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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第六章 新鮮な二日間

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第百三十八話 厨房は戦場

 水晶玉でバイキング会場を覗くために家に戻ってきた。


 ……また寝てるのか。


「マリン、ありがとうな」


「うん。十七時以降にもちらほらお客さん来てるよ。冒険者カードを持ってない人もいたから初心者の人かも」


「明日からウチに通ってくれようとしてたんだろうな。きっとマルセールに行ってウチにも宿屋ができたことを知ったんだ」


 一応ビラを作って、懇意にしてる店には貼ってもらうことにした。

 だから冒険者がそれを目にする機会も多いと思う。


「でも料金を知らずに来たってことだよね? もし高かったらどうするんだろう……ここまで一時間近くもかかるのに……」


「その心配はない。ビラを置かせてもらってる店には初めてダンジョンに行く人は宿泊代一日無料ってことを伝えてもいいと言ってあるからな」


「あ、そうなんだ! じゃあ大丈夫だね」


 ウチの冒険者は今じゃ町の道具屋とか武器屋にはほとんど行かないからな。

 だから店側からしてもダンジョンに初めて行こうとしてる冒険者かどうかがすぐにわかるらしい。

 初心者っぽい冒険者がマルセールに来たんなら尚更だ。


「今日だけ入場料の50Gも無料になるって聞いて喜んでたろ?」


「うん! たった50Gなのにね!」


「たったじゃない。50Gっていうのは初心者からしたら大金なんだ。その日の食事代や宿代が足りなくなる可能性もある。ということはご飯抜きのうえに野宿だってありえるんだぞ? ましてウチは明日から魔石レートを半分にするんだ。ここでは最低ランクであるHランクの宿代でも200Gもするんだぞ? それを地下一階だけで稼ごうと思ったらスライム系を400匹も倒さないといけない。まぁそれだけでは大変だから薬草の採集とかで稼げるようにしてるんだけどな」


 ……あ、ついマリンに説教じみたことをしてしまった……。

 まだ十二歳の子供にこんなことを言っても仕方ないよな。


「……そうだよね。私の感覚がおかしいんだと思う。お店ではポーション作ってるだけでお金がいっぱい入ってきてたもん。師匠もお姉ちゃんも毎週お小遣いくれてたし」


 いや、俺が思ってる以上にマリンは大人のようだ。

 それにすぐに自分の非を認めることもできるいい子だ。


「わかってくれたならいい。ここに来る冒険者の多くは十五歳からやっと修行を始めるわけだからな。でもマリンが身につけた錬金術はマリンがこれまで修行してきた成果だろ? だから自信を持てばいいんだ。みんながまだ遊んでる間にマリンはずっと修行をしてきたわけなんだからさ」


「うん……。ありがとう、お兄ちゃん」


 この年齢でこれだけのことができるんだ。

 きっと並大抵の修行ではなかったはず。

 それともやはりこの家族が凄いだけなんだろうか?

 一度普通の錬金術師を見てみたいな。


「それよりご飯行ってきたらどうだ? バイキング会場も今日は昨日よりも賑やかになってるはずだし」


「お兄ちゃんは行かないの?」


「まだお客が来るかもしれないしな」


「えぇ~、なら私もまだ行かない」


「う~ん、最後にお客が来たのは何時くらいだ?」


「十八時半くらいかな?」


 それならもう来ないか。

 宿屋に入るにはまずここで指輪を渡す必要があるからな。


 というか宿屋って凄いよな。

 夜遅くまで受付したりしてるわけだろ?

