表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第六章 新鮮な二日間
130/742

第百三十話 ユウナの本音

 まずいつものようにダンジョン受付を開始した。


 入場料金の50Gは取らない。

 今日はダンジョンには入らないからな。

 だがこれこそ今日だけのサービスだ。

 明日以降来た人が例えダンジョンに入らず、宿屋にも宿泊しないとしても無料にはしない。

 ここに来るのが初めての初心者だとしても50Gはしっかり頂く。

 そのうちダンジョンストアだけに用事がある人も出てきそうだからな。


「はい、完了しました。指輪をどうぞ」


「ありがとう!」


 隣ではマリンが受付をしている。

 手伝ってもいいんだが魔力は節約したいしな。

 俺の魔力じゃなくてダンジョンの魔力な。

 俺には魔力なんてものはない。

 それにマリンが受付をしてくれたほうが冒険者も嬉しそうだ。

 間違いなく俺は人気四番目だな。

 つまり最下位。


 まぁそんなことはどうでもいい。

 受付を終えた冒険者たちは小屋に入っていってる。

 まず小屋の中を確認してるな。

 でもすぐに特に見るべきところがないとわかって宿屋入り口に向かうようだ。


 宿屋入り口の先はロビーになっている。


 入ってすぐ右側に受付フロントがある。

 フロントを超えた右側壁沿いには宿泊する部屋へと繋がる入り口。

 その向こう隣には食事会場への入り口。

 その奥の壁沿いには自動販売魔道具が数多く並んでいる。


 宿屋入り口から見て真正面の壁沿いには鍛冶工房、ダンジョンストア、買取所の入り口がそれぞれある。


 入って左側にはソファとテーブルがいくつか置いてある。

 まさしくロビーという感じなんだそうだ。

 その左側の壁全体は現在シャッターが閉まっている。


「マリン、俺はちょっと中にいるからな」


「うん、わかった」


 フロントの様子が見てみたくなったからリビングに移動した。

 さすがに管理人室で受付中に音は出せないからな。


「いらっしゃいませ。こちらでご宿泊を承っております」


「あれ? みんなはここの担当なの?」


「いえ、今日はオープンだからみんなもお手伝いしてくれてるんです。普段は私とこちらのシンディの二人体制です」


 当然のようにティアリスさんが一番乗りだな。


 宿屋のメイン担当はリョウカと新人のシンディだ。

 シンディも宿屋の娘らしい。

 リョウカの友達でもあったようだ。

 年は俺と同じ。

 つまり明日から大人と呼ばれる年齢だな。


 今日はフランとホルンもお手伝いしてくれているようだ。


「そうなんだぁ。あっ、ごめんね。説明お願いします」


「いえいえ。ではご説明させていただきますね。当宿屋は一人部屋のみのご提供となっておりまして、一泊プランと七泊プランの2プランがございます。ですが今日は無料となっておりますので七泊プランはまだお選びいただけません。そのため自動的に一泊プランとさせていただきます」


「一人部屋専用なのか。一泊と七泊ね。面倒だから七泊にするけど、七泊にすると得とかあったりするの?」


「それは今はお答えできないんです。後ほどの説明会のときにはちゃんと説明させていただきますから夕方までお待ちいただけますでしょうか」


「そっか。今は後ろも詰まってるしね」


「すみません。基本的にここで選ぶのは一泊か七泊かだけです。こちらの魔道具に冒険者カードを置いていただくとこちらの画面上に一泊か七泊とそれぞれの料金が表示されますのでどちらかを選択してください。選択後、お金をこちらに入れていただくと受付完了となります。無料期間の場合は一泊しか選べずに料金も表示されませんので一択なんですけどね」


