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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第六章 新鮮な二日間
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第百二十九話 宿屋オープン日

 3月31日、時刻は十三時。

 今日からオープンするダンジョンの宿屋の受け入れ開始は十五時からの予定だ。


「まぁ予想通りだよな……」


「町ですることないんだろうね……」


 俺とララは管理人室から、受付前に座る人たちを眺めている。

 もう百人は来てるようだ。

 十五時からしか開けないって事前に言ってあったのにこれだからな。


 それにしてもみんな思ったより荷物が多いんだな。

 古い装備品とかはなかなか捨てにくいのかもしれない。

 中古だから買取価格はたいしたことないだろうし、それなら思い出として取っておこうってなるのかもな。


「ここで装備品も買取しようか?」


「お兄……しばらく新しいことはやめようよ……。せめて来週からにして」


 う~ん、さすがのララも疲れてるな。

 先週水曜日からずっと作業詰めだったから仕方ない。

 というか今日はまだ始まったばかりなのに大丈夫か?


「明日は行くのをやめたらどうだ?」


「お兄? 本気で言ってる? 私がなにを楽しみにこの一週間ろくに寝ないで働いてきたと思ってるの?」


「はは、冗談だよ……」


 こわすぎる……。

 真顔はやめてくれよ。


「じゃあ私お昼寝するから。十七時になっても起きてこなかったら起こしにきてね」


「あぁ、お疲れ」


 おい、ふらふらしてるぞ?

 …………なんとか二階に行けたみたいだな。


 入れ違いにリョウカが入ってきた。


 家の廊下は転移魔法陣だらけになってるし従業員なら誰でも入ってくることができる。

 もう少し廊下を広くするか転移魔法陣部屋を作ったほうがいいのかもしれないな。


「ロイス君、こっちは準備オッケーだよ。でも一人ずつの受付だから時間かかるだろうし、もう入れてあげたらどうかな?」


「そうか。なら先に小屋の説明するから十分後くらいで頼むよ」


「うん! みんなにも言っとくね!」


 予定より二時間も早いがこうなることも想定内だよな。

 おそらく冒険者たちもそれをわかってて早く来てるんだろうし。

 そろそろ小屋のトイレを使わせてくれとか言われそうだ。


「ユウナ? ……マリン?」


 返事がない。

 二人ともソファで熟睡しているようだ。

 さすがに起こすのは可哀想か……。


「え?」


 受付の窓が開いた音がした。


「ロイス君、大丈夫? なにか手伝おうか?」


 振り返るとティアリスさんがいた。

 今日も当然のように一番乗りで来たからな……。

 そして受付前の場所はずっとティアリスさんパーティが陣取ってるし……。


 お客さんに手伝ってもらったってララに知られたら怒られそうだしなぁ。

 やっぱりマリンを起こすことにしよう。


「いえ、お気遣いありがとうございます。じゃあまず受付の前に説明からしますから」


「相変わらず私には素っ気ないよね……」


 まず小屋の説明をして、そのあと宿屋の受付の話をしようか。


「マリン……マリン」


 ユウナを起こさないように静かに声をかけ、体を少し揺さぶった。


「ん…………もう時間?」


「あぁ、少し早いが人が多くてな」


「……わかった……顔洗ってくるね」


 マリンはゆっくり起きると洗面所へ向かった。


 さて、マリンが準備している間に説明するとしよう。


 管理人室に戻ると冒険者みんなが俺を見ていた。

 もう受付が始まると思ったんだろう。


「あー、あーあー、エリア内にいるみなさま聞こえていますでしょうか? ダンジョン管理人です。もしエリアの外にいる冒険者の方がいましたらエリア内に入っていただくようにお近くの方お声がけしていただいてもよろしいでしょうか?」


