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第百二十八話 怒涛の一週間の始まり

 水曜日の営業終了後の十九時、会議スペースに全員集まってもらった。

 もちろん会議を行うためだ。


「みんな、お疲れ様。疲れてるところ悪いが少し時間が欲しい。適当につまみながらでいいから聞いてくれ」


 テーブルの上にはララとユウナが作った試作段階の料理が並べられている。

 俺が皿に取るとみんなもわいわい言いながら皿に取りはじめた。

 みんなが落ち着いたところで始めることにするか。


「……じゃあいいか? と、その前にみんなも気になってると思うから紹介する」


 俺の横には椅子をピッタリくっつけてマリンが座っている。

 緊張してるんだろう。

 ……いや、俺を枕にして寝てるのか…………。


「錬金術師のマリンだ」


「「「「錬金術師!?」」」」


「あぁ、あと一週間ほどの短期間だがここで働いてもらうことになった。ちなみにカトレアの妹だ。カトレアとも師匠とも血は繋がってないけどそんなことはどうでもいいよな」


「「「「カトレアさんの!?」」」」


「「「「妹!?」」」」


「なんでロイスさんにくっついてるんですか!?」


「可愛い……」


「その子が噂の……」


 さすがにビックリするよな。

 冒険者たちは月曜の朝に見てるから従業員の耳にも入ってたんだろう。

 今まで誰も聞いてこなかったけどな。

 マリンも結局誰とも会うことなく作業部屋に籠ってたし。

 そこらへんはカトレアと似てるな。


「まだ十二歳だからエルルとアンの一つ下だな。マリンにはやってもらうことがまだまだたくさんあるからみんなと接する機会は少ないかもしれないが仲良くしてやってくれ」


「……もしかしてカトレアさんにお願いしてたようなことをマリンちゃんに?」


「さすがオーナー、鬼畜だぜ……」


「だから寝てるんですか……」


「可愛いけどもう少し離れたほうが良くないですか!?」


「十二歳って……」


 俺のことを蔑んだ目で見てきてる気がするが無視だ。

 マリンも望んだことなんだからな。


「てことは一応ロイス君の従妹みたいなものなのよね?」


「あぁ。カトレアと同じ関係だからな」


 従業員たちはカトレアの師匠であるスピカさんと俺の関係を知っている。

 十二月にここに来たときに自ら紹介して回ってたからな……。

 俺もスピカさんのことは忘れてたからみんなと同じようにビックリしたよ。


「それにマリンとは俺が昔住んでたノースルアンって町で顔見知りだったんだ。マリンもそのことを覚えててくれたみたいでさ。今ウチが忙しいだろうと思ってわざわざ王都パルドから一人で手伝いに来てくれたんだ」


「へぇ~そんな昔からの付き合いなんだね。それにしても凄い偶然ね」


「いい子じゃねぇか」


 うん、いい子だ。


 ……ん?

 起きたか。


「……寝ちゃった……ん? あ、みんな集まってきたんだね、お兄ちゃん」


「「「「……」」」」


 ん?

 お兄ちゃんってところにツッコむかと思ったが違うのか。

 従妹って聞いた後だし、昔からの付き合いだってわかってるからかもな。


「可愛い!」


「マリンちゃん! 今度僕とマルセールでデートしませんか!?」


「こんな妹ズルい! 私も欲しい!」


 ……マリンが怯えてるじゃないか。


「落ち着け。マリンの紹介はここまでだ。ここからはみんなの今後にも関わってくるからよく聞くように。じゃあララ、頼む」


「はい。まずダンジョン酒場のマスター代理である私から各地に出現してる魔工ダンジョンについての報告をします」


「「「「ダンジョン酒場!?」」」」


「ちょっと! なんでそこにツッコむの! 話の流れを切らないでよね!」


 ……せっかく真面目に話そうとしていたララが怒ってしまった。

 ならダンジョン酒場なんてみんなが初めて聞く言葉を使わなきゃいいのに。


「もぉ~! じゃあ先にダンジョン酒場の説明をするからね! 簡単に言うと冒険者ギルドのパクリよ!」


 簡単に言いすぎだろ……。

 みんなが唖然として当然だ。


「それより魔工ダンジョンのことよ! 知ってるかもしれないけど昨日からこの大陸の各地にいっぱい出現したみたい! しかもどこも町の近くにできてるわ! 町に一つ魔工ダンジョンって感じね!」


 一家に一台みたいに言わないでくれ……。

 それに口調がいつものみんなの前のものと違うぞ……。

 年上のみんなに気を遣って丁寧に話すことはもうやめたのか?


「ただマルセール周辺には出現してないわ! 魔王はここの冒険者にビビッて警戒してるんだと思う! 王都で味を占めたのか大きい町から順番に狙うことにしたようね! バカな冒険者が延々と魔石稼ぎしてくれると思われてるんだわ!」


 王都周辺に出現した魔工ダンジョンはいまだに討伐されていない。

 昨日ピピとメタリンに上空から見に行ってもらったが、魔瘴が凄いことになっていたようだ。

 そのせいでダンジョンの外でも騎士や冒険者が魔物と戦闘を繰り広げてたんだってさ。


 ただ魔王は数を優先しているのかそれほど強くない魔物だったらしい。

 そうなると国はさほど危険ではないと判断してもおかしくないからな。

 魔王は人間が考えることを良く理解してるようだ。

 やはり賢いのかもしれない。


 でもここまで討伐されないと本当は討伐したくても討伐できない状況なんじゃないかと思えてきた。

 例えば階層が凄く深いとか。

 迷路のような道になっているとか。

 行き止まりで道がないとか。

 上級者クラスじゃないと倒せない魔物がいるとか。


「つまり私たちのしていることに間違いはないの! みんなのおかげで冒険者たちが強くなってるんだから!」


 それはその通りだと思う。

 魔王が力をつけるのをただジッと見ているわけにはいかないからな。

 対抗するためにこっちも冒険者たちに強くなってもらわねば。


「……魔工ダンジョンについての報告は以上です。今後マルセール周辺に出現する魔工ダンジョンに関してはダンジョン酒場から討伐依頼を出します。迅速な討伐を心がけますのでみなさんも家の方や町の方などに心配はいらないって伝えてください」


 ……急に冷静になったな。

 みんなもギャップにきょとんとしてる……。


「あっ、試作中の新メニューなんでどうぞいっぱい食べてください。あとで感想お願いします。ダンジョン酒場マスター代理の私からは以上です」


 ダンジョン酒場って言いたいだけのようだな。

 ……俺が食べるとまたみんなも食べはじめたようだ。


「じゃあ次な。地下四階のオープン日だが、来週の四月一日に正式決定だ。火曜日だけどまぁいいだろう。ただその前日の月曜日も営業は休みにする」


「え? 私たちも休みってこと?」


 ミーノが聞いてくる。

 こういうときにみんなの代表として質問するのもミーノの役割だからな。


「いや、営業は休みだがみんなにはやってもらいたいことがある。この料理の作り方だって明日から徐々に覚えていってほしいし」


「ふ~ん。日曜は休みでいいの? なにか手伝えることがあったら遠慮なく言ってね?」


「あぁ、日曜はゆっくり休んでほしい。施設を作るだけでもだいぶ時間がかかるだろうから待ってるだけになるかもしれないからな」


「えっ? 地下四階はもう作ってあって残るは調整だけって言ってなかった? ダンジョン酒場にそんなに時間かかるってこと?」


「地下四階やダンジョン酒場はなにも問題ない。あっ、やっぱりリョウカとミーノには日曜も来てもらったほうがいいな」


「「えっ!?」」


 リョウカとミーノは顔を見合わせる。

 そしてすぐに期待の眼差しで俺を見てきた。

 二人には魔力や魔道具の関係でまだまだ先になるって言ってたからな。


「宿屋をオープンする」


「「「「宿屋!?」」」」


「「やったぁ!」」


 今までで一番の驚きようじゃないか?

 ふふっ、やはりこの瞬間が一番気持ちいいな。

 冒険者たちが聞いたらもっと驚くぞ。


「あぁ、ダンジョンの宿屋だ。もっと先になる予定だったんだが、マリンのおかげで魔道具やシステムに目途が立ったからな。宿屋の責任者はリョウカに頼む。実はこの案を出してくれたのもリョウカなんだ」


 みんなは興奮冷めやらぬ様子だ。

 自分たちが泊まるわけじゃないのに……。


「みんなに月曜日にまずやってもらいたいことは宿屋の客室の確認だ。各部屋の備品が揃っているかや転移魔法陣の設定が合っているかとかだな。冒険者カードは忘れずに持ってきてくれ。そして夕方からは早速お客の受け入れを始めようと思うからその案内も手伝ってほしい」


「月曜日からもうお客を!?」


「地下四階よりも先にオープンするのか!?」


「日曜と月曜はみなさん引っ越しの準備ってわけですね!?」


 引っ越しってほどじゃないと思うけど……。

 今も宿屋暮らしなんだしそんなに荷物があるわけでもないだろうし。

 地下四階と同じ日にオープンするのは詰め込みすぎかなと思っただけだ。


「ねぇ、お兄。やっぱり今週は日曜日もみんなに来てもらおうよ。私たちは今日から少しずつ作業するからさ。日程に余裕がないとさすがに不安だよ」


「ん? それもそうか。なら来れる人は来てもらってもいいか? 自分の体調と相談しながらでいいから無理はしないように」


「「「「行く!」」」」


 みんなは来たいようだ。

 早く見てみたいんだろうな。

 ダンジョンストアのときと同じか。


 ……ん?

 ダンジョンストアのときと同じ?


 …………練習にもなるか。


「じゃあ日曜の夜はみんなの家族向けにプレオープンするか?」


「お兄! それいいよ!」


 普段宿屋に宿泊することなんてないだろうからな。

 でも宿屋をやってるリョウカの家族は来れないかもしれないか。

 せめて昼間に見に来てもらおう。


「……ロイス君、もう一つの件はどう?」


「あぁ、そっちも大丈夫だ」


「本当!? 絶対目玉になるよ!」


「そうだといいけど。でもまずはみんなと相談だな」


 冒険者の生活だけじゃなく従業員の生活も変わるかもしれない。

 みんなには納得して仕事をしてもらいたいもんだ。


 俺の仕事は楽になるばかりだけどな。


これにて第五章は終了です。


また、カトレアが主人公の

『世間知らずな錬金術師』

を別枠の連載で公開しています。


そちらもぜひ一度ご覧ください。


それではよろしくお願いします。

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