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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第百六話 別れのとき

 俺はララから受けとった袋の中身を確認する。

 ……さすがに多いな。


「カトレア、これを受け取ってくれ」


「……なんですか? ……えっ!? こんなもの受け取れません!」


 袋の中にはお金がぎっしりと詰まっている。

 少なくとも30万Gはあるんじゃないだろうか。


 これは今決めたことじゃなく、カトレアがここに住みだしてダンジョンの利益が出始めたころにララと相談して決めたことだ。

 カトレアはその貢献度の割には少しの給料しか受け取らなかった。

 だからもしカトレアが出ていくことになった場合はそれをむりやりにでも受け取らせようと決めていたのだ。

 それにカトレアがいなくなっても使うことになる魔道具の数々を考えたらこれでも少ないくらいだ。


「重いからな。でも馬車だったら大丈夫だろ? それにピピがいるから襲われる危険もないだろうし」


「そんなことを言ってるわけじゃありません! こんなに凄いお金受け取れないって言ってるんです!」


「でも給料は受け取ってくれてるじゃないか? それにあまり使ってないだろうからこれと同じくらいは貯まってるんじゃないか? ウチの経営状況はわかってるだろ? これくらい気にすることなく受け取ればいい」


「それは……はい。ロイス君が引かないのもわかってますので……ありがとうございます」


「うん。それにもしまたここに戻ってきてくれるんならなにか俺が気に入りそうなものをお土産で買ってきてほしいという意味も込めてあるからな。はははっ。あっ、でもそれはまたここに住むということじゃなくて近くまで来たからちょっと寄ってみた程度のことでいいんだからな? 友達の家に遊びに行く感覚だぞ? 気軽にな? マルセールまで来たんなら絶対寄ってくれよ?」


「……ふふ……わかりました。そこまで言われたらまるで強制のように感じますよ? ふふっ」


 カトレアの笑顔が見れたところでユウナが戻ってきた。


「これでいいのです!?」


「あぁ、ありがとう。じゃあララの手伝いをしてきてくれるか」


「もうお昼なのです!? カトレアさんも食べるのです!? やったーなのです!」


 ユウナは嬉しそうにキッチンへ行った。

 そして俺の手元にはユウナが持ってきた一着のローブがある。


「少し早いが誕生日プレゼントだ。好きな色じゃないかもしれないが似合うと思う」


「…………これ、フランちゃんが時間かけて作ってたやつですよね?」


「あぁ、カトレアのためにお願いしてたんだ。これを着ると魔力が上がるんだろ? それにこれから寒くなるからこないだのダークラビットのやつよりこっちのほうが暖かい。なによりこの白が輝いて見えないか? たまには黒以外も着たほうがいいぞ」


「……アルパッカ80%、カイッコ18%、ダンジョン綿2%の黄金比率で作ってるってフランちゃんが言ってました。超高級品じゃないですか。まさか私のために作ってくれてたなんて」


「フランにはなにも言ってなかったからな。高級品かどうかは置いといて今ウチで作れるローブの中で一番いいものらしいな。俺は魔道士じゃないから効果はわからないが、これを着ることで錬金術にもなにか役立つんじゃないかと思って作ってもらってたんだ。普段着としても着心地や見た目が最高なのは言うまでもないしな。ララやユウナには内緒で頼む。私にも作れってうるさいだろうからな」


「……嬉しい……です……ありがとう……ロイス君」


 カトレアはそのローブをギュッと抱きしめるように両手全体で包んだ。

 喜んでもらえて良かった。


「……私からもロイス君にプレゼントがあります」


「え? 俺に?」


「……はい。こちらをどうぞ」


「これは……採集袋か?」


 カトレアから渡されたものは普段ダンジョンへ入るときに冒険者たちが持っていく採集袋に似た袋だった。


「……採集袋と同じ効果ですが……外でも使えます」


「なにっ!?」


 そんなことが可能なのか!?

 もし本当にこれが外でも使えるんなら町での買い物が凄く楽になるじゃないか!

 もう重さや量に悩まされることもない!