 マリンが作ってくれたこの魔道具は便利でいいな。

 これがあれば家の前にいようが、ダンジョン内にいようが、宿屋にいようがどこにでも声を届けることができる。

 間違って普段の会話を流してしまわないように注意しないとな。


「では受付の前に何点か説明させてもらいます。五分~十分ほどかかりますのでその場に座っていただいたままで結構です」


 俺の話が長くなることはわかってるだろうからな。

 いつものようにメモの準備を始める人も多い。

 そうしてくれるとこっちは本当にありがたいんだ。


「よろしいでしょうか? 管理人室前の休憩小屋についての説明からいきますね。なんと小屋の入り口が前の二倍の幅になりました」


「「「「……」」」」


 ……笑ってもらおうと思って最初に言ったんだけどな。


「次に小屋の中の設備についてですが、こちらは入り口以上に大きく変わっております。まずダンジョン食堂とラーメン屋がなくなりました」


「「「「えぇ~っ!?」」」」


「「「「嘘だろ!?」」」」


「「「「ご飯はどうすればいいんだよ!?」」」」


「静かにしなさいよ!」


「そうですよ! 最後まで聞きましょうよ!」


 最高の反応だな。

 ただこれは不満の声だ。

 何人かは立ちあがっている。

 放っておくと暴動に繋がりかねない。


「……この小屋自体は名前の通り休憩小屋として使うようにしました。ベンチとテーブル、それにトイレ、シャワー室、荷物を預ける魔道具などは以前と同じようにあります」


「てことは食事の施設は別にあるのか」


「良かった~」


 安心したのか立っていた人も座ってくれたようだ。


「小屋の中に入られますと左手に買取所への入り口があります。真っ直ぐ正面に進んでいただきますと宿屋への入り口です。その右側には鍛冶工房、ダンジョンストアへのそれぞれの入り口があります。お気付きになった方もおられると思いますが、先日まで小屋の外にあった鍛冶工房とダンジョンストアの入り口はなくなっております」


「あっ!? 本当だ!」


「全く気付かなかった……」


 意外に気付いてない人も多いんだな……。


「また、小屋に入られて右側、みなさんが今おられる壁側にはポーション販売魔道具などが並んでおります。これらは宿屋入り口を入られた先にもありますので、ご宿泊される方はそちらを利用してもらったほうがいいかもしれません。宿屋には鍛冶工房やダンジョンストアへの入り口もありますのでわざわざ小屋に出ていただくても大丈夫です。なお、この小屋の中は指輪なしでもご利用可能ですが、そこから先の全ての入り口は指輪なしでは入ることができませんのでご注意ください」


 ここは単なる休憩小屋だからな。

 一年前を思い出してシンプルにしてみたんだ。


「休憩小屋の説明は以上になりますがご質問等ございませんでしょうか?」


「「「「……」」」」


 あるわけないよな。


「では続きましてみなさまが宿泊されますダンジョンの宿屋についてのご説明をさせていただきます」


「待ってました!」


「早く部屋が見たい!」


「料金はどうなってるの!?」


「どこに宿屋があるんだ!?」


「静かにしなさいって言ってるでしょ!」


 なかなかの歓声だ。


「といっても今はまだ受付の仕方についてだけです。詳細な説明は本日十七時から行います。場所は宿屋のロビー兼……失礼しました。宿屋のロビーにて行いますので十七時より少し早めにお集まりください」


「ロビー? この前みたいに地下二階じゃなくて? そんなに広いのか?」


「十七時か~まだまだあるな」


「でも荷物をほどいたりしてたらすぐだよな」


「……今なにか言いかけなかった?」


「ロビー兼?」


 危ない危ない。

 危うく自分からバラしてしまうところだった。


「まずいつも通りここの受付で指輪を受け取っていただきます。なおその際に冒険者カードのアップデートも行います。あ、今日は採集袋はお渡ししませんから。そして指輪を装着したうえで宿屋の入り口にお入りください。その先には宿屋のフロントがございますので宿泊受付はそちらでしていただきます」


「つまりダンジョン受付と宿泊受付は別ってことだよな?」


「そうみたいね」


 詳しくは説明会で聞いてもらったほうが早いよな。

 今はただ指輪を渡すことと冒険者カードのアップデートが優先だ。


「ちなみに本日のみなさまの宿泊料金は無料となっております」


「「「「えぇ~っ!?」」」」


「「「「無料!?」」」」


「オープン記念のサービスか!?」


 ふっふっふ。

 ビックリしただろ?

 今日だけとはいえまさか無料なんて思わないだろうからな。


「お静かに願います。これはオープン記念のサービスでもなんでもありません。初めて冒険者カードを作られた方に対しての初日サービスなんです。だから不公平にならないようにと考えたうえで、既に冒険者カードを作っていただいているみなさまには本日分を無料とさせていただくことにしました」


「なるほど」


「金取ってくれても誰も不公平だなんて思わないだろうけどな……」


「初心者の方には嬉しいサービスですね」


 初心者が来てお金がなくて宿泊できないってなったら可哀想だからな。


 でも理由はそれ以外にもある。

 がっかりする人も出てくるだろう。

 明日からは泊まらないって人もいるかもしれない。

 怒って帰る人もいるかもしれない。


 ふふっ、みんなの反応が楽しみすぎる。


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