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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第一章 管理人のお仕事
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第十一話 新米冒険者

「うん、このハムエッグは美味しいな! 卵の半熟具合も最高だ!」


「……どうも」 


 朝の日課である散歩から帰ってきた俺は朝食を食べていた。

 ……ララはまだ機嫌が悪いようだ。

 でも今朝はご飯を作ってくれたことを考えたら昨日よりはマシになったと思いたい。

 そういやドラシーを見かけないな。


「チュリリ! (誰か来ました!)」


「ん? まだ八時だぞ?」


 管理人室の窓から外を見ていたピピが教えてくれる。

 俺も慌てて管理人室に行き外を見ると、三人がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。

 営業開始は九時だからまだ一時間もある。

 男性二人に女性一人の三人組は管理人室にいる俺を見つけると、すぐに管理人室までやってきた。


「おはようございます」


「「「おはようございます!」」」


「お早いですね。申し訳ありませんが営業開始は九時となっておりまして」


「いえ、知ってます! でも早くダンジョンに入ってみたくて早めに来ちゃいました!」


「俺たち今日が冒険者デビューなんです!」


 朝からうるさいくらい元気な声だな。

 それにしても冒険者デビュー、いい響きだな。 

 三人とも十五歳くらいか?

 今日は四月一日、年度が切り替わるタイミングだからな。

 この三人は冒険者になる道を選択したのか。


「そうでしたか。では先に当ダンジョンについて簡単に説明させてもらいますがよろしいでしょうか?」


「「「お願いします!」」」


 三人は興味津々と輝いた目で俺の説明を聞いていた。

 俺にもそんな時期があったのかなぁ。

 ……いや、この三人のように冒険者となって世界中を旅しようなんて考えたこともないな。

 でも美味しいものを食べるだけの観光ならしてみたいかも。

 

 もはや俺の中ではダンジョンの説明は定型文となっているので、邪な考えを別でしていようが、口からはスラスラと言葉が出ていた。


「以上になりますが、ご不明な点はございますか?」


「……あの、このビラのことなんですけど」


 すると、女性がビラを取り出して見せてきた。

 確かにウチのビラのようだ。


「はい、なにか質問でもありましたか?」


「このリニューアルって今日からなんですよね?」


「そうですけど?」


「ダンジョンの中に休憩する場所があるんですか?」


「!」


 そこでようやく気付いた。

 今日から新しくなった地下一階やシステムについて全く説明していなかったことを。


 だってまだ営業開始まで時間あったし、相手がダンジョン初めての初心者だったから仕方ないよね。

 気を取り直して新たに作った定型文をまるで読み上げるかのように説明するとしよう。


「これは失礼しました。本日からの新エリアや新システムをご説明させてもらいますね」


「「「はい!」」」


 こうも期待した目で見られるとなぜか心が痛む。

 

「新設の休憩エリアでは魔物がいっさい立ち入れないようになっております。エリアの周りは魔力による結界で覆っておりますので一目で範囲がわかると思います。設備として、ベンチとテーブル、男女別のトイレ、そして美味しい湧き水がございますので自由にご利用ください」


「「「!!」」」


 おっ?

 驚いてくれているのか?

 湧き水か?

 あれは美味しいの一言では言い表せないぞ?


「トイレ!? トイレもあるんですか!?」


「えっ? あっ、はい、新しく導入しました。洗面スペースもございますのでお化粧直しにもお使いいただけますよ」


「本当ですか? ダンジョンにトイレがあるなんて……。実はとても不安だったんです。その……外ですることにあまり慣れていないから……」


 そうだよな、冒険者でもなければ女性が野外で用を足すなんてめったにないだろうしな。

 まして男二人女一人のパーティだと男の目を気にせざるを得ない。


 って休憩エリアと薬草エリアの説明を全部終えてから質問コーナーにいきたかったのに。

 しかし最初からこれではしばらく定型文だけでは無理そうか、面倒だな。

 

「えっと、このダンジョンが当たり前だと思わないでくださいね。魔物のダンジョンでは敵も人間を殺すことが仕事ですから。敵が襲ってこない場所なんてあるわけなく、ましてトイレなんか用意してくれるわけないですからね」


「「「はい……」」」

 

 三人とも静かに返事をし頷く。


「そうは言いましたが当ダンジョンの売りは安全ですのでここでは気にしないでください。安全といえば新たに見回り巡回する魔物を配置することにしました。アンゴララビットという白いウサギの見た目をしていますが、この魔物は戦う気はいっさいなく、皆さまが危険なときにお助けする役割を持っています。また、冒険者同士のトラブルが発生した場合にも間に入ることがありますので、できればこの魔物には攻撃しないであげてください。もし攻撃してしまっても反撃されるようなことはないのでご安心を」


「へぇ~、それは心強いですね」


「では次に薬草エリアの説明をさせてもらいますね」


 そう言いながらカウンターの上にある箱から袋とタグ付き薬草を取り出す。


「薬草エリアとはその名の通り、薬草が生えていてそれを採集できるようになっています。ただし、採集可能な枚数には制限がございまして本日の制限枚数はお一人様十枚までとなっております。なお全ての薬草にはこのようにタグが付いておりますので、そのタグより下、薬草の葉じゃない側を切り取ってください。もしタグより上を切られますと、微量の電気によるダメージを受けることになりますのでご注意くださいね。そして、採集された薬草はこの袋に収納してください。その後、袋の中から薬草を取り出すと、あら不思議、タグが外れており通常の薬草として扱うことがその時点から可能になります。また、袋に入れた際に枚数はカウントさせていただいておりますので制限枚数以上入れることができなくなっております。万が一、誤って制限枚数以上採ってしまったという場合はその薬草はその場にでも置いて下さって結構です。最後に、この袋は帰る際にあちらの小屋の横にあるあの回収箱に入れてくだされば幸いです。以上になりますが、ご不明な点はございますでしょうか?」


「「「……」」」


「なにかございましたら遠慮なくおっしゃってくださいね」


 三人は袋と薬草と小屋と俺を何度も見ながら理解を深めようとしていた。

 初心者の三人にはシステムが難しすぎたか?

 それとも俺の説明が上手くできてないのか?

 袋とタグ付き薬草の実物を用意し、タグが外れて薬草を取り出せるようになるまでの過程を実演した。

 帰るときに使用済みの袋を入れる回収箱の説明までわかりやすくしたつもりだったが……。


 ……小屋か!?

 あの休憩小屋の説明が抜けていたか!


「あちらの小屋は休憩小屋となっております。待合室としてもご利用ください。小屋の中にはベンチ、テーブル、トイレをご用意しております。外には水道もございます。ただし、利用していただけるのは入場料金を頂いたお客様のみとなっておりますのでご了承願います」


 どうだ?

 そういや休憩小屋を説明することは考えてなかったな。

 ……なにか質問はないのか?

 まさかもう一度初めから説明してくれとか言わないだろうな?

 さすがにそれは面倒だぞ。

 あっ、もしかして早速休憩小屋を利用したいのか?


「どうされますか? ダンジョンに入場されますか?」


「えっ、あっ、はい、お願いします」


「ありがとうございます。ではお一人様50Gになります」


「じゃあこれで」


「……はい、確かに150G頂戴しました。ダンジョンの入場開始は九時からとなりますが、それまではあちらの休憩小屋でごゆっくりなさっててください」


「いいんですか!? やった!」


「もちろんです。すぐに鍵を開けますので少々お待ちを。じゃあピピお願い」


「チュリッ! (わかりました!)」


 ピピは鍵を持って小屋まで凄い速さで飛んで移動し、鍵を開け、すぐさま戻ってきた。


「ピピありがとう」


「チュリリ! (いえいえ!)」


 三人はピピと俺を交互に見てぽかーんとしている。


「お待たせしました。どうぞご利用ください」


「……あっ、はい、ありがとうございます」


 男性二人は小屋に向かって歩いていった。

 女性はこの場に残っている。


「どうされました? ご質問ですか? 薬草の取り扱いについてはご理解いただけましたでしょうか?」


「はい、それについては大丈夫です。あの二人もきっと理解できたと思います。それよりも、あなたのことが気になってしまって……」


「え? なにか失礼な点でもございましたか?」


「いえ、そうではなくて、凄いしっかりしてるから。見たところ私たちと年齢は変わらなそうだけど、いくつなんですか? ここで働いて長いんですか?」


「十四歳ですけど……。まぁここが家ですからね。これまでは手伝いみたいなものでしたが長いといえば長いですね、六年くらいでしょうか」


「十四歳……年下なんだ。六年てことは八歳のころから? そんな小さなころから働いてるなんて凄いですね。しっかりしてるのも頷けます」


 そうか、彼女たちにとっては今日が大人としてのスタートだ。

 これから自分で稼いでいくことに不安があるのは当然だ。

 そこに自分より年下が働いてることを知り、さらに俺の定型文の説明を聞いて、俺のことをしっかり者の少年とでも勘違いしているようだ。


 ……まさか管理人を六年やってると思ってるのか?

 そんな子供がずっと管理人をしてるからこのダンジョンはダメなんだと思われるのも癪だよな。

 爺ちゃんには申し訳ないが釈明しておこう。


「いえ、管理人になったのは先月からですよ。それまでは祖父が管理人で私はその手伝いをしていただけですので」


「管理人さんなんですか!?」


「?」


 えっ、驚いてるようだけどどういうこと?

 ここって管理人室だよね? 

 俺以外誰もいないよね?

 ピピ? まさかピピのことか?

 そういやさっき鍵開けたのピピだし。


「いえ、失礼しました。てことはあなたは魔物使いなんですよね? ふふっ、やっぱり凄いんですね。その鳥さん賢いしめちゃくちゃ可愛いです。もう少しお話したいところですが、次のお客様がいらっしゃったようですね。では私も小屋を使わせてもらいます」


 一方的に話してその女性は小屋へ向かった。

 まぁ俺が新米管理人ということはわかってもらえたようだ。

 なにかあっても多めに見てくれるかもしれない。


「チュリ(可愛い子ですね)」


 ピピは褒められたことが嬉しかったのか真っ白な羽をパタパタさせていた。


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