 そして朝早くからご飯の準備……。

 そりゃリョウカやシンディがここを楽だと思うはずだ。


「ピピたちはご飯食べたかな?」


「うん。ララちゃんは起きてきてみんなのご飯の準備してからダンジョン酒場に行ったからね」


「ならここは任せようか。で、こいつはもしかしてずっと寝てるのか?」


「うん……起きないから説明も全部私がしてたの」


「そうか……悪かったな」


 受付全部をマリンに任せるとはなんてやつだ。

 あとでお仕置きだな。

 でも明日に響くとララにも迷惑かかるからな。

 明日以降にしようか。


「ん? 新規もいたのにそれもマリンが対応してくれたのか?」


「うん。昼間お兄ちゃんがやってるの聞いてたから」


「いやいや、結構大変だったろ? 説明も多いし」


「もちろん案内冊子見ながら大まかにだよ。わからないところはまたフロントでもここでも聞いてくださいっていうふうにしたし」


 受付としても有能じゃないか。

 さすがカトレアの妹だ。

 できればこれからもずっといてほしい。

 俺が楽するために。


 でも残念ながら明後日にはここから去ってしまう。


「じゃあ行こう。おい、起きろ」


 ソファで寝ているユウナが抱えていたクッションを抜き取ってみた。


「…………ん……」


「おい、バイキングに行くぞ」


「……バイキング!? 行くのです!」


「こいつは食べ物に反応するんだ」


「簡単に起きたね……」


 魔力が少なくなったから寝てるのか、寝たいから寝てるのかどっちかわからん。


「お前が寝てる間にもう説明会も終わってバイキング会場にもお客が入ってるぞ」


「えっ!? 一番乗りしようと思ってたのです……」


「……まぁいい。行くぞ。じゃあピピ、頼んだぞ。誰か来たらリスの誰かに呼びにくるように言ってくれ」


「チュリ! (はい!)」


 ピピは目がいいから暗くても遠くから人が来てるのがわかるからな。


 そして廊下からバイキング会場へ転移した。

 といっても俺たちが移動したのは会場の中央にある厨房だ。


「わぁ~! 凄い人!」


「多いのです! 楽しそうなのです!」


 厨房の周りはガラス張りになっているがそれでも外から賑やかな声が聞こえてくる。


 厨房は……うん、順調……ではないようだな。


「メロ! ブルブル牛のステーキをもっといっぱい焼いて!」


「了解!」


「ヤック! ローストビーフも大量に追加よ!」


「はい!」


「モモ! 酢豚が人気よ!」


「はい! ……え? 足りてないわけじゃないの!?」


 厨房内ではミーノの指示が飛びまくっている。


 今日の朝時点では料理のストックが少ししかなかったからな。

 そんな状態から明日の朝食メニューや昼食メニューも作っていたからみんなはかなりの疲労があるだろう。

 それでも続けられるのは冒険者たちが嬉しそうに食べてくれるからだろうな。


「ハナ! 肉じゃがと焼きナスと煮物も追加ね! やっぱりみんな家庭料理の味に飢えてたのよ!」


「はい。食べてもらえて嬉しいです」


 ハナは普段と変わらない様子で淡々と料理を作っている。

 ……いや、かすかに微笑んでいるように見えるからどうやら嬉しいようだ。


 実家の小料理屋で学んだ腕が発揮できるいい機会だからな。

 夜は一品物を少しづつ提供するようにしてるからハナが考案してくれたメニューはピッタリなものが多いんだ。


「アン! みんな思ったより早くデザートにも手をつけてるわ! 今のうちにクレープの生地を焼いておいて!」


「了解!」


 アンは果物を活かしたデザート系の料理をいくつも考えてきてくれた。

 考えるといってもマルセールで何件か食べ歩いてきただけらしいけどな。

 その中でも今はクレープが流行っていたそうだ。

 生地の中には様々な果物や生クリームがいっぱい入っていてとても美味しい。


 でもこういうブームはすぐに去るから常に流行に敏感になっておかないといけないらしい。

 ここの冒険者たちにその流行がわかるのかは謎だが。


「マック! ……なんでもないわ!」


「えっ!? 僕にもなにか指示してください!」


