第百十話 ダンジョン調査
う~ん、見た感じは普通の洞窟の入り口ね。
ウチのダンジョンの前までの小さい入り口とそっくり。
でもなぜこんな畑の真ん中に?
入ると地下への階段が続いてるのかな?
それともウチみたいに転移するのかな?
「みんな、準備はいい?」
「わふっ!」
「チュリ!」
「キュ!」
「モー!」
うん、完璧みたい。
「じゃあ、シルバお願い。ウェルダンは周囲を警戒しててね」
シルバはおそるおそる……じゃなく普通に洞窟に入っていっちゃった……。
私も続かねば。
やっぱり中は暗いんだ。
左手で炎魔法を出してと。
うん、これで視界はバッチリね。
ウチのダンジョンみたいに明るいのはありえないよね。
もっと厳しく設定したほうがいいのかなぁ。
それよりここ狭い。
こんなんじゃお客さんは困るんじゃない?
というか階段じゃなく奥に続いてる。
入り口に転移魔法陣があったんだ。
これじゃ中でなにかあってもウェルダンにはわからないよね。
「シルバ、ちょっとストップ。メタリン、ウェルダンに転移魔法陣のこと伝えてきて。一時間経っても出てこなかったらお兄に報告しに行くようにって」
「キュ!」
……メタリンの姿が消えた。
やっぱり転移魔法陣だ。
となると人工ダンジョンって考えたほうがいいよね。
「……どうだった? 普通に出れた?」
「キュ!」
大丈夫みたい。
いきなり入らずにもう少し慎重に行くべきだったよね……。
「シルバ、進んで」
「わふっ!」
「え? ……あっ、敵ね! 飛びかからないで少し引き寄せて!」
……ブルースライム?
それにオレンジスライム?
ウチの地下一階と同じじゃない。
……強さも変わらないみたいね。
魔石も普通に落とすみたいだし。
ただ数が多いかもしれない。
みんな可愛く飛び跳ねて次々と襲いかかってくる。
「シルバ! やっちゃって!」
「わふ!」
目にもとまらぬ速さの攻撃で敵が魔石に変わっていく。
どうやら残骸はすぐに吸収する設定みたい。
う~ん、魔石を拾うのが面倒ね。
これがウチのダンジョンなら全て自動で採集袋に収納されてるはずなのに。
魔石を見る限りはウチで取れる物と同じように見える。
というか私には細かいことはわからないや……。
「キュキュ~?」
「うん、全部集めてくれる? あっ、この袋に入れて」
メタリンが集めてくれるみたい。
カトレア姉が作ってくれた袋持ってきて良かった。
私が使うのこれが初めてなんだからね。
まぁお兄やユウナちゃんも普段外に出ないから誰も使ってないんだけど……。
宝の持ち腐れとはこのことか。
「じゃあ進みましょうか」
シルバは嗅覚を研ぎ澄ませながら歩いていく。
「わふぅ~?」
「えっ?」
「チュリリ~?」
「んん?」
どうしたの?
なにかあったの?
……少し通路が広くなってる?
ん?
広い部屋に入ったみたい。
「あっ! 戦闘準備! メタリンは後ろにも注意して!」
部屋の中にはブルースライムとオレンジスライムの大群がいた。
襲ってくる気配はなさそうだ。
う~ん、これだけ?
いくら数が多くてもさすがにこのスライムたちには負ける気しないなぁ。
もしかして罠?
弱いと見せかけといて実は強化版のスライムとか?
もしくは強いスライムに色を塗って弱く思わせたりしてるとか?
「とりあえず攻撃してみるね。えいっ」
ブルースライムの一匹に小さな火魔法を放ってみた。
当たると同時に魔石に変わった。
……普通のブルースライムみたい。
するとこちらの攻撃が合図だったかのようにいっせいに襲いかかってきた!
「……ピピ、風で吹き飛ばして」
「チュリ~」
ピピもどことなくやる気がなさそうだ。
そして一瞬で敵を一掃することができた。
すぐさまメタリンが魔石の回収にかかる。
次敵が来たら邪魔になるかもしれないしね。
メタリンの素早さがこんなところで役に立つとは。
レンジャータイプなのかもしれない。
「わふ」
「チュリ」
「え? もう終わり?」
どうやらもう敵はいないみたい……。
周囲を火で照らしてみてもこの部屋は行き止まりみたいだし。
これ、ダンジョンって呼んでいいのかな?
小さすぎない?
入ってまだ十五分も経ってないんじゃないかな?
さすがにこれで入場料50Gは貰えないよ……。
……え?
あれなに?
奥になにかあるみたいだけど……。
歩きながら左手の明かりを一気に強くする。
「これは……」
◇◇◇
「じゃあ申し訳ないですけど小屋で待機しててください。カフェメニューもご自由にどうぞ。従業員には伝えてありますのでそのままカウンターで直接注文してください」
「「「「やったぁ!」」」」
ふぅ~、第二部隊の準備は整ったな。
ララたちがここを出てもうすぐ一時間が経つか。
ダンジョンまでは馬車で十五分もかからないだろうから最低でも三十分はダンジョンに潜ってることになるな。
無事ならいいが。
「ロイスさん!」
「ん? なに?」
小屋の前で声をかけてきたのはヤックの弟だ。
妹はゲンさんに遊んでもらってるようだ。
「僕もここで働かせてもらえませんか!?」
「え……そういやヤックがそんなこと言ってたっけ」
「ここにいると冒険者のみなさんもお兄ちゃんたち従業員の方たちも楽しそうなんです! だから僕もここで働いてみたいんです! 年齢はお兄ちゃんの二つ下なんでまだ十二歳ですが……」
なんというかヤックそっくりだな。
いや、まだ十二歳ということを考慮するとヤックよりしっかりしてるかもしれない。
ララの一つ上か。
次が十三歳になる年ならまぁいいか。
「ダメだ! 何度言ったらわかるんだ!」
店長さんが小屋の中から慌てて出てきた。
ヤックの仕事ぶりが気になってかずっと見てたのに。
というか何度も言ってるのか。
そんなに来たいなら仕方ないんじゃないか?
でもやはりまだ十二歳ってのは厳しいか。
それにヤックがダンジョンで働いてるから弟には道具屋で働いてほしいという思惑もあるのかもしれない。
俺も面倒事になるのは嫌だし。
弟はシュンとしてしまったようだ。
少し慰めておくか。
「そんなに焦ることないさ。たまにこうやって遊びにくるくらいなら許してくれるよ。ほらっ、中に入ってお兄ちゃんたちに好きなもの作ってもらいな」
「……はい」
弟は妹を連れて小屋に入っていった。
「なんかスマンな……」
「いえ。店長さんの考えは当然だと思いますよ」
「……坊主やララちゃんを見てると自分が情けなくなってくるよ」
それはたまたま俺たちの境遇がそうだっただけだ。
それに俺は毎日ただのんびり座ってるだけだし……。
「チュリッ! (報告です!)」
「うぉっ!? ……ピピか」
ビックリした……。
ウェルダンじゃなくてピピが来たということは中は大丈夫ってことか?
「どうなったんだ?」
「チュリリッ! (凄く小さな洞窟型のダンジョンでした! 敵もブルースライムとオレンジスライムのみです。洞窟の規模の割に少し数が多かったですが)」
「ふむ」
「……なんて言ってるんだ?」
ここの地下一階レベルってことか。
時間を考えても規模は地下一階よりはだいぶ小さいんだろう。
「それだけ? 先に帰ってくる必要あったのか?」
「チュリ! (いえ、本題はここからです!)」
「本題? なにか問題があったのか!?」
「なぁ? 気になって仕方ないんだが……」
「チュリ! (実は最奥で水晶玉らしきものを発見しました!)」
「なにっ!? 間違いないのか!?」
「チュリリッ! (はい! ここにあるものよりかは小さいですが。それと入り口には転移魔法陣が使われています)」
水晶玉があったということは人工ダンジョンの可能性がより高まったのか。
入り口に転移魔法陣というのもウチと同じだ。
……いや、魔物のダンジョンが水晶玉を使ってないとは言い切れない。
一度ドラシーに確認してみる必要があるな。
「ララたちはまだダンジョン内にいるんだな?」
「チュリ! (はい! 魔物が湧くかどうかや湧いた場合外に出ないかどうかやダンジョン周辺の調査をしてると思います!」
「うむ。調査と伝えるのを忘れてたがしっかりやってくれてるようでなによりだ」
「内緒話はズルいぞ……」
さすがララだな。
俺よりも色んなことを考えて行動してくれてる。
この様子だと第二部隊は必要なさそうだ。
「チュリ! (最後どうするか決めてください!)」
最後か。
つまり水晶玉……ダンジョンコアをどうするかだよな。
ダンジョンコアは破壊されると魔力が暴走するおそれがあるって言ってたよな。
いくら小さいダンジョンとはいえなにがあるかわからない。
だから破壊はなしだ。
となると必然的に答えは一つだな。
「持って帰ってきてくれ。ダンジョンから出すときは慎重にな。全員が外に出たかどうかの確認をしてから頼むぞ」
「チュリ! (了解しました!)」
ピピは飛び立っていった。
おそらくダンジョンコアをダンジョン外に持ち出せばダンジョンは消滅するはず。
でもなんでダンジョンコアをそんなところに置いていたのかがわからないな。
なにかテスト的なことをしてるのか?
「あの……どうなったかそろそろ教えてくれないかな……」