第百十八話 効果覿面
朝早くからピピとメタリンに魔工ダンジョンへ行ってきてもらった。
「どうだった?」
「チュリ! (完璧です! 吸収量も地下一階並みになってましたし、明るくもなってました!)」
「そうか」
早速効果があったようだ。
昨日、ララやユウナ、冒険者たちに渡したメモ。
そこにはダンジョン内でしてほしいことを書いていた。
してほしいことと言ってもただ中に入って呟くだけだ。
体力と魔力の吸収量が多すぎてこれ以上は中にいられないなぁ。
ダンジョン内が暗すぎてとても入り口から先に進めないよ。
急にダンジョンが増えてもすぐに冒険者が来るわけじゃないのに。
う~ん、大樹のダンジョンよりもよくできてそうなだけに少し残念かなぁ。
マルセールから同じ距離なら大樹のダンジョンに行こうぜ。
などなど、少しばかりダンジョンに対する不満を言ってもらっただけだ。
予想通り魔王は食いついてくれた。
「中は同じだったか?」
「チュリリ! (全く同じです!)」
これまた予想通りのようだ。
こんな短期間でさらに二つも増やしたんだからただのコピーなんだろう。
つまり今出現してるダンジョンは洞窟フィールド二つに草原フィールド二つ。
なので昨日追加で二つのパーティに声をかけてある。
今日は四パーティにそれぞれのダンジョンを攻略してもらうつもりだ。
「じゃあ二人とも、頼んだぞ」
「は~い……」
「今日も暇そうなのです……」
やる気のなさが凄く伝わってくる。
二人がやることは万が一の場合のフォローだからな。
ピピとメタリンが四つのダンジョンを見回り、なにか異常があると二人に報告する。
だからなにもなければ馬車で冒険者を送るだけの簡単なお仕事だ。
メタリンはやる気があるようで馬車はすぐに見えなくなった。
……もしかしてメタリンも速くなってる?
速さというより力が強化されたのかもしれない。
というわけで今日は完全に俺一人で受付業務だ。
「おはようございます……お気をつけて」
八時半、ダンジョン入り口の鍵を開けた。
「おはようございます……えぇ、何組かのパーティに行ってもらってます」
時折、魔工ダンジョンがどうなってるかについて聞かれる。
「おはようございます……う~ん、まだこちらで検討中といったところですかね」
地下四階へ行けるランクEにはどうやったらなれるかも聞かれたりした。
「おはようございます…お気をつけて……」
……おかしい。
明らかにおかしい。
なにがおかしいって?
お客が少なすぎるんだ……。
九時を過ぎてもまだ百人も来ていない。
こんなこと最近ではなかったことだ。
思い当たることはある。
昨日あの集会をしての今日だからな。
冒険者の気持ちになにか揺らぎが生じたのかもしれない。
それも冒険者生活に終止符を打つ可能性があるほどのなにかだ。
今まさに葛藤してる途中なんだろう。
「チュリ(報告です……)」
「うぉっ! ……帰ってたのか。どうした? 見回りは大丈夫なのか?」
「チュリ~(それが……その……)」
んん?
なんでそんな言いづらそうなんだ?
なにか失敗でもしたのか?
「チュリリリリ~(集合場所に行ったら冒険者のみなさんがたくさん待っていて、自分たちで話し合った結果ダンジョンの中には複数のパーティが入るとか、ダンジョンに一般人が入らないように外の見張りも自分たちでするとか、なにかあったときはすぐ報告するから任せてくれとか、死にそうになったら絶対逃げるからとか、だから管理人さんに安心してくれって伝えてくれと言われたんです)」
「……は? 冒険者がたくさんって全部でどのくらいなんだ?」
「チュリ(たぶん百人近くは……四つのダンジョンのどこに行くのかもみんなで話し合ったみたいです……)」
百人……つまり今日来てない冒険者はみんな魔工ダンジョンに行ったってことか?
なんで?
単純に興味があったからか?
それとも俺たちの負担を減らそうとしてくれてるのか?
なんのために昨日わざわざ四組のパーティを選んだと思ってるんだ?
人数が増えれば報酬が減ることをわかっているのか?
ダンジョンに多く人が入る分ダンジョンコアにも多く魔力が溜まるんだぞ?
昨日の説明を聞いてなかったのか?
「チュリリ(たぶん悪気は全くないんだと思います。報酬が減ることも理解してます。大勢で入るのも次回ダンジョンが出現したときのためのようでした。馬車も何台か手配してるようでしたし)」
つまりララやユウナの役割を冒険者が自らやってくれようとしてるってことか。
確かにそれならこちらとしても色々手が打てて楽になる。
それにララやユウナがフリーになるのも大きい。
馬車を準備してるんならメタリンも必要ない。
成果報告は明日でもなんの問題もないしな。
でも依頼を受けた俺の立場がなくないか?
勝手な行動をされたわけだし。
……ん?
馬車の音が近付いてくる。
あれはメタリンか。
「ただいま~。ねぇ、ピピから聞いた~?」
「なにもしてないけど疲れたのです……」
「キュ~(暇になったのです)」
さっきよりもやる気のなさが酷い……。
「あぁ。任せても大丈夫そうだったのか?」
「元々あのダンジョンレベルだとみんなの実力にはなんの問題もないからね」
「水晶玉の扱い方もきっと問題ないのです」
この二人が言うんならそうなんだろうな。
「ダンジョンコアに魔力が溜まったときのダンジョン内の変化や、ダンジョン周辺の魔瘴の濃さの変化についての調査はどうなんだ?」
「それも大丈夫。それを早く確かめるために大勢で入ることにしたんだって。周りへの被害が少なそうな一か所を選んで調査するって言ってた」
なるほど。
確かにそれなら結果が早くわかる。
なにも考えていなかったのは俺のほうか。
「町長のところには寄ってきたのか?」
「うん。報酬はやっぱりダンジョン一つにつき1000Gだって」
「まぁ仕方ないか。でも今後もっと難易度の高いダンジョンが出てきたときにそれだと誰も行きたがらないな」
「そのときは私たちが行くからいいのです! むしろそのほうがいいのです!」
四人パーティだと一人当たりたった250Gしかもらえないんだ。
しかも今後は攻略も難しくなっていくはず。
それならみんなこっちのダンジョンに来たがるに決まってる。
いくら使命感といってもお金が稼げないダンジョンを討伐し続けるのは精神的にツラいだろう。
だからといってマルセールが報酬を出してくれる額にも限界がある。
元々は必要のなかった出費なんだからな。
せめて今日の分はウチからいくらか出そうか。
今後も続くようだとそれこそララたちに行ってもらうことになる。
……でも水晶玉が手に入るんなら安いものか。
それならある程度ウチから報酬を用意してダンジョン討伐に向かってもらうほうが楽でいいな。
お金で魔力を買うとはこのことだろう。
「あっ、最初の水晶玉譲ってほしいんだってさ」
「え? なんで?」
「王都に持っていくんだってさ。なんか錬金術師に頼んで偉い人を説得してもらうみたい。魔工ダンジョンの証明ってやつね」
ダンジョンコアのことがわかる錬金術師なんて本当にいるのか?
さすがにカトレアでも証明は無理だと思うぞ?
いや、カトレアの師匠ならもしかすると…………
「あっ、忘れてた。あとで町長さんが来るみたい」
「町長さんが? ここに?」
「うん。お兄に話があるんだってさ。私が聞くって言ったんだけどなんかまだ子供だと思われてるみたいでさ」
子供ですよ?
まだ十一歳なんだからな?
もっと子供だってことを自覚して行動してほしいものだ。
それから一時間後、本当に町長がやってきた。