「あなたはそのまま揚げ物に集中してていいのよ! ったく優秀すぎるのも面白くないわね」


 今月の初めに俺にここで働かせてくれと直談判してきたヤックの弟のマック。

 あのときは断ったがこっちも人手が足りなくなったからな。


 それにマリンが来たことで道具屋の店長さんの気も変わったらしい。

 マックと同じ十二歳の子がここまでの仕事をしてると知ったんだからな。

 しかも王都だと普通は学校に行ってるはずの年齢の子だ。


 ヤックからマリンのことを聞いた店長さんは次の日すぐにやってきた。

 そして店長さんのほうから働かせてやってくれないかと言ってきたんだ。

 それでも俺は年齢のことが気になっていたが、ヤックにも頼まれて仕方なく受け入れることにした。

 あと数年もすれば妹も来たいって言いそうだな。


「ウサちゃん! メロのところにお皿を追加よ! 盛り付けが終わってるものは転送をお願い」


 厨房の中にはアンゴララビットも数匹いる。

 みんなの補助をしてもらってるんだ。


 ウサギの毛が気になる人もいると思うから服を着せることにした。

 これがまた可愛いんだ。

 フランも喜んで作ってくれたよ。

 というか作りすぎて客前に出るウサギは全員服を着る羽目になった……。

 デザインや色が違うから誰かはわかりやすくなったけどさ。


「ミーノ、ララ来なかった?」


「ララちゃんは保存エリアにいるわよ! 転送品のほうを手伝ってくれてるの!」


 あっちを手伝いに行ったのか。


 ここで作られた料理は全て厨房エリアに転送される。

 そして厨房エリアでそれぞれの料理の転送魔道具のところへセットされることになっているんだ。

 このために厨房エリアもずいぶん広くした。

 この転送魔道具や料理が置かれているエリアには状態保存もかけてある。

 厨房エリアの中でもこの場所のことを保存エリアと呼んでいる。


 お客のほうはというと、食べたい料理の転送魔道具のところへ行き、ボタンを押すだけで皿に盛りつけられた料理が目の前に現れるといった仕組みだ。

 といっても転送自体は既に朝カフェでやってることだから誰もなにも驚きはしないだろう。

 もし転送先に物がない場合は少しお待ちくださいと表示される。


 もちろんその転送先にはウサギたちが待機している。

 だから今回の改装全体では新たなウサギが数十匹増えることになった。


 バイキング会場は広いため、一つの料理につき四台の魔道具が四方にある。

 担当するウサギは一つの料理につき一匹だ。

 だから一匹で四台の魔道具を対応しなければならない。

 白米などは大中小の量指定もあるが、それも朝カフェのときにおにぎり、サンドイッチ、ホットドッグなどを区別できていたからなにも問題がない。


 本当にウサギ様様だな。


 だけどウサギにも弱点はあって、バイキング会場の厨房から送られてきた料理の区別がつかないこともある。

 これは俺たち人間だってそうだからな。

 似たような料理の区別がつかないのは普通のことだ。


 そのため、この保存エリアにも新しい人材を三人雇うことにした。

 三人ともウチに通ってくれている冒険者で、三人は同じパーティだ。

 今もダンジョンに入っている冒険者だから変則的な働き方になる。

 勤務時間は十一時~十三時、十八時から二十時の計四時間だ。

 それ以外の時間はダンジョンに入るらしい。


 とはいっても二週間の短期という約束にしてある。

 ようするにこっちが新しい人材を探すまでってことだな。


 ちなみに日給は一人400G。

 彼らはFランクだからこれだけで宿代丸々を稼げることになる。

 彼らの気が変わってここで専属で働きたいって言わないための二週間の約束でもある。

 彼らは冒険者なんだからな。


「さて、じゃあ俺たちも雰囲気を味わおうか」


「うん! ステーキ食べたい!」


「酢豚食べるのです! ハナちゃんが作る肉じゃがも食べてみたいのです!」


 こんな形のダンジョンがあってもいいだろう。


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