これを見て食べたいかどうかを決めてもらうわけだ。
ほとんどの料理を小さめの皿での提供にした。
色んな種類を食べてほしいからな。
よし、麻婆豆腐に決めた。
モモが提案してくれた料理だ。
まずはお盆をとって、お箸とスプーンをとってと。
そして白米は中サイズにしようか。
……うん、ちゃんと中サイズが転送されてきた。
そして麻婆豆腐と、これだけじゃ足りないから酢豚も頼もう。
汁物も欲しいからスープも、え~っと、汁物コーナーはと。
……うん、スープの転送も大丈夫だな。
あとはサラダも食べたいな。
キャベツの小に、コーンの中サイズとポテサラも。
キャベツの上にコーン、横にポテサラを乗せて、ドレッシングをかけてと。
邪魔な皿はサラダコーナー横の転移魔法陣により洗い場へ直行と。
よし、完璧だ。
最後にドリンクコーナーで水を押してと。
「さすが管理人さん、立派な定食の完成ですね」
「あぁ~ヒューゴさんどうも。自分の好きな物を少量ずつ食べられるのが夜の醍醐味ですからね」
「この量は食べやすくていいですね。明日からのメニューも楽しみです」
「ぜひ楽しみにしていてください。もし誰も到達者がでなければお預けになりますけどね」
「それは困りましたね。新メニューのためにもなんとか到達してみせますよ」
「期待してます。ではごゆっくりどうぞ」
このパーティはまず間違いなく地下四階に到達できるだろうけどな。
それもおそらく一番手で辿り着く筆頭候補だろう。
なぜなら単純にみんな足が速いし体力があるんだ。
普段から戦闘技術だけじゃなく身体能力を鍛えることも意識してるらしいからな。
しかも今のパーティリーダーの彼は三つも年下の俺に対してもいつも丁寧。
悪いところが見当たらない。
「待たせたな。さぁ、食べ…………おい? 取りすぎじゃないか?」
テーブルいっぱいに料理が広がっている……。
なぜ一度にこんなに取ってくるんだ?
「いただきますなのです!」
「……いただきます」
これにはマリンも引いてるようだ。
だがユウナはそんなこと気にするはずもなく、いつもと同じように勢いよく食べはじめた。
「なぁ? 別に一回しか取ったらダメってわけじゃないんだぞ?」
「そんなことわかってるのです! 食べたいから取ってきただけなのです! またあとでデザートは取りにいくのです!」
「あ、そう……マリンはハナのメニュー中心にしたのか」
「うん! ララちゃんがあまり作らないような料理ばかりだしね! 色んな料理食べて帰りたいの!」
聞けば王都の家では毎日カトレアがご飯を作ってくれているようだ。
パンとパスタは今はほぼ出ないらしい。
常備食としてはあるらしいけどな。
スピカさんは今でも朝はクロワッサン派なんだそうだ。
俺もカトレアが作るクロワッサンは凄く美味しいと思うんだけどな。
カトレアは食べたくなさそうだったから口には出さなかったけど。
しかもカトレアはここのダンジョン産の素材で料理を作ってるらしい。
俺に内緒でピピに毎月届けてもらってたんだってさ。
なぜ内緒にするかはわからないが。
「お? 麻婆豆腐は試作品段階より少し辛くしたのか。こっちのほうが美味しいな。酢豚も美味い。甘酢が最高だ」
「そういえばなんかお姉ちゃんが言ってたよ。お兄ちゃんが好きそうな料理見つけたって」
「カトレアが? 見つけたってことは俺が知らない料理ってことか。楽しみだな。今度ピピに持ち帰らせてやってくれ」
「うん! でももしお姉ちゃんがこのバイキングのことを知ったら飛んでくるかもね」
「ははっ、そうかもな。でもまた魔工ダンジョンがいつ出現するかわからないから王都からはしばらく動けないだろう」
カトレアがこの会場を見たら泣いて喜ぶんじゃないか。
というか喜ばない人なんていないだろうがな。
「あっ! ロイス君!」
ん?