「なるほど、簡単でいいね。……でも今無料期間って言った? 今日以外にも無料の日があるってこと?」


「あっ……いえ、その……。すみません、それも後ほど説明がありますので」


 さすがティアリスさん、鋭いな。

 今のは俺も普通に聞き流してたぞ。


「ふふっ、楽しみはとっておくね。でもこれ部屋の選択とかはないの?」


「はい。当宿屋は部屋の選択はできないようになっております。とりあえず今説明できるのはここまでなんです。まずはご自身で部屋を確認してほしいとのオーナーの意向です」


「ロイス君かぁ。というかほかに設備とかあったりしないの? 洗濯とかの部屋は? そっちのシャッター閉まってるところ?」


「そちらの部屋もロビーみたいなものです。十七時前になりましたらシャッターが上がりますのでそのころにお集まりください」


「あ、そっか、さすがにこのロビーじゃ二百人はキツイもんね。てことはそっちに洗濯魔道具部屋があったりするのかしら? ……これ以上は今は言えないのね?」


「お察ししていただいて恐縮です。部屋への移動はフロント左の入り口からどうぞ。どなたかに連絡を取りたいときはフロントからお呼びできますので」


「うん、ありがとう。まずは自分で確認してくるね」


 部屋に洗濯魔道具があるとは思わないのか。

 ということはそれだけでも驚いてくれそうだな。

 俺は普通の宿を知らないからそのへんの感覚がわからない。


 ティアリスさんパーティは自分の部屋へと転移していったようだ。

 受付魔道具は一つしかないが四人も従業員がいると個別に説明してもそれなりに早いな。

 冒険者たちはおそらく週に一度しか使わないから今後は魔道具も一つで足りるだろうし。


 部屋への入り口から先はさすがに見ることができない。

 プライバシーの問題があるからな。


「ん……もう時間なのです?」


「あ、起こしてしまったか、ごめん。まだ寝てていいぞ」


「……わかったのです……ん? マリンちゃんはどこいったのです?」


「マリンには今受付をしてもらってるんだ」


「なるほどなのです…………えっ!? 受付中なのです!? 私がやるのです!」


 受付中と聞いてユウナが飛び起きた……。


「いや……ユウナはまだ寝てていいよ。ララも上で寝てるし」


「ダメなのです! サブとしてしっかり仕事するのです!」


「いや、受付魔道具は一つしかないし……」


「年下のマリンちゃんばかり働かせるわけにはいかないのです! 交代してくるのです!」


「そうか……なら冒険者カードのアップデートもあるからちゃんと確認してくれよ。採集袋は渡さなくていいからな」


「わかってるのです!」


 そんなにムキにならなくても……。

 そしてユウナと入れ代わりでマリンが管理人室から出てきた。


「ふぅ~、ユウナちゃんが代わってくれて良かったぁ」


「お疲れ。なんか飲むか?」


「うん。バナナジュースがいいな」


「了解」


 すぐに転送されてきた。

 マリンはバナナジュースを飲むことが多いな。


「ユウナちゃんはきっと不安なんだよ」


「だろうな」


「気付いてるならもっと頼ってあげたらどうかな? お兄ちゃんやララちゃんに認めてもらいたくて必死なんだよ。私も師匠やお姉ちゃんに早く認めてもらいたくて修行してるんだもん」


 あれは一昨日の夕食のときだったか。

 なんとなくユウナに聞いてみたんだ。


「これで冒険者のみんなも町から通わなくてよくなるな」


「良かったのです! これでみんな私と同じ条件になったのです!」


「そうだな。どうせならこの機会にユウナも宿屋に移るか? そうしたらもうここの仕事なんかせずにダンジョンにだけ集中できるぞ。特別扱いされてると思われることもなくなるだろうしな。ララ以外とパーティを組めるようにもなるし。みんながユウナをパーティに誘ってくるだろうな。もちろんこのままララとパーティを組んでてもいいし。あ、でも日曜だけは杖のメンテナンスの手伝いをしてくれると助かるな」


 俺はただユウナのためを思っての発言だったんだ。

 だがユウナは下を向いて声も出さずに泣き出してしまった。


 ララも俺に特になにか言ってくることはなかった。

 だからきっとララもユウナのためにはそうしたほうがいいのかもしれないと少しは思ってるんだろう。

 ウチの仕事で毎日午前中のほとんどを縛り付けてるのは事実だし。

 もちろんパーティを解散するのはツラいことだろうけどな。


 でもユウナの本音は聞いておかなければいけないと思った。

 ここに住みはじめた理由は町から遠いって理由だったんだからな。

 宿屋ができた以上その理由はもう使えない。

 この三月でユウナは十四歳になった。

 一年後の四月からはもう大人だ。


 そしてしばらく沈黙が続いた後、ユウナが小さな声で話しだしたんだ。


「私は……大魔道士になるのが目標なのです……いつかは魔王を成敗するために旅立つのです……でも今はここにいさせてほしいのです……宿屋じゃなくてこの家がいいのです……みんなから特別扱いって思われて嫌われてもいいからここにいたいのです……これからもララちゃんとパーティを組みたいのです……カトレアさんとも約束したのです……ダメなのですか……」


「ダメじゃない。ここにいたいと思ってくれてるんならそれでいいんだ。ユウナがいないと俺とララはまた二人だけの生活に戻ってしまうしな」


「ユウナちゃん、逆に特別扱いされてるって思われるくらい強くなろうね。もちろん仕事もしっかりしよう。そしたら誰も文句言わないよ。というか今も不満言ってる人なんていないだろうけど……」


 ……いないの?

 聞いたことないだけでいるだろうなと勝手に思ってたんだが。

 でも聞いたことないってことは本当にいないのかもな……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=444329247&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