第十三話 ララのお客様チェック
「まずは入り口付近を覗いてみるか」
水晶玉を操作し、地下一階に入ってすぐの場所を映す。
「おっ、人がいっぱいいる! やっぱり人が多いほうが盛り上がるよね」
あっ、この子たち一番乗りで来た新米冒険者三人組ね。
まだ入り口付近で戦っているなんて基本に忠実でえらいじゃない。
やっぱり初々しい戦い方ね。
あの女の子は魔道士なんだ。
他の冒険者は……やっぱりどんどん先へ進んでいくわね。
……なんでこの人は走ってるんだろう?
薬草は十枚の制限がついてるのに、早く行かないとなくなるとでも思ってるのかな。
枚数が少ないから制限がついていると考えても不思議ではないか。
うーん、それにしてもトラップがないとわかってるからかみんな周りを警戒する素振りがいっさいなく進んでいくね。
あっ、もう休憩エリアに着きそうな人がいる……さっき走ってた人か。
時間はだいたい二十分てところね。
「あっ! トイレか!」
なるほど、走るわけだ。
でもそんなに走らないといけないほど我慢できないんなら、そこらへんでしちゃえばいいのに。
トイレがなかったらそうするはずなのに、トイレがあるとわかってるとトイレでしなきゃいけないって思っちゃうのかな。
地下二階にもトイレは設置するつもりだったけど、少し考えたほうがいいのかもしれないなぁ。
こんなのダンジョンじゃないと思われてもお客さん来なくなっちゃう可能性もあるだろうしね。
となると、休憩エリアやトイレという甘さがある分、それ以外では厳しさも入れていかないといけないよね。
少し考えよう。
……ん? なに? お兄どうかしたのかな?
「失礼を承知で申し上げますが、袋を二つ持ち込まれてもお客様としては赤字が増えるだけだと予想されますが」
「……そんなことはわかってます」
お兄と女の子がなにか揉めてるのかな?
お兄が引き下がらないって珍しいこともあるんだね。
まぁ袋を複数持ち込むことは禁止する方向で決めてあるしね。
初日だから説明も慣れてないだろうし、なかなか理解してくれなくてイライラしてるのかも。
今日は夕飯は焼肉にしてあげたほうがいいかもしれないね。
その前に昼食か、よし、オムライスを作ろう!
中身はケチャップライスがいいわよね!
「……薬草が欲しいんです……売るんじゃなくて薬草が欲しいだけです」
「それならダンジョンに入らなくても、町で購入されればよいのでは?」
「……ここの薬草が見てみたいんです……あと水にも興味があります」
「ここの薬草? 水?」
……そういうことか。
ここの薬草が欲しいだけならここに入った冒険者から売ってもらえばいいだけなのに、水もとなるとさすがに自分で確かめるしかないか。
おそらく彼女は薬師、もしくは錬金術師ってところね。
装備はフード付きのローブか、なんだか魔力高そうな雰囲気してるから錬金術師かもしれない。
私もこの家の地下にある本は結構読んだから錬金術の知識は少しはあるけど、自分でやろうとは思わないな。
錬金術に魔力使うんなら魔物にぶっ放したほうが気持ちいいもん!
……でも、ここの薬草と水で効果の高いポーションができるとなれば宣伝にはなるかもしれないよね。
それに今は薬草だけだから悪用されることもなさそうだし、そこまで高度な薬が作れるわけでもなさそうだしね。
それよりもこの子、お兄より年下っぽいし、なんだかそこまで拒むのも可哀想になってきた。
「お兄、いいんじゃない? こっちが損するわけじゃないんだしさ。それに端から見るとお兄が悪者に見えるよ」
あっ、この子凄い可愛い!
お兄が好きそうなタイプかもしれない。
……お胸大きいな。
でもよく考えるとこんな子が一人でここまで来るかな?
もしかして凄い魔道士とか?
……あれっ?
なんか怒って行っちゃったよ?
お兄なんか変なこと言ったの?
ん? 背中に大きなリュックか。
やっぱり錬金術師で合ってるのかもしれない。
錬金釜とかが入ってるのかも。
「爆弾でも入ってるのかな」
「!?」
なんてことを言うんだお兄は。
ドラシーが言うように天然ていうのもあながち間違いじゃないわね。
お兄ならさっきの会話で気付きそうなもんだけど。
やっぱり昨日の疲れがまだ抜けてないのかもしれない。
さすがに夕飯を作らなかったのは反省したんだよ?