……あぁ、ティアリスさんか。
もう食べ終わったのか、早いな。
「もう出られるんですか?」
「えぇ! 早くしないとフロントが激混みになりそうだからね!」
「さすがですね。それなら早く行ったほうがいいですよ」
「うん! それとさっきはごめんね!」
「ロイスさん、僕もすみませんでした……」
さっき?
二人が勘違いしてた件か。
「いえ、あれは俺の説明が不十分でした。こちらこそすみません」
「いえ、普通に考えればわかることだもん。本当にごめんね! ララちゃんにも謝っといてね?」
「大丈夫ですよ。それより明日はララとユウナの二人に負けないでくださいよ? こいつら調子に乗りますから」
「それは……まぁウチは兄貴たち次第かしら……じゃあもう行くね!」
双子のお兄さんたちは自信なさげに去っていった。
最前線で戦うのはあの二人だからな。
この四か月間の旅の成果をお手並み拝見てところだな。
「あの人がティアリスさん?」
「そうだけど、誰かに聞いたのか?」
「お姉ちゃんが言ってたの。依頼を頼んだって人たちでしょ?」
「あぁ。地下四階の魔物のほとんどはあの人たちに取ってきてもらったものなんだ」
「じゃあ強いの? 中級レベルってこと?」
「それはどうだろうな。彼女たちに頼んだのは頭がいいからなんだ。上手く策さえ練れば中級レベル相手でもやれると思ったんだよ。でもそれがそのまま地下四階の環境で通用するかはまた別の話だな」
「ふ~ん。でも明日が楽しみだね!」
俺以外に地下四階のことを詳しく知ってる人間はマリンだけだ。
といってもララやユウナや従業員、そしてティアリスさんたちはフィールドに見当がついていて当然だけど。
だからララもユウナも明日が初見とは言えないよな。
もう既に多くの魔物を調理してるわけだし。
「デザート取ってくるのです!」
そう言ってユウナは立ち上がり、デザートコーナーへ向かっていった。
「……お? ありがとうな」
その間にウサギは空いた皿を回収していく。
ウサギは左手に小さなお盆を持っており、そのお盆には転移魔法陣が設定されてるんだ。
つまりお盆に置かれた皿は厨房エリアの洗い場へ転送されることになる。
ウサギは空いた皿を回収するとまた次の皿を求めて歩き回る。
汚れているテーブルがあるときれいに拭いてくれたりもする。
本当に賢くて働き者のウサギたちだ。
俺とは大違い。
ほかのテーブルに目をやると、みんなウサギたちにお礼を言ってくれてるようだ。
冒険者たちも本当にいい人ばかりで助かる。
だからこそ明日からが少し憂鬱でもある。
態度がデカい中級冒険者も来たりするだろうからな。
トラブルだけは避けてもらいたい。
「クレープにしたのです! イチゴとバナナたっぷりなのです! それともうみんな引き上げたみたいなのです!」
「ん? もうそんな時間か」
厨房を見ると確かに子供組はいない。
今日の分はもう足りると判断したんだろう。
残ってるのはミーノとメロさんだけ。
メロさんももう少ししたらいなくなる。
二十時からはリョウカも厨房を手伝う予定だが、さすがに今日はフロント優先にしてくれと言ってある。
十五歳未満の子供たちは二十時で強制的に仕事終了だ。
朝はこれまでと同じで十時半出勤だから勤務時間は一時間延びたことになる。
その代わり昼間の休憩時間はたっぷりとってもらうことにした。
昼カフェもなくしたことだしな。
パンケーキやハンバーガーは自動販売魔道具でも販売してるからいつでも食べられるし、朝や昼のバイキングメニューにもある。
でもやはり保存エリアでの転送要員も含めてもう五人ほど厨房には人が欲しいな。
できれば十五歳以上で住み込みで働いてくれる人がいい。
「「「「お疲れ様です!」」」」
「あぁ、お疲れ。ご苦労様」
子供組がやってきて空いていた隣のテーブルに座った。
仕事をした後にみんなで食べるご飯が一番美味しいらしい。
この習慣は今後も続けていってほしいな。




