第百三十六話 ダンジョン酒場
「さて、時間も押してますし、ここからは事務的に進めさせてもらいますね」
あと三十分で十九時だ。
俺もお腹が減ってきた……。
「次はここダンジョン酒場についてです。宿屋フロントに近いカウンターから順番に説明します。まずあちらのカウンターは冒険者ギルドに似たような役割とお考え下さい。ただし、完全に別組織ですので、ここではダンジョン酒場と呼ぶことにします。ここのフロアの総称もダンジョン酒場であったりとややこしいかもしれませんがそこは適当なので気にしないでください」
冒険者ギルドと別だっていうことは主張しておかないとな。
「ここでメインとなる依頼は魔工ダンジョン討伐です。マルセールから北、東、南のそれぞれの隣町までの間に出現した魔工ダンジョンは全てウチで討伐依頼を出します。きっとマルセールの冒険者ギルドからも依頼が出されると思いますが、ウチとは全く関係ないですのでご注意を。達成条件は水晶玉を持ち帰ることです。報酬はダンジョンの難易度によって判断します」
「……ダンジョンの難易度なんてどう判断するんだ? 持ち帰ったやつが適当なことを言うかもしれないだろ」
「そこっ!」
「ひっ! すみません!」
「そうじゃなくて、ウチのダンジョンをなめてもらったら困ります。水晶玉さえあればなんでもわかるんです。なのでご安心を」
「はい! すみませんでした!」
ドラシーが見ればすぐにわかるからな。
それにマリンにも見えるみたいだからララも教えてもらってたし。
なんかコツみたいなものがあるみたいだ。
俺も少しやってみたができなくてすぐやめた。
「魔工ダンジョン以外の依頼としましては主にマルセールのお店屋さんからの依頼になります。例えばお肉屋さんや八百屋さんからの依頼ですね。既にいくつかいただいてますが、これは明日の夜に発表させていただきます。明日はまず地下四階に集中してほしいですからね」
お肉屋のおじさんなんかダンジョンで取れる全ての肉に対して買取金額を割り増しするからもっと欲しいって言ってきたんだぞ……。
それにはさすがにミーノとモモも困っていた。
だから日替わりで順番に一品ずつ買取強化中という依頼を出すことでなんとか納得してもらったんだ。
これは八百屋も同じ。
ただ八百屋の場合はこちらで採集物の上限数を増やす必要があるけど。
これらはダンジョン酒場で依頼は出すが、別にそれを見なくても買取所に持っていってもらえば増額されたPが入手できることになっている。
幸いにも数は制限しないと言ってくれてるし。
「町からの依頼は基本夜更新なので翌日の計画を立てる際の参考にしてください。それとは別にダンジョンから依頼を出すこともありますので夜と朝には一度壁際モニターを確認されることをおすすめします」
ダンジョン酒場カウンター横の壁はモニターとなっており、そこに全ての依頼が表示される。
後方の壁のモニターにも同じ内容が表示されるので混雑は避けられるはずだ。
「また、日中に魔工ダンジョンの出現が確認された場合、ダンジョン内アナウンスにてお知らせさせてもらう場合があります。その際はご協力よろしくお願いしますね。ダンジョン酒場については以上になります。続いて今私がいるこのカウンター、パーティ酒場についての説明となります」
人との付き合いは大事になってくるからな。
ここの仕事はかなり難しいものになるぞ。
「ここではまだパーティを組まれていないソロの方、既にパーティを組んでいてほかにメンバーを募集している方、今組んでいるパーティを解散しようか悩んでいる方たちからの相談を受け付けます」
特にソロの人だろうな。
ソロだと地下三階からは厳しいはずだ。
「なお全て登録制となってます。職業や得意武器、ランクなどを登録する必要がありますが、個人名はいっさい公表されませんのでお気軽にどうぞ。間にはもちろん人が入りますので、みなさまからのご希望などをお聞きしたうえでパーティメンバーを探すことができると思います。最初はこちらも不慣れなことがたくさんあるでしょうけどそこは多めに見てください」
人間関係って複雑だからなぁ。
希望する職業の人とパーティになれてもそれが苦手な相手だったりしたら最悪だ。
「こちらのパーティ酒場は朝七時~九時、夜は二十時から二十二時までの間だけ相談員がいます。それ以外の時間でもどういった人が登録してるかはこちらの魔道具で確認できますのでそちらはいつでもご自由にどうぞ」
日中は誰も来ないだろうからな。
「では次に奥のカウンターについてです。あちらはバーカウンターでして、夜二十時~二十二時までの二時間限定で営業します。販売する商品はお酒になりますのでもちろん有料です。なお十六歳未満への販売はお断りします。十六歳の誕生日を迎えた日からしかお酒は飲めません。みなさん、まだ飲めない年齢の方にお酒を飲ませたらどうなるかわかってますよね? ウチを出禁になることは当然ですが、もっと厳しい処罰になることも覚悟しておいてください。もちろん年齢に関わらずお酒を強要することは絶対にやめてください。もしお一人でもそういうお客様が見受けられましたらバーもお酒もすぐに撤去しますので」