今朝も謝ろうと思ってたんだけど、あんな早い時間に新米三人組が来るから機を逃しちゃっただけなの。
今さら謝るのも恥ずかしいし、今日の昼食と夕食は飛び切り美味しいの作るからそれで許してもらおう。
っと、中の様子を見るのをすっかり忘れてた。
……もう何人かは休憩エリアにいるのか。
三十分、妥当なところね。
やっぱりベンチがあったらみんな座るんだね。
……お弁当食べてる人もいる……少し早くないかな。
おっ、湧き水コーナーも人気のようね。
ここまでの道で消耗した体力とダンジョンに吸収された体力をこの休憩エリアで回復することによってより長くダンジョン内に滞在してもらうようにする。
うん、休憩はなかなか理にかなってるわね。
私もちょっと休憩しようかな。
「お兄、お茶飲む?」
「あぁ、頼むよ」
お兄もずっと説明しっぱなしで大変だね。
私には絶対できないな。
「はい、どうぞ」
「ん、ありがとう」
「お兄もダンジョンの中見る?」
「そっちはララに任せるよ。後で教えてくれ」
これは私を信頼してくれてるんだよね?
よぉし、頑張るぞ。
◇◇◇
……やっと薬草エリアに人が来たか。
一時間半か、やっぱり新しいから色々探検したくなるのかな。
それとも休憩しすぎとか?
でも楽しんでくれてるみたいだし、今後も適度に変化をさせたほうがいいのかもしれない。
ドラシーの魔力次第だけど。
……うん、驚いてくれてるみたい。
わざと薄暗くしたエリアにこれだけ薬草がいっぱいあって、タグ付き薬草から放たれる魔力のぼんやりとした明るさで洞窟内が照らされてきれいだもんね。
幻想的っていうのかな。
薬草が少なくなるのとは逆に松明の光は明るくなるように設定してあるからこれ以上暗くなることはないけどね。
あっ、魔物は出るから気をつけて!
……みんな思ってたよりも素直に採っていくみたいね。
お兄の説明が上手かったのかな?
この様子だと営業時間中の追加はしなくてすみそう。
……ふふっ、タグが外れることを不思議がってる。
お兄のこういった柔軟な発想は私にはできないな。
回収箱にも袋とタグを吸収して再生し転移させる仕組みを取り入れて、袋は管理人室の袋専用の箱に、タグは栽培エリアにある専用の箱に戻るようになってるんだからね。
さらにその袋専用の箱に制限値を設定することで、入っている袋全部の制限値を変更できるんだから簡単でいいよね。
ドラシーも「アフターケアがいらないから楽でいいわ」って言ってたし。
うん、薬草エリアも問題なさそうね。
休憩エリアはどうなってるかな。
どうやら新米三人組も来たみたいね。
あっ、さっきの女の子ももう来てるじゃない。
……テーブルに一人か。
周りのテーブルにも人はいるけど、あまり人と話すのは得意じゃないみたいね。
パンか……、ダンジョン内だと軽食になるのは仕方ないか。
休憩エリアでお弁当販売したらみんな喜んでくれるかも。
ダンジョン内は難しくても受付にお弁当置いてもいいかもね。
でもお弁当は衛生面が心配か。
やっぱり手を出すのはやめたほうがいいのかもしれない。
……十一時半か、そろそろ私たちもお昼にしましょうか。
「お兄、オムライス作ったけどどうする?」
「あぁそっちで食べるよ。ピピ、見といてくれるか」
「チュリリ!」
受付はピピに任せてこっちで食べるようね。
人が帰りそうなときや来そうなときもあるので管理人室で食べることも多いからね。
「「いただきます」」
「……うん、美味い! やっぱりフワフワトロトロが最高だな!」
「そう、良かった!」
美味しそうに食べてくれてるみたい。
食べながらダンジョン内部の様子を少し報告した。
「「ごちそうさまでした」」
食後、洗い物を済まし、再びソファに戻ってきた。
さっきの女の子は休憩終わったかな?
錬金術師であろう女の子を探していると、薬草エリアで発見した。
そっかもうそんな時間経ってたのね、十二時半か。
その女の子は薬草を一つ採り、いったん袋に入れてタグを外した後その薬草をじっくり見つめはじめた。
やはり錬金術師となると見ただけで品質がわかるのかな?
ん? 今度は座ってリュックを降ろし、リュックから瓶を取り出した。
「爆弾か!」
「わっ!!」
お兄がいつの間にか後ろから覗き込んでいた。
それにしても爆弾て……まだそう思ってたんだ。
「瓶? ポーションか?」
「……水じゃないかな? 入る前言ってたでしょ? 薬草と水が欲しいって。きっと休憩エリアの湧き水を汲んできたんだよ」
「言ってたような言ってないような……」
その後、薬草を二十枚採集すると、薬草エリアを後にし、奥へ進み始めた。
そろそろダンジョンから出てくる人もいそうね。
「お兄、帰る人に忘れずに渡しといてね」
「ん?」
「……新しいビラよ」
「え!? あ、あぁ覚えてるよ、ちゃんと渡すから」
……来週の地下二階のリニューアルに向けて新たにビラを作成したのに、言わなかったら絶対忘れてたよね?
今日来てくれた人は次も来てくれる可能性大なんだからね!
はぁ、今日の感想も直接聞きたいし、私が配ったほうがいいか。
とにもかくにもリニューアル初日は二十三人と一人分、とりあえずは大成功ね!