第百十四話 マルセール町長
今日はララとユウナと三人で町に行くことになっている。
昨日ヤックに、町長に会えないか店長さんに聞いてみてくれと頼んだんだ。
するとすぐに許可が下りたらしく、ウェルダンがその知らせを持って帰ってきた。
約束は十時。
日曜に朝から町へ行くのも久しぶりだ。
一年前のことを思いだしてしまうな。
「お~い、行くぞ~」
ララとユウナは寝坊していた。
最近日曜はみんな二度寝してたせいだな。
「……おい? なぜ戦闘準備をしていくんだ?」
「だってダンジョンが出現するかもしれないもん!」
「そうなのです! 休日を狙ってくる可能性大なのです!」
……魔王はここが見えてないんだから休日なんかわかりようがないのに。
そしてゲンさんを残してみんなで町にやってきた。
……気のせいか?
なんだか見られてる気がする……。
「ロイス君、聞いたよ! ありがとうね!」
「ララちゃん! 大丈夫だった!? 無理しちゃダメだよ!?」
町のおばさんたちが声をかけてくる。
そういうことか。
でもめったに町に来ないララの顔まで知られてるとは……。
「大丈夫です! またダンジョンができても冒険者のみんなといっしょに戦いますから安心してください!」
ララは笑顔で対応している。
普段あまり大人と接することがないだけになんだか新鮮だな。
いい子に育っているようだ、うん。
その後も声をかけられながら町長がいる役場に着いた。
冒険者たちの姿は見かけなかったな。
みんなまだ寝てるのかもしれない。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
受付の方が案内してくれる。
お出迎えされるほどの立場じゃないんだけどな……。
もっと普通に接してほしい。
魔物たちは外でお留守番だ。
ピピには見回りを頼んでいる。
……ここが町長室か。
「失礼します」
「どうぞ」
……え?
「お待ちしておりました。どうぞおかけになってください」
「……はい」
町長って女性だったのか……。
店長さんたち三人がよく遊んでた幼馴染だっていうから完全に男だと思ってた。
「なに飲まれますか? コーヒーはまだ早いかな? ジュースやお茶もありますよ?」
「……じゃあカフェラテもらえますか? 二人は……カフェラテ三つでお願いします」
「はい。じゃあお願いしますね」
町長は秘書に頼んでいるようだ。
でも秘書がいるなんてさすが町長だな。
それにしてもこの町長、物腰が柔らかい印象を受ける。
もっとキレ者かと思っていたんだけど。
……っと、挨拶をしないとな。
「本日は急にも関わらずこのような場を設けていただきましてありがとうございます。私は大樹のダンジョンの管理人をやっておりますロイスと申します。こっちが妹のララで、こっちがダンジョンの副管理人兼冒険者のユウナです」
「あらあら、ご丁寧にどうも。町長のデイジーです。みなさんのお話はいつも聞いていますよ。おかげさまで町も活性化してます」
……大人の人にこんな丁寧な対応されるとどうしたらいいかわからなくなるな。
「あの、本日はダンジョンのことでお話したいことがありまして。あっ、ダンジョンと言いましてもウチの人工ダンジョンのことではなく、この前出現した魔物のダンジョンのことです」
「はい、その節はありがとうございました。実はもっと詳しくお聞きするために明日にでもダンジョンへ伺おうと思ってたところだったんですよ」
「そうでしたか。ならちょうど良かったです。では早速なんですが……」
それから魔工ダンジョンについての俺たちの見解を話した。
町長は時折考え込みながらも一言も口をはさんでくることなく最後まで聞いてくれた。
「……以上です。もちろん全部ただの推測にすぎませんが……」
「いえ、ありがとうございます。正直まさかそこまでの事態になってるとは思いもしませんでしたが」
「……でも町長さんも色々な可能性を考えてらっしゃいましたよね?」
「それは町長として当然です。さすがに魔王が復活とまでは考えもしませんでしたけど。でも噂どおりですね、ロイス君」
「噂通り? なにがですか?」
「あなたのことですよ。みんなが言う人物像そのままでした」
……町の人からしたら俺の人物像なんてどうせ毎週日曜に犬といっしょに大量の買い物をしにくる少年って認識に違いない。
想像するだけで恥ずかしくなるよ。
「で、今後町の周辺にまたダンジョンが出現したらどうされますか?」
「そうですね~、ダンジョンの攻略レベルにもよりますがしばらくの間はまたお願いしてもよろしいですか?」
「喜んで。ウチの冒険者たちにも実戦での経験を積んでほしいですし」
「ありがとうございます。報酬は別途お出ししますので。この町にもそのうちギルドみたいなものが必要になるかもしれませんね」
「ここで対応できたほうが早いですしね。まぁ魔王がどう動いてくるかは想像もつきませんが」
「一応今回の件は王都へも報告済みです。小さいダンジョンということで全く取り合ってもらえなかったみたいですが……」
王都への報告は義務なのかな。
さすがにこんな小さな案件だと相手にしてくれないのか。
「今日のことはまだ報告しないでもらえますか?」
「そのつもりです。疑ってるわけじゃありませんが確信がないとまた取り合ってもらえないでしょうし」
「自分の中でも半分は疑ってるんで疑ってもらって結構ですよ」
「ふふっ。そういうところ、あなたのお父さんにそっくりですね」
「え? 父をご存じなんですか?」
「もちろんです。年齢は私が上ですが同世代ですからね」
そりゃ知り合いでもおかしくないか。
ミーノやメロさんやヤックも俺と年が近いんだからな。
……ということは店長さんたちも父さんのことを知ってるのか?
そんな話一度も聞いたことないぞ?
…………言えるわけないか。
そんなところまで気を遣わせてたんだな。
「お父さんの話が聞きたくなったらいつでも聞きに来てください。みんなにモテモテだったんですよ? ふふふっ」
モテモテだったのが悔しくて話したくないだけかもしれない……。
現に町長はなんでも話してくれそうだ。
だがララの前ではあまり話してほしくないな。
ほとんど記憶がないから余計寂しくなるだけだと思うし。
「じゃあ今日はこのへんで失礼します。貴重なお時間ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそわざわざありがとうございました。ダンジョンの件、よろしくお願いしますね」
そして役場を出た。
「あぁ~疲れた~」
「緊張したのです~」
二人はほとんど喋ってないからかえって疲れたのかもしれない。
「腹減ったな~。なに食べたい?」
「う~ん、夕方だったらハナちゃんちに行ってみたいところなんだけど」
「小料理屋行ってみたいのです!」
「確か十七時からだったっけ。また今度だな」
そういやここで夜に食事をしたことはまだないな。
暗くなると帰り道がこわいからいつも朝早く出てたんだし。
冒険者のみんなはそんな道を往復二時間もかけてよく毎日通ってるよな。
やはり馬車の運行を始めてみるべきか?
そうすると睡眠時間も多く取れて体力の効果的な回復にも繋がるはず。
冒険者たちの健康面を考えるのも俺たちの仕事の一つだ。
もっと町の近くにダンジョンがあれば良かったんだろうけど、そればっかりは変更できないからな。
「ん? ピピはまだ戻ってないのか?」
「わふ(特に異常なかったみたいだからまたどこかへ行ったよ)」
「そうか。ピピは出かけるのが本当に好きだな」
結局今日も新たなダンジョンの出現はなしか。
ないほうがいいに決まってるんだけどな。
これだけ気を張ってるとそれだけで疲れてしまう。
「ねぇ、焼肉のお店にしない?」
「焼肉食べたいのです! お店で食べたことないかもしれないのです!」
「じゃあ焼肉にしようか。牛料理の参考になるかもしれないしな」
そうだ、地下四階のことも考えないといけないんだった……。