冒険者はみんなたくさんお酒を飲むって聞いたことがある。
まぁ日常生活に影響が出なければ問題ないけどな。
「それと奥の壁際には自動販売魔道具がたくさん並んでいます。あちらではおつまみメニューを販売しておりますのでお酒と合わせてどうぞ」
「「「「おぉ!?」」」」
「「「「気が利くな」」」」
「でも夕食の時間と一時間被ってるのか」
「まず一杯飲んでからご飯が食べれたら最高なんだけどな」
まず一杯か。
いい響きだ。
とりあえず生ってやつか。
「それと、こちらのお酒やおつまみは食事会場に持ち込んでいただいても構いません」
「「「「おお!?」」」」
「「「「それはいいな!」」」」
「それなら先に風呂に入って二十時になってからビールを買って食事会場に行くのもありだな」
「私も今それを考えてたわ!」
女性もお酒を飲むのか。
ウチの従業員はメロさん以外飲まないらしいからな。
だからお酒に関しては全てメロさん任せで仕入れてきてもらった。
そのうちダンジョン産のものを出せたらいいなとは思ってる。
「簡単ではありますがバーの説明を終わります。ダンジョン酒場全体については以上とさせていただきますがよろしかったでしょうか?」
まぁここは全部おまけ程度のもんだからな。
なくても困るといったことは一つもない。
「それでは次に日曜日についての説明に入ります」
おっ?
みんな興味があるのか?
というより不安なのかもしれないな。
今までウチは日曜日は完全休養だったんだから。
「まずダンジョンの営業はお休みです。みなさんに休息してもらう意味もあります。それ以上に私たちが休みたいということもあります。なのでそこはご理解ください」
当然のことのようにみんな頷いてくれている。
みんな俺たちには優しいからな。
「ただし、食事会場は通常通り営業しますのでご安心ください」
「「「「えっ!?」」」」
「「「「本当に!?」」」」
「「「「やった!」」」」
おそらくみんなは自動販売魔道具での提供だけでも納得してくれただろうけどな。
でもそれは宿屋を経営するうえでのプライドが許さない。
宿屋に休日なんてないからな。
むしろ本来は休日が稼ぎ時なはず。
ここにも月曜からウチのダンジョンに通ってくれようとしてる新規の冒険者が泊まりにくると思うし。
「ただ夕食のみ少し時間を早めて十八時~二十時となりますのでお間違えのないようにお願いします。朝食と昼食は同じ時間です。バーはお休みします」
毎日酒を飲む人のための休肝日という意味もあるそうだ。
「鍛冶工房やダンジョンストアは九時~十七時で営業します」
「「「「おぉ!?」」」」
「「「「嬉しい!」」」」
「それならゆっくり見ることができるな!」
「マルセールに行こうかとも考えてたけど大丈夫そうね!」
「翌週に備えて日曜日に鍛冶工房でメンテナンスできるのはいいな!」
ダンジョンストアを休みにすると本当にすることがなくなるだろうからな。
日曜はごった返しそうだ。
見るだけでも楽しいからな。
「ただし、鍛冶工房とダンジョンストアは月曜日はお休みさせていただきます。鍛冶工房での受け取りだけは月曜日でも可能ですのでそちらはご心配なく」
さすがに休みなしはありえないからな。
厨房組と違ってこっちは代わりの人がいないから仕方ない。
それに日曜にたっぷり時間があるんだから月曜はお客が来ない可能性が高いし。
「それと同じく九時~十七時で、魔物は出現しませんがダンジョンも開放しようと思います。お散歩やランニング、修行に山登り、ピクニックなどご自由にどうぞ。ただし、ランクに応じた階層までしか行くことはできませんし、採集物もいっさい採れませんのであしからず。体力や魔力の吸収はストップしますので気にしないで大丈夫です」
「魔物が出ないダンジョンも新鮮でいいな!」
「草原でピクニックしようかしら」
「山頂でのんびりするのも最高だろうな」
「吸収がとまるのはありがたいわね」
休みの日に体を動かしたい冒険者もいるだろう。
ダンジョンを開放するなら通常営業にすればとも言われそうだが気分が違うしな。
リフレッシュは大事だ。
「日曜日については以上となります。今後要望などがございましたらお近くのスタッフにお気軽にどうぞ。ではいよいよ次がこの大説明会最後の説明になります。早く夕食が食べたくて仕方ないとは思いますがもう少々お付き合いください」
みんなはなんのことか気付いてるんだろう。
今は食事よりもそっちのほうが気になってる人もそれなりにいるはず。
「では最後に、冒険者ランクについてお話します」
地下四階にはEランクじゃなければ行けないとずっと前から言ってあるからな。