第百三十七話 Eランクの条件
「改めて冒険者ランクについて説明させていただきます」
少し変更になった点もある。
「今日冒険者カードをアップデートしましたよね? それによって魔物を倒した経験値も持ちPと同じように即座に反映されるようになってるんです。なので自分がランクアップしたのかをいつでも把握することができます」
今までは回収箱に指輪を返すのと同時に反映させてたからな。
「HランクからGランク、GランクからHランクにランクアップするには経験値を稼いでもらうことで可能になります。そしてみなさんが今一番気にされているでありましょう、HランクからEランクへのランクアップについてご説明します」
俺に認められることが条件だと言ってあったからな。
でもだからといって俺にごまをすってきた人は一人もいなかったな……。
「では発表いたします。Eランクになるための条件は…………」
うん、いいため具合だ。
「……地下四階に辿り着くことです」
「「「「……え?」」」」
「「「「……は?」」」」
「地下四階に行くためにEランクにならないといけないんじゃなかったの?」
まぁそう思うよな。
でも地下三階の魔物急襲エリアを突破できるほどの力を持ってるんならいいかなって思ったんだ。
決して考えるのが面倒になったからとかではない。
そこは強調してほしい。
「実は私、四日ほど前に王都に行ってきたんです。理由はもちろん、魔工ダンジョンを討伐するためです」
「「「「えぇっ!?」」」」
「「「「ララちゃんが!?」」」」
「「「「じゃあ噂になってた仮面の少女二人組って!?」」」」
「「「「ララちゃんとユウナちゃんのこと!?」」」」
「いっしょにいたペットってもしかして……」
噂になってるのかよ……。
こっそり行ってこっそり討伐して帰ってきたって言ってただろ?
それに仮面ってなんだよ……。
怪しさマックスじゃないか……。
なんのために夜中に行ったんだよ……。
「さらにこれは超極秘事項ですが、本当はただ討伐するために行ったんではありません。……おわかりですよね? 水晶玉が欲しかったからわざわざ行くことにしたんです。もちろんしっかりとダンジョンの魔力になってもらいましたよ、ふふふ。じゃなければ今まだ宿屋は営業できていません。あ、誰かに喋ったら出禁ですからね? ふふふ」
「「「「……」」」」
色んな意味でみんな引いてるぞ……。
「ダンジョン自体は第七階層までありました。といっても五、六、七階層はそんなに広くないフロアでただのコピーでしたけど。ラスト三フロアにはベビードラゴンがたくさんいました。でも所詮ベビードラゴンですけどね」
「「「「……」」」」
所詮じゃないんだけど……。
ウチの冒険者はみんな初級者なんだぞ?
まぁ俺はそれを聞いたとき魔王と被ったって思ったけどな。
ベビードラゴンをチョイスするとはなかなかコスパがわかってるじゃないかとも思ってしまった。
「でもそんなダンジョンが十日間も討伐されなかったんです。もしかして王都の冒険者は……これ以上は言わないでおきましょう。もし王都出身の方がいたらごめんなさい。少し話が逸れましたが、この話を聞いたお兄……管理人は、危機感を覚えたんです」
地下七階には人間が入った形跡がなかったようだからな。
ということはおそらく討伐しないんじゃなくてできなかったんだろう。
その程度ではこれからは戦えない。
「だからお兄……管理人のお眼鏡にかなうといった条件は撤廃したんです。一刻も早くこちらも強くならねばいけないんですから。つまり条件緩和です。今までは地下三階最奥に辿り着くことが最低条件でしたけど、それが最奥に辿りついたら誰でもEランクにランクアップできるようになったんです。地下四階でもっと早く強くなってもらうためにです。ちなみに誰でもというのは新規の人でもです。経験値なんか関係なく、明日初めてダンジョンに入る初心者の方がEランクになることも可能なんです」
こっちのほうがシンプルでいいだろう。
ただし、地下三階では魔物急襲エリアを突破することが必要になるけどな。
ララの話を聞いて今までより少しだけベビードラゴン含む魔物の数を増やしておいた。
ドラゴン素材を狙う人にとってもいい狩場になると思うし。
「以上で冒険者ランクの説明は終わります。質問はないですよね?」
みんな気合が入って終わったようだ。
気持ちよく食事に向かうことができるだろう。
「ロイス君、ランクの件は?」
「ランク? ……あ、そうだな」
リョウカに言われて思いだした。
ほかにも何点か補足しないといけないこともあるな。
「すみません、何点か少しだけ補足させてください。まず地下四階には地下三階までの採集物は出現しません。それと、今後は下位のランクに相当する階層にはいきなり休憩エリアへ転移することも可能となります。例えばEランクの人は地下一階から地下三階の休憩エリアに転移することが可能になるということです」
「おお!?」
「それなら地下三階での採集も楽になるな!」
これはもっと前から取り入れていても良かったのかもしれない。
「それと今後はランクアップに関する特典としまして、宿屋の料金が一日無料になるサービスを実施したいと思います」
「宿代が無料!?」
「明日も無料になるかもしれないってことか!?」
「一日の間に二つランクアップしたらどうなるのかしら……」
たった一日分だけどな。
今後もなにか考えていこうとは思ってる。
「こちらも不公平にならないように、現時点までのランクも考慮させていただきます。つまり現在Fランクの方は明日から二日間無料とさせていただきます」
「「「「おお!?」」」」
「「「「すげぇ!」」」」
「「「「いいのかな……」」」」
いいに決まってる。
一週間分の料金を払える人はなかなかいないだろうし、今のうちに貯めてくれってことだ。
「もちろん一日に2ランクアップされた方は二日間無料になります。ダンジョン初日の方でしたらさらに一日無料がついてますからね。つまり明日Eランクに上がられた方は今日を含め四日間無料ということです。なお、これに関しましてはシステムで処理しますのでみなさまはなにもされなくても大丈夫です。万が一不具合がありましたらお知らせ願います」
たった一日だけとはいえ無料という言葉は嬉しいからな。
「それと部屋のグレードアップのタイミングにつきましては、ランクアップした翌日の日中に作業をさせていただきます。今の部屋をそのまま改装しますので特に荷物をまとめたりしていただかなくても大丈夫です。あ、土曜日にランクアップした場合は月曜日の作業になりますので。あと、七泊プランをご利用中の間にランクアップしてもその七泊中は料金が変わることはありません。特典で一日宿泊が延びるとお考えください。次の七泊からはランクアップした料金となりますので」
「部屋を移るわけじゃないんだ……」
「次の日の夜帰って来たときが楽しみだな」
明後日は改装で大忙しになるだろうな。
マリンは帰る直前まで作業をしてくれるみたいだ。
「それとこれが本当に最後になりますが、明日からダンジョンの営業時間は八時~十九時となります。鍛冶工房やダンジョンストアも同じです。ではよろしくお願いします。長時間ありがとうございました。ちょうど十九時ですので食事会場改めバイキング会場への入り口をオープンいたします。ごゆっくりお楽しみください」
「一時間半も長くいられるってことだよな!?」
「あぁ! だいたい今までの移動時間分そのままダンジョンに潜れるってことだ!」
「これは大きいな!」
「明日が待ち遠しいぜ!」
「それより早くバイキング会場へ行こう!」
みんなは早足で去っていく。
今日は俺もいっしょに食べようか。
……いや、厨房が上手く回ってるかの確認が先だな。
「ふぅ~、疲れたね~」
「お疲れ。なかなか良かったぞ。特にバイキングのところは面白かった」
「そう? あっ、私も手伝ってくるね! リョウカさんとシンディさんも今のうちに食べておいたほうがいいと思うよ!」
「そうするね。みんな食べた後はフロントに殺到しそうだもん……」
ララは急いで転移していった。
なら俺は行かなくても大丈夫だな。
今から来るお客もいるかもしれないし、家に戻るか。
「あ、そういや大浴場の時間を伝えるのを忘れてたな……まぁいいか。冊子に書いてあったよな?」
「うん。それにしてもララちゃんはロイス君にそっくりになってきたね」
「そっくり? ……話し方がか?」
「うん。ただララちゃんは冒険者寄りの目線みたいだけど。でも二人とも楽しそうだし、冒険者の人も楽しそうに聞いてるからね」
「楽しそうに見えてるんなら良かったよ。それよりほら、早くご飯を食べてきてくれ」
俺はとりあえずバイキング会場を覗くことにしよう。