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第百二十七話 不穏

 ……想像以上だ。

 なにがってマリンの錬金術師としての力がだ。


 カトレアからウチにある魔道具の仕様はある程度聞いていたらしい。

 ダンジョンコアの操作方法も知っていた。

 情報漏洩しまくりじゃないか……。

 とも思わないでもないがマリンなら構わない。

 そういうことを差し引いても実力は本物のようだ


 試しに回収箱を参考に、指輪を箱に入れずに経験値を加算できる魔道具の作成をお願いした。

 するとマリンはものの三十分ほどで作ってしまったじゃないか。

 新しい魔道具は、魔道具の上に冒険者カードを置いてさらにその上から指輪をはめた手をかざすというものだ。

 これで指輪を返すことなく冒険者カードの情報とリンクすることができる。


 魔道具に使用する材料は袋に大量に用意してきてるらしい。

 できるだけダンジョンの魔力を節約するようにも言われてるそうだ。

 袋はカトレアが作ったあの袋。

 もちろんそこから大小の錬金釜も出てきた。

 大小セットで持つのが普通なのかもしれない。


「あっ、そういえばドラシーに会ってなかったよな」


「え? 今朝会ったよ? 起こしてくれたもん」


 ……直にマリンを見て品定めでもしてたのかもしれない。

 マリンも驚いた様子がないということはドラシーのことを事前に聞いてたのか。


「じゃあ次頼んでいいか?」


「うん! なんでも言って!」


「宿屋の客室用に冷蔵魔道具と洗濯魔道具を作ってほしいんだ」


「う~ん、それは作ったことないなぁ。参考にできるものある?」


「あぁ、新品をドラシーに出してもらうよ」


「わかった! ちなみに数は?」


「最低でも300個ずつは欲しいな」


「え…………無理だよ……」


「材料を錬金釜にいっぱい放り込んで一度に大量に作ったりできないのか?」


「さすがにそんな複雑そうな魔道具を複数個同時にはできないよ……」


「まぁ少し多すぎるか。作る時間を考えたらダンジョンの魔力を使ったほうが効率的だよな」


「お兄ちゃん……よく平然とした顔で言えるね……お姉ちゃんが言ってたのはこれか……」


 ドラシーも水晶玉を吸収してだいぶ魔力が溜まったって言ってたし大丈夫か。

 もし足りなかったらあと二つも吸収してしまえばいいし。


「じゃあ宿屋の受付魔道具を頼むよ。これはかなり重要だからな。その魔道具で料金も払えるようにしてほしい。あとはバイキング用の魔道具かな。料理は全て魔道具での提供にしたいんだ。だから料理の品数分の転送魔道具が欲しい。朝カフェの注文魔道具見たろ? 物資エリアのウサギたちとの連携も必要になるからな。魔道具だけじゃなくそっちの環境も考えてほしいんだ。ついでにダンジョン酒場の魔道具もいいか? 依頼を冒険者カードで受けられるような魔道具だな。依頼の情報と冒険者カードの情報とをリンクさせてほしい。その依頼もなにか画面のようなものに映し出せたらいいな」


「…………ねぇ、お兄ちゃん? 一度にそんなに言われて覚えられるわけないでしょ……それに結局多いし……これならパルドにいたほうが良かったかも……」


 マリンのお手並み拝見といこうか。

 カトレアならこれで数日間は部屋に籠りっぱなしだろうな。

 そして全く口を聞いてくれなくなるんだ。

 今となっては懐かしい。


「そういや王都の魔工ダンジョンはどうなってるんだ? 対策を立てるほどの難易度だったのか? マリンが出発したのは……ダンジョンが出現して四日目くらい? そのときはまだ討伐されてなかったってことだよな?」


「……え? 魔工ダンジョンね。うん。私が出たときはまだ討伐されてなかったよ。確か第三階層までは確認されてた。敵はそんなに強くないらしいけど広いから大変なんだって。こことは違って転移で帰ってこれるわけでもないからね。だから最短のルート検証や全体の地図を作ったりしてるみたい。次にダンジョンが出現したときに活用できるかもしれないしね」


 四日目でまだ第三階層?

 わざとゆっくり攻略してるのか?

 そんなことしてたら魔王の思うつぼじゃないか。

 いくら次回のための情報収集とは言ってもなぁ。


「カトレアは冒険者たちの攻略速度に不満は言ってなかったのか?」


「あっ、言ってたかも。大樹のダンジョンの冒険者たちなら遅くても二日もあれば討伐できるって。私はそういうのよくわからないからなにも言わなかったけど」


 遅くても二日か。

 第三階層の最奥まで行って帰ってという条件での話だよな?

 それならたいした規模じゃなさそうだ。

 第四階層があったら話はまた別だが。


「ダンジョンが広いって言ったのカトレアか?」


「それは冒険者の言葉だよ。お姉ちゃんも第二階層まで入ってたけど大樹のダンジョンの劣化版って言ってたし」


「ふ~ん。なら第三階層もたいしたことなさそうだな。冒険者はたくさん入ってるのか?」


「確か二百人くらいって言ってたかなぁ?」


「二百人!? 同時にってことか!?」


「うん。それとは別にお城の騎士さんたちも各階層入り口に見張りとして入ってるみたい」


 魔王は嬉しくて仕方ないだろうな。

 既にここのダンジョンと同じだけのお客を集めることができてるんだから。

 この調子じゃ魔力が溜まるのも早そうだ……。


 それにしても王都ともなると騎士ってのがいるのか。

 見張りというか監視か?

 うん、面倒そうだ。

 でも各階層に見張りを立てるのはいいな。

 水晶玉を持って脱出するときに中に人がいないかの確認もできるし。


「冒険者への報酬は冒険者ギルドから出るんだよな?」


「うん。今回は5000Gだって」


「5000G? もらえるのは討伐パーティだけか?」


「それはもちろんそうだよ」


 ……安くないか?

 四人パーティだとしたら一人たった1250Gだぞ?

 しかもかかった日数分だけ一日当たりの報酬は少なくなる。

 誰がそんな依頼を受けようと思うんだよ。


 でもこないだのマルセールの四つのダンジョンはそれぞれ1000Gだっけ……。

 検証のためとはいえ百人くらい入ってたし……。


 国も町も冒険者ギルドもケチなのかもしれない。

 魔工ダンジョンさえ現れなければ払う必要のないお金だったとはいえさ。

 ダンジョンの魔物が落とす魔石で稼げるじゃないかとでも思ってそうだ。

 報酬はおまけ程度のもんだとな。


「そんな倍率で冒険者たちはよくダンジョンに入ろうと思うよな」


「……ほとんどの冒険者は近くにダンジョンができて喜んでるもん。魔石で稼げると思ってね」


 冒険者自身が魔石で稼ぎたいと思ってるのか……。

 それじゃダンジョン討伐がなかなかされないわけだ。

 近場にいい狩場ができたわけだからな。

 天然の人工ダンジョンみたいなもんだし。

 出現する敵も弱いのならリスクが少なくレベル上げにもいいかもな。


 でもまさか国も同じ考えなんじゃないだろうな?

 魔工ダンジョンの危険性を理解してるのか?


「魔王についてはどう考えてるんだろう?」


「魔王って聞いても非現実すぎてこわがってる人なんて少ないもん。国の偉い人たちもまだ疑ってる人多いらしいよ」


 というか魔王はそれでいいのか?

 いくら自分の魔力を溜めるためとはいえ人間に喜ばれてるんだぞ?

 人間がこわがってる様子を見て楽しみたいんじゃないのか?


 それよりダンジョン周辺のほうが気になるな。

 毎日二百人も入ってたらそれなりに魔瘴も濃くなってきてると思うんだが。

 当然外にも見張りがいるだろうしすぐに気付くはずだ。

 濃くなると敵の出現頻度も上がるだろうし。

 それにも関わらず多くの冒険者の入場を許可してるんだからまだ大丈夫なんだろうが。


「魔工ダンジョンの外の様子についてはなにも聞いてないか?」


「外? なんで外?」


「え? そりゃダンジョン周辺の魔瘴が濃くなってきてないかどうか心配だからだろ」


「え? 外の魔瘴が濃くなったりするの?」


「ん? 本当になにも報告が上がってないのか?」


「初めて聞いたよ……」


 マリンは知らないのか。

 まぁ俺もここのマナが森に影響してることを知らなければ調査をしようと思わなかったかもしれないしな。


「そんなの調査報告書に書いてた?」


「最初のダンジョンのときにはそこまで調べなかったから書いてないだろうな。少量の体力や魔力を吸収したくらいじゃ変化しないだろうし」


「そうなんだ。でも次の四つのダンジョンのときには調査したってこと?」


「あぁ。多くの冒険者が自主的に参加してくれたんだ。その結果、魔瘴がわずかながら濃くなったことも確認できた。でもそのときの依頼は討伐だったからな。あくまで俺が勝手に調査を頼んだだけだ。それにその討伐中のタイミングで俺が町長と少し揉めてしまってな。そこで町長との縁は切れて俺は町から出禁状態になったからウチの従業員に討伐報告だけしてもらったんだ。だから調査しただけで報告はしてない」


「お兄ちゃん……町長と揉めて出禁って……」


 出禁なんてことは俺が勝手に思ってるだけかもしれないけどな。

 町長も辞めたんだし、今度こっそり行ってみようか。


「……まぁ出禁のことはいいや。それって魔瘴が濃くなってきたら気付くものなの?」


「ウチの初級冒険者たちでも気付いたんだから冒険者なら誰でもわかるだろうな」


「でもダンジョンの中と連動してるなんて思わないかも……」


「ダンジョンを中心に濃くなっていくんだから普通はおかしいと思うさ。それにカトレアがいるなら指摘はするはずだ」


「でもそれを聞き入れてもらえない可能性はあるよね……」


「そこまでして魔工ダンジョンを討伐したくないなら仕方ないだろ。国は魔王復活を大歓迎してるってことだ」


 死人が出てようやく気付くんだろうな。

 俺がなにか言ったところでどうせ田舎者の戯言と思われて終わりだ。

 そんなところに首を突っ込んでる暇があったらもっとやることがあるし。


「マリン、魔道具の件頼むぞ。カトレア専用だった作業部屋に案内するよ」


「あ……そうだった……ご飯のときは呼びに来てね……」


 そういやマリンもあの食生活だったんだよな……。


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