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第百十六話 ララの言葉

「みなさんはなんのために冒険者になったんですか? 強くなるため? 生活のため? 困ってる人を助けるため? 魔物を倒すため? カッコいいから? 他にいい職がなかったから仕方なく?」


 みんなララの話に聞き入ってるようだ。


「理由はそれぞれだと思います。どんな理由だとしてもただのきっかけにすぎません。みなさんは同じ冒険者なんですから。ですが今この世界には魔王が存在しています。みなさんがなにもしなくてもどこかの誰かが魔王を倒してくれるかもしれません。逆にどれだけ強くなったとしてもあっさり魔王に殺されてしまうかもしれません」


「「「「……」」」」


「でもだからといって目の前の現実から逃げるわけにはいきません。みなさんがこのダンジョンに来たのはお金と強さの両方が得られるからではありませんか? もし全てがお金のためだとしてもなにも恥じることはありません。そのお金で経済が回ってるんですから。例え強さだけを求めてるとしてもお金がなければ生活自体がままなりませんし」


 なんの話だ?

 お金は大事ですよって話に聞こえるぞ?


 ララは自分の袋から二枚の紙を取り出した。

 ……カトレアの魔法袋を身に着けてるのか。


「ここにダンジョン討伐の依頼書があります。今朝発見されたダンジョンについての依頼書です。この件についてはマルセールのデイジー町長から私たちに一任されています。もちろん町長から報酬も出ます」


「おお?」


「一任されてるなんてさすがだな……」


「報酬ってどのくらい出るんだろ……」


 少し表情が緩んできたようだな。

 魔王という言葉に現実味がなさすぎたせいでどう反応したらいいかがわからなかったのかもしれない。


「今回の報酬はまだ決まっていませんが、この間の報酬は1000Gでした。ちなみにダンジョンの規模はウチの地下一階の十分の一程度で敵もブルースライムとオレンジスライムのみです」


「それで1000Gも!?」


「気前良すぎだな!」


「それなら私も行ってみたい!」


 わかりやすく報酬に釣られてるな……。


「でも相手は魔王です。次も同じダンジョンとは限りません。この依頼書はダンジョン内を考慮してのものではありませんし」


「そうだよなぁ~」


「いきなり中級レベルの敵とかだったら確実に死ぬよな……」


「地下三階レベルでも終わりだよ……」


 今度は不安が押し寄せてきたようだ……。


「色々話しましたが、これからどうするかはみなさんの自由です。魔王討伐を誰かに期待するのもいいでしょう。ここで一生冒険者を続けるのもいいと思います。私たちはお客さんがいなくなると生活ができなくなりますからむしろ大歓迎です。来月からは中級者向け階層として地下四階をオープンする予定ですし」


「「「「中級者向け階層!?」」」」


「「「「地下四階!?」」」」


「「「「来月から!?」」」」


 あ~、言っちゃったか……。

 楽しみが消えてしまった……。


「はい。そろそろお客さんの数も頭打ちになってきましたし。なにか新しいことでも始めないとみなさん旅立っていってしまうでしょうし。だから私も寝る間を惜しんで新メニューの開発してますし。それなのに急に魔工ダンジョンなんてものが出てきたせいで考え事が増えて全然眠れませんし。おそらく今後は世界中で魔工ダンジョンが増えるでしょうし。私も気分転換に魔工ダンジョン潰したりしたいですし。お兄が考える最高に面白い地下四階を楽しみたいですし」


 どう反応したらいいんだよ……。

 みんな複雑な表情をしている。

 というか何気にハードルを上げるのはやめてくれ。

 本気で悩んでるんだぞ……。


「私も冒険者の一人です。困っている人がいたら助けたい。この間のダンジョンは畑の上に出現してたんです。ダンジョンが消滅した後、畑はどうなったと思います? 元々育てていた作物がなくなったどころか畑すら更地になったんです。今日出現したダンジョンの一つはまた同じ人の畑なんだそうです。もしみなさんの家やご実家がダンジョンに変わってしまったらすぐに私に知らせてください。すぐに消滅させてみせますので。大切な人がダンジョンに閉じ込められても私に教えてください。すぐに助けだしてみせますので」


 みんな悲しい表情になってしまった……。

 畑の人に同情したのかもしれない。

 実家がダンジョンになったことを想像したのかもしれない。

 人がいる場所にダンジョンができたりしたらどうなるんだろう……。


「だからこの依頼書は二枚とも私とユウナちゃんが貰います。そして今日中にはダンジョンを潰してきます。放っておくとダンジョンの周りが魔瘴で大変なことになるかもしれませんので」


「え……」


「そうなの?」


「二人だけに任せるわけには……」


「これからもどんどん増えるんだよな……」


「報酬も気になる……」


 ん?

 また少しづつ声が聞こえてくるようになったな。


「みなさんは来月に向けてここで強くなっていてください。お金も今より稼げるようになるはずです。新しい果物があったり、新しい魔物も登場したり、ドロップ品も増えたりしますので。ただし地下四階にはお兄に認められたランクE以上の方しか行けませんが」


「え……そういやランクってのがあったな……」


「てことは管理人さんになにかしら強さを見せる必要があるってこと?」


「いや、強さ自体はララちゃんが見るんじゃないのか?」


「強さだけとは限らなくないか?」


「心もきれいじゃないと無理に決まってるじゃない」


「実績も必要じゃないか? それこそ魔工ダンジョンの討伐成果とかさ」


 面倒だから経験値だけでランクアップするように変更しようかと思ってたんだけど……。

 みんな中級者向け階層には興味津々みたいだな。


「でも魔工ダンジョンのせいで延期になったりしないか?」


「町長直々に調査や討伐を頼まれてるんだから断れないだろうし」


「正直魔物のダンジョンていうのが非現実的だったんだよなぁ。本当にあるんだな」


「というか最初は強くなることだけが目的で金はおまけ程度にしか考えてなかったよな」


「あぁ。だが実際に旅に出てみると想像以上に金がかかる。それにこのダンジョンの居心地が良すぎるせいで本来の目的を忘れてた気がする。強くなれば金なんか後からいくらでもついてくるんだよな」


「そうだよな。生活費や装備品のための金を貯めることに必死になりすぎてた。俺は故郷を魔物から守るために冒険者として強くなることを選んだんだ」


「俺は単に冒険者に憧れただけだが、強くなっていつかは魔物のダンジョンに挑戦したいとは思っていたんだ」


「私も。だからこのダンジョンに来たんだし。一瞬でも魔王をこわいなんて思ってしまった自分が嫌になるわ」


「はっきり言って俺は金が目的だったよ。でも少し強くなったことでなにか人の役に立てないかとも思ったりしてきてたんだ」


「もしかしたら俺たちでもなんとかなるんじゃないか? 魔物急襲エリアで鍛えてきたんだぞ?」


「なんだか急に腕試ししたくなってきたな」


 え……。

 なんで急にやる気がみなぎったかのようになってるんだ……。


「なぁ管理人さん? 魔工ダンジョンの件、俺たちに任せてくれないかな?」


「いえ、ぜひ私たちのパーティにお任せください!」


「いや、俺一人でも十分だ! もし死んだら骨だけは拾ってくれ!」


「バカ野郎! 死なないために修行してきたんだろ! 死にそうになったらすぐに逃げろ!」


「その通りだ! セーフティリングがなんのためにあるのかまだわかってないのか!? このダンジョンの物全てに意味があるんだぞ!」


「くっ、すまん! 一人では無理だ! 誰か俺とパーティを組んでくれ!」


 なんだか賑やかになってきたぞ……。


「みんなには申し訳ないが今の俺ではまだ魔工ダンジョンに挑む自信がない」


「それでいいんだ! 自分の実力を過信するのは良くない! 自信をつけるためにこのダンジョンで修行するんだ!」


「本当に魔工ダンジョンが増え続けるんならいつかあなたの力が必要になるときが来るわ! だからそれまではいっしょにレベル上げしましょう!」


 …………。


 みんなが喋りだしたせいで会話がよく聞き取れなかったりもするがいい方向に考えてくれてるようだ。


 それにみんながララやユウナのように魔工ダンジョンに挑戦してみたくなってる。

 やはり冒険者という生き物はみんなこうなんだろうな。

 先ほどまでの不安が嘘かのようだ。


 みんなはこのダンジョンで何度も死にかけてるはず。

 だからこそ自分の弱さがわかってる。

 ましてやまだ初級者なんだ。

 自分の強さに自信が持てないところに魔王なんて言われたら心も頭もパンクしそうになってもなにもおかしくない。


 ララが最終的にこうなることを予想して話していたかはわからない。

 話の順序にもまとまりがあったようには思えないし。

 どちらかというと不安にさせるような言葉を言ってた印象が強い。


 そのララはみんなの様子を笑顔で眺めている。


「お兄のマネしただけだよ」


「俺のマネ?」


「うん。適当に言葉をいっぱい並べただけ。みんながやる気になってくれたのはたまたま。色んな感情が混ざった結果だろうね」


 …………まぁいいか。


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