 ……でももう町で大量に買い物することはないんだった。


「……ただし、そこまで大きな物は入れられませんけどね。今の私の力ではせいぜい採集袋と同じくらいの容量です」


「いや、でもそれを外でも使えるようにしたんだから凄いじゃないか! ありがたく使わせてもらうよ!」


「……でもあまり周りには言わないほうがいいですよ? その程度の袋でも簡単に買えるものではありませんから」


「……肝に銘じておくよ」


 こわいこわい。

 この袋がきっかけで争いが起きても困るしな。

 誰にもバレないようにこっそり使おう。

 ……馬車があるからあまり使う機会がないかもしれないが。


「できたよ! 熱いうちに食べよう!」


「できたのです! お腹空いたのです!」


 食卓にはハンバーグ以外にもたくさんの料理が並べられている。

 こんな短時間によくこれだけの量を作れたもんだ。

 ハンバーグだけじゃなくカトレアの好きなもの全部食べてほしかったんだろうな。


「全部食べてね! 食べきれなかったら持っていってもいいよ!」


「さすがにこの量は持っていけないのです!」


「……自分用ももちろんあるんだよな?」


「……はい」


 俺はさっき貰った袋のことを早速ララとユウナにも話す。

 さすがにこの二人には内緒にしなくてもいいだろう。


「ええ!? それならいっぱい持っていけるじゃん! 食べてからまた作るからね!」


「途中すぐ食べられるように軽食も持っていくといいのです!」


「そうだな、師匠はパンが好きならサンドイッチやホットドッグは食べるんじゃないか?」


「そうよ! パンケーキやハンバーガーも食べるかもしれないよ!?」


「……ふふ、じゃあ全部貰っていきますね」


 どれだけでも入る袋ってやっぱり便利だな。

 旅には必需品といってもいいくらいだ。


「なぁ、これ魔力補充とかしなくていいのか?」


「……はい、強力な状態保存をかけてますから。それこそ私の全魔力を注ぎ込むくらいのものを」


「そんなに魔力使って体は大丈夫だったのか? また倒れたんじゃないだろうな?」


「……はい、それは対策をしてましたから」


「それならいいけど……」


 カトレアの全魔力を注ぎ込んでの状態保存か。

 確かにそれなら数年くらい大丈夫そうな気はしてくるな。


「……やっぱり私はこのチーズハンバーグが一番好きです……思い出がありますし」


「そうだね! あの日は大変だったし! でもまだ八か月しか経ってないんだよ!? なんだかもっと前のことのような気がする。あっという間だったね……」


「……はい……でも楽しいことのほうが多かったですね」


「そうなのです! 大変なのですけど楽しいのです!」


「……ユウナちゃんはこれからもここでもっと楽しいことがありますよきっと」


 時折しんみりしながらもいつも以上に会話がはずみ、四人での最後の食事の時間はあっという間に終わった。

 その後、ララはカトレアに持たせるための料理を作り、ユウナとカトレアは物資エリアで色々と素材を集め、俺は魔物たちにカトレアが出ていくことを伝えた。


「わふ!? (カトレア出てくの!?)」


「チュリリ(寂しくなりますね)」


「キュ(嫌なのです)」


「ゴゴ(出会いがあれば別れもある)」


「モー(いつも牧草運んでくれてたんだよねカトレアさん)」


 魔物たちも寂しがってるようだ。

 魔物たちにとっても家族だからな。

 ゲンさんはこれまでも数多くの別れを経験してきたんだろう。


「メタリンとウェルダンはマルセールの東にある村までカトレアを馬車で送り届けてくれ。今日の夕方に着けばいいから周りの景色を楽しめるくらいの速度で頼むぞ」


「キュキュ! (お任せくださいなのです!)」


「モー! (快適な旅を約束するよ!)」


「うん、帰りは迷わないように気をつけてな。二人でちゃんと帰ってくるんだぞ? 人にぶつからないようにな」


 ……もしかして袋に馬車入るのか?

 それならウェルダンの角にでもつけておけば帰りは馬車引かなくていいから早いだろうな。


「ピピはカトレアを王都パルドまで送っていってくれ。魔物だけじゃなく人間が襲ってきても撃退するように。ただし、関係なさそうな人は巻き込むなよ?」


「チュリリ! (ボディガードってやつですね!? お任せを!)」


「わふ! (僕も行く!)」


「シルバはダメだ。ララやユウナを守るのがゲンさんだけになってしまうだろ? それにもしメタリンやウェルダンが帰り道に迷ったら迎えに行ってもらわないといけないしな」


「わふぅ~(そうだった。我慢する)」


 聞き分けのいい狼だ。

 

「お兄! 準備できたよ!」


 家の中からララとユウナ、そしてカトレアが出てきた。

 カトレアは白いローブを着ている。

 黒から白になるだけで印象がまるで違うな。

 緑の髪もより美しく見えるくらいだ。

 それよりもローブを羨ましそうに見ているユウナが気になるが……。


「こっちも大丈夫だ」


 ウェルダンが馬車を引いてやってきた。

 メタリンは御者席に乗っている。


「荷物はそれだけなのか?」


「……はい、全部袋に入ってしまいました」


「それは凄いな。馬車も入るかな?」


「……たぶん」


「なら少し待ってくれ」


 俺はウェルダンの角の片方にカトレアから貰った袋の紐を括り付けた。


「村に着いたら馬車を袋に入れてやってくれ」


「……はい。今試してみなくていいんですか?」


「ん? ……もういいや」


 そうだ、試してみればよかったんだが今さら面倒だ。


 気がつけば三人は抱き合って涙を流しながら別れを惜しんでいる。

 パッと見は同い年の友達三人にしか見えないな。

 シルバはカトレアの足に頭をこすりつけている。


「……ではそろそろ行きます……ロイス君……お世話になりました」


「あぁ、気をつけてな。パンとパスタ以外のものもしっかり食べるんだぞ」


「カトレア姉! 元気でね! 絶対また遊びに来てよ!?」


「私もいつかパルドに行くのです! ピピちゃん、家を覚えてくるのです!」


 カトレアは馬車の御者席に乗り込む。

 メタリンはピョンと跳ねてカトレアの太腿の上に乗ったようだ。


「カトレア……ありがとうな」


「…………ありがとうございました……お元気で」


 カトレアがそう言った直後、馬車はマルセールに向けて走り出した。


 ララとユウナは涙を流しながら遠ざかっていく馬車に向けて大声をあげ手を振っている。

 シルバも珍しく遠吠えをしている。

 いつもならすぐ見えなくなるのにウェルダンは俺の言ったことを忠実に守っているようだ。

 ピピは空から馬車の後を追いかけていった。


 やがて馬車は見えなくなったが、俺たちはしばらくその場に立ち尽くしていた